小山さんノートワークショップ編
「小山さん」と呼ばれていた女性がいた。彼女は都内の公園でテント暮らしをしており、体調を崩して亡くなった。遺品の中には80冊を超えるノートが残されていた。小山さんが書き残した文章を8年かけて文字起こしし、抜粋・編集した日々の記録。
1991年から2004年にかけての小山さんの文章を、いくつかの時期にわけて抜粋・編集したものだが、それだけでも相当な量になる。残された文章全体はこの数倍になるし、小山さんの書く文字はかなり独特で読み取りにくい。書き起こしは大変だったと思う。それでももっと読んでみたくなる、読んだら何かが心にひっかかっていく力が小山さんのノートにはある。ノートにはホームレスとしての日々の生活の苦しさ、その中でも心が安らぐ時間や目にした美しいもの、また小山さんの想像の世界について綴られている。小山さんはかつてはパートナーと同居していたが相手の暴力に耐え兼ね一人でテント生活をするようになる。1人の女性の中の自分だけの時間、場所が欲しい、自分の人生は自分だけのもでありたいという切実な気持ちが迫ってくる。しかしその自分だけの時間と場所を得ること、人の人生に隷属しないことがあまりに難しいことも迫ってきて、読んでいるうちにどんどん辛くなってきてしまった。とにかくお金と食の心配が絶えない。またホームレス仲間の男性たちからの暴力にも往々にしてさらされている。小山さんはいわゆる一般的な社会の仕組みの中にはなかなか嵌れない人だったのだろう。そういう人、ことに女性が安心して暮らせる社会ではないということを目の当たりにするようで、一歩間違うと自分がこういう境遇になりえると痛感させられるのだ。小山さんは自分自身で居られる生活の在り方を選んだわけだが、自分自身でありつつもっと安心して生活できる道がなかったものかと思うと苦しい。