3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『呪われた腕 ハーディ傑作選』

トマス・ハーディ著、河野一郎訳
村の乳搾りの女ローダは、かつて農場主のロッジと恋仲にあり子供もいたが、ロッジは彼女を捨て、若く美しいガートルードと結婚した。ローダはガートルードを倦厭していたものの、とあるきっかけで親しくなっていく。ある晩ローダは夢の中で女性の腕を掴む。しばらくするとガートルードの腕に原因不明の痣が出来、悪化していった。19世紀末、ヴィクトリア時代のイギリスを代表する作家の傑作短篇集。新潮文庫の「村上柴田翻訳堂」シリーズから復刊・改題された。小説の原型みたいな短篇集だ。ここから更に、色々な形状の小説に発展していきそうな、人の感情や物語の型が出揃っているように思った。その分、ちょっとそっけない、骨っぽすぎるという印象もあるが。また、人と人の心、あるいは人生のタイミングのすれ違いを描いた作品が多い。運命のいたずら、みたいなシチュエーションを好む作家だったのか。個人の力ではどうにもコントロールできないものとの対峙には、どこか諦念もにじむ。

『残り全部バケーション』

伊坂幸太郎著
当たり屋、恐喝などあくどい仕事を生業とする溝口と部下の岡田。ある日岡田は、足を洗いたいと打ち明ける。溝口は「適当な携帯電話の番号に電話し、出た相手と友達になれたら許す」という条件を出す。岡田がかけた番号に出たのは、離婚寸前の男。岡田はその男と、なぜか男の妻子も一緒にドライブする羽目になる。表題作を含む中編5編から成る連作集。いやー上手い!いつもの伊坂といえばいつもの伊坂だが伏線と構成のあざとさには唸る。しかも、収録中1~4章は別々の媒体に掲載されていたもの(つまり初出は連作ではない)で、書き下ろしの5章を加えることで連作として完成し、物語が円環するのだ。本作に限ったことではないが、人のちょっとした善意が(誰かにとっての)世界をちょっと良くするという希望が底辺にあると思う。そういう描き方は愚直に見えるかもしれないが、そこに徹するところが作品の強さ(著者の意志の強さでもある)になっていると思う。後味もいい。題名もいい。人生の残りは全部バケーション、おまけみたいなものだと思えば、ちょっとは生きるのが楽になるかな。

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『野原をゆく』

西脇順三郎著
詩人であり英文学者でもあった著者の、随筆集。題名の通り、野山の散策や、専門である英文学についての話が多い。著者は旅行というよりもハイキングのような散策が好きだったようで、特に多摩川近辺は度々登場する。当時は多摩川越えれば東京の別荘地、みたいな感覚だったようだ。わかりやすく華やかな花よりも野の花を好むが、かといっていわゆる「侘び寂び」は金持ちの道楽だ、貧乏と簡素は違う、みたいな身も蓋もない話も出てきて、時に辛辣。著者はオックスフォード大学に留学しており当然英語堪能であり、帰国後はシュルレアリスム運動を代表する詩人として著名になったが、本作に収録されている話によると、子供の頃は読書は苦手で、全然日本語の文字を読む意欲がわかなかったそうで、とても意外だった。英語に触れるようになってから、言語としての構造や文学に関心が生まれたそうだ。文学というよりもむしろ言語というシステムの方からこの世界に入ってきた人なのだが、文学者でこういうタイプの人は珍しい気がする。

『ノックス・マシン』

法月綸太郎著
2058年、小説はプログラムにより自動生成されるようになった世界。20世紀の探偵小説の研究者ユアン・チンルウは、国家科学技術局から呼び出された。「ノックスの十戒」第5項について彼が立てた仮説が、史上初の双方向タイムトラベル成功の鍵になるというのだ。本格ミステリ作家である著者によるSF、だがやはり本格ミステリ。そもそもノックスを持ちだす時点で(知らなくても楽しめるように書いてはあるけど)本格ミステリ読者以外は食いつきにくいそう。しかし本格ミステリが好きな人は、やるなぁ!と唸らせられるのではないだろうか。SFとしてちょっと懐かしい味わいもありつつ、ミステリに関するペダントリィとパロディ精神に満ちている。表題作の「ノックス・マシン」 、その続編「論理蒸発 ノックス・マシン2」は、著者の本格ミステリに対する愛と敬意を感じさせ目がしら熱くなる。更に、小説というもの、そのものへの愛と敬意が詰まっているのだ。法月先生、実は熱い人だよな!と改めて感じる。

『NOVA+ バベル 書き下ろし日本SFコレクション』

大森望責任編集
大森望が編集する、日本SFアンソロジーシリーズ「NOVA」の新シリーズ。今までのNOVAは読んでいなかったが、本作は月村了衛「機龍警察」のシリーズ短編を収録しているので読んでみた。で、機龍警察はもちろん面白かったのだが、他の作品も更に面白い!特に酉島伝法「奏で手のヌフレツン」は私の中では圧巻。この世界をこのように解釈するのか!という驚きと新鮮さがあった。グロテスクであり過剰でもあるがイマジネーションが抜群だと思う。また、SFの“現実のちょっと先”という側面としては、長谷敏司「バベル」はまさにそれだと思う。そして最後に収録された円城塔「Φ」は、確かに最後にふさわしい。宮部みゆきの職人的安定感を味わえたのも嬉しかった。

『know』

野崎まど著
2040年に情報インフラが革新的に飛躍し、2053年、超情報化対策として人間の脳に「電子葉」が植えられた。電子葉が一般化した2081年、情報庁所属の若き官僚・御野・連レルは、情報素子コードの中に行方不明の研究者であり恩師でもある道終・常イチが残した暗号を発見する。暗号を読み解き恩師と再会した御野は、少女・知ルを託される。SFが今の世界の行く先を想像する、この路線の上だと世界がどう変容していくのか思いめぐらす文芸だとするなら、本作は正にSFだろう。情報化社会の行きつく先の描かれ方は、なるほどという説得力をもつものだった。人間の本性に「知る」ことへの欲望が含まれているのなら、これも進化の形なのだろうと。ただ、本作が最後に示唆する世界は、ある種のディストピアにも見える。ここまでいっちゃうと「個人」の意味はなくなるのではないか。

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