3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『ポルトガル短編小説傑作集 よみがえるルーススの声』

ルイ・ズィンク、黒澤直俊編
 アフリカを行進する兵士たち、自分の家を手に入れ舞い上がった男に降りかかる災難、病の中創作に向き合う詩人。ポルトガル現代文学を代表する12人の作家による短編集。
 ポルトガル文学にはあまり触れたことがなかったのだが、入門編として最適な短編集ではないかと思う。作風・傾向の異なる作家の作品をまとめて読むことができるのでお勧め。マリオ・デ・カルバーリョ『少尉の災難 遠いはるかな地で』の、終盤ちょっといい話なのかと思わせてからのひっくり返し方や、イネス・ペドローザ『美容師』の、あれ?この語り手はもしや、と少しずつ背景が見えてくる構造などストレートに面白い。またポルトガルの歴史・文化的背景が垣間見えるヴァルテル・ウーゴ・マイン『ヨーロッパの幸せ』、テレーザ・ヴェイガ『植民地のあとに残ったもの』はペドロ・コスタの映像作品を連想した。私にとってはポルトガルというと文学より映画なんだよな…。そういう側面から読むと、ジョルジュ・デ・セナ『バビロン川のほとりで』、やジョゼ・ルイス・ペイショット『川辺の寡婦』は時に辛辣な語り口や時間のスケール感とロマンチシズムが、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の映画に似た雰囲気があった。


俺の歯の話
バレリア・ルイセリ
白水社
2019-12-27



『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』

 緑谷出久(山下大輝)ら雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちは、南方の島・那歩島でヒーロー活動の実習をしていた。そんな中、「ナイン」(井上芳雄)と名乗る男が率いるヴィランたちが襲来し、島の施設を破壊していく。原作は堀越耕平の同名漫画、監督は長崎健司。
 多くの人間が何らかの特殊能力を持ち、特に強い能力を持つ人間はプロの「ヒーロー」として社会を守っているという世界が舞台。出久たちはプロのヒーローを養成するための学校に通う学生なのだ。原作もTVアニメシリーズも斜め読み程度なのだが、十分楽しめた。エンターテイメントとしての盛りがよくて、お正月にぴったりの華やかさと楽しさ。特にクライマックスのバトルシーンは特殊作画盛り盛りなのだが、効果音や台詞は一切つけずに絵と音楽のみで魅せたのは大正解だったと思う。
 ヒーローとは何なのかという問いが一つのテーマになっているシリーズなのだろうが、本作でもヒーローに憧れる幼い少年が登場する。彼の能力はいわゆる戦うヒーロー的なものではない。しかし出久は彼のヒーローになりたいという思いを肯定する。何の為に戦うのか、どのように戦うのかは人それぞれ、様々なヒーロー像があるのだと。A組の生徒たちの能力もヒーローとしてのスタイルもまちまち(出番の少ない人もどういう能力なのかちゃんと見せているところが良かった)で、誰かを守りたい、役に立ちたいという人もいるしとにかく強くなりたいという人もいる。そしてその動機はどれも(今のところ)否定されない。その延長線上に「戦う」ことはヒーローの条件なのか?という問いが発生しそうだけど原作では言及されてるのかな?
 ところで昨今「男のクソデカ感情」というパワーワードが散見されるようになったが、本作でもクソデカ感情としか言いようのない感情の発露が見受けられた。爆豪(岡本信彦)君、そんな子だったっけ?!私TVシリーズでは色々見落としてたの?!


『星戀』

野尻抱影・山口誓子著
天文民族学者・野尻抱影の随筆と、俳人・山口誓子の俳句を収録した一冊。テーマはもちろん星空。四季、12か月を通してその月々に沿った作品が配置されている。
星の和名収拾研究家である野尻の随筆は、端正なたたずまいだが素朴。昔から、色々な地方の生活と天体とが繋がっている様子がわかる。星の名前の付け方に、その地方の生活形態、産業が反映されているのだ。また、星を取り入れた俳句が結構多いことも新鮮。12か月分のストックができるくらいだから、誓子に限らず題材として魅力があるということなんだろうな。星空が季節により変化していくのを追うように、俳句の季節感が移り変わっていくのを楽しめる。美しい言葉がたくさんちりばめられており、季節が変わるごとにぱらっとめくって拾い読みをしたくなる。

