3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『リラとわたし ナポリの物語Ⅰ』

エレナ・フェッランテ著、飯田亮介訳
 リラが姿を消したと、彼女の息子から電話が入った。長年の友人である私の元に彼女がいるのではと疑ったのだ。リラと私は6才の時に出会い、私は彼女の個性と才能を羨みつつも憧れ、以来ずっと友人同士だった。
 アメリカとイタリアでミリオンセラーになったそうだが、確かに面白く納得。いわゆる派手で展開の速いエンターテイメント小説ではないが、「私」とリラが成長し変化していく、2人の関係も変わっていく様にぐいぐい読まされた。大きな物語の流れというよりも、「私」の内的な変化と外的な変化の軋轢、小さな緊張感のようなものに惹かれる。「私」が自分を取り囲む物事の様々な様相に気付いていくが、リラはその触媒のような存在でもあり、一番近い他者とも言える。そしてその様相が何を意味するものだったのか、成長するにつれ気付き、解釈が変わっていく過程にはどこか痛みもある。子供時代の火花のような強烈なきらめきは消えてしまう。しかし成長する、大人になるということは、また別の世界が見えてくるということでもあるのだ。
 「私」はリラの頭の良さや文才に憧れ、何とか彼女に追いつこうとする。しかしリラは、「私」が並ぼうとするとすぐに別のレベルに移動してしまう。友人と言っても近くて遠い。どんどん美しくなるリラは、やがて「私」とは別の世界を生きるようになる。一つの感情では表しきれない、その距離感の描き方が巧みだった。





『リプリーをまねた少年』

パトリシア・ハイスミス著、柿沼瑛子訳
いくつかの殺人をおかしながらも、パリ郊外の屋敷で妻と悠々自適に暮らしているトム・リプリー。彼の前に家出少年のフランクが現れる。フランクは実はアメリカの億万長者の二男だったが、父親を殺したと告白するのだ。トムは戸惑いつつも、少年とベルリンに旅立つ。しかし旅先でフランクが誘拐されてしまう。
シリーズ1作目から比べると、いやーお金の余裕は心の余裕なんだなーとしみじみ感じる。『太陽がいっぱい』の頃のトムだったら、むしろ自分が誘拐犯になって身代金の要求してたよね!トム、お前丸くなったな!トムとフランクの間には疑似父子とも恋人ともつかないような情愛が通ってくるが、それをトムが悪用しないあたり、やはり大人と子供という一線は弁えている。ともするとフランクに振り回されているようにも見えるあたり、新鮮だ。父親殺しの罪悪感で押しつぶされそうなフランクを、トムは立ち直らせようと尽力する。過去は忘れろ、新しい人生を生きろと説得するのだ。しかし、彼の言葉はフランクに本当の意味では届かない。フランクは自分の魂、自分の過去への忠実さ、責任を捨てることは出来ないのだ。自分自身に対する誠実さがあるとも言える。また、フランクがそういう人柄でなければ、トムが強く惹かれることもなかっただろう。この関係、『贋作』のバーナードとの関係も彷彿とさせる。トムは自分にないものを持つ人に惹かれるが、それゆえに関係は長くは続けられない。哀切、かつどこか尻切れトンボ的なラストは、トムがフランクに対して手を繋ぎきれなかった後悔、そして所詮自分にはわからない存在だという諦めをにじませるものだった。

リプリーをまねた少年 (河出文庫)
パトリシア ハイスミス
河出書房新社
2017-05-08


テリー ホワイト
文藝春秋
1991-09

『緑衣の女』

アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳
 工事現場で人間の骨のかけらが発見された。事件か事故かはわからないが、最近埋めたものとは思えなかった。かつて現場近くにはサマーハウスがあり、戦争末期に駐在していたイギリス軍やアメリカ軍のキャンプもあったらしい。捜査官エーレンデュルは被害者はこの付近に住んでいたのではと仮定し、昔を知る人への聞き込みを続ける。ある住民から、現場近くで緑色の服を着た女を見かけたという証言が得られた。彼女は事件の関係者なのか。
 エーレンデュルたちの捜査に派手さはなく、地道な情報収集を重ねていく「仕事」っぽさがいい。また、捜査官それぞれの仕事外の顔も描かれ、決して模範的とはいえない所も人間味がある。エーレンデュル自身は娘との確執を抱え、立ちすくんでいる状態だ。彼は子供達が幼い頃に離婚し、交流は途絶えていた。自分がなぜ妻子を置いていったのか、自分は娘に対してどんな感情を抱いていたのか、彼が少しずつ自覚していく様が胸を打つ。また、エーレンデュルはアイスランドの失踪者についての本を何冊も読んでいるのだが、その理由がわかる部分は痛切。
 捜査と並列して、ある家庭の様子が描かれるが、これがかなりしんどかった。DVの恐ろしさとそれに対する怒りが深く感じられる。物理的な暴力はもちろんなのだが、相手の尊厳、自己肯定感を奪い、本当に何もできない人にしてしまうところが、より恐ろしい。

『猟犬』

ヨルン・リーエル・ホルスト著、猪股和夫訳
17年前に起きた若い女性の誘拐殺人事件で有罪の決め手となった証拠品は、ねつ造されていた疑いが生じた。当時捜査の指揮をとっていた刑事ヴィスティングは責任を取って停職処分に。ねつ造は事実なのか?だとしたら誰がやったのか?一方、ヴィスティングの娘で新聞記者のリーネは、男性が殺害された事件を追っていた。被害者の自宅を訪問した際に、リーネは覆面の男と鉢合わせしてしまう。ガラスの鍵賞、マルティン・ベック賞、ゴールデン・リボルバー賞の3冠を受賞したとの触れ込みだが、受賞も納得。一気読みしちゃう系の面白さ!中盤まではヴィスティングとリーネのパートが交互に配置されており、それぞれの事件の展開から目がはなせない。連続ドラマっぽい引きの強さがある。と言っても、そんなに華やかというわけではない。ヴィスティングはメディアに露出はするが目立ちたがり屋ではなく、私生活もそんなに派手ではない。何より有能な刑事ではあるが、見落としや間違いもあり得ることを自覚している。だからこそ証拠捏造を疑われ落ち込み、深く悩むのだ。この地に足の着いた感じが、事件や犯人像の派手さを緩和し落ち着いたものにしていると思う。
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