3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本・題名は行

『ビューティフル・デイ』

ジョナサン・エイムズ著、唐木田みゆき訳
 元海兵隊員のジョーは、人身売買された女性の救出を専門とするフリーランサー。ある日、仲介役のマクリアリーから、誘拐された上院議員の娘の救出という案件が入る。娘が働かされている娼館を見つけ、首尾よく侵入したものの、思わぬ邪魔が入る。娘の誘拐の背後には更に大きな陰謀があった。
 私がすごく好きなタイプの小説だった!1行目から香り高く味わい深い。ストーリーは殺伐としており文章はクールだが、訳者解説でも言及されているように所々に乾いたユーモアがある。文章のちょっとしたところにぐっとくる。これは翻訳もいいんだろうなぁ。
 ジョーの振る舞いは徹頭徹尾真面目なのだが、バカ真面目感がある。徹底したプロとしての、時に融通が利かないようにさえ見える振る舞いがそう感じさせるのだ。もちろん、身を守ることを考えてそういう行動になっているのだが。ジョー当人は自分はちょっと狂っている、まともではないが何とかまともに見せているという自覚を持っている。彼の行動は暴力的だが、ある部分では自分をまともさに留め置くためのもの、彼にとっての良識の発露でもあるように思える。というよりも、彼以外があまりに下衆で悪辣だ。多分ジョーは、当面自殺衝動からは遠のいていられるのではないか。怒りが自身の苦しみを忘れさせるのだ。ごく短い(ハヤカワ文庫にあるまじきぺらぺらさ)作品なのだが中身は濃密だ。あと、やっぱり金槌は強い。手斧も推したいが、入手しやすさ・携帯しやすさでは金槌に負けるな。

ビューティフル・デイ (ハヤカワ文庫NV)
ジョナサン エイムズ
早川書房
2018-05-19


『羊と鋼の森』

宮下奈都著
 山で育った外村は、高校生の時に学校のピアノの調律を目の当たりにし、自身も調律師を目指す。専門学校を卒業し、調律師として江藤楽器店に就職した外村は、先輩調律師の柳や、調律を目指すきっかけとなったベテラン調律師の板鳥と働くようになる。2016年、第13回本屋大賞受賞作。
 外村は山で育ち、世間知らずと言えば世間知らずで自分の世界が狭い。しかし彼は山のイメージ、森のイメージを生活の中でもピアノの音に対しても持ち続けており、そういう面では世界に広がりがある。・・・というふうに描きたかったのかもしれないが、どうにも浅いし薄い。どういう音を目指しているのか、ここでどういう音楽が流れているのかという説得力が希薄。双子の少女の演奏に対する姿勢もやたらとあっさりとしており表層的に思えた。どろどろしていればいいってものではないが、薄味すぎでは。ふわふわとしたイメージの断片を繋げただけで、軸となるものが弱い気がする。調律の専門学校ではどういう勉強をするのか、調律作業がどういう手順で行われるのかという具体的な部分は悪くないが。

羊と鋼の森 (文春文庫)
宮下 奈都
文藝春秋
2018-02-09






『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家 小泉八雲』

久賀里世著
 歌手だった母親を亡くしたオーランドは、名門である亡き父の一族に疎まれ、北イングランドの寄宿制神学校に送られる。学校へ向かう汽車の中で、風変りな少年が声をかけてきた。かつて汽車の中から姿を消した子供が、生者を道連れに誘うのだと言う。若き日のラフカディオ・ハーン=小泉八雲が怪異を解き明かす連作集。
 ハーンは作中ではパトリックという名で呼ばれており(ハーンの出生名はパトリック・ラフカディオ・ハーン)、彼が作家「ラフカディオ・ハーン/小泉八雲」になる前の青春譚とも言えるだろう。性格等のキャラクター造形はほぼオリジナルと言ってもいいと思うが、生い立ちや目が悪かったこと等は史実通り。日本への憧れに繋がる伏線も出てくる。古典作家の「キャラ」化が最近盛んだが、八雲は実際に相当クセのある人だったみたいだし、キャラ化に向いているのかも。
 妖怪・幽霊譚を取り入れたミステリは、「この世」が担当する部分と「あの世」が担当する部分の兼ね合いが難しいように思う。本作も、これだったら全部妖怪・妖精の仕業にしてしまってもいいのでは、あるいはオカルトを否定するミステリとしてもいいのではという部分があり中途半端な印象はある。とは言え、遭遇する怪異を通してオーランドが母親に対する思いのわだかまりをほどいていく過程や、学園ドラマ的な同級生とのやりとり等はこなれていて読ませる。



