ハーラン・コーベン著、田口俊樹/北綾子訳
幼い頃にたった一人で森の中で育ったワイルドは、DNA鑑定サイトを利用して血縁者を探していた所、弁護士ヘクターの協力を得て父親と思われる人物に行きあたる。しかし母親が誰なのか、なぜ自分が森に捨てられたのかはわからないままだった。そんな折、母方の血縁者らしき人物から鑑定サイトを介して連絡が入る。彼はリアリティショーのスターだったが大炎上し、姿を消していたのだ。
『森から来た少年』に引き続いての調査員ワイルドシリーズ2作目。今回はイルドが自分の生い立ちの謎に向き合う、早くもシリーズの一つの節目とも言えそうな物語。それと並行して、亡き親友の妻であるレイラとの関係にも向き合わなければならない。ワイルドは冷静で思慮深い人物だが、こと自分の個人的な問題と向き合うことについては後回しにしがち。レイラとの関係は前作の時点で既にはっきりしろよ!と言いたくなったが、今回はレイラの息子にぐさりと正論を言われる。血縁者探しをきっかけにワイルドの人生が良くも悪くも大きく動き出すのだ。更にへスターとオーレンのカップルにも大きな岐路が訪れるが、これに対するへスターのスタンスは年齢を重ねた人ならではだと思う。
近年のコーベン作品は現代ならではのトラブルや犯罪、そして私刑とはどういうことかを描くことに注力しているように思う。本作ではネット上の自警団が登場する。序盤はこれがワイルドとどう関わるの?と思っていたが、なるほどそうきたか!と唸らせる所はさすが。ある一人称パートの仕込みというかかわし方というかも、ベテランの手慣れた手つきを感じる。DNA鑑定サイトの気軽さや、リアリティーショーの過熱加減には日本との文化の違いを感じた(日本でもリアリティーショーが引き起こした悲劇はあったが、アメリカは規模が違う感じ)。本作の仕掛けはDNA鑑定がポピュラーな世界でないと成立しないだろう。