ルーシー・ウッド著、木下淳子訳
アイリスは海で姿を消した夫と48年ぶりに再会する為、旧式の潜水鐘に乗って海へ潜る(「潜水鐘に乗って」)。人が石化しまた元に戻る現象。リタは何度か経験したそれがまた自分に起きていると気付く(「石の乙女たち」)。久しぶりに会った母親に寄り添う存在とは(「緑のこびと」)。英国コーンウォールの妖精、巨人、精霊等の伝説を背景にした短篇集。
年の瀬に良いものを読んだなとしみじみ豊かな気持ちになった。ただ、この豊かさは幸福や楽しさとは必ずしもイコールではなく、決して冷たくはないが寂寥感のある、時に物悲しさを感じさせるものでもある。表題作の主人公であるアイリスは夫を深く愛していたが、若くして夫は姿を消した。再会といっても2人の間は何十年もの時間で隔てられているのだ。また石になりつつあるリタは残り時間がないにも関わらず、そこからはもう何かは生まれないと感じつつ元恋人の為に時間を割いてしまう。母親を訪問する「あなた」は、自分の知らない母親の姿を見て居場所のなさを感じていく。自分が世界と切り離されたような寂しさ心もとなさや、もう取り戻せないものへの憧憬、目の前にいる人とのずれのもどかしさが感じられる作品が目立つ。そして、そういった寂しさやずれを受け入れて生きていく姿勢が感じられるのだ。個人的には「願いがかなう木」の母と娘の姿が痛切に心に刺さった。いずれこういう時が来ると。