3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『亡霊星域』

アン・レッキー著、大野万紀訳
 かつては宇宙戦艦のAIだったが、いまはただひとりの生物兵器“属躰”となったブレクは、属躰であることを隠し長い年月を生き延びてきた。宿敵である星間国家ラドチの支配者アナーンダから艦隊司令官に任じられたブレクは、正体を隠したまま新たな艦で出航する。目的地の星系には、彼女がかつて大切にしていた人の妹が住んでいた。
 『叛逆航路』の続編となるシリーズ2作目。言語上性差がない(全て「彼女」「母」「娘」で表す)文化圏、戦艦には“属躰”と呼ばれる分身のようなものが多数あり、支配者アナーンダは自身の属躰同士で分裂し抗争中という、世界設定がややこしいので、前作の記憶がはっきりしているうちに読むべきだったな・・・。前作は世捨て人のようだったブレクが再起し旅に出るという、動きの大きな物語だった。対して本作は舞台が一つの星系内での政治的ないざこざにブレクたちが巻き込まれていくという話なので、少々こぢんまりとした感じはする。
 とは言え、植民地における支配層と被支配層の関係や、異民族に対する意識等、作品世界の描写は面白い。植民地化した方は文明化だと思っていても、された側にとっては蹂躙であり支配であるということ、支配者層の被支配層への無頓着さが前作以上に際立つ。人間ではないブレクの感覚の方がまともで、この文化の中で生きていた人間たちの感覚の方が偏っているように見えるのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
アン・レッキー
東京創元社
2016-04-21



『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』

山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山際壽一・永田和宏著
 京都産業大学での講演・対談シリーズ「マイ・チャレンジ一歩踏み出せば、何かが始まる!」を文字起こししたもの。各分野で既に「何者」かになった山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山際壽一に、細胞生物学者で歌人の永田和宏(当時は京都産業大学教授)が聞く。
 対談をした4人は既にその道の大家と言ってもいい存在だが、駆け出しの頃には五里霧中で手さぐりだった頃もある(羽生さんはあんまりそういう感じではないんですが・・・)。未知の領域に踏み出すことを躊躇しがちな今の学生たちの背中を押したいという意図で企画された対談だが、むしろ、今すごいことになっている人はやっぱり若い頃からすごかったということを突き付けられた気がする(笑)。なるべくして今のポジションにいるので、学生たちの参考になるかというと、正直あまりならないのでは。とは言え、各分野の第一線にいる人たちによる対談としてはとても面白いので、一読の価値はある。山際先生のお話は、先生のキャリア変遷云々というよりもゴリラ研究内容がすごく面白くて、むしろ全編ゴリラで!と思っちゃった(笑)。
 ただ、全員に共通しているのは、何かを始める時の思いきりの良さというか、先をそれほど考えずにえいやっと飛び込める所。これは(突出した才能有無に関わらず)生きていく上で結構大事だよなと思う。私には欠けている資質なので、ちょっと我が身を省みて辛くなりましたね・・・。



現代秀歌 (岩波新書)
永田 和宏
岩波書店
2014-10-22

『本屋、はじめました 新刊書店Title開業の記録』

辻山良雄著
 2016年、東京・荻窪に新刊書店「Title」を開業した著者。元はリブロの社員として各地の書店に勤務し、店舗運営、イベント企画などを担ってきたいわゆる名物書店員だった著者が、なぜ書店経営に踏み切り、どのような過程で店が出来上がってきたのかを綴る。
 著者は書店員を経て書店経営を始めたわけだが、書店以外でも、「自分の店」を始める時ってこういう感じなんだなと、大変面白かった。ある仕事のルポとしてはもちろん、今、自営の店をやっている人、これから始めたい人の参考にもなるのではないかと思う。なんと巻末に事業計画書と開店初年度の営業成績表も掲載するという太っ腹。特に事業計画書をあらかじめ作っておいたということで、銀行からの貸付にしろ不動産賃貸契約にしろ、有利になる部分が大きかったそうだ。本文の中でも具体的なお金の話が結構出てくるので、大体こういう感じなんだなというイメージがつかみやすいし参考になる(支払のタイミングのずらし方とか、出版業界ならではなのかもしれないけどなるほどなと。図書カードでの支払いがどういう扱いになっているのか、最近よく見るiPadを使ったレジシステムのコストはどのくらいかなど、色々新鮮)。著者はあくまで自分の経験として綴っているが、文体のごくごく抑えたトーンといい、客観性が高く読みやすい。言うまでもなく書店というジャンルは厳しい状況にある。その中で今、個人で出店するのはなぜか、「良い書店員」とはどんな存在か、本作を通して見えてくるように思う。
 なお、Titleの棚は見応えがある。読書好きならどこかしら訴えかけられるものがあると思うし、明らかに力のある書店員が作っているとわかる。近くにいらした方はぜひ立ち寄ってお買いものしてほしい。



