3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本題名数字アルファベットその他

『50年後のボクたちは』

 14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)は同級生からは変人扱いされ、母親はアルコール依存症、父親は浮気中で、悩みが尽きない。ある日、ロシアからの移民だという転校生チック(アナンド・バトビレグ・チョローンパータル)と出会う。2人は夏休みを利用し、古びた車に乗って旅に出る。原作はヴォルフガング・ヘルンドルフ『14歳、ぼくらの疾走』。監督はファティ・アキン。
 2輪車二人乗りシーンがある映画は当たり率が高いというのが持論なのだが、本作も該当した。マイクとチックではなく、マイクと母親の2人乗りなのだが。いいシーンではあるが、背景を考えるとなかなか辛いものがある。一見微笑ましいけど、酔いつぶれた母親を回収しての2人乗りなのだ。マイクの母親はアルコール依存症で治療の為施設に入らなければならないくらいなのだが、マイクは母親のことを疎んではおらず、父親よりは心が通じ合っている。マイクにとっては(困ってはいるが)ユニークで楽しい母親ではある。だからこそ、2人乗りシーンが切ない。親のことは子供にはどうしようもないのだ。マイクの父親は父親で、若い女性と浮気していることを息子に隠そうともしない。せめて見えない所で手繋げよ!
 チックはチックで結構大変な暮らしをしていた雰囲気がある(だから運転やら何やら、自分で出来るようになったんだろうし)が、彼の背景については殆ど言及されない。あくまで、マイクにとっての不可思議であり憧れでもある親友・チックとして存在する。エンドロールのアニメーションは正にマイクにとってのチックなのだろうし、映画を観ている側も、こうであれ!と願わずにはいられない。2人は無謀だが、世の中のあれこれを知らない故の勢いや強さがある。なんだかんだ言って自分たちでなんでもやろうとする、創意工夫があるところも楽しかった。
 2人の旅は、大人びたチックに連れまわされ、マイクが解放されていくように見える。しかし、チックもまた解放されていったのだろう。マイクと一緒の時は10代の少年としてバカ騒ぎできるし、突っ張らずにいられる。終盤、ある告白をするのも、ここでは素を出していいと安心できたからだろう。
 旅によって、彼らの人生で何かが解決したわけではないし、何かが好転するわけでもない。しかし、自分たちはこの先も大丈夫なんじゃないかと2人は思えたのではないか。少なくとも、今いる場所だけが世界ではなく、世界にはもっと広がりがあることが垣間見えたのだ。

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『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』

ベアテ・シロタ・ゴードン著、平岡麻紀子訳
第二次世界大戦後の日本、日本国憲法GHQ草案の作成に22歳で参加した著者の自伝。著者のことが一般的に知られたのはごく最近だと思うが、草案作成後にスタッフ全員に緘口令が布かれており、近年まで公表することができなかったからだそうだ。著者はオーストリアで生まれ、ピアニストだった父親が日本の音楽学校に招かれたのに伴い、日本で育った。幼い頃から日本で育った為に、日本語は堪能で日本文化への理解も深く、人材不足だった終戦直後に、GHQに採用されたそうだ。当時、どういう風に草稿作りが進められていたのか、どういう人たちが携わっていたのか、時代の空気感(アメリカから見た日本のものではあるが)も伝わり面白い。少なくとも草稿を作ったスタッフたちは、日本一国がどうこうというよりも、理想としての憲法を作ろうとして奔走していたように思う(アメリカによる「宣伝」という側面は当然あるのだが)。日本国憲法はGHQからの押しつけだと考える人もいるだろうが、こと人権に関しては、この人たちが従事していなかったらもっと立ち遅れていたのではないだろうか。特に男女平等に関する事項は、著者のおかげで成立した部分も大きいと思う。著者は草案を練っていた当時から、日本では個人の人権という概念がなかなか理解されない、定着しないのではと危惧し、草案段階で出来るだけ人権に関する条項を盛り込んだそうだが、それ正解だったなと思う。いまだに定着しているのか不安な所もあるもんな・・・。むしろ、GHQがこれだけ強引に押し切っても現状こんなものかというがっかり感すらある。しかも現在、更に後退しようとしていて著者が生きていたら何と言っただろうかと考えてしまう。ただ、著者は当時としては先進的な考え方の持ち主だったが、それでも時代や環境による限界はある。家族に関する価値観には古さが否めないし、本作後半で取り上げられている海外文化のアメリカへの紹介事業等は、本来の文脈と切り離した海外の伝統芸能の紹介は果たしてベストなのか気になった。

