ウィリアム・トレヴァー著、宮脇孝雄訳
イングランド・ドーセットの港町ディンマス。復活祭が近づき町の人々は活気づいていた。その一方で少年ティモシーは町の住民たちに自分が見たという「秘密」を話して回る。彼の言葉によって、町の住民たちが隠していた欲望・願望が露わにされていく。
ディンマスは架空の町だが、海沿いの風光明媚な場所らしい。特に豊かというわけではなく、経済的に逼迫している住民もいるものの、生活が立ち行かないというほど貧しいわけではないという経済水準はまあまあ中間層、ごく普通の住宅地という雰囲気だ。住民たちもぱっと見何も変哲がないのだが、ティモシーの言葉が波風を立てていく。彼の言葉は人の心をかき乱し壊していく悪魔的なものに聞こえるが、本人に悪意があるのかないのかよくわからない。彼は自分の「復活祭の祭りでステージに立つ」という希望を叶える為に奔走しているだけにも見える。しかし彼は自分の希望を通すために相手の秘密、弱みと言えるような部分に無遠慮に踏み込んでいる。彼の話は作り話、思い込みといなしてしまってもよさそうなものだが、聞く側が何か心当たりがあると思わされてしまう所が怖い。後ろ暗い所や漠然とした疑いが増幅されていくのだ。おそらくティモシーの言葉は、何も秘密がない人には影響力がないのだ。そういう所がまた悪魔的と言えるのかもしれない。