ヴァシーム・カーン著、舩山むつみ訳
ムンバイ警察サハール署署長のチョプラ警部は健康面に不安が生じ、早期退職することになった。しかし退職日の朝、伯父から子象を相続するという珍事が起きる。更に最後の仕事の為に署に出向くと、少年の水死体が発見されたという報告が入る。遺体は検死解剖もされず事故として処理されたという経緯に疑問を持ったギョプラ警部は、警察を退職したにもかかわらず独自に調査を始める。
チョプラの子象に対する扱いが結構雑なので象の飼い方はそれで大丈夫なの?!早く獣医に見せなくては(途中でちゃんと行きます)!と事件以外の部分で心配になった。動物の世話には責任もってくださいよ…。それはさておき、正直なところミステリとしては大味だと思う。チョプラは真面目で有能な元警官という設定だが、捜査の様子を見る限りではそれほど切れ者という印象はなく、むしろ右往左往しつつ地道な聞き込み・情報収集を積み重ね、そこに幸運が加味され何とかなるという感じ。ただ、チョプラの警官としての誠実さや正直さ、公務員として責務を全うしようとする姿勢自体が、残念ながらインド警察の中ではレアな存在だということも描かれていく。本作の面白さはストーリーの流れそのものよりも、それがどういう社会、どういう歴史の中で起きているのかという背景の差し込み方の方にあるように思った。現代インドの決して明るい面ばかりではない世相が垣間見られる。ラストもそういった背景を踏まえ、ほろ苦い。しかしチョプラが正しさ、公正さを諦めない所に後味の良さがある。しかし大事な決断をするときはちゃんと家族に相談して!後々揉めるから!そういう部分の脇が甘いのがチョプラの持ち味なのだろうが、言葉足らずでハラハラさせる。