『20世紀イギリス短篇選(上、下)』

小野寺健編訳
キップリングからモーム、ウルフ、ジョイス、D.H.ロレンスを経てドリス・ドレッシング、ウィリアム・トレヴァー、そしてスーアン・ヒル。20世紀に活躍したイギリスの小説家の作品を収録した短編集。上下巻、時代順で収録されているので、小説の時代背景の変遷もたどることができる。普段、なかなか読む機会のない作家の作品も(特に下巻では)多く、粒ぞろいでとても読み応えがあった。どこか苦味やブラックユーモア、寂寥感、生きることの悲しみが漂う作品が多いのは、編者の趣味なのか、イギリスのお国柄なのか。そんな中、キュートと言えばキュートだが冷静に考えるとちょっと怖い、P・G・ウドハウス(岩波文庫ではウドハウス表記)の「上の部屋の男」、最後の最後で人生は悪くないと思えるノーラ・ロフツ「この四十年」がアクセントになっている。個人的には、視点がミクロからマクロへゆらゆらゆれてどこか幻想的なヴァージニア・ウルフ「キュー植物園」、ジョイスってこんなのも書いてたんだ!と新鮮だったジェイムズ・ジョイス「痛ましい事件」、異邦人としての疎外感と差別への怒りが根底に流れるジーン・リース「あいつらのジャズ」を推す。

『64(ロクヨン)(上、下)』

横山秀夫著
昭和64年にD県警管轄内で起きた少女誘拐殺害事件。いまだに犯人逮捕に至らず、警察内では「64(ロクヨン)」の符牒で刻印を残していた。その64、更には本庁の意向を巡ってD県警刑事部と警務部は全面戦争に突入する。広報官の三上は刑事の仕事に未練を残しつつも、事態の収拾に奔走するが。文庫版で読んだ(単行本は分冊されていない。文庫化するにしても分冊するほどのことでは・・・)。著者の他シリーズの主人公である二渡(『陰の季節』など)も登場するが、いわゆる「現場」から見ると二渡ってこういう見られ方しているのかーという面白さもあった。同じ警察官でも立ち位置や見ている風景が全然違う。著者の一連の警察小説は、立場によって組織が別の顔を見せてくる、全ての作品を通して警察という組織の姿が立ち上がってくることを意図しているのかもしれない。ただ、本作で起こる刑事部と警務部の間の「事件」は、警察の外から見ると、まあどうでもいいことではある。警察官以外にとっては、警察は社会の安全を守り犯罪を捜査することが目的の組織で、その中の派閥争いや面子の張り合いによって捜査が妨げられるなら本末転倒だろう。本作の登場人物の何人かも、おそらく同様のことを思い、だからこそ「事件」が起きる。そういう事件が起こりうること自体が、警察という組織の特異な点とも思えるが、多かれ少なかれ組織にはそういう側面があるのだろうか。とにかく組織の嫌な部分が描かれた作品で、ぐいぐい読み進んではしまうが同時にげんなりともする(それだけ丹念によく書けているということなんだろう)。ミステリとしても、ある執念の行きつく先に、終盤でどっとなだれ込みやりきれない。そこまで引っ張るかー!と唸りはしたが。

『1984年』

ジョージ・オーウェル著、新庄哲夫訳
核戦争後、3つの大国によって統治されるようになった1984年の世界。真理省の役人・ウィンストンは、過去の記録の改竄作業を行っていた。彼が暮らす国オセアニアでは文字通り歴史記録が日々書き換えられ、皆、本当は過去がどんなふうだったか、忘れつつあった。ウィンストンは自分の考えを綴るという禁止された行為に手を染めるようになり、体制への疑いを深めていく。彼は監視をすりぬけ若い女性ジューリアと愛し合うようになる。今は新訳(高橋和久訳、2009年)も出ている本作だが、手元にあった旧訳版(1972年)で読んだ。さすがに文章が古くて読み進めにくいところはあるし、全体主義を感じさせる世界設定の古さは否めないが、書かれていることはむしろ今、というよりもどの時代にも普遍的なものだ。言葉を、記憶を、思考を制限することが支配することである、という部分には嫌な手ごたえがある。そして、制限されることがされる側にとって楽になってしまう。大きな声に従って何も考えない方が簡単で、人間は簡単な方に流されがちだし、それほど強くはない。それでも複雑さ、多様さに耐えること、考えることをやめないことが「自由」である為には必要なのだと思う。

2014年ベスト本

2014年に読んだ本(旧作含む)の中、特に良かったもの10点。今年は諸々の事情で読書が進まなかった・・・。来年もあんまり読めなさそうなのが辛いが、自分にマッチする作品を見落とさずにいたい。

1.ジェラルド・ダレル『虫とけものと家族たち』
 イギリスでは長年ベストセラーとして愛されている作品だそうだ。自然への観察眼と生き生きとした描写が素晴らしい。
2.アン・ビーティ『この世界の女たち アン・ビーティ短編傑作選』
 ”普通”のことのしんどさに、心えぐられる短編集だった。
3&4.山岸真編『SFマガジン700【海外篇】』&大森望編『SFマガジン700【国内篇】』
 SFマガジン創刊700号記念のアンソロジー。国内・海外ともにバランスよく初心者にもお勧めできる。
5&6.杉江松恋編『ミステリマガジン700【海外篇】』&日下三蔵編『ミステリマガジン700【国内篇】』
 SFマガジンが来たら当然ミステリマガジンも入れたい(笑)。
7.アントニオ・タブッキ『いつも手遅れ』
 ほんのり甘い中にも苦さが広がる。
8.トム・フランクリン&ベス・アン・フェンリィ『たとえ傾いた世界でも』
 やっぱりこういうのがすきなんだよなー。
9&10.ベン・Hウィンタース『地上最後の刑事』&『カウントダウン・シティ』
 シリーズなので一緒に。これもまた「傾いた世界」であるが、傾かず生きようとする主人公に好感。


