3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『コードネーム・ヴェリティ』

エリザベス・ウェイン著、吉澤康子訳
 第二次大戦中のフランスで、イギリス特殊作戦執行部員の女性がナチスの捕虜になった。彼女は痛めつけられ、イギリス軍の機密を教えれば尋問を止めると親衛隊大尉に強要される。彼女が綴る内容は、親友の女性飛行士マディを主人公とした小説のようなものだった。彼女はなぜこのような書き方をしたのか?
 二部構成になった作品で、前半は捕虜となった女性の手記、後半は手記の書き手ではない、また別のある女性の闘いが描かれる。前半の手記が何だったのかということが、終盤で明らかになっていき、書き手であった女性のなけなしの勇気と知恵にぐっとくるのだ。彼女が手記で何を伝えようとしたかというミステリ要素はもちろんあるのだが、本作全体としてみると、正直そこにはあまり感銘を受けない(読む際にもそれほど重視する必要はなく、出し方も取って付けたような感じではある)。むしろ、彼女がこの手記の読み手として誰を想定していたのか、どんな気持ちを込めたのかという部分に心をうたれる。彼女は冒頭に「私は臆病者だ」と記す。確かに、彼女たちは聡明ではあるが戦場の残酷さに耐え抜けるほど強くはない。物理的な暴力に対しては無力だし、尋問・脅迫にも屈してしまうだろう。自分でもそれはよくわかっており、「怖い物リスト」の内容が戦況が悪化するにつれ変化していくのは痛ましい。しかしそれでもなお、彼女たちを踏み留まらせるものがある。「キスしてくれ、ハーディ」という言葉に込められたもの、それを受け取る者の姿にぐっときた。愛と友情という言葉はこういう時に使うのか。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)
エリザベス・ウェイン
東京創元社
2017-03-18


スカートの翼ひろげて [DVD]
キャサリン・マコーマック
アミューズ・ビデオ
2000-02-04



『ゴーストマン 時限紙幣』

ロジャー・ホッブス著、田口俊樹訳
誰の記憶にも残らず、犯罪の痕跡を消し去る「ゴーストマン」と呼ばれる“私”。犯罪組織のトップから、2人の男が銀行強盗で手に入れた120万円の紙幣を手に入れろという依頼を受ける。紙幣は48時間後に「爆発」し、痕跡は消せなくなると言うのだ。
現在進行中の現金強奪事件と、“私”が依頼を断れない原因となった過去の銀行強盗事件、2つの犯罪が平行して描かれる。“私”がどういう人間かということよりも、仕事の手順、犯罪者としての思考方法やメンタリティという、どういう「犯罪者」であるかということに重点が置かれており、文字通りの犯罪小説。そもそも“私”がゴーストマンという仕事の都合上、人間としての自分の個性には重きを置いていない、むしろ(元々あまり個性の強い人ではないらしいが)排除していくものと考えている所が、主人公としてはユニークだ。それでも、プロの犯罪者としての振る舞いの隙間から、“私”個人が元々持ち合わせている価値観や資質が見え隠れする。そのバランスがいい。完璧な「犯罪者」だと、ここまで面白みは出なかったのではないか。様々な思惑がからむ事件の真相も気になり、一気に読まされた。

『これからお祈りにいきます』

津村記久子著
 人型の巨大なハリボテに、これだけは取られたくないもの(大抵体の一部)を模した物をそれぞれが入れるという、奇祭のある町で育ったシゲル。祭りをうとましく思いながらも祭りを主催する自治体でのアルバイトに励んでいる。弟はひきこもり、父は不倫中で家庭も憂鬱だ。幼馴染の同級生の少女も家庭の事情でアルバイトに励んでおり、シゲルは彼女のことがどこか気になっていた(「サイガイサマのウィッカーマン」)。他、「バイアブランカの地層と少女」の2編を収録。
 シゲルの住む町で昔からまつられている神様「サイガイサマ」は足りない神様だという。何かと引き換えにしか願いを叶えられない、その叶え方も中途半端だという、力不足の「足りなさ」なのだ。シゲルは自由研究としてサイガイサマの由来や特性を調べたことがあり、その知識が所々で披露されている。土着の信仰が変容していく様が垣間見えて面白いのだが、由来を知ってしまったからなおさら、シゲルにとってサイガイサマは胡散臭い神様になっている。そんな胡散臭いものが暮らしの中心にある地域の、はたから見たら奇妙だけどその中にいるとそれが普通、という感覚のとらえ方が上手い。シゲルは、自分の地元に対する視線がちょっとひいたものになっているので、その奇妙さが嫌なんだろうなぁ。とは言え、足りなくても、胡散臭くても、神様はやはり神様で、そこにいないと困るのかもしれない。土壇場で祈る対象があることに救われることもある。「バイアブランカの地層と少女」でも、やはり主人公は土壇場で祈ってしまう。どちらも自分の為の祈りではない。誰かの為にこそ、必死で祈りたくなるのかもしれない。どちらの主人公も、そのくらい優しい人たちということかもしれないが。

