3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本・題名ら行

『ライフ・アフター・ライフ』

ケイト・アトキンソン著、青木純子訳
 1910年2月10日、大雪の夜にアーシェラ・ベレスフォード・トッドは生まれた。しかし医者の到着が遅れ、そのまま急逝する。しかし同じ年月日、アーシェラは生まれ今回は無事危機を乗り切る。その後も海で溺れたたり、スペイン風邪にかかったり、空襲に遭ったりと様々な形・年齢でアーシェラは死ぬがまた生まれ、時にデジャブを感じながら再び人生を送る。
 作中では精神医の口から輪廻転生という言葉が出てくるが、アーシェラの生きなおしは、ある人生の微妙に違うバージョンが積み重ねられていくという感じ。ベースのアーシェラとその人生は同じで、毎回ちょっとづつ変更が加えられている。彼女の家族や周囲の人たちも基本的な構成は同じで、何度繰り返しても変わらない運命もある。アーシェラは生まれてすぐ死んだり、幼少時に死んだり、若い盛りに死んだりする。初期バージョンのアーシェラは自分の意志や個性を表に出さない、「古風」な女性として生きる。が、バージョンが進むにつれ、家族や世間の抑圧から離れ、自立した生き方を選びとるようになる。アーシェラ自身に転生している自覚はないが、前回できなかったことを今回やる、みたいな傾向はある。どんどん劇的な人生になっていくあたりは(第二次世界大戦が背景にあり、あの独裁者も登場するという事情から)小説の醍醐味でもあるが、ちょっとやりすぎかなという気もする。その人生にたどり着くまでのバージョンアップのように読めてしまうので。
 どのアーシェラが最後まで生き延びるのか、どのアーシェラが人生に成功、ゴールするのかという視点で読んでしまいそうになるが、どれか一つが成功ということではないだろう。彼女の人生はどれも並列して同等に価値ある、それぞれのバージョンの彼女だけの人生だ。繰り返す人生を描くことで、逆に人生が一度きりであることが浮かび上がってくる。

ライフ・アフター・ライフ (海外文学セレクション)
ケイト・アトキンソン
東京創元社
2020-05-29





恋はデジャ・ブ (字幕版)
Stephen Tobolowsky
2013-11-26


『理由のない場所』

イーユン・リー著、篠森ゆりこ訳
 16歳の息子ニコライが自殺した。母親である「私」はもう存在しない息子との対話を続ける。言葉遊びや反抗期の子供らしい皮肉を交えつつ、2人の対話は季節を越え続く。
 「私」とニコライの対話にはしばしば言葉遊びが交えられる。小説家である「私」は言葉に敏感であり、ニコライもまた「私」の使うちょっとした言い回しや単語に素早く反応し、往々にして攻撃する。母と子という立場の違いと合わせ、「私」は中国からの移民であり英語はネイティブではない、たいしてニコライはアメリカで生まれ育った英語ネイティブ。母親の英語の発音がおかしいと指摘することもある。親子という関係とは別に、ここには文化的なギャップがあるのだ。
 ニコライは時に手厳しく母親を非難し、反発する。2人の対話は続くが、この対話をしているニコライはもちろん、「私」の頭の中にあるニコライだ。こういうことを言ったらニコライはこう反応するであろう、こういう理屈を持ち出すだろう、という想像でしかないとも言える。しかし「私」の脳内であっても「私」とニコライの対話は平行線を辿り、愛情は合っても理解し合っているとは言えない。ニコライがなぜ自殺をしたのかも言及されることはない。「私」はもちろんなぜなのか考えに考えたのだろう。ただ、対話相手としてのニコライがそれを明かすことはなく、「私」にとってわからない部分を残した存在であり続ける。永遠に謎のままで、「私」はこの先もその謎を問い続けなくてはならないというのがとても辛い。終わりがないのだ。「私」はそこから逃げるつもりも終わらすつもりもないのだろうが、そこがまた辛い。