星戀 (中公文庫)
野尻 抱影
中央公論新社
2017-07-21




星の文人 野尻抱影伝 (中公文庫)
石田 五郎
中央公論新社
2019-02-22


『炎の色(上、下)』

ピエール・ルメートル著、平岡敦訳
 1927年。パリの資産家ペリクール家の長女・マドレーヌは、銀行家の父を亡くし、莫大な遺産を相続する。彼女は経営や資産運用のことは教えられておらず、幼い一人息子ポールが関心の全てだった。事故に遭ったポールの看病に全力を注ぐマドレーヌだが、彼女の富を狙う人々がいた。地位も資産も失った彼女は、ある復讐を決意する。
 『天国でまた会おう』に続く三部作第二部。前作は第一次世界大戦からその後にかかる話だったが、本作は第一次大戦と第二次大戦の間、ヨーロッパにファシズムが影を落としていく時期だ。時代ものとして、ピカレスクロマンとしてとても面白かった。前半は歴史もの+経済小説みたいで今一つ興が乗らなかったのだが、マドレーヌが覚醒する後半はどんどん先を読みたくなった。主要な登場人物全員、最初に登場した時とはどんどん変化し別人みたいなのだ。守られることをやめたマーガレットも、体制に一矢報いるある歌姫も力強くタフさを増していく。歴史の流れに翻弄される人々、それを利用する人々の姿がドラマティック。歴史の流れの組みこみ方が上手く、歴史小説を背景にピカレスクロマンが展開される感じ。この三部作はピカレスクであることが強く意識されていると思う。
 デュマやユーゴーみたいな引きの強さとドラマの盛り方だなと思っていたら、献辞にデュマの名前が出てきてなるほどなと。そういう面ではフランスの文芸小説の王道を狙っていると言える。

炎の色 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピエール ルメートル
早川書房
2018-11-20


炎の色 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピエール ルメートル
早川書房
2018-11-20


『方丈記』

鴨長明著、蜂飼耳訳
 歌人として活躍したが50歳で和歌所から出奔した著者による随筆。本著が成立したのは58歳位のころと考えられている。
 日本語が日本語に翻訳されるというのは不思議な気がするが、古典新訳と言われるとそれもそうか。蜂飼による訳は意外とあっさりとしていて読みやすい。原典がそもそもあっさりとした描写なのだろう。訳文と原典、両方収録されている(『方丈記』って短かったんだな・・・)ので、読み比べることが出来て便利。訳者による解説、エッセイも面白い
 火災や飢饉、地震の記述が度々あり、天災が頻発する時代を生きた人だったことがわかる。災害時の建物の潰れ方とか人の死に方とか、意外と生々しい。賀茂川の川辺に死体があふれている様など、さらっと書かれているけど災害の深刻度がわかる。著者はこういった災害に関心があるというよりも、何であれ目の前で起こることを観察してしまう人だったように思った。波乱万丈な人生にも見えるが、文面からはどんな出来事も受けて流す、という感じの諦念が感じられる。加えて仕事の上でも運に恵まれず、不遇の人生だったと言う。天災と不運が合わさってそういった人生を受け入れる諦念の境地に、と読者としては受け取りがちだが、本当は色々執着や諦めきれなさがあったのではないかという訳者の見解が面白い。確かに、本当に諦念の境地にあったらわざわざ文章を残したりはしなさそうな気がする。


方丈記 (岩波文庫)
鴨 長明
岩波書店
1989-05-16


『星の文学館 銀河も彗星も』

和田博文編
星モチーフの小説と言えば外せないであろう稲垣足穂『星を造る人』、宮澤賢治『よだかの星』。天体観測にちなんだ森繁久彌や中村紘子のエッセイ。宇宙を想う谷川俊太郎の詩や埴生雄高の評論など、星にまつわる作品36篇をあつめた文学アンソロジー。
アンソロジーの面白さは、普段なら手に取らない作家の作品や全く知らなかった作家の作品、また、この人こんな作品書いていたのか!という意外性と出会えるところにあるだろう。本作はそんなアンソロジーの楽しみを十二分に味わうことができる。三浦しをんや川上未映子など現代の作家のものから、川端康成や内田百閒など古典作品まで、また小説家だけでなく歌人や歴史学者、批評家などの幅広い作品がそろっている。個々の作品だけでなく編集者の力量を実感できお勧め。個人的には、森繁久彌のエッセイ『ハレー彗星』がユーモラスで楽しかった。文才もある人だったんだなー。また宮本百合子『ようか月の晩』は正に夜と星のイメージに溢れた美しい童話。これも、この人こういうの書いてたんだ!という意外さがあった。


天体嗜好症: 一千一秒物語 (河出文庫)
稲垣 足穂
河出書房新社
2017-04-06






『ボックス21』

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム著、ヘレンハルメ美穂訳
 リトアニアジン娼婦リディアは、激しい暴行を受け病院に搬送された。搬送先の病院で、彼女は予想外の行動に出る。医師と研修医たちを人質に、爆弾を持って立てこもったのだ。病院で薬物依存者死亡事件を捜査していたグレーンス警部は立てこもり事件の対応にあたるが。
 なかなかのイヤミスだった『制裁』の著者によるシリーズ作品だが、今回もなかなかのイヤさ。グレーンスが常にイライラしているし何だか情緒不安定な言動なので、『制裁』よりも読み進めにくいように思う。リディアは騙されてスウェーデンに連れてこられ、悲惨な境遇で生きてきた。そこからの起死回生ではなくこのような道を選ばざるを得なかったことには、怒りとやりきれなさを感じる。そして、彼女の声を封殺しようとする人たちがいることにも。よりによってお前がそれをするのか!と。自分たちがしてきたことを全否定するようなことなのにそれでもやるの?それで守れるものって何なの?ともやもやが止まらない。ラストは触れ込み通り確かに衝撃なのだが、そっちの方向での衝撃かー!その衝撃欲しくなかったわー!罪と罰、ではなく罪と恥の物語。恥を隠し続けることこそ恥なのだが、彼らにその意識はあるのだろうか。しかもシリーズまだ続くというあたりが怖い・・・。

