Prapt著、福富渉訳
テディベアのタオフーはある日突然人間になっていた。心の支えは持ち主であるナットの存在だが、見知らぬ男の出現にナットは警戒心をあらわにする。ナットの母であるマタナーがタオフーを気に入ったおかげで一緒に暮らし続けることはでき、家の中の「物」たちの協力のおかげで徐々にタオフーはナットの信頼を得ていく。しかしナットもマタナーも過去に受けた傷を抱え続けていた。
ティディベアとその持ち主によるファンタジーラブコメBLという側面がある一方で、最後の最後まで謎をひっぱるかなりてんこ盛りなミステリでもある。タオフーがなぜ人間になったのかという大きな謎があるものの、その他にも謎が次々と提示され伏線も重層的、かつ犯罪も起きている。しっかりミステリなのだ。そもそも物語の語りにたまに一人称が混じるが誰視点なの?単に作家が下手なの?と思っていたら、なるほど!と。
謎の背景にはかなわなかった愛、こじれてしまった愛、また恋愛に限らず家族愛であったり友愛であったり、様々な愛が横たわっている。愛は厄介なのだ。特にナットとその両親の愛を巡るエピソードは結構重く、愛が時に人の弱さ醜さを露呈させてしまうということを如実に示している。しかし人を救うのもまた愛であるということを強く打ち出した物語だ。タオフーが謎と相対していくのは一重にナットへの愛、彼の傷を癒したいからだろう。それはぬいぐるみとしての本分でもあり恋人としての本分でもあるが、同時に謎を解くことはタオフーの存在を危うくすることにもなっていく。人間となり欲望を知ったタオフーがどのような選択をするのかという点が、本作の肝ではないか。
全体の構成や伏線の張り方のこなれ感に対して文章はぎこちない、達者とは言い難い印象だったが、これは作家が慣れないタイプの作品を書いたからなのか?それとも翻訳の影響なのか?日本語だとこのシチュエーションでこのワードはちょっと使わないなという点が散見されたので気になった。