京極夏彦著
劇作家の久住は滞在先の宿で殺人の記憶を持つという女中の話を聞き、同じ宿に泊まっていた作家の関口に相談する。同じころ刑事の木場は三体の遺体が急に消えたという過去の事件を洗いなおしていた。探偵の益田は婚約者が行方不明になったという捜索依頼を受けていた。それぞれの事件は日光という土地を鍵にもつれ合っていく。
シリーズ10作目、なんと17年ぶりの続刊。もう読めないのかと思っていましたよ…。せめて前作から経年10年以内に発刊していただきたいものです。これまでのエピソードと登場人物忘れちゃう(そして読み返すにはどの作品も長すぎる)ので…。しかし17年ぶりでもシリーズの趣旨がぶれずきちんと面白く落としてくる所はさすが。しかもテーマが非常に現代的、今ここで起きている問題に重なってくるもので、作家としての感度の良さと作品への仕立ての上手さはやはり職人技的。読みにくいようで読みやすい文章スタイルもこういう感じだったなぁともはや懐かしく感じられた。ページをめくらせる技術が高いので物理的な厚みがあっても意外とさくっと読めるのだ。
本作の事件は一つ一つをよく見るとそんなに凝ったところのない、むしろしょうもないとも言えるものだ。しかしそれが他の事件と接続することで実体以上の何かがあるかのように見えてしまう。そこをもう一度解体していくのが京極堂の憑き物落としということになる。ただ、どちらかというとどの人も自主的に憑き物に憑かれていくので、彼の行いはなかなかきりがない(からシリーズもまだまだ続いてほしいわけですが…)。