3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『64(ロクヨン)(上、下)』

横山秀夫著
昭和64年にD県警管轄内で起きた少女誘拐殺害事件。いまだに犯人逮捕に至らず、警察内では「64(ロクヨン)」の符牒で刻印を残していた。その64、更には本庁の意向を巡ってD県警刑事部と警務部は全面戦争に突入する。広報官の三上は刑事の仕事に未練を残しつつも、事態の収拾に奔走するが。文庫版で読んだ(単行本は分冊されていない。文庫化するにしても分冊するほどのことでは・・・)。著者の他シリーズの主人公である二渡(『陰の季節』など)も登場するが、いわゆる「現場」から見ると二渡ってこういう見られ方しているのかーという面白さもあった。同じ警察官でも立ち位置や見ている風景が全然違う。著者の一連の警察小説は、立場によって組織が別の顔を見せてくる、全ての作品を通して警察という組織の姿が立ち上がってくることを意図しているのかもしれない。ただ、本作で起こる刑事部と警務部の間の「事件」は、警察の外から見ると、まあどうでもいいことではある。警察官以外にとっては、警察は社会の安全を守り犯罪を捜査することが目的の組織で、その中の派閥争いや面子の張り合いによって捜査が妨げられるなら本末転倒だろう。本作の登場人物の何人かも、おそらく同様のことを思い、だからこそ「事件」が起きる。そういう事件が起こりうること自体が、警察という組織の特異な点とも思えるが、多かれ少なかれ組織にはそういう側面があるのだろうか。とにかく組織の嫌な部分が描かれた作品で、ぐいぐい読み進んではしまうが同時にげんなりともする(それだけ丹念によく書けているということなんだろう)。ミステリとしても、ある執念の行きつく先に、終盤でどっとなだれ込みやりきれない。そこまで引っ張るかー!と唸りはしたが。

『ロス・マクドナルド傑作集 ミッドナイト・ブルー』

ロス・マクドナルド著、小鷹信光訳
表題作を含む短編4編、長編『運命』の原型である中編、評論「主人公(ヒーロー)としての探偵と作家」を収録した著者の作品集。古典的探偵小説的な短編は、嫉妬や執着が引き起こした悲劇が中心にあり、どこかさびしい後味。中編は長編化したものよりも事件の中核がわかりやすいかもしれない。一番読み応えがある、というかファンにとってうれしいのは評論だろう。先駆者、特に引き合いに出されることも多かったろうチャンドラーとの比較で自身の作風、そして主人公であるリュウ・アーチャーを語る。マーロウよりはアーチャーの方が人間味があるというか(評論中でも言及されているが、チャンドラーの方が文体のスタイルを固持していて、それにキャラクターがひきずられるからかもしれない)、他人の弱さに対して優しさがあるように思う。著者によると、アーチャーもその他の登場人物も、少しずつ自身の投影であると言う。そう思いながらリュウ・アーチャーのシリーズを読むと、なんだかちょっと嬉しい。

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