3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『貴婦人として死す』

カーター・ディクスン著、高沢治訳
 海辺の町でスキャンダルが起きた。地元の名士の妻と若い俳優の卵が姿を消し、2日後に遺体となって発見されたのだ。警察は崖から身を投げた心中と見ていたが、名士の友人である医師ルークはそれを否定し、他殺だと信じて捜査に協力する。静養に訪れていたヘンリー・メルヴィール卿も行動を共にするが。
 カーター・ディクスン、=ジョン・ディクスン・カーにはオカルト趣味、仰々しい舞台装置の本格ミステリという印象があっていまひとつ魅力を感じていなかったのだが、オカルト色のない作品も結構あるし、予想外にユーモラスでコントみたいな所もある。本作は私が好きなタイプの本格ミステリだった。こういうのでいいんだよ…。むしろオカルト色のないものの方が、ディクスン・カーの本格ミステリ作家としての手腕が際立つ。本作はフーダニットに注力した作品だと思うが、だれが、の決め手となるパーツの積み重ねは、確かにそこしかない!というもので派手ではないが上手い。
 メルヴィール卿のキャラの強さが相変わらず炸裂している(車いすの扱いがひどい!これが本当の暴走老人!)が、女性登場人物の描写が結構いい。若い女性2人の仲良くなり方とか、なかなかフラットで(女性特有のなんたらみたいなものが薄目で)いい。

貴婦人として死す (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2016-02-27


黒死荘の殺人 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2012-07-28




『休日はコーヒーショップで謎解きを』

ロバート・ロプレスティ著、高山真由美訳
 ピザショップの常連客である正体不明の男。彼を探しにあやしい奴らがやってきた、「ローズヴィルのピザショップ」。ある家族とアメリカという国の姿が垣間見える「消防士を撃つ」、コーヒーショップで起きた殺人事件を饒舌な名探偵が解決する「赤い封筒」。ノンシリーズの中短篇を収録した作品集。
 味わいも方向性もそれぞれ違う作品を収録しており、統一感はそれほどない。ただ、殆どの作品で本格ミステリならではのロジカルなトリックが仕込まれている。こういう翻訳ミステリの短篇集って近年あまり日本で出版されないので(特に文庫という手に取りやすい形態では)結構貴重なのでは。軽快なアクションサスペンス映画の1シーンのようでもある「ローズヴィルのピザショップ」は楽しい。出てくる人全員が老若男女ちゃんと活躍する。また、軽快で軽めの作品が多い中、アメリカの負の歴史が背景にある「消防士を撃つ」は、少年の語りの瑞々しさがある一方で深い陰影を見せる。個人的に気に入っているのは一風変わった一人称語りの「宇宙の中心」。幻想小説的な側面が強いのかと思ったら、ちゃんと本格ミステリとしての仕掛けがされている。なおボリュームのある「赤い封筒」は探偵役が非常にうざいところも含め伝統にのっとった名探偵小説だと思う。

休日はコーヒーショップで謎解きを (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ
東京創元社
2019-08-09






日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ
東京創元社
2018-05-11

『危険なヴィジョン(完全版)2』

 ハーラン・エリスン著、浅倉久志他訳
SF小説の奇才ハーラン・エリスンがSF界の変革を試みた書き下ろしアンソロジー。ある種