アストリッド・リンドグレーン、サラ・シュワルト著、石井登志子訳
『長くつ下のピッピ』や『やかまし村のこどもたち』等、世界中で愛される作品を生み、20世紀を代表する児童文学作家であるリンドグレーン。彼女の元には多くのファンレターが寄せられるが、その内の1人、サラ・シュワルトとは文通が続いていた。サラが13歳の頃から成人するまで、80通を超える手紙をまとめた往復書簡集。
リンドグレーンは基本的にファンとの手紙のやりとりはしない(きりがないものね)方針だったそうだが、サラとは他の読者には秘密という条件で文通が続いていた。当時のサラは家庭や学校で問題を多々抱えていた。支配的な父親とそれに全く反抗できない母親への怒りと苛立ちが痛々しい。リンドグレーンは彼女の文章力や聡明さに興味を持ったというだけではなく、放っておけなかったのかもしれない。最初は感情だだ漏れという感じだったサラの手紙がどんどん知的な(最初からかなり知的ではあるのだが)ものになり、深い思考を表現するようになる。彼女の成長のスピードが手に取るようにわかってとても面白い。そして、サラに対しあくまで対等に、危なっかしさを懸念しつつも絶対に否定はしないリンドグレーンの一貫した態度にも唸った。お説教めいたこと(流石に時代を感じる内容もある)を書く時には、サラの自尊心を傷つけないよう非常に気を付けた表現をしているし、自分は同意しかねるということにも、はっきりとダメ出しはしない。大人としての分別と対等な友達としての誠実さのバランスがとれている。2人は実際に会うことはなかったそうだが、こういう形の友情もあるのだ。