斜線堂有紀著
ある日「天使」が出現し、2人以上殺した者は天使によって地獄に引き込まれるようになった世界。悲惨な事件により事務所を畳んだ探偵の青岸焦は、天使愛好家の富豪・常木王凱に誘われ、天使が集まる常世島を訪れる。島の館に滞在するが、起きるはずのない連続殺人事件が起きる。
天使といってものっぺらぼうで体は針金みたいという、どちらかとグロテスクな存在で、彼らが天のみ使いであるかどうかも全くわからないし、彼らに捕らえられた殺人者が本当に地獄に行くのかもわからない。当然天国があるのかもわからない。それでも天使と地獄を恐れ天国を望んでしまう。そんな心情が背景にある世界設定だが、特殊条件下本格ミステリとしてすごくよくできている!2人殺せば地獄行き、ということは1人ならセーフ、更に自覚せずに殺してしまった場合も人数にカウントされるという「ルール」の機能させ方がとてもうまい。なるほどこの手があったか。物理的に多少厳しいのでは、という部分もこのロジックの扱い方のうまさで納得させられてしまう。各所で評価が高かったのも納得。
世界設定のせいで作品全体が厭世的で、人間の存在に対しても悲観的な雰囲気なのだが、その中でも「正義」の存在を信じたいという人たちの姿がほんのりと明るく映る。