フェルナンダ・メルチョール著、宇野和美訳
村のはずれに住む魔女の遺体が川で見つかった。何者かに殺され死体を捨てられたのだ。魔女は村の男たちからは恐れられ、女たちからは恐れられつつも頼りにされていた。魔女の過去に何があったのか、また魔女に関わった人たちに何があったのか。
章ごとに中心となる人物が入れ替わり、人間模様と事件の全容が見えてくる。魔女も彼女のところに来る男たちも女たちも、皆暴力とセックス、欲望に翻弄されている。女性たちの多くはセックスを商売とし、男性たちはそれに群がる。また男性たちもまた自分の体を売り物にする。魔女は望まぬ妊娠をした女性たちの堕胎を助け、男性たちのセックスを買う。そのセックスは土着的な家父長制の価値観の中でのセックスであり、女性に対する抑圧は強い。自分の欲望を示せば不道徳扱いされるが相手の欲望に応じないとこれまた否定され、望まぬ妊娠というリスクも高い。義父から性的に搾取され望まぬ妊娠に途方に暮れる少女のパートが(他の章では彼女に向けられる視線がむき出しになることもあいまって)あまりに痛々しい。
一方男性側は、いわゆる「強い男」「モテる(が1人の女性に拘泥しない)男」という男性像にあてはならないと「男」として認められず群れから疎外されていく。肉体的な強さ粗暴さとは距離感がある、あるいは欲望がクィアなものであった場合、群れの中では死活問題になる。マチズモの強い社会の中で女性がどう扱われるかという面と合わせ、男性にかけられる圧には女生徒は違った形でのきつさがあることが描かれている。魔女がトランス女性であるという要素が、魔女と関わる男性にとっての意味を更にひねったものにしている。改行や、会話をくくる括弧がなくつらつらと続いていく語り口はグルーヴ感を生むと同時に呪詛のようでもある。