河野真太郎編
見ず知らずの他人の葬式にもぐりこむ少年たち(「暗い世界」)、競歩の強豪選手とライバルたち(「あんたの入用」)、長閑な田園風景にも戦争が影を落とす(「失われた釣り人」)等、ウェールズ英語文学の短編小説5編を収録した作品集。
ウェールズ小説(正確には英語で書かれたウェールズをルーツとする作家の小説)に触れるのは初めてなのだが、描かれている時代の幅(1910年代あたり~現代)から、ウェールズの社会が見えてくる。各編ごとに丁寧な解題があるので読み解きの補助線になり助かった。
表題作「暗い世界」は、少年たちのおやつ稼ぎ兼悪ふざけの世界がある出来事から正に「暗い世界」になるという、急転のあざやかさと不吉さにインパクトがあった。先の見えなさ、不安さが漂う社会情勢だったのかもしれない。不安さという面では「失われた釣り人」の不安も重く厚い。第二次大戦下で、舞台となる田舎町にも空襲の被害が及んでくる。自然描写が生き生きとして美しくとても魅力があるのだが、その美しさは人間をそっちのけで存在しているように思えてくる。どこか陰鬱な影のある作品の中、「あんたの入用」はどぎつめのユーモラスさがあった。人間てしょーもないな!というユーモラスさではあるのだが。