3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『花殺し月の殺人 インディアン連続殺人とFBIの誕生』

デイヴィッド・グラン著、倉田真木訳
 1920年代、禁酒法時代のアメリカ、オクラホマ州。先住民オセージ族が20数人、相次いで不審死を遂げる連続殺人事件が起きる。私立探偵や地元当局もお手上げの中、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーは、テキサス・レンジャー出身の捜査官トム・ホワイトに現地での捜査を命ずる。近代的な捜査組織の成立を計画していたフーヴァーにとって、この案件は試金石でもあった。しかし調査は困難を極める。手がかりが少なく科学捜査もまだ存在しない上、嘘の証言や目撃者の失踪など、妨害工作らしきものが起こっていたのだ。
 ノンフィクションだが、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞している。ノンフィクションでも受賞可だったのか・・・。それはさておき、大変な力作。何しろ20年代でリアルタイムを知る証言者はほぼいない状態なので、公文書をしらみつぶしに調べ、子孫からの伝聞を辿りという、作業量を想像すると大変なことになっている。そして事件の内容が衝撃的。アメリカの暗部がでろでろ流れ出ているような事態になっている。
 連続殺人の裏には石油利権と先住民に対する人種差別、権利の不均衡がある。本来居住していた地域を追われたオセージ族の移動先が、たまたま石油の出る土地だったのだ。オセージ族は土地の利権で豊かになったが、その富と利権を狙う者たちがいる。奪取のやり方があまりにも非道で絶句しそうなのだが、おそらく相手が白人だったら、彼らはここまで極端なことはやらなかっただろう。オセージ族相手だからここまでやってもいい、捜査もまともにされないし彼らの命や権利を守ろうとする人もいないだろうという、侮りがベースにあるのだ。人間の欲望の留まるところのなさに心が竦む(事件の首謀者は多分にサイコパス気質だったんだと思うけど)が、同時に、相手を「こういうことをしてもいい相手」だと判断すると人間はいくらでもひどいことが出来るということにもぞっとする。そういうことが、ごく普通に行われていた時代だったのだ。
 そんな中で、ホワイトの振る舞いのまともさ、他人へのフェアさは際立つ。この事件最大の功労者と言えるだろう。彼や彼の仲間が後のFBIの礎になった。フーヴァーは彼らのことはすぐに忘れちゃったみたいだけど。


石油!
アプトン・シンクレア
平凡社
2008-04-18


『初恋』

トゥルゲーネフ著、沼野恭子訳
 16歳の少年ウラジーミルは、別荘の隣に住む21歳の公爵令嬢ジナイーダに一目惚れする。ジナイーダはいつもとりまきの男性たちに囲まれており、ウラジーミルは翻弄され思いは強まっていった。しかしある日、彼女が恋に落ちたと気付く。
 先日読んだウィリアム・トレヴァー『ふたつの人生』収録「ツルゲーネフを読む声」(光文社古典新訳文庫のみトゥルゲーネフ表記)の中に本作(とその他のトゥルゲーネフ作品)からの引用が多々あったので、気になって読んでしまった。昔は他愛ない話という印象だったが、新訳で読むと少年の恋にのぼせ上った舞い上がり方、鋭敏さと視野の狭さがいっしょくたになっている様が瑞々しく微笑ましい。また、ジナイーダにしろ彼女のとりまきにしろ、まだ半分子供であるウラジーミルの前では、大人として振舞おうとする。本当は彼女らもいっぱいいっぱいで、必ずしも世慣れているというわけでもないのだが、せめて彼の前では大人としての思いやりを発揮しようとしていたことが、今読むとわかる。その思いやりと、ウラジーミルはそれと気づかないのだが。

