ヴィクター・メソス著、関麻衣子訳
ソルトレイク・シティの刑事弁護士ダニエル・ローリンズは、麻薬密売容疑をかけられた黒人少年テディの弁護を依頼される。未成年かつテディには知的障害があり、麻薬取引などできそうもないので不起訴処分に持ち込めるかに思えたが、なぜか検察も裁判所も実刑判決にする意志が固い。少年は誰かに利用されたとしか思えないダニエルは、彼を守り法を守る為に奔走する。
連日二日酔いでよれよれだが、正義感が強くお人よしなダニエル。話し言葉の語尾を「~だな」「~だよ」と性別分けがニュートラルにしている翻訳文が彼女のキャラクターにはまっており好感度高い。ダニエルは無茶な仕事のやり方もするが、基本的に法の正しさ、公正さを信じている。テディの処遇に憤慨した彼女が暴れまわることで、検事、裁判官、証人など関係者たちの偏見や不公正さが浮き彫りになっていく。厄介なのは、彼ら自身はそれを不公正だとか偏見だとかは思っていないという所だ。彼らにとってはそれが正しさだから説得も出来ない。様々な側面からこういった不公正さが垣間見えるような構造の話だ。テディに対する世間の態度だけではない。ちょっとした部分なのだが、ダニエルの元夫ステファンが、LAで男として育つ辛さを語り、この街(ソルトレイク・シティ)はいい所だ、息子を育てるならこの街がいいという。ただその「いい街」と思えるのは、彼がそこそこ裕福な白人男性だからではないか。ダニエルが相対する事件の背景にあるのはそういうものなのだ。
なおダニエルはこの元夫ステファンに未練たらたらなのだが、それがちょっと不思議だった。ステファンに魅力がないというわけではなく、ダニエルは過去に執着するタイプに思えないからだ。かといって彼女に思いを寄せているウィルを選べばいいのにとも思えなかった。ウィルはやはり「親友」かつ仕事の理解者でいてほしい。ダニエルは「どん底にいる時が一番輝く」とある人から評されるのだが、そういう人は幸せかつ安定したパートナーシップにはそもそも向いていないのでは…。