ロバート・A・ハインライン著、矢野徹訳
地球の植民地として月に流刑囚らが送り込まれてから数世代が経過した世界。月世界行政からコンピューター整備の仕事を請け負う技術者マニーは、自意識を持つコンピュータのマイクとの友情を築く。彼らとかつての恩師ベルナルド・デラ・パス教授、活動家のワイオは政府に対する革命を決意、ひそかに組織のネットワークを広げる。そして2076年7月4日、月世界植民地は地球政府に対し独立を宣言。強大な武器や宇宙船を持たない月世界人が独立を果たす為に奇策を駆使する。1967年ヒューゴー賞受賞作。
私にとっては初ハインライン作品。名作と名高い本作だが、今読むと大分古さを感じる所もある。ただ本作のようなジャンル内古典的作品を読むときは、どこが古びていてどこが古びないかという所を見るのも楽しみ方の一つだと思う。今でいうならマイクはAI。TV画像を自在にアレンジするというのも今なら普通に画像加工でできることなので技術の先取りと言えるのだが、一方で記録媒体は紙だし、通信端末は固定されているし、お金も物理的な貨幣。想像力が先に行っている部分と行かない部分が作家によってまちまちなので、その違いが面白いのだ。ハインラインは社会構造の変化やコンピューターシステムの発展には焦点をあてているが、インフラ面の進化にはあまり興味がなかったのかな。月世界のインフラがどうなっているのかという設定は細かいのだが、「この先どうなるか」という発想に基づくものではないように思った。
月世界で築き上げられている、更に独立宣言後に世界には、アメリカのSFだなぁとしみじみ思った。開拓民精神というか自己責任社会というか、行政への信用のなさが結構強い。政府は最小限であれという思想の世界なんだろうけど、今だったらこういう感じにはならないんじゃないかなという気がする。また月世界の夫婦・家族の組織構造はもろにアリとかハチとかっぽくて、繁殖と資産保持に特化している。ここも今読むと結構きついものがある。