理由のない場所
リー,イーユン
河出書房新社
2020-05-19


黄金の少年、エメラルドの少女 (河出文庫)
イーユン リー
河出書房新社
2016-02-08


『論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』

有栖川有栖著
 本格ミステリ作家である著者が、様々な文庫本の巻末に寄せた「解説」を収録した1冊。もちろんほぼミステリ小説の解説だ。解説が寄せられた本の版元、出版年も記載されており、その作家のその後の活躍を知っていると感慨深いものも。
 著者の本格ミステリに対する愛、確固とした主義主張が出てくる解説がいくつかあり(まあ解説依頼する方も本格ミステリだから著者に頼むわけだろうけど)、著者の中でも「本格」の定義が垣間見えるところが面白い。これは違うなというものに対しては結構はっきり否定、とまではいかないが指摘するんだなと(有栖川先生、舞城王太郎作品にはあまり良い印象ないんですね…)。やはり本格を書いている人だからこそわかるその作品の凄み、巧みさというものがあるのだろう。また、この作品をこういうふうに読んだのかという意外さもあった。前口上として「読書会をしている気分を味わっていただけるとうれしい」とあったが、確かに読書会的な、そうですよね!という共感と、そういう読み方があったのか!という他の人の意見を知る面白さを味わえる1冊。
 なお、松本清張『点と線』に対する不満については他著作でも読んだことがあったのだが、これは確かにそうだよなと頷けるもの。ただ、トリック以外の部分の巧みさ、面白さが年齢を重ねるとわかるようになったという所にも深く納得。あれは年取ってから読んだ方が味わいがわかる気がする。

『レイチェルが死んでから』

フリン・ベリー著、田口俊樹訳
 姉レイチェルの家を訪れたノーラは、吊るされた犬の死体、そして血まみれのレイチェルを発見する。警察は殺人事件として捜査を始めるが、ノーラは15年前にレイチェルが襲われ暴行を受けた事件と関連があると考え、独自の犯人探しに固執していく。
 これは邦題が上手い!正に「レイチェルが死んでから」ノーラが何を考えどう行動していくのかという話なのだ。彼女の一人称なので、過去の記憶も現在の出来事も、あくまでノーラが感じ、考えた範疇にとどめられている。なので、実際にあの時、そして今何が起きたのかは、実のところ不明瞭な部分も多い。いわゆる「信頼できない語り手」で、思考も行動もどこかふわふわしている。彼女が何を意図しどこへ向かっているのか、なんとなくはぐらかされている感じがするのだ。そのはぐらかしの理由が原題「Under the harrow」にあるということなので、邦題によって二重にはぐらかされているという面も。苦しすぎると物事への対し方が傍から見ると不可解なものになってしまう。ノーラの苦しみの道筋を描いた話でもあるのだ。

レイチェルが死んでから (ハヤカワ・ミステリ文庫)
フリン ベリー
早川書房
2018-11-06





レベッカ (上) (新潮文庫)
ダフネ・デュ・モーリア
新潮社
2008-02-28

『ロビンソン・クルーソー』

ダニエル・デフォー著、鈴木恵訳
 1632年、イングランド育ちの船乗りロビンソンは、航海中に難破し、1人きりで無人島に漂着する。船に残された積み荷を利用し、住処や道具をこしらえ、亀や鳥を捕まえ、野生のヤギを飼いならして乳を取り、麦や米の栽培を試みる。28年に渡る無人島生活が始まった。新潮文庫の名作新訳コレクションより。
 子供の頃に簡略化された本著を読んだきりだったのだが、当時の記憶と大分内容が違う!ロビンソン・クルーソーといえば無人島でヤギとオウムと黒人奴隷と暮らしていたというイメージなのだが、ヤギとオウムはともかく奴隷が登場するのは大分後半だし多分黒人ではなくてアメリカ先住民だよな・・・。しかもイングランドからの航海ではなくブラジル(イングランドからブラジルへ移住し、ブラジルの自分の農園から旅立つ)からの航海だったのでびっくり。更に意外だったのが、ロビンソンが冒頭から相当愚痴るしぼやくこと。当人の手記という体の作品なので、絶海の孤島に30年近くひとりきりだったらそりゃあぼやくし後悔しまくるだろうなとは思うが、強靭なサバイブ能力とはうらはらだ。また、無人島での生活を成り立たせる上で、イングランド式の生活を再現しようという意欲が結構強い。一人きりの孤島での生活で椅子やテーブルの用意は最優先事項ではないと思うが、ないと落ち着かないのでさっそく作る。そしてとにかく勤勉で几帳面。ピューリタニズムってこういうことだろうか・・・。計画的に働かないと生き延びることができないという事情はあるものの、働き者すぎる!自分が育った習慣、ルールに基づき生活を再現しようという方向に努力するところが面白い。
 創意工夫は旺盛だが、価値観はあまり変わらずあまり融通がきかない。この価値観の変わらなさは、当時のキリスト教文化圏の作品故だろう。本作、住まいを作ったり狩りや採集をしたりという生活の部分の描写は時代を越えた面白さがあるのだが、宗教を背景とした価値観や、先住民に関する記述の部分は今読むと相当傲慢で、なかなかきついものがある。

