3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『幽霊ピアニスト事件』

フレドゥン・キアンプール著、酒寄進一訳
ピアニストのアルトゥルは死んでから50年後の1990年代の世界になぜか蘇った。生きている人たちにも彼の姿は見えるし話も出来る。音楽大学の学生ベックの助けを得て、風変わりな学生たちと同居生活を始めるが、奇妙な出来事が相次ぎ、ついに殺人事件が起きる。自分と同じような死者が関わっていると気づいたアルトゥルは、犯人を探し始める。死者も生者も順応力がありすぎる!蘇ったアルトゥルが現状を理解するのはともかく、アルトゥルに自分は実は死者なんだと打ち明けられたベックがあっさり受け入れ、しかも住処を提供して友情が芽生えるまでの展開が速い!頭柔らかいなぁ。奇妙な味わいのミステリだが、現代のパートと、アルトゥルが生きていた第二次大戦中、ナチスの侵略が始まりつつあったフランスでのエピソードが交互に配置されており、徐々にアルトゥルがなぜ死んだのか、彼は何に負い目を感じているのかが明らかになる。これはアルトゥルだけでなく、あの時代の多くの人たちが負った負い目なのだろう。そして犯人が抱えた怒りも、あの時代に生きた一部の人たちが抱えていたもの(だからといって犯人の行動は正当化されないが)だろう。一見コミカルなのだが、ある時代の悲劇が背後にあり、色濃く影を落としている。最後、あっけなく終わるようにも見えるのだが、アルトゥルが蘇った理由はここにあったという潔さもある。

『雪と珊瑚と』

梨木香歩著
シングルマザーの珊瑚は赤ん坊の雪を抱え、どう働けばいいか途方に暮れていた。そんな折、「赤ちゃん、お預かりします」という張り紙を見かけ、年配女性くららに雪を預けることになる。親との縁が薄く他人に頼ることを知らなかった珊瑚が、徐々に周囲と関係を強めていく。珊瑚は何でも自分で何とかするのが当然という境遇で育ち、自立していると言えば自立しているが、その世界は狭く世間知らずでもある。彼女が少しずつ世界を広げていく様は成長物語のようでもある。ただ、彼女の生き方を本作は手放しで賞賛しているわけではない。肯定はしているが、彼女を否定する人もいるだろう、見方を変えればこう見えるだろうということをちらつかせる。珊瑚自身が、同情をかっているように見えるのではないか、「かわいそうだから応援しよう」的な接し方をされているのではないかと神経を使っている。彼女はそのように見られたくないし、施しは受けたくない。だからこそ頑なに一人でなんとかしようとしている(本作は、そこからいかに柔らかくなっていくかという話でもある)。しかしそれでも、そういうふうに見る人はいる。終盤、珊瑚は1通の手紙を受け取るのだが、これが強烈だ。ただ、珊瑚は反感買うだろうなと言うのはわからなくはない。真面目すぎる人、ストイックすぎる人が傍にいると、何となく自分が責められているような気分になる人もいるんじゃないかなー。

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