小泉八雲集 (新潮文庫)
小泉 八雲
新潮社
1975-03-18

『ペインスケール ロングビーチ市警殺人課』

タイラー・ディルツ著、安達眞弓訳
 ロングビーチの高級住宅街で、下級議員の息子ベントン三世の妻と幼い子供2人が殺害された。妻の遺体は拘束された上切り裂かれており、強盗から政治がらみの怨恨まで様々な動機が考えられるものの、決め手に欠ける。重傷による休職から復帰したばかりのダニーと、相棒のジェンは捜査に奔走する。
 シリーズ2作目。事件自体は独立しているのだが、ダニーの状態が前作の出来事から引き継がれているので1作目を読んでから本作を読むことをお勧めする。1作目は地味な刑事小説という感じで若干フックに欠けたが、本作は展開がよりスピーディ。特に序盤の動かし方が上手くなっており引きが強い。ダニーは過去の記憶に由来する心の痛みだけではなく、肉体的な痛みにも苦しめられる。その痛みを図るのが「ペインスケール」なのだ。
 残忍な事件だが、事件の背景には被害者はそういう扱いをしてもいい存在だと思っている人がいるという現実があり、それがやりきれない。前作の被害者にも、彼女が男性だったら受けないような仕打を受けた過去があったが、本作にもその要素はある。そもそもそんなことでこの惨劇か!という真相なのだが、「そんなこと」と思えないほど価値観がずれてしまった人がいるということだし、事件の発端から全ての歯車がずれていたとも言えるのだ。その為すっきりしない後味なのだが、警察の仕事を描いているという意味ではこれもありか。






『ボックス21』

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム著、ヘレンハルメ美穂訳
 リトアニアジン娼婦リディアは、激しい暴行を受け病院に搬送された。搬送先の病院で、彼女は予想外の行動に出る。医師と研修医たちを人質に、爆弾を持って立てこもったのだ。病院で薬物依存者死亡事件を捜査していたグレーンス警部は立てこもり事件の対応にあたるが。
 なかなかのイヤミスだった『制裁』の著者によるシリーズ作品だが、今回もなかなかのイヤさ。グレーンスが常にイライラしているし何だか情緒不安定な言動なので、『制裁』よりも読み進めにくいように思う。リディアは騙されてスウェーデンに連れてこられ、悲惨な境遇で生きてきた。そこからの起死回生ではなくこのような道を選ばざるを得なかったことには、怒りとやりきれなさを感じる。そして、彼女の声を封殺しようとする人たちがいることにも。よりによってお前がそれをするのか!と。自分たちがしてきたことを全否定するようなことなのにそれでもやるの?それで守れるものって何なの?ともやもやが止まらない。ラストは触れ込み通り確かに衝撃なのだが、そっちの方向での衝撃かー!その衝撃欲しくなかったわー!罪と罰、ではなく罪と恥の物語。恥を隠し続けることこそ恥なのだが、彼らにその意識はあるのだろうか。しかもシリーズまだ続くというあたりが怖い・・・。