善き書店員
木村俊介
ミシマ社
2013-11-13


『本屋さんのダイアナ』

柚木麻子著
 ギャンブラーだったという父親に付けられた「大穴(ダイアナ)」という名前がコンプレックスとなっていた少女は、同級生の彩子に『赤毛のアン』に出てくる「腹心の友」の名前だと言われた。育った環境も見た目も正反対な2人は、本がきっかけで親友になる。
 2人の少女が小学生から中学生、高校生になりやがて大人になっていく過程を描く成長物語。2人とも読書が大好きで、様々な本の題名が登場するところが楽しい。生きていく中でなぜ本、ことに小説が必要なのかということが描かれており、読書好きは共感するのでは(作中作があんまりおもしろくなさそうなのが難点なのだが・・・)。この切実さは、分からない人にはずっとわからない(そしてその方が生きやすい)のかもしれないけど・・・。
 ダイアナは洗練され知的な彩子とその両親を素敵だと思い憧れるが、彩子は彩子で型破りなダイアナと母親の自由さ(と彩子には見える)に憧れる。ダイアナも彩子も実は美形で、それぞれの親にはそれぞれ違った良さと難点があることが読者には徐々にわかってくるのだが、2人にはそれは見えていない。2人はあることがきっかけで絶縁状態になってしまうが、その原因もまたお互いにお互いのある部分が見えていなかったことによるものだと思う。しかし、そうであっても友情があったことには変わりはなく、時間を経ても、よみがえるものもある。2人の仲立ちをするのがやはり本だという所がにくい。なお、ダイアナも彩子も成長するにつれ、様々な問題、トラブルに直面していく。特に彩子が直面するものが、彼女が女性だから生じる(彼女に責任があるわけではなく、女性だからいけないということでもない)ものだというのが辛い。彩子は聡明でしっかりした人のはずなのに、そういう人でも世間がこうだと思い込んでいる「女性」としての立ち居振る舞いに準じてしまうものなのかと。そういうものから自由になる手がかりとなるのもまた、友人であり本であるのだ。


赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)
ルーシー・モード・モンゴメリ
新潮社
2008-02-26



『ホリデー・イン』

坂木司著
元ヤンでホストの沖田大和と突然彼の前に現れた小学生の息子・進。彼の出現により宅配便会社で働くようになった大和と進の生活を描く『ワーキング・ホリデー』シリーズから、スピンオフの短編集。これまでの作品で登場した脇役たちが主役を務める。
スピンオフといっても、本編を読んだのが大分前なので誰が誰だったか記憶があやふや・・・。読んでいるうちに、そういえばこんな人いたな、こういう人だったなと思いだし始めた。著者の作品は基本的に人に対する優しさ、信頼があるので、ちょっと難ありだったり冷たい面がある人でも、その裏にはこんなものがあるんだよとどの短編でもそっと提示してくる。さらっと読める、というかさほど読み応えはないのでファンに対してのおまけ的な短編集か。とはいえ、進が大和を訪ねていった経緯の話などは、母親の対応含めちょっといい。改札からは出ないとか、ちょっとした拘りに説得力がある。

ホリデー・イン (文春文庫)
坂木 司
文藝春秋
2017-04-07





ワーキング・ホリデー (文春文庫)


『歩道橋の魔術師』

呉明益著、天野健太郎訳
1979年の台湾、台北。西門町と台北駅の間には、幹線道路に沿って立ち並ぶショッピングモール「中華商場」があった。歩道橋には子供達に手品を見せて手品用具を売る「魔術師」がいた。「ぼく」は旧友と会い、魔術師の記憶を呼び覚ましていく。
中華商場を舞台とした連作集。どれも大人となった「ぼく」「わたし」が子供時代を回想するという構造で、そのどこかしらに魔術師が登場する。過ぎ去ってしまった時代の、今はもう存在しない場所(中華商場は取り壊されている)を舞台としておりノスタルジックさが漂うが、その思い出、あるいはその過去から繋がる現在にはしばしば身近な人の死が関わっており、どこか影がある。子供時代の傷や後悔は、大人になってもずっと尾を引き時にその人を蝕み続けるという側面も感じさせるのだ。良かれ悪しかれ、子供時代の体験はその人の人生に影響し続ける。しかし、本作では子供の頃のどうということない日常の中に、ふっと魔法がかかる瞬間がある。この魔法がかかる瞬間を日常とシームレスにつないでいく、文章の平熱感がいい。この人にとってはそういうことだから、これはこれで真実だと思わせる。