『コンビニ人間』

村田沙耶香著
36歳未婚の古倉恵子は、大学生の頃からコンビニでバイトを始め、就職活動もせずずっと同じ店でのバイトを続けてはや18年目。次々に入れ替わる店長とアルバイトを見送りつつ、店員という仕事に勤しみコンビニの商品を食べ続け、生活の殆どがコンビニによって成り立っていた。ある日、新人バイトとして白羽という男性が入ってくるが、彼は婚活の為にコンビニに来たのだという。
第155回芥川賞を受賞したことで一気に売れた作品だそうだが、これは(著者がというより編集者の指導な気がするけど)賞狙えるしこれなら狙いたくなるわ!と納得。文章はかなり読みやすくしてあるし、分量も短め。すっと読み切れるのに後を引く。とっつきやすさと引っかかりとが理想的なバランス。古倉は作中では「変わった人」「ヤバい」扱いだし、世間一般でもおそらくそうなのだろう。彼女はいわゆる人並みな振舞が出来ない。強固なマニュアルがあるコンビニならば、自分を人並みという枠にはめて、人並みであるかのように振舞うことができる。しかし、これはそんなに変わったことではなく、多くの人はわざわざそれを意識しないというだけだろう。そして彼女の「変」と言われる部分は、具体的な根拠があるものではなく、世間の多数派がそう言っているからというだけのことだ。むしろ無意識に枠に合わせてしまう人たちの方が不自然なんじゃないのかという気もする。古倉の行動原理はある意味非常に合理的であるようにも見える。妹の子供の顔を見に行った際のシチュエーションが、彼女の考え方を端的に、しかも直截ではなくあらわしていて上手い。さりげないけどすごい異物感。 でも理論的は理論的なのだ。

『その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域を行く』

森川すいめい著
 人口に対して自殺者の比率が他地域よりも顕著に低い、「自殺希少地域」と称される地域がある。ホームレス支援や東日本大震災被災者支援を行ってきた著者が、自殺希少地域を訪ね、生き心地のいい社会とは何か考察する。
 データを収拾・検証する研究書というよりも、その研究を行う過程での体験記のようなもので、軽く読める。自殺者が少ない地域というと、土地柄が温かく皆穏やかで住みやすいんだろうなぁ等というイメージを持ちがちだろうし、著者も当初はそう思っていたそうだ。しかし、実際に自殺希少地域である町村を訪ねてみると、一見、さしてて「住みやすそう」という感じではない。住民は概ね親切だが、狭い土地故の噂や中傷も普通にあるし、この土地が嫌いでしょうがなくて出て行ったという人の話も聞かれる。精神科にかかっている患者の人口比も、他地域とさほど変わらない。メンタルを病んでいる人は一定数いるのだ。重要なのは、それでも自殺までは至らない、苦しくてもそこまでは追いつめられないという点だろう。著者は自殺者が人口に対して少ない要因として、地域内の人付き合いの頻度は高いが密度は低い、という点をまず挙げる。どの地域もいわゆる田舎なので、地域住民はほぼ顔見知りだし、地方によっては勝手によその家に入ることにもあるくらいだが、付き合い自体は意外と濃くない。ただし付き合い自体は途切れずにあるので、調子が悪そうな人がいればすぐにわかり、自殺防止にもなる。同時に、同調圧力はそれほど高くなさそうなのだ。コミュニケーションの距離感に独特な癖みたいなものがあって、面白い。これはよそから来た人には不思議な感じがするだろうなぁ(逆に、この地域の人が他の地方に行ったらカルチャーショックを受けるのかもしれないが)。
 とても親切にしてくれる人も多いのだが、基本、よそはよそ、うちはうちみたいな感じ。人づき合いを嫌う人がいても、それはそれとして、という感じの捉え方にようだ。意外と個々の我が強い傾向があり、協調はするが過度な同化ではないので、その部分での精神的摩耗が比較的軽いのかも。複数の異なる人間が暮らしている以上ユートピアはありえない。しかし少しでも気楽に生きられる社会になれば、というヒントが得られるかもしれない。

『黒警』

月村了衛著
警視庁組織犯罪対策部の沢渡は、仕事についてはことなかれ主義だが、割り振られた仕事が偽造キャラクター商品の取り締まりとあって更にやる気をなくしていた。暴力団・滝本組幹部の波多野とは、お互い1人の中国人女性を見殺しにしたという因縁で奇妙な付き合いが続いている。ある日2人の元に、中国黒社会の新興勢力「義水盟」の沈が現れ、大組織・天老会の機密を握り、組織に追われている女性・サリカを匿ってほしいと依頼される。沢渡は組織内のしがらみや悪習に逆らう気はなく、毎日の仕事をやりすごしているが、それで平気というわけではない。一方、波多野は有能な出世頭であり人間的な魅力もあるが、ヤクザの世界の非情さに染まりきれない人情味がある。冴えない沢渡と情熱的な波多野は対称的だが、どちらも自分が身を置く世界がこれでいいとは思っていない、本当は正しいことがしたいのだ。そんな2人のバディものかと思ったら、途中であっと言わされた。えー思い切りいいな!しかし、やはりバディものはバディものではないかと思う。自分を取り巻くものに巻かれつつも、どこかで抗い続ける熾火のようなものが彼らを結び付けている。屈折しながらも、腐りきらない(と決めた)沢渡の活躍はまた読んでみたい。シリーズ化しないかな。

