3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『罪人のカルマ』

カリン・スローター著、田辺千幸訳
 若い女性の失踪事件が発生した。特別捜査官ウィル・トレントは捜査から外される。40年以上前に凶悪な連続殺人事件を起こし終身刑になったウィルの実の父親が仮釈放されたのだ。やがて発見された女性の遺体には凄惨な傷跡があった。その手口はウィルの父親のものと酷似していた。
1975年の娼婦連続失踪事件と、現代の連続失踪事件、2つの事件を交互に追っていく構成。そして75年の事件が現在にどのように繋がっているのか、彼/彼女が何者なのか、今に至るまで何を抱えてきたのかわかった瞬間、戦慄する。シリーズのクライマックスとしてとても上手い。そして次作への(少々強引かつしつこい)引きも。ウィルとアンジーの関係にはそろそろ決着をつけないとならないのではと思うのだが・・・。サラがちゃんと独立した、かつ思いやりのある大人なのでなおさらそう思う。
 現代のパートももちろんスリリング出面白いのだが、1975年パートでの若きアマンダとイヴリンの活躍には胸が熱くなる。まだ女性警官はおろか、女性が社会で活躍することが白眼視されていた時代だ。2人に対する同僚からの妨害はあまりに理不尽で腹立たしい。更にアマンダの父親の設定は結構ショッキングだ。彼女らが被害者女性達の無念を晴らそうとするのは、女性に対するいわれのない差別や憎しみと戦う、人間としての尊厳を取り戻そうとすることでもある。彼女が元々どういう性格、振る舞いの人だったのか、何が彼女を現在の人格に作り替えたのか、これまでの彼女の立ち居振る舞いを思い返すと感慨深いものがある。自分の意志で強くなった人なのだ。

罪人のカルマ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-06-16






血のペナルティ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-12-16

『ザ・プロフェッサー』

ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳
 トム・マクマートリーは、元フットボールの全米王者で、弁護士として活躍した後、母校アラバマ大学で法学教授に就任していた。しかし学生との暴力沙汰、恋愛沙汰の汚名を着せられ退任を余儀なくされる。妻は既に亡くなり、更に自身も癌に冒されていることが発覚。生きる気力を無くしていたところ、昔の恋人から相談を受ける。娘一家をトレーラーとの交通事故で亡くしたが事故の真相が知りたいというのだ。元教え子の若手弁護士リックに橋渡しをするが、事故の裏には企業の陰謀が潜んでいた。
 利益ばかりを追及する企業にすりつぶされた人たちの無念を晴らす為、まだ若くて先走り気味なリックが奔走する様は、危なっかしいが清々しい。トムとリックの間にはある因縁があるのだが、わだかまりが溶けるの早すぎない?という気が・・・。真実と正義を求めて若者と老人が奔走する様は清々しいし、悪者は潔く悪者だし、追い詰められて腹をくくり逆襲する人たちの行動にカタルシスはあるのだが、なんとなくもやもやが残る。このもやもや、主にトムの序盤での振る舞いによるものだ。自分の講義で学生たちの姿勢を試すのだが、そのやり方がちょっとモラハラっぽい。不真面目な学生に注意するのは当然のことだろうが、相手の人格を貶めるようなやり方に思えた。また教え子の女性に対する対応も、教員として大分脇が甘いのでは。スキャンダルをでっち上げられるのは気の毒だけど、距離を詰めすぎな面はあったと思うんだよね・・・。師事したコーチに対するトムの尊敬や忠実さも、トムに対するかつての教え子たちの死簿や団結心も、ちらっと見える程度なのだが、マッチョ感漂い若干気持ち悪い。アメリカ南部のノリってこういう感じなんだろうか・・・。何より、法廷での闘いは正義や人権の為である以上に、トムにとってはゲームとしての側面が強いのではないかと思わずにいられなかった。敵とやりあうのが本当に好きな人なんだなと。


ザ・プロフェッサー (小学館文庫)
ロバート ベイリー
小学館
2019-03-06





もう年はとれない (創元推理文庫)