『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』

水島治郎著
大衆迎合主義とも呼ばれ、民主主義を蝕むとされがちなポピュリズム。しかしラテンアメリカでは一部のエリート層による支配から人民を解放する力になったという歴史がある。現在、ヨーロッパのポピュリズム政党は、リベラル、民主主義を前提とした上で既存政党の批判や移民の排斥を訴えており、一筋縄ではいかない。今、世界で猛威を振るうポピュリズムを、各国での状況を紹介、分析した1冊。
各国の状況がその歴史的な背景を踏まえて分かりやすく説明されており、入門書としても、事例集としてもなかなか面白かった。ポピュリズムというと何となく極右との繋がりがあって怖い、というイメージを持っていたのだが、確かに前身が極右政党であるケースは少なくないが、少なくとも現在はかなりマイルド、穏健な団体が増えているようだ。うまくいくと、危機感を感じた既存勢力が自己改革に励み国内情勢が好転、という影響もあるそうだ。その一方で移民排斥、イスラム圏の仮想敵化は概ね共通している。そして、先般のアメリカ大統領選でもそうだったが、既存の政党の政策ではカバーされていない、見捨てられていると感じている層をいかに獲得するかに注力している。国民の声をすくいあげていくのが民主主義国家ならば、ポピュリズムはやはり民主主義の一環ということになる。が、ポピュリズムが強すぎると「それ以外」の人は排斥されていくという、表裏一体ゆえの厄介さがある。一概に悪とは言えないが弊害も大きい。表層的な「悪者」を設定してそれに対するヘイトを原動力にしがちだという部分も悩ましい所だろう。良くも悪くも感情を煽る行為が原動力になりがちなところがある。

『映画と本の意外な関係!』

町山智浩著
映画の中には、様々な本や言葉が登場する。その出典や背景を知ることで、映画をより深く読み解くことができる。原作小説や引用された言葉、劇中で使われた曲の歌詞など様々な「言葉」を解説。
映画を見ているだけだと気づかない(字幕の都合で割愛されちゃったりもするし)引用が色々説明されていて、映画も本も好きな人には特に面白いのでは。著者はまえがきで「誰かの家を訪ねると、本棚が気になるんです」と書いているが、私もそう。映画の中に出てくる本棚や登場人物が読んでいる本は当然気になってまじまじと見てしまう。そういう人にはうってつけのコラムだ。人によっては言うまでもないよというようなメジャーな引用から、日本では未公開作品に関する話まで、幅広くとっつきやすい1冊だと思う。一つの映画や本から、他の作品、あるいは他のジャンルへと知識とイメージが連鎖していくことは、どんな分野にせよ鑑賞を続ける上での醍醐味だと思う。途中から映画のあらすじ説明の分量が妙に増えてくるのは、連載媒体の読者層に関係しているのか、時間がなかったのか・・・。なお第16章で著者が大炎上させてしまったある案件に言及、かつ詫びを入れているが、たまにまたやらかしそうになっているので気をつけて下さいね(笑)。

『北東の大地、逃亡の西』

スコット・ウォルヴン著、七搦理美子訳
各地の伐採場を転々としてきた俺は、ヴァーモント州の伐採場で働くことになる。ある日、ヒスパニック系のボクサー、エル・レイが賭けボクシングを持ちかけてきた。彼と対戦するトムは腕っぷしは強いが酔っ払いで、地元では恐れられていた。代表作『エル・レイ』を含む短篇集。
先日アメリカ大統領選が終わり、ドナルド・トランプがまさかの次期大統領に選ばれたわけだが、本作の舞台は、トランプ支持層どころか、大統領選そのものに興味がない、誰が大統領になろうが自分達の生活が好転することはないと考える人たちの世界なのではとふと思った。手持ちの札はなく、自分の好むと好まざるとに関わらず、社会の片隅に追い込まれ人生が上手くいかない。社会に属している、という意識自体が希薄になっていくような気がした。自分ではどうすることも出来ない事柄から悲劇へと突き進む、というよりも悲劇へと足を踏み外してしまうような『虎』が印象に残った。登場する人たちは皆孤独、かつ「負け犬」と揶揄されるような人たちで、実際、『負け犬』という短編も収録されている。しかし負け犬にも誇りがある。本作の視線は、負け犬たちを強く擁護することはないが、貶めることもしない。彼らの中の思いやりやなけなしの勇気を救い上げるものだ。「(中略)負け犬を追うのはあんたの勝手だ。だが、そういう奴は信用しない。おれから見れば、あんたがやっていることは仕事じゃない」という言葉に著者の倫理観みたいなものが垣間見える。

『ホテル1222』

アンネ・ホルト著、枇谷玲子訳
雪嵐の中で列車が脱線する事故が起き、運転手が死亡。近くのホテルに乗客たちは避難した。幸いホテルの設備も備蓄も十分あり、救援を待てば全員助かるはずだった。しかし翌朝、乗客の1人が死体で発見される。乗客の1人である車椅子の元警察官ハンネは、ホテルの支配人に頼まれ事件を調査する。いわゆる雪の密室での殺人事件だが、密室内の人が多すぎる(160人以上)のであまり密室ものの醍醐味はないかも。また、あやしい集団が人目を避けて行動しているが、それっぽいフリはあるものの本筋にそれほど絡んでこないので拍子抜け。シリーズ作品だそうなので、前後の流れを知らないと盛り上がらないのかな。訳者あとがきによると、乗客の顔ぶれや言動はノルウェー社会の縮図を戯画化する意図があるそうだが、ノルウェーでは宗教の占めるウェイトって意外と大きいのかな。殺害になかなか懐かしい凶器が使用されていたり、舞台やディティールも戯画的な要素が大きいように思った。

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