初恋 (光文社古典新訳文庫)
トゥルゲーネフ
光文社
2006-09-07


猟人日記 上 (岩波文庫 赤 608-1)
ツルゲーネフ
岩波書店
1958-05-06


『八月の光』

ウィリアム・フォークナー著、黒原敏行訳
 お腹の子供の父親を追って旅するリーナ、当所もなくさまようクリスマス、支離滅裂な言動により辞職を求められた牧師ハイタワー、リーナに一目惚れし彼女を気に掛けるバイロン。アメリカ南部の町ジェファーソンに辿りついた人々の運命は、ある事件へと集約されていく。
 難解だと定評のあるフォークナーだが、この度新訳がリリースされたので思い切って読んでみた。こまめに付けられた注釈が、読み進める為の補助線になっている。本作、時間の流れ、時制の切り替えが曖昧でかなりわかりにくいので、そこを指摘してもらえるだけでも大分楽。これから読む人には迷わず光文社古典新訳文庫をお勧めする。
 黒人の血が流れていると噂されるクリスマスは、その噂を否定することなくむしろ自ら噂を広めるかのような振舞をする。当時のアメリカ南部でそれをやることは、自らの死に繋がりかねない。クリスマスが噂を否定しないのは、自分の出生に誇りをもっているというわけではなく、緩慢な自殺のように見える。一方で、黒人の血が流れていることを一つのスティグマのように捉え、武器として使っているようにも思える。クリスマスという名はキリストとの関連を示唆するが、彼は何かを救う為に犠牲になるわけではない。スケープゴード的な立ち位置ではあるが、それにより何かがなされるわけではないのだ。彼のアイデンティティは大分屈折しており、特に女性に対してその屈折が如実に現れる。
 女性との関係で言うと、ハイタワーは妻に実質逃げられているし、バイロンは童貞。女性への憎悪や軽蔑、偏見(本作が書かれた当時はそれが「普通」ってことだったんだろうけど)がちょっとしたところに滲んでいるのでなかなか鬱陶しい。クリスマスやハイタワーの造形と比べると、リーナの造形はテンプレの「母」「女」的で陰影がない。
 クリスマスとハイタワー、屈折した2人の生い立ちを序盤と終盤に配置すること、そしてリーナの旅が冒頭と終盤に配置されたことで、円環構造のような趣を見せる。シチュエーションとしては旅立ちだが、果たして旅立てているのだろうかと不安になる。また本作、南北戦争の禍根がハイタワーの生い立ちとそこから生まれる妄想等に見え隠れしているのだが、終盤に登場する若者たちには現代に通じるものを感じぞわぞわした。物事をあまりに単純に見ており、独善的。いつの時代もこういう人たちがいたのか。


八月の光 (光文社古典新訳文庫)
ウィリアム フォークナー
光文社
2018-05-09


『ハンティング(上、下)』

カリン・スローター著、鈴木美朋訳
 郊外の車道で車にはねられたという、意識不明の女性がERに運び込まれた。彼女は裸で体には拘束・拷問された跡があり、肋骨が一本抜き取られていた。ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレントは現場に急行し、森の中で地下に掘られた拷問部屋を発見する。部屋の形跡からは、女性はもう1人いたのではないかと思われた。
 ウィル・トレントシリーズ3作目(日本での出版は2作目。実際の順番とちぐはぐでわかりにくいな・・・)。シリーズ前作『砕かれた少女』で初登場した人物が再登場し、えっあの後そんなことになっていなのか!とびっくりしたり心配になったりするところも。事件は相変わらず血なまぐさいのだが、地元警察に足を引っ張られることで話が長くなっている(捜査が進まない)ように思える。特別捜査官てそんなに嫌われるの?アメリカの捜査機関の縄張り意識のニュアンス、いまいちわからないんだよなー。犯人の特定が少々唐突で都合良すぎる気もするが、その唐突な登場は犯人の周到さ、粘着さを表すものでもある。
 なお、ウィルと周囲の女性たちとの関係が相変わらずもたついている。ウィルは自分の生い立ちや識字障害を頑なに隠そうとし、その気持ちはわかるのだが、その部分を整理しないとアンジーとの関係はこう着状態だし他の女性(に限らず他人)との関係が深まることもないんだろうな。