ダニエル・フリードマン
東京創元社
2014-08-21

『サイレント(上、下)』

カリン・スローター著、田辺千幸訳
 田舎の大学町の湖で、若い女性の死体が発見された。ナイフで刑事を刺して逃げた若者が逮捕され、犯行を自供したものの、拘留中に両手首を刺して自殺。壁には無実を訴えるメッセージが残されていた。地元警察の不手際により招集されたジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレントは、若者の自供に疑問を持ち、対処した警官たちは嘘をついているのではと疑い始める。
ウィル・トレントシリーズとしては『ハンティング』から続く作品なので、ウィルと医師サラ・リントンとの関係はまだ何とも言えない段階のもの。この後の作品を読んでいる読者からすると、ここからよくステップアップしたなというぎこちなさを感じる。本作の舞台はサラの実家がある町で、彼女の亡き夫ジェフリーの死を引き起こした(とサラが考えている)警官レナ・アダムズが今でも勤務している。サラは概ね冷静で有能なのだが、ジェフリーの思い出、そしてレナが絡むと途端に感情的になり取り乱す。彼女の傷の深さがわかるが、この先も読んでいるものからすると、そろそろこのネタ切り上げませんかという気も・・・。このシリーズ、基本的にネタの引っ張りがくどいな・・・。
シリーズの他作品に比べると、事件の真相はかなりすっきりしない。残虐度は比較的低いのだが、人間が保身のためにやってしまうこと、それがどんどん事態をこじられせていく様のスケールのしょぼさが逆にしんどい。

サイレント 上 (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-06-17






サイレント 下 (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-06-17

 
 

『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』

ブルボン小林著
 小学館漫画賞の選考委員や手塚治虫文化賞選考委員も務めた著者による、週刊文春への連載5年分をまとめた漫画評論集。連載終了と共に、シリーズ作から版元を変えて刊行された。
 相変わらず装丁がいい。ちゃんと漫画にからめてあり、かつポップで趣味が良い。著者はもちろん漫画に造詣が深く、幅広い作品を読みこなせるわけだが、いわゆる「通」ぶらないところがいい。堅すぎず柔らかすぎず、安易すぎずマニアックすぎずという、漫画評論が見落としがちな中庸なエリアの作品をカバーしようという意欲が感じられた。いかにも漫画通が好みそうな作品も多いが、漫画通が見落としそうな作品に対する評の方が俄然面白い。評論したくなる作品と、読者にとって面白い作品とはちょっと違う。もうちょっと広く読まれてもいいはずなのに諸々の事情で知名度が低い作品がに対する、著者の嗅覚は信頼できると思う。『オーイ!とんぼ』(作・かわさき健、画・古川優)どんどん面白そうに見えてくるんだけど・・・。こういう作品を見落とさない所が、漫画家からも支持される所以では。




『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』

エイドリアン・マキンティ著、武藤陽生訳
 フォークランド紛争の余波で、さらなる治安の悪化が懸念される北アイルランド。スーツケース入った切断された死体が発見される。捜査を開始したショーン警部補は、スーツケースの持ち主だった軍人も何者かに殺害されたことを突き止める。当時の捜査ではテロの犠牲になったと考えられていたが、ショーンは現場の状況に不自然さを感じる。
 『コールド・コールド・グラウンド』に続くシリーズ第二弾。最初に派手な死体が登場、手掛かりも人員も時間も乏しいなか中盤すぎるまでショーンたち捜査陣が右往左往し、後半急展開するというパターンは著者の手くせなのか。面白いけど、あまり細部まで詰めて書くタイプの作家じゃない気がする(笑)。今回とうとうショーンは独断でアメリカでの捜査に踏み切るが、彼の責任感や正義感を屁とも思わない強固な背景が立ち現れる。この歯牙にもかけられない感じ、大国にとってのアイルランドの存在とダブるようで、ショーンの悔しさと諦めが苦い。またテロが常態化している地域で警官を続けることのプレッシャーと無力感も前作よりもより強くにじみ、ある悲劇が辛い。原因はそれだけではないだろうにしろ、もう耐えられなくなっちゃうんだろうな・・・。なお今回も時代背景を色濃く感じさせる音楽や映画等サブカルチャー情報の入れ方が楽しい。ショーンの音楽や読書の趣味がよくわかる。ショーン、前作でも披露されていたけど文学の素養が相当ある人だよね。カソリックだということを差し引いても警察内では異色なんだろうな。