ロビンソン・クルーソー (新潮文庫)
ダニエル デフォー
新潮社
2019-07-26





ロビンソン・クルーソー (岩波少年文庫)
ダニエル・デフォー
岩波書店
2004-03-16

『ロックの英詞を読む 世界を変える歌』

ピーター・バラカン著
 ジョン・レノン、スティーヴィー・ワンダー、ビリー・ホリデイ、ジョーニ・ミチェルらの名曲の中でも、特にメッセージ性の強い曲を取り上げ、ブロードキャスターである著者が翻訳し英語表現について解説した1冊。ディスクガイドや日常英会話表現、英語の発音についてのミニコラムも収録。
 聴いたことのある名曲が多く収録されているのだが、恥ずかしながら歌詞もちゃんと知っているかというとよくわかっていなかった。ジョン・レノンのアルバム「Plastic Ono Band」は歌詞が生々しすぎて当時は積極的に聞けなかったと著者は書いているのだが、「労働者階級の英雄」の歌詞、確かに強烈だもんな・・・。心に刺さりすぎて泣いてしまう。その歌詞が書かれた社会的背景や、著者のパーソナルな体験も交えて解説されており、音楽エッセイとしての面白さがある。
 歌詞における英語表現について丁寧な説明がされているので、英語に弱い私でも大丈夫だった。書き下ろしではなく語り下ろしなので、ラジオを聴いているような親しみやすさ。

ロックの英詞を読む──世界を変える歌
ピーター・バラカン
集英社インターナショナル
2016-05-26


ロックの英詞を読む ―Rock Between The Lines
ピーター・バラカン
集英社インターナショナル
2003-10-03


『リンドグレーンと少女サラ 秘密の往復書簡』

アストリッド・リンドグレーン、サラ・シュワルト著、石井登志子訳
 『長くつ下のピッピ』や『やかまし村のこどもたち』等、世界中で愛される作品を生み、20世紀を代表する児童文学作家であるリンドグレーン。彼女の元には多くのファンレターが寄せられるが、その内の1人、サラ・シュワルトとは文通が続いていた。サラが13歳の頃から成人するまで、80通を超える手紙をまとめた往復書簡集。
 リンドグレーンは基本的にファンとの手紙のやりとりはしない(きりがないものね)方針だったそうだが、サラとは他の読者には秘密という条件で文通が続いていた。当時のサラは家庭や学校で問題を多々抱えていた。支配的な父親とそれに全く反抗できない母親への怒りと苛立ちが痛々しい。リンドグレーンは彼女の文章力や聡明さに興味を持ったというだけではなく、放っておけなかったのかもしれない。最初は感情だだ漏れという感じだったサラの手紙がどんどん知的な(最初からかなり知的ではあるのだが)ものになり、深い思考を表現するようになる。彼女の成長のスピードが手に取るようにわかってとても面白い。そして、サラに対しあくまで対等に、危なっかしさを懸念しつつも絶対に否定はしないリンドグレーンの一貫した態度にも唸った。お説教めいたこと(流石に時代を感じる内容もある)を書く時には、サラの自尊心を傷つけないよう非常に気を付けた表現をしているし、自分は同意しかねるということにも、はっきりとダメ出しはしない。大人としての分別と対等な友達としての誠実さのバランスがとれている。2人は実際に会うことはなかったそうだが、こういう形の友情もあるのだ。

リンドグレーンと少女サラ――秘密の往復書簡
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2015-03-19


リンドグレーンの戦争日記 1939-1945
アストリッド・リンドグレーン
岩波書店
2017-11-18




『ローズ・アンダーファイア』

エリザベス・ウェイン著、吉澤康子訳
 1944年9月、イギリス補助航空部隊の飛行士ローズは、輸送の途中でドイツ軍に捕えられ、ラーフェンスブリュック強制収容所に送られる。そこでの生活は、飢えや寒さの中労働を強いられ、いつ処刑されるかもわからないというものだった。彼女を支えたのは同じ収容者仲間の女性達だった。彼女らの多くは「ウサギ」と呼ばれる非人道的な人体実験の被験者だった。
 『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編で、前作に登場した人たちもちらほら姿を見せる。最初は色々な人からの手紙や手記、そしてローズの手による本編という構成。ローズが手記を書こうとしていることから、彼女が生き延びたということは最初からわかっている。しかし緊張が途切れなかった。ホローコーストからの生存者にインタビューしたドキュメンタリー『ショア』(クロード・ランズマン監督)を思い出した。収容所の中で行われていることがあまりに残酷で、人間は歯止めがなければいくらでもひどいことを出来るのだと慄然とする(人体実験がとにかくひどい)。人間の尊厳(と生命)を剥奪する実験のようだ。その一方で、心身ともにぎりぎりの状態の中で他人を助け「人間らしさ」を維持しようとする人たちがいる。人間のおぞましい部分と崇高な部分とか同じ場所で展開されているのだ。ローズが詩によって自分を、そして仲間の心を支え続ける様には目頭熱くなった。書くこと、語る事が前作に引き続き大きなファクターになっている。それは死んでいった仲間の記憶を留め伝えることなのだ。
 収容所内での描写もきついのだが、一番はっとしたのは、ローズが助かったにも関わらず母には会えない、会いたくないと思うという所だ。収容所の生活で変わり果てた姿になってしまったからというのもあるが、内面が変わってしまった、もう母の知っている自分ではなくなってしまったからだ。説明しえない、言葉に出来ない体験というものがあるのだ。しかし彼女は「私たちのことを知らせて」という仲間の願いを忘れない。終盤、もう一人「バラ」の名前を持つ収容所仲間のローザの振る舞いの理由にローズがはたと気づく所も痛切。

