3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『20世紀イギリス短篇選(上、下)』

小野寺健編訳
キップリングからモーム、ウルフ、ジョイス、D.H.ロレンスを経てドリス・ドレッシング、ウィリアム・トレヴァー、そしてスーアン・ヒル。20世紀に活躍したイギリスの小説家の作品を収録した短編集。上下巻、時代順で収録されているので、小説の時代背景の変遷もたどることができる。普段、なかなか読む機会のない作家の作品も(特に下巻では)多く、粒ぞろいでとても読み応えがあった。どこか苦味やブラックユーモア、寂寥感、生きることの悲しみが漂う作品が多いのは、編者の趣味なのか、イギリスのお国柄なのか。そんな中、キュートと言えばキュートだが冷静に考えるとちょっと怖い、P・G・ウドハウス(岩波文庫ではウドハウス表記)の「上の部屋の男」、最後の最後で人生は悪くないと思えるノーラ・ロフツ「この四十年」がアクセントになっている。個人的には、視点がミクロからマクロへゆらゆらゆれてどこか幻想的なヴァージニア・ウルフ「キュー植物園」、ジョイスってこんなのも書いてたんだ!と新鮮だったジェイムズ・ジョイス「痛ましい事件」、異邦人としての疎外感と差別への怒りが根底に流れるジーン・リース「あいつらのジャズ」を推す。

『逃げる幻』

ヘレン・マクロイ著、駒月雅子訳
ある事情からハイランド地方の村を訪れたダンバー大尉は、家出を繰り返す少年が、ムア(荒野)で突然消えたという話を聞く。少年はほどなく戻ってきたが、彼は何かを異様に恐れていた。そして、少年の家庭教師が殺された。ヘレン・マクロイのミステリは折り目正しくて好ましいなぁ。色気を出し過ぎず、出さなすぎもせずというバランスがいい。本作では人間消失と密室殺人という2つの要素が盛り込まれているが、実はそこ以外の部分の謎に対する解が、おおなるほど!という納得感が強く、どんでん返し的なサービスにもなっていて満足度が高かった。ロジカルな部分以外でも、ハイランド地方の風土の描写やムアの風景、そして人間の機微など、小説としての彩の部分がきちんとしているので、そこでも安心して読める。第二次大戦後の社会の雰囲気が伝わってくる(そして事件とも深くかかわってくる)ところも興味深い。

『日本映画史110年』

四方田犬彦著
2000年に刊行された『日本映画史100年』の増補改訂版。2000年以降の日本映画の動向、研究成果についても加筆されている。私は映画はよく見ているものの、日本映画の時代的な流れ、映画史についてはあまり知らなかった(特に撮影所時代については無知)なので、流れを押さえる為に読んでみた。新書なので手に取りやすいしわかりやすくまとまっていて、元となった『日本映画史100年』が大学などのテキストとしても選ばれ版を重ねているというのには納得。時代ごとのムーブメントとあわせ、主要なスタッフ(主に監督)の名前も把握できるので便利だ。日本映画には歴史的な視座が乏しいという指摘が度々されるのだが、これは映画に限ったことじゃないよなー。

『二千万ドルと鰯一匹』

カトリーヌ・アルレー著、安堂信也訳
看護師のヘルタは、個人宅に雇われある「仕事」をすることで定評があった。1人の未亡人が彼女の元を訪れる。再婚相手の夫は莫大な財産を残したものの、その相続は義理の息子に有利な条件だった。義理の息子が事故にあい自由に動けなくなっているところを、あの世に送ってほしいと、未亡人はヘルタに依頼する。遺産の10%を報酬とする条件でヘルタは「仕事」を引き受ける。コンパクトにまとまっており面白い!いわゆる「悪女」というよりも、徹底して現実的かつ狡猾な女性を主人公としたピカレスクロマン的なサスペンス。状況がどんどん変化していくなか、ヘルタがどう対応するのか、はたして報酬を手にできるのか、わくわくしてしまう。未亡人との間に生じる妙な連帯感も味わい深い。
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