『三人目のわたし』

ティナ・セスキス著、青木千鶴訳
 エミリーはある日、家族の前から姿を消した。愛する夫ベンと可愛がっているチャーリー、両親、そして双子の妹キャロラインを捨て、名前も変え、別人として新生活を始めたが、過去の出来事は彼女を苛み続ける。
 ミステリとしての巧みさというよりも、エミリーの語りは主観による断片的なものなので、とにかく彼女に何が起きたのか知りたいという好奇心によって先が読みたくなる。とは言え彼女に起きた悲劇の内容は割と早い段階で何となくわかってしまうし、多分ここで語りによるミスリードをしたいんだろうな、という部分もわかってしまう。触れ込み程には「衝撃」はない。とは言え飽きさせない作品ではある。そして飲酒とドラッグには本当に気を付けないと・・・特にエミリーのように決して強いわけではない人は。

三人目のわたし (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ティナ セスキス
早川書房
2017-01-24


シンデレラの罠【新訳版】 (創元推理文庫)
セバスチャン・ジャプリゾ
東京創元社
2012-02-29







『三連の殺意』

カリン・スローター著、多田桃子訳
 団地の階段で売春婦の他殺死体が発見された。被害者の体は残忍に痛めつけられ、舌を噛み切られていた。アトランタ警察の刑事マイケルは事件の担当になるが、ジョージア州捜査局から特別捜査官のトレントが派遣されてくる。トレントは警官としては風変りだが、捜査官としては切れ者らしい。トレントは過去にも3件、同じように舌を切り取られる暴行事件があったことを突き止めていた。
 ウィル・トレントシリーズ1作目とのことで、主人公はマイケルではなくトレント。マイケル、トレントそして他にも複数名の視点でストーリーが進行するが、途中であっと驚いた。そうくるのか!この仕掛け以降、一気に緊迫感が増し、本作の主軸がどこにあるのかはっきりしてくる。真犯人のクソさ、そいつがどのような類のクソであるのかも際立ってくるのだ。スリリングで面白いのだが、ちょっと盛りがよすぎて逆に途中で飽きてきてしまう。事件そのものもボリューム感があるのだが、個々のキャラクターの設定を盛りすぎ。シリーズものとは言え、この段階でそんなに盛らなくてもいいのよ・・・もうちょっとストイックにいこうか・・・。

三連の殺意 (マグノリアブックス)
カリン・スローター
オークラ出版
2016-02-25


血のペナルティ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-12-16



『坂を見あげて』

堀江敏幸著
 身近な出来事から時に文学、時に花、また自然科学に言及する随筆集。思考の飛距離の長さ、知識と知識の結びつきの幅広に毎回唸るし憧れる。またそれを直接的な書き方ではなく、中心を迂回し続けるような、一見して趣旨がわかりにくい(というか趣旨を定めないような)書き方なところに著者の芸風のぶれなさを感じる。「養蚕と書道教室」で描かれたある事態は、その迂回する芸風故に生じたものだろう。当事者には運が悪かった、お気の毒ですとしか言いようがないんだが・・・。そういう目的に向いた文章ではないですよね・・・。著者の文章ではなく引用部分で非常にインパクトがあったのは「恋の芽ばえる場所」で言及された白洲正子の青山二郎を表する文。平静なようでいて容赦がない。この文章だけでも白洲のすごさがよくわかる。著者の文章はその凄さを端的に提示しているのだ。

