瀬尾まいこ著
PMSで怒りや苛立ち等の感情が抑えられなくなる美紗は、それが原因で就職して間もない大手企業を退職することになった。活発で仕事熱心だった山添はパニック障害を発症し、仕事を辞めざるをなくなり恋人とも別れ、家族にもそれを言えずにいえる。2人は転職先の小さな企業で出会い、お互いが抱える困難を知るうち、少しずつ助け合うようになる。
美紗のPMSも、山添のパニック障害も、一見してわかりにくい病気であり、周囲から理解されにくい。2人を近づけるのはこの理解されにくさだ。美紗はパニック障害に詳しいわけではないし、山添もPMSのことはよく知らない。しかしこの人は困っているんだなということはわかり、何をどう困っているのか、何か周囲が手助けすることはできるのかと考えるようになる。それぞれの弱い部分が呼応するというか、自分が困難さを持っているから相手の困難さにも考えが及ぶのだ。そして本作のいい所は、この2人の間に何か特別な絆や愛情があるわけではない、恋愛関係にも大親友にもおそらくならないという所にある。そもそも性格が合うわけでもないし共通の趣味があるわけでもない。単に同僚だというだけだ。そういう関係性であってもお互いを思いやり協力する、仲間になることができる。自分の全部で相手に尽くさなくても、部分的な関わりであっても人と人は信頼し合えるし助けあえるという、緩いが誠実な友愛の在り方に人間の善性が感じられる。著者の作品は基本的に善人ばかり出てくる(から物足りない、退屈である)という指摘はあるだろうが、あえてそのような人間の在り方に賭けたと言う方が正しいだろう。