『ことり』

小川洋子著
「ことりの小父さん」と呼ばれる男には、人間の言葉は話せないが小鳥のさえずりを理解する兄がいた。兄の行動範囲は限られており、2人は小さな世界でひっそりと生きていたが、静かで満ち足りたものだった。やがて兄はなくなり、「ことりの小父さん」は幼稚園の鳥小屋の掃除を日課にするようになる。世界の片隅でつつましく生きる兄弟の一生を美しく描いている。自分に必要なものをわきまえ、多くを求めない。しかし同時に、どこか物悲しくさみしくも見える。彼らの生活がさびしいからではなく、世間が彼らの価値観を理解しないから、誤解されやすいからだ。世界に彼らのような人たちが安住できる場所は、だんだん小さくなってきているようにも思える。著者の描き方が優しいだけに、より辛くなる。なお、小野正嗣による文庫版解説が良い。

『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』

カミラ・レックバリ著、原邦史朗訳
別荘として使われていた海辺の古い家で、女性の全裸死体が発見された。作家のエリカは遺体が発見された所に居合わせ、警察に通報する羽目になるが、死んでいたのは子供時代の親友アレクスだったことにショックを受ける。ある時期から急にエリカと距離をおくようになったアレクスに、いったい何があったのか。幼馴染の警察官パトリックと共にアレクスに何が起きたのか調べ始める。スウェーデンの人気シリーズらしいが、確かに面白い。ミステリ部分と共に、エリカとパトリックのロマンス(少なくとも本作では)にも人気があるのでは。そこそこ年齢を重ねた男女なので、お互いに「腹の肉が・・・」と悩んでいたりするあたりには笑ってしまった。殺人事件の謎そのものというよりも、アレクスという女性に起こったこと、関係者に、そして犯人に起こったことの痛ましさがやりきれない。特に犯人に関しては、最早殺人を犯す意味がなかったのでは、本当にやるべきことはもっと早くに、違った形であったのでは、というところが苦い。犯人(だけではない)がこういった選択をしてしまったのは、慣習や昔ながらの倫理観や世間の目によるところが大きい。世代間の価値観の相違のぶつかりが事件の裏モチーフになっていたように思う。また、本筋ではないがエリカと妹と母親との関係や、エリカの妹夫婦の関係など、家庭内の問題を割と丁寧に描いていると思う。多分、今後のシリーズでも絡んでくるんだろうなぁ。

『恋と夏』

ウィリアム・トレヴァー著、谷垣暁美訳
アイルランドの田舎町ラスモイ。郊外に住む農夫ディラハンの妻エリーは、青年フロリアンと出会い恋に落ちる。孤児だったエリーは孤児院を出た後にディラハンの農場で働き始め、やがて前妻と子を亡くしたディラハンと結婚したのだ。一方、宿屋の主人ミス・コナルティーは、エリーとフロリアンの姿を見かけ、エリーがフロリアンに遊ばれるのではと危惧する。その弟ジョゼフ・ポールは、姉の思いこみにうんざりしていた。ある田舎町のひと夏の情景を、エリーのおそらく初めての恋を中心に描く。起こる出来事はまあ月並みなのだが、情景の描写がとても瑞々しく、夏の草木の匂いがふわっと漂ってくる感じ。読んでいて嬉しくなる文章ってこういうのだよなぁ。物語の中心にあるのはエリーの恋だが、徐々にミス・コルナルティーの過去の愛の破局や、フロリアンの従妹への淡い思い、ディラハンの亡き妻子への思いが時間を超えて重なり、ハーモニーのように絡み合う。滓のように思いの残像がずっと漂っているようだ。エリーの恋も、やがてその滓のひとつになっていく予感を感じさせる。

『古書ミステリークラブⅢ』

ミステリー文学資料館編
 古書が登場するミステリ小説を収録したアンソロジーの第3弾。このシリーズは初めて手にした。目当ては小沼丹「バルセロナの書盗」(と随筆「大泥棒だったヴィクトリア女王の伯父」)。1840年のスペインを舞台にした時代小説だが、古書の魔力にとりつかれた人たちの悲喜劇が、どこかとぼけた味わい、しかしクールな突き放した視線で描かれる。書痴とはこういうことか、という納得のさせかた。そしてこれとは古書の存在の仕方がまたちょっと違う〔古書のロマンとは別物な)法月綸太郎「緑の扉は危険」は、オーソドックスなトリック重視の本格ミステリ。これは他所で読んだことがあったが、典月先生は軽いノリの短編だとなんとなく無理している感が出る気がする(笑)。意外なところでは、五木寛之「悪い夏 悪い旅」が低体温な青春もので(時代を感じさせるところも含め)悪くない。

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