坂を見あげて (単行本)
堀江 敏幸
中央公論新社
2018-02-07






雪沼とその周辺 (新潮文庫)
堀江 敏幸
新潮社
2007-07-30


『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』

ジェームズ・R・チャイルズ著、高橋健次訳
 原子力発電所、スペースシャトル、ジャンボ機、爆薬工場、化学プラント等、科学技術の進歩と共により複雑・高エネルギーになったシステム。人員はより少なくて済むように設計されているものの、ひとたび事故が起これば被害は甚大なものになる。50あまりの事例を事故原因の性質別に章建てし、なぜ巨大な事故が起きたのか、その時制御に関わった人々に何が出来て何ができなかったのかに迫っていく。
 「信じがたいほどの不具合の連鎖」「「早くしろ」という圧力に屈する」「テストなしで本番にのぞむ」等、各章タイトルがパワーワードの連打。歴史的にかなり長いスパンで多数の事故をピックアップしているので、話題があっちにいったりこっちにいったりとせわしなく、どの事故をどの章に収録するかという分類もかなり曖昧に思える。また、文章が饒舌かつちょっと気取っていて胃もたれしそうな部分も。それでも大変面白かった。事故の形は様々だが、どのようにして生じるのかという点は、似通ったものがある。人間は学ぶ生き物だけど、何度やっても学ばない部分もあるのね・・・失敗体験こそ次世代に残すべき。本著、もうすこし書かれるのが遅かったら、福島第一原発の事故も間違いなく収録されたろうなぁ・・・。大事故の要因として、システムの巨大化に伴い全体を把握できるスタッフがいなくなったこと、人員削減に伴う尽力不足、短納期プレッシャーに伴うチェック不足の3点が一番印象に残った。特に、コストカットは往々にしてリスク増大に直結してくるという点、万事に通ずるものがあると思う。



バーニング・オーシャン [Blu-ray]
マーク・ウォールバーグ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-09-06

『最初の刑事 ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件』

ケイト・サマースケイル著、日暮雅通訳 
 1860年、イギリスのカントリーハウスで3歳の男児が惨殺死体となって発見されるという事件が起きた。屋敷の中には両親、兄姉ら、そして使用人たちがいた。多数の容疑者がいる中、当時創設まもなかったスコットランド・ヤードのウィッチャー警部の捜査は難航を極める。そして新聞や雑誌はあることないことを書きたてて大衆の好奇心を煽っていった。
 実際に起きた事件を当時の報道や裁判資料等により再構築したノンフィクション。とはいえ1860年の話なので、読んでいる方の感覚としては小説に近い。当時の警察の捜査方法はまだ手探りなので、ああー初動捜査がもっとうまくかみ合っていれば・・・ともどかしくなる。ウィッチャーは当時のヤードの中でも有能な警部だったそうだが、色々なものが上手くかみ合わない。地元の警察のやっかみにも足を引っ張られるし、被害者家族の非協力的な態度も足かせになる。警察の権限がまだ少ない世界だったことがわかる。当時のマスコミと世間の過熱も興味深い。過熱するのは現代と同じではあるが、事件のディティールを勝手に作ってしまいどんどんフィクション化していく。当時は家庭内なプライベートな領域、外からの目にさらしてはならないものという意識が非常に強くなっていたそうだが、その一方で他人の家庭で起きた事件に興味しんしんで家庭の事情を探りだしさらしものにしたいという欲求が増大していたという、うらはらさがとても面白い。ゴシップ好きにしてもいきすぎでなんでこんなに加熱したのかと思うくらい。容疑者の絞れなさ、まさかの自白等事実は小説より奇なりとは本当なんだなと。ただ、ノンフィクションである本作を読むと、人がなぜ殺人事件を扱うミステリ小説をこのんで読むのかわかってくる気がする。不条理な出来事にもかならず合理的な解決があると信じたくなるんだよな。




刑事たちの三日間 上 (創元推理文庫)
アレックス・グレシアン
東京創元社
2013-07-27
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