古賀及子著
日記エッセイ『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』が反響を呼んだ著者のエッセイ集。日記エッセイではなく「エッセイ」。子供の頃の記憶から成長して子供たちと暮らすようになるまでの様々な記憶が綴られる。
本著は日記ではなくエッセイ。著者の日記は文章の瞬発力、「今この時」を記録する力に惹かれる所が大きかったのだが、エッセイだと時間の流れ方がまた違う。もっと計画的に組み立てられた文章で、時間の流れもゆっくり目で飛距離が長いように思う。日記ではないから子供の頃のことをじっくりかいていいわけだ。時間の飛距離が長いことで、若いころの感覚と、今振り返って気付くことのギャップ、温度差が立ち上がってくる。時間がたたないとわからなかったことというのは、いつも少し苦い。
また、巻末の長嶋有による解説にあるように、著者の母親として以外の面が比較的前面に出ている、個の部分がより感じられる。愛情や寂しさの表出に結構クセがある人なのではという気がしてきた。なお著者宅では生協を利用しているのだが、生協のカタログにまつわる「生協のカタログだけがおもしろい」には、同じような体験をしたわけではないのにその当時の著者のメンタリティがぐっとせまってきて凄みがあった。「もう、これでいいや」という諦念の境地が生々しく伝わってくる。実体験に伴う共感としては「これほど恋らしい2000円」を挙げたい。このみみっちい(といっては申し訳ないのだが)執着と努力、なんでやってしまうのだろうか。