ネレ・ノイハウス著、酒寄進一訳
著名な名物編集者・ハイケが失踪した。自宅には血痕があり二階には彼女の老父が鎖で繋がれていた。有能で鋭い感性を持つが大変な毒舌家だった彼女を恨む人物は複数いた。作品の剽窃を暴露されたベストセラー作家、彼女を解雇した出版社社長や元同僚。しかし決定的な証拠はない。刑事オリヴァーとピアはハイケと容疑者たちの繋がりを探り続ける。
オリヴァー&ピアシリーズもついに10作目。本作ではピアの元夫である法医学者のヘニングがなんとプロのミステリ作家として実績を作っており、彼の著作の内容と題名にはシリーズ読者にはなるほどそうきたかというもの。こういうネタを投入できるようにもなった節目の作品とも言えるのでは。シリーズ内、特に近作では不安定寄りだったオリヴァーのプライべートが今回更に不安定になってもう気の毒なのだが、よりによって何でいつもこういうカードばかりひくのか。好んで不安要素を背負いこんでしまう脇の甘さ(自分に対する見積もりが高すぎるんじゃないかという気がしますね…)がオリヴァーの良さでもありイラつかされる所でもある。ピアとヘニングの関係、またオリヴァーとコージマの関係など、年数を経て双方が変化していくからこそのものもあり、大人の人間模様としても読ませる。
一方、事件の肝もこの大人の人間模様にはあるのだが、大人として個人がちゃんとブラッシュアップされないままの関係が周囲を蝕んでいったように思える。題名の通り、それはもう友情ではなくなっているのだ。友情の残骸、ないしは幻想のようなものにずっと振り回されてしまう人たちの滑稽さと悲哀、苦しさが苦みを残す。またドイツの出版業界事情が垣間見える所も面白い。これもまたちょっと苦いのだが。