森山徹著
ダンゴムシを実験対象として、T字迷路、行き止まり実験、水包囲実験など、様々な方法でダンゴムシを未知の状況に遭遇させ、彼らがどのような行動をとるのか観察し続けてきた著者。ダンゴムシの行動を通して生物の「心」とは何かを考える。
本著でいう「心」とはいわゆるエモーショナルな要素、喜怒哀楽を指すものではない。特定の行動を滑らかに発現させるよう、それ以外の余計な行動の発現を抑制する機能のことを指す。つまり通常は隠された、目視できない行動部位ということになる。これを目視する=観察する為にどうするか、というそもそもの部分から本著は解説しており、これがとても面白かった。行動の抑制が外れた時の余計な行動に「心」の存在を見て取ることができると言えるので、「余計な行動」がどのように発生するのか推論し実験を組み立てていく。実験とは「待つ」こと、実験対象とひたすら向き合うことだという、時間がかかる科学の醍醐味がじわじわ伝わってくる。則実用、則効果を求める昨今の学問(と言えるとして)の在り方は間違っているだろう。
それにしても、読んでいると段々ダンゴムシに対する親しみと愛着がわいてくるところがすごい。これは著者のダンゴムシと真摯に向き合う姿勢に感化されているということなのだろうが、観察というのはそもそもそういうことなのだろう。著者の冒頓さがちらりと見える真摯な語り口も魅力。