土門蘭著
常に死にたい気持ちがあり、発作的にその気持ちが強くなるという症状に10歳の頃から苦しんできた著者。20年以上続くその状態を何とかしたい、自分はなぜ死にたいと思うのかわかりたいと思ってきた著者は、オンラインカウンセリングを受けることを決意する。著者とカウンセラーの2年間にわたる対話を綴る。
まず、著者は相性のいい誠実なカウンセラーと出会えて本当によかったと思う。医療行為の一環とは言え、やはり人と人とが相対する行為である以上、相性の良しあし(それぞれの責任ではないのだが)はどうしても生まれる。カウンセリングを受けてみないとそのカウンセラーと合うかどうかわからないというのは、カウンセリングという行為のハードルの高さの一つではないか。本作、かみ合ったカウンセリングはこのように進み、このように気付きが導き出されていく、このようにクロージングするという良い事例(あくまで一事例で、人によって形は違うと思うが)になっていてとても面白かった。カウンセラーの能力もあるのだろうが、著者が数十年間自分についてずっと考えていたことの積み重ねが、カウンセリングによってアウトプットされた、自覚に結びついたという側面も大きいと思う。著者の課題設定・問題解決意識の高さは著者を苦しめることもあるが、カウンセリングでの気づきを促しやすくもしているのでは。
過去や他者が「お守り」だという言葉が出てくるが、この他者とは実際に関わった人たちだけではなく、映画や小説の中で出会った人達、また自分とは全く接点がない人たちでもなり得るだろう。著者が若いころ、太宰治や芥川龍之介の作品を読んで落ち着いたというのはそういうことなのだ。自分と実際に会う可能性が全くない人が自分のお守りになる、自分の救いになるというのが読書(映画鑑賞)体験の得難い所だと思う。
なお、著者のお子さんが母親である著者をずっと気遣っているのだが、この子大丈夫かな、このまま親のケア要員になってしまわないかなとハラハラしっぱなしだった。終盤を読んだところどうやら大丈夫そうなのでほっとしました。