ボックス21 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2017-11-21


制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド
早川書房
2017-02-23



『ブラックパンサー』

 アフリカにある王国ワカンダは、絶大な力を秘めた鉱石ヴィブラニウムを利用し、密かに超文明を築いていた。ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐ為、代々の国王の元、秘密を守ってきたのだ。父である前国王の死により王位を継承したティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は、王位継承の儀式の中でブラックパンサーとしての超人的な力を得る。ヴィブラニウムの輸出をもくろむ武器商人のユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)と彼に協力する元工作員エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)の存在を知り、国を守る為に元婚約者で諜報員のナキア(ルピア・ニョンゴ)、王国最強の戦士オコエ(ダナイ・グリラ)らと動き始めるが。監督はライアン・クーグラー。
 クーグラー監督の前作『クリード チャンプを継ぐ男』はザ・少年漫画!的な王道感が熱かったが、本作もなかなかの少年漫画感。アベンジャーズシリーズで既に登場しているブラックパンサー=ティ・チャラは大変クールでかっこよく陛下素敵!超頼もしい!と思っていたのだが、本作を見てみると、最初は意外と未熟で悩める青年という感じ。ナキアはじめ周囲の女性たち(ハーレム的でなく女性に囲まれているヒーローが登場するようになったんだなとも)の方がよっぽど頼もしい。そんなティ・チャラが国を守るとは、良き王になるとはどういうことなのかと葛藤し、前王を越えていく、ストレートな成長物語だ。なので、そんなに捻ったストーリー展開ではないしストーリーに限って言うとそれほど突出して面白いわけではない。アクションシーンも3Dを意識しているのかカメラがぐるぐる動き、目まぐるしくて期待していたほどではなかった。
 とは言え本作、今、現代のヒーロー映画で「国王」というキャラクターを使って何を物語るか、国を愛する・守るとはどういうことなのかと果敢に挑んでおり、そこがとても面白かった。ワカンダはヴィブラニウムの存在を秘密にし自国の中だけで使うことで、繁栄を保っていた。しかし諜報員として他諸国の紛争や困窮を知るナキアは、自国の利益を守るだけではだめだ、技術や資源を提供して世界が抱える困難の解決に取り組むべきではと訴える。ティ・チャラは歴代の王たちの方針に則り、自国の技術や資源を外に出すことには反対する。しかしキルモンガーの出現で、それが揺らいでいくのだ。キルモンガーのやり方は許されることではないが、彼の理念は実はナキアに近い。本作、ティ・チャラとキルモンガーが光と影になっているのではなく、ナキアとキルモンガーが光と影になっているようにも思えた。
 終盤でティ・チャラはあるスピーチをする。本作の物語は、このスピーチに説得力を持たせる為に紡がれてきたようなものだろう。このシーンが力を持っていれば、本作は成功なのだ。アメコミのヒーローである「国王」(そもそも正式な手続きに則って就任すれば正しい王と言えるのか?という要素も本作には含まれている。ワカンダの伝統的な王位継承システムは「王位継承者はそれなりに有能で倫理的」という大前提に基づいてるよね・・・)にこのスピーチをさせることに、本作の矜持が見られると思う。

ブラックパンサー・ザ・アルバム
オムニバス
ユニバーサル ミュージック
2018-02-28


ブラックパンサー (ShoPro Books)
レジナルド・ハドリン
小学館集英社プロダクション
2016-04-20



『ハティの最後の舞台』

ミンディ・メヒア著、坂本あおい訳
 2008年4月12日、ミネアポリスに近い小さな町パインヴァレーで、刺殺され原型がわからないほど顔をめった刺しにされた死体が発見された。遺体は行方不明になっていた18歳のヘンリエッタ(ハティ)と判明。演技の才能があり、殺される直前まで演劇部の舞台でマクベス夫人を演じていた。ヘンリエッタの両親とも親交が深い保安官のデルは捜査を進めるが。
 生前のハティ視点のパート、彼女と関係のあるある人物視点のパート、そして捜査中のデルのパートが交互に配置され、ハティの死、そしてその真相解明にどんどん近づいていく。容疑者は早い段階で絞られるのだが、そこからの引っ張り方、転がし方が上手く次々と「実は」と展開していく。更にハティの死は最初に提示されているが、この時点でなら、あるいはこのタイミングでなら回避できたのではというやりきれなさもにじむ。ハティは聡明で演技の才能があるが、やはりまだ子供で、色々と目算が甘いし人間の心の機微は理解していない面もある。(ハティのみならず)自分の力とその方向性を見誤ってしまった故の、そして選択肢が少なかった故の悲劇にも見えた。ここが田舎町でなくある程度都会だったら、別の「演技」をする相手がいたら、また違った道もあったかもしれない。ハティがSNSである人物と文学や演劇についてやりとりする時の、お互いの高揚感は痛感できる。やっと同じ言語で話せる人がいた!という感じ。そりゃあ目も曇るよなぁ・・・。