ハンティング 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-01-25


ハンティング 下 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-01-25


『ハティの最後の舞台』

ミンディ・メヒア著、坂本あおい訳
 2008年4月12日、ミネアポリスに近い小さな町パインヴァレーで、刺殺され原型がわからないほど顔をめった刺しにされた死体が発見された。遺体は行方不明になっていた18歳のヘンリエッタ(ハティ)と判明。演技の才能があり、殺される直前まで演劇部の舞台でマクベス夫人を演じていた。ヘンリエッタの両親とも親交が深い保安官のデルは捜査を進めるが。
 生前のハティ視点のパート、彼女と関係のあるある人物視点のパート、そして捜査中のデルのパートが交互に配置され、ハティの死、そしてその真相解明にどんどん近づいていく。容疑者は早い段階で絞られるのだが、そこからの引っ張り方、転がし方が上手く次々と「実は」と展開していく。更にハティの死は最初に提示されているが、この時点でなら、あるいはこのタイミングでなら回避できたのではというやりきれなさもにじむ。ハティは聡明で演技の才能があるが、やはりまだ子供で、色々と目算が甘いし人間の心の機微は理解していない面もある。(ハティのみならず)自分の力とその方向性を見誤ってしまった故の、そして選択肢が少なかった故の悲劇にも見えた。ここが田舎町でなくある程度都会だったら、別の「演技」をする相手がいたら、また違った道もあったかもしれない。ハティがSNSである人物と文学や演劇についてやりとりする時の、お互いの高揚感は痛感できる。やっと同じ言語で話せる人がいた!という感じ。そりゃあ目も曇るよなぁ・・・。



V.〈上〉 (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
2011-03-01


『花木荘のひとびと』

髙森美由紀著
 盛岡市、北上川沿いにある小さなアパート、花木荘。1階に入居している志村こはくは買い物依存症気味で、部屋は荷物で崩壊状態。急に父親が訪ねてくることになり焦っているところを、管理人のトミと2階に入居している時計屋の青年に助けられる。
 花木荘を入居者3人が主人公となる連作短編集。3人とも全然タイプの違う人たちなのだが、人間関係に不器用で自分の感情の処理も苦手。どこか自分の人生、家族に対して負い目がある。そんな人たちがちょっとしたきっかけで交流し、徐々にこわばっていたものがほぐれていく。劇的に何かが変わるわけではないが、そっと背中を押してくれるものがあるのだ。じんわりと心温まる、月並みと言えば月並みなのだが生きることの寂しさが底辺にあるように思う。この生活も人の命もいつか終わるという予感が常にあるからか。


2017-12-14


東南角部屋二階の女 (通常版) [DVD]
西島秀俊
トランスフォーマー
2013-12-25


『爆発の三つの欠片(かけら)』

チャイナ・ミエヴィル著、日暮雅道・嶋田洋一・市田泉訳
 新しい広告やパフォーマンスとして定着した“爆発”を描く表題作をはじめ、ロンドン上空に氷山が出現する『ポリニア』、新しい形状の“死”が観測されるようになった『<新死>の条件』など短編28編を収録。
 ショートショート的なものも含むとは言え28編て多すぎないか?ミエヴィルの長編は練りに練って構築したという印象だけど、短編だとわりと走り書き(とか言うと怒られそうだけど・・・)的、イメージのスケッチ的な書き方のものもあって、これはこれで新鮮だった。映画予告編の脚本を模した作品もあり、ここからどのように膨らむんだろうと想像させる。ミエヴィル作品って具体的に描けば描くほど何を描いているのかわからなくなってくるところがあるな・・・。
 また、SFというよりもファンタジー、怪奇譚的なものが多いのは意外だった。バカンス先の田舎で奇妙な声を聞くようになるという『ゼッケン』はもろに呪いものホラーと言えるだろう。相手かまわず呪ってくるところが実にホラーだ。間借り人の様子がどこかおかしくなる『ウシャギ』も、呪術的な要素が色濃い。作品のクオリティがまちまちなのだが、『ポリニア』『<蜂>の皇太后』『祝祭のあと』あたりがバランスがいい。個人的に好きなのはこれコントだろ!と突っ込みたくなった『恐ろしい結末』、怪獣映画的な『コヴハイズ』。最後に収録された『デザイン』も端正で良い。そして漂うブロマンス感。




ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)
チャイナ ミエヴィル
早川書房
2010-06-30


『俳優探偵 僕と舞台と輝くあいつ』

佐藤友哉著
売れない若手俳優の「僕」麦倉は、2.5次元舞台『オメガスマッシュ』のオーディションに落ちる。舞台初日、同期の俳優・水口が主演としてスポットライトを浴びていた。しかし上演中、キャストの1人が突然舞台上から姿を消してしまうという不可解な事件が起きる。
実際に謎を解くのは麦倉のひきこもりの友人で、麦倉は探偵というよりも、謎を見出す係と言った方がいい。本作、というか麦倉のユニークさは、事件を探るというよりも事件を勝手に見出してしまう所にある。見出してしまうのにはそれが見たいという願望が混じっているからで、だから彼は探偵にはなれないのだ。その「なれなさ」は俳優としていまひとつ伸び悩んでいる原因でもあるだろう。特に2.5次元ジャンルでは。2.5次元演劇に対する麦倉の屈折と自己正当化は実に若く、甘っちょろさに苦味も混じった青春感がほとばしっている。中途半端な才能って、才能が全然ないよりもしんどいのかもなぁ。




『白骨 犯罪心理捜査官セバスチャン』

M・ヨート&H・ローセンフェルト著、ヘレンハルメ美穂訳
 トレッキング中の女性が山中で白骨死体を発見した。掘り起こされた遺体は6体。頭蓋骨に銃弾があり、他殺と見られる。トルケル率いる殺人捜査特別班は、犯罪尻学者のセバスチャンを伴い、現地に赴いた。一方、移民の女性シベカは夫の失踪の真実に関する手がかりを求め続けていた。
 (物語の都合上)どこかに繋がりがあるはず、でもどういう形で繋がるのか?という謎の提示で引っ張る。シリーズ1,2作目とは事件の背景、方向性は大分異なるが、より今の時代ならではの事件と言える。これは、トルケルらにしてみたら憤懣やるかたないというか、納得できないよな・・・。そして事件はさておきセバスチャンの暴走には拍車がかかっている。ある願望で目がくらみ、理性がおろそかになっているのだ。本作には彼の他にも理性がおろそかになっている人、判断力が鈍っている人がちらほら(どころではなく)登場し、やはり暴走、ないしはちょっと調子をおかしくしていく。彼らの根っこにあるのは孤独と自己顕示欲、必要とされたいという切実さではないか。これ、この先どうするのよ・・・というすごい終わり方をするので唖然。ここで終わるか!




『犯罪心理捜査官セバスチャン(上、下)』

M・ヨート&H・ローセンフェルト著、ヘレンハルメ美穂訳
 心臓をえぐりとられた少年の死体が発見され、トルケル・ヘーグルンド率いる国家刑事警察の殺人捜査特別班に救援要請が出された。4人の敏腕捜査官の元にトルケルの判断により合流したのは、犯罪心理捜査官のセバスチャン・ベリマン。有名かつ有能な心理学者で著作も多々あるセバスチャンだが、自己顕示欲が強く他人を見下し、セックス依存症という厄介者だった。
 前述のようにセバスチャンは自己顕示欲が強くて(女たらしであるということを割愛しても)面倒くさい男なのだが、本作に登場する主要な人たちは概ね自己顕示欲が強い。特に鑑識官のウスルラと刑事のヴァニヤにはその傾向が顕著だ。なまじ優秀な人たちなので他人からコケにされることが許せない、でも他人をコケにし見下すことには抵抗がない(というか無意識)という、セバスチャンに通じる厄介さを持つ。全編敵味方問わずマウンティング合戦が繰り広げられるのだ。事件本筋よりむしろそこが怖いよ!一緒に働きたくない!能力ないのにマウンティングに乗り出してくるうっかりさんもいるしな・・・。そして最後に驚愕の事実が明らかになり次作への引きもばっちり。著者チームは元々ドラマ脚本家だそうで、納得。




ギャラリー
最新コメント
アーカイブ
記事検索
  • ライブドアブログ