佐藤亜紀著
ナチス政権下のドイツ、ハンブルグ。15歳の少年エディはピアノが得意な友人のマックスや上級生のデュークと共にスウィングに熱狂していた。しかしスウィングは敵性音楽。ゲシュタポの手入れを逃れつつクラブで踊り狂うが、戦況は悪化し不穏な影が濃くなっていく。
評判通りとても面白く、若者たちの言葉遣いの崩し方の演出が上手い。エディの父親は軍需会社の経営者でアメリカやイギリスの文化にも造詣が深い洒落もの。しかし「党員」でもある。金持ちのボンボンで悪知恵の回るエディは立ち回りが上手く、もしかしたらナチスに全面的に肩入れしてさらに成り上がっていく道もあっただろう。しかしジャズとそれが象徴する自由に対する愛が、エディらをその道には進ませない。倫理観や正義感ではなく、音楽とバカ騒ぎへの欲望によって道を切り開いていく所が、ちょっとピカレスクロマンの主人公ぽくもあるし、「立派でなさ」が魅力でもある(身近にいたら絶対好きになれなさそうだけど)。ナチスの裏をかき海賊版レコードを売りさばいていく彼らの暗躍は痛快だが、戦況が悪化するにつれ文字通り死に物狂いになっていく。空襲の描写が生々しく清算だが、エディの語り口は依然として人を食った感じで諧謔混じりなところに逆に凄みがあった。