V.〈上〉 (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
2011-03-01


『ぼくらが漁師だったころ』

チゴズィエ・オビオマ著、粟飯原文子訳
 1996年、ナイジェリアに住むアグウ家では父親が単身赴任に出た。厳しい父親の不在により4兄弟のたがが緩み、学校をさぼってぶらつくようになる。ある日近所の川で釣りをしていると、1人の狂人が長兄イケンナについて恐ろしい予言をする。予言を信じたイケンナは人が変わったようになり、家族は崩壊している。
 現代の物語で具体的なナイジェリアの情勢が背景にあるが、ベンジャミンたちは未だ呪いや予言が力を持つ神話・伝説の世界に生きているようだ。信じなければ呪いは呪いにならない、信じるから呪いとして発動してしまうのだ。兄たちはそれぞれ聡明で行動力もあるのに、次々と狂人の言葉に絡め取られ自滅していく。子供故の知識のなさや世界の狭さが事態を悪化させていく(冷静に考えればそんなことする必要ないのに!という局面が多々ある)のがもどかしい。また背景には当時のナイジェリアの情勢の不安定さがある。実際問題として、大人の世界においても彼らに危険が迫るのだ。それがまた事態をややこしくしていくのだが・・・。9歳の四男ベンジャミンの語りによって物語は進行する。この語りがどういう状況下で始まったものなのかわかると、彼らの運命の奇妙さ、残酷さに更にやりきれなくなった。

ぼくらが漁師だったころ
チゴズィエ オビオマ
早川書房
2017-09-21


あたらしい名前
ノヴァイオレット ブラワヨ
早川書房
2016-07-22

『亡霊星域』

アン・レッキー著、大野万紀訳
 かつては宇宙戦艦のAIだったが、いまはただひとりの生物兵器“属躰”となったブレクは、属躰であることを隠し長い年月を生き延びてきた。宿敵である星間国家ラドチの支配者アナーンダから艦隊司令官に任じられたブレクは、正体を隠したまま新たな艦で出航する。目的地の星系には、彼女がかつて大切にしていた人の妹が住んでいた。
 『叛逆航路』の続編となるシリーズ2作目。言語上性差がない(全て「彼女」「母」「娘」で表す)文化圏、戦艦には“属躰”と呼ばれる分身のようなものが多数あり、支配者アナーンダは自身の属躰同士で分裂し抗争中という、世界設定がややこしいので、前作の記憶がはっきりしているうちに読むべきだったな・・・。前作は世捨て人のようだったブレクが再起し旅に出るという、動きの大きな物語だった。対して本作は舞台が一つの星系内での政治的ないざこざにブレクたちが巻き込まれていくという話なので、少々こぢんまりとした感じはする。
 とは言え、植民地における支配層と被支配層の関係や、異民族に対する意識等、作品世界の描写は面白い。植民地化した方は文明化だと思っていても、された側にとっては蹂躙であり支配であるということ、支配者層の被支配層への無頓着さが前作以上に際立つ。人間ではないブレクの感覚の方がまともで、この文化の中で生きていた人間たちの感覚の方が偏っているように見えるのだ。

亡霊星域 (創元SF文庫)
アン・レッキー
東京創元社
2016-04-21



『花木荘のひとびと』

髙森美由紀著
 盛岡市、北上川沿いにある小さなアパート、花木荘。1階に入居している志村こはくは買い物依存症気味で、部屋は荷物で崩壊状態。急に父親が訪ねてくることになり焦っているところを、管理人のトミと2階に入居している時計屋の青年に助けられる。
 花木荘を入居者3人が主人公となる連作短編集。3人とも全然タイプの違う人たちなのだが、人間関係に不器用で自分の感情の処理も苦手。どこか自分の人生、家族に対して負い目がある。そんな人たちがちょっとしたきっかけで交流し、徐々にこわばっていたものがほぐれていく。劇的に何かが変わるわけではないが、そっと背中を押してくれるものがあるのだ。じんわりと心温まる、月並みと言えば月並みなのだが生きることの寂しさが底辺にあるように思う。この生活も人の命もいつか終わるという予感が常にあるからか。


2017-12-14


東南角部屋二階の女 (通常版) [DVD]
西島秀俊
トランスフォーマー
2013-12-25


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