ボックス21 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2017-11-21


制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド
早川書房
2017-02-23



『ぼくらが漁師だったころ』

チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳
 1996年、ナイジェリアに住むアグウ家では父親が単身赴任に出た。厳しい父親の不在により4兄弟のたがが緩み、学校をさぼってぶらつくようになる。ある日近所の川で釣りをしていると、1人の狂人が長兄イケンナについて恐ろしい予言をする。予言を信じたイケンナは人が変わったようになり、家族は崩壊している。
 現代の物語で具体的なナイジェリアの情勢が背景にあるが、ベンジャミンたちは未だ呪いや予言が力を持つ神話・伝説の世界に生きているようだ。信じなければ呪いは呪いにならない、信じるから呪いとして発動してしまうのだ。兄たちはそれぞれ聡明で行動力もあるのに、次々と狂人の言葉に絡め取られ自滅していく。子供故の知識のなさや世界の狭さが事態を悪化させていく(冷静に考えればそんなことする必要ないのに!という局面が多々ある)のがもどかしい。また背景には当時のナイジェリアの情勢の不安定さがある。実際問題として、大人の世界においても彼らに危険が迫るのだ。それがまた事態をややこしくしていくのだが・・・。9歳の四男ベンジャミンの語りによって物語は進行する。この語りがどういう状況下で始まったものなのかわかると、彼らの運命の奇妙さ、残酷さに更にやりきれなくなった。

ぼくらが漁師だったころ
チゴズィエ オビオマ
早川書房
2017-09-21


あたらしい名前
ノヴァイオレット ブラワヨ
早川書房
2016-07-22

『亡霊星域』

アン・レッキー著、大野万紀訳
 かつては宇宙戦艦のAIだったが、いまはただひとりの生物兵器“属躰”となったブレクは、属躰であることを隠し長い年月を生き延びてきた。宿敵である星間国家ラドチの支配者アナーンダから艦隊司令官に任じられたブレクは、正体を隠したまま新たな艦で出航する。目的地の星系には、彼女がかつて大切にしていた人の妹が住んでいた。
 『叛逆航路』の続編となるシリーズ2作目。言語上性差がない(全て「彼女」「母」「娘」で表す)文化圏、戦艦には“属躰”と呼ばれる分身のようなものが多数あり、支配者アナーンダは自身の属躰同士で分裂し抗争中という、世界設定がややこしいので、前作の記憶がはっきりしているうちに読むべきだったな・・・。前作は世捨て人のようだったブレクが再起し旅に出るという、動きの大きな物語だった。対して本作は舞台が一つの星系内での政治的ないざこざにブレクたちが巻き込まれていくという話なので、少々こぢんまりとした感じはする。
 とは言え、植民地における支配層と被支配層の関係や、異民族に対する意識等、作品世界の描写は面白い。植民地化した方は文明化だと思っていても、された側にとっては蹂躙であり支配であるということ、支配者層の被支配層への無頓着さが前作以上に際立つ。人間ではないブレクの感覚の方がまともで、この文化の中で生きていた人間たちの感覚の方が偏っているように見えるのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
アン・レッキー
東京創元社
2016-04-21



『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』

山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山際壽一・永田和宏著
 京都産業大学での講演・対談シリーズ「マイ・チャレンジ一歩踏み出せば、何かが始まる!」を文字起こししたもの。各分野で既に「何者」かになった山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山際壽一に、細胞生物学者で歌人の永田和宏(当時は京都産業大学教授)が聞く。
 対談をした4人は既にその道の大家と言ってもいい存在だが、駆け出しの頃には五里霧中で手さぐりだった頃もある(羽生さんはあんまりそういう感じではないんですが・・・)。未知の領域に踏み出すことを躊躇しがちな今の学生たちの背中を押したいという意図で企画された対談だが、むしろ、今すごいことになっている人はやっぱり若い頃からすごかったということを突き付けられた気がする(笑)。なるべくして今のポジションにいるので、学生たちの参考になるかというと、正直あまりならないのでは。とは言え、各分野の第一線にいる人たちによる対談としてはとても面白いので、一読の価値はある。山際先生のお話は、先生のキャリア変遷云々というよりもゴリラ研究内容がすごく面白くて、むしろ全編ゴリラで!と思っちゃった(笑)。
 ただ、全員に共通しているのは、何かを始める時の思いきりの良さというか、先をそれほど考えずにえいやっと飛び込める所。これは(突出した才能有無に関わらず)生きていく上で結構大事だよなと思う。私には欠けている資質なので、ちょっと我が身を省みて辛くなりましたね・・・。



現代秀歌 (岩波新書)
永田 和宏
岩波書店
2014-10-22

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