2014年ベスト映画

今年見た新作映画(特集上映・映画祭含む)の中で、特によかったもの10本を選びました。今年はなかなか豊作だったのではないかと思う。

1.『ファーナス 決別の朝』
やっぱり自分はこういうのが好きなんだよなぁと痛感。ハッピーエンドにならないのはわかっているがこういう風にせずはいられない人というのが。
2.『ジャージー・ボーイズ』
音楽劇としても、あるグループが上りつめ没落していく、そして更にその先を描いた大河ドラマとしても最高。エンドロールには泣いた。
3.『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』
ポリティカルサスペンスブロマンスとして今年最もときめきましたね。今まで見たアメコミ原作映画の中でもベスト。
4.『ショート・ターム』
ふがいなくても歩み続ける人たちの姿が清々しい。
5.『ダラス・バイヤーズ・クラブ』
自分の戦いが、やがて誰かと繋がることにも。
6.『グランド・ブタペスト・ホテル』
好みは分かれるだろうが映画美術の一つの極北だと思う。箱庭的だと思っていたらすこんと歴史的な視野が入ってくるところも「映画」。
7.『ラッシュ プライドと友情』
そのジャンルに疎い人にも見やすい・わかりやすい見せ方をしている職人技。王道少年漫画的展開に燃えた。
8.『プールサイド・デイズ』
他人の価値観での評価だけが絶対じゃないんだよと少年少女を励ましてくれる作品では。
9.『LEGO(R)MOVIE』
狂気のアニメーション。そしてレゴがレゴである所以を見事に映画化している。
10.『オーバー・ザ・ブルースカイ』
悲しみの速度が違うという悲劇。音楽が良かった。

『七人目の子(上、下)』

エーリク・ヴァレア著、長谷川圭訳
デンマークの砂浜で女性の死体が発見された。不自然な遺留品から他殺も考えられたが捜査は打ち切られる。数年後、女性のポケットに入っていた写真が、国内でも最も威厳のある児童養護施設だとわかる。一方、国務省参謀管理局長のオアラの元に、奇妙な郵便が届く。同じものが複数名に送りつけられたらしいのだ。やがて養護施設に隠された秘密が浮き上がる。デンマークのベストセラーミステリーだそうだが、奇妙な味わい。「私」という主体が誰なのか曖昧(これは翻訳のせいなのかもしれないが)なパートや、幻想のようなパートが入り混じり、どこまでが信用できる語りなのかわからなくなってくる。効果なのか単に下手なのか判断に迷った(笑)。また、これってそんなに必死に隠すこと?ないしは知ろうとすること?と思ったところも。ただ、どうしてもそうしたい、というのは他人にはわからないことなのかもしれない。本作のキーワードのひとつに「憧れ」というものがある。「憧れ」が強すぎるので、よかれと思ってやったことが実際は求められていない、むしろ迷惑なものだったりするが、当人にはそれがわからない。本当に「憧れ」る価値があったのか?とも思うが、それこそ当人にしかその価値はわからないのだろう。

『NOVA+ バベル 書き下ろし日本SFコレクション』

大森望責任編集
大森望が編集する、日本SFアンソロジーシリーズ「NOVA」の新シリーズ。今までのNOVAは読んでいなかったが、本作は月村了衛「機龍警察」のシリーズ短編を収録しているので読んでみた。で、機龍警察はもちろん面白かったのだが、他の作品も更に面白い!特に酉島伝法「奏で手のヌフレツン」は私の中では圧巻。この世界をこのように解釈するのか!という驚きと新鮮さがあった。グロテスクであり過剰でもあるがイマジネーションが抜群だと思う。また、SFの“現実のちょっと先”という側面としては、長谷敏司「バベル」はまさにそれだと思う。そして最後に収録された円城塔「Φ」は、確かに最後にふさわしい。宮部みゆきの職人的安定感を味わえたのも嬉しかった。

『二千万ドルと鰯一匹』

カトリーヌ・アルレー著、安堂信也訳
看護師のヘルタは、個人宅に雇われある「仕事」をすることで定評があった。1人の未亡人が彼女の元を訪れる。再婚相手の夫は莫大な財産を残したものの、その相続は義理の息子に有利な条件だった。義理の息子が事故にあい自由に動けなくなっているところを、あの世に送ってほしいと、未亡人はヘルタに依頼する。遺産の10%を報酬とする条件でヘルタは「仕事」を引き受ける。コンパクトにまとまっており面白い!いわゆる「悪女」というよりも、徹底して現実的かつ狡猾な女性を主人公としたピカレスクロマン的なサスペンス。状況がどんどん変化していくなか、ヘルタがどう対応するのか、はたして報酬を手にできるのか、わくわくしてしまう。未亡人との間に生じる妙な連帯感も味わい深い。
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