ローズ・アンダーファイア (創元推理文庫)
エリザベス・ウェイン
東京創元社
2018-08-30


コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)
エリザベス・ウェイン
東京創元社
2017-03-18


『隣接界』

クリストファー・プリースト著、古沢嘉通・幹遥子訳
 フリーカメラマンのティボー・タラントは、トルコのアナトリアで反政府主義者の襲撃により、看護師として派遣されていた妻・メラニーを失う。ロンドンに戻る為に海外救援局(OOR)に護送されるタラントだが、道中、政府機関の職員だという女性フローと交流する。やがて彼を不可解な事象が襲い始める。
 第一次大戦中に軍から秘密任務を依頼される手品師、第二次大戦中に女性飛行士に恋するイギリス空軍の整備兵、夢幻諸島で興業を試みる奇術師、そして同じく夢幻諸島で一人暮らす女性。様々な世界がタラントの旅路と並行して語られる。時代も場所もバラバラだが、戦争、飛行機、離れ離れになる男女等、登場するモチーフがどこかしら似通っている。そして似通ってはいるが完全には重ならずどこかずれている。それら平行世界が時に隣接し干渉するようなのだ。タラントの世界認識は海外生活をしていたギャップ、そして世界情勢の不安定さにより最初からあやふやなのだが、平行世界の気配により更にあやふやになっていく。それぞれの章に登場する人物やモチーフは、著者の過去作品でも使われたものでもある。これはプリーストユニバースとでも言えばいいのか。

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
クリストファー プリースト
早川書房
2017-10-19


〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)
クリストファー・プリースト
早川書房
2004-02-10







『ラブラバ』

エルモア・レナード著、田口俊樹訳
 元シークレット・サービスの捜査官で、今では写真家のジョー・ラブラバは、12歳の頃の初恋の相手である、元女優のジーン・ショーと知り合う。ジーンとの出会いに心浮き立つラブラバだが、彼女は厄介な男たちに目を付けられていた。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞を受賞した作品の、新訳版。
 ラブラバは一見呑気でピントがずれているが、実は頭がきれ腕っぷしも強いという、なかなかのチートキャラ。都合が良すぎるチートぶり(経歴が結構すごいもんね・・・)もレナードの軽口をたたくような軽妙で洒脱、しかしクールすぎない文体だと違和感を感じない。世界観の統一がされているということだな。ラブラバの、頭はきれるが基本的に人が良く、特に女性に対しては脇が甘い所も、やりすぎ感を抑えている。ラブラバの中の客観的で冷静な部分と、自分が信じたいものを信じたいという情の部分のせめぎ合いが、本作を単なる「クール」ではなくしていると思う。
 本作、’40年代フィルムノワールへのオマージュに満ちていて、固有名詞をわかる映画好きにはより楽しいのでは。ジーンがどのような女優なのかということも、よりわかる(そこが辛い)はず。引退したとはいえ彼女はやはり女優で、「映画」をやりたいのだ。事件の謎は中盤で明かされてしまうが、謎解きは本作の重点ではない。女優として生きるジーンと、それに対するラブラバの配慮が泣かせるのだ。ラブラバは信じたいものを信じようとしても真実に引き戻されるが、ジーンは自分が見せたいものに殉ずるようでもあった。夢に生きてこそのハリウッドの住民ということか。
 悪役として登場するノーブルズとクンドー・レイの珍道中もいい。ノーブルズの言動は頭が悪いのに結構怖い。中途半端な悪人、かつ思い込みの激しさ故の怖さがあるのだ。



グリッツ (文春文庫)
エルモア レナード
文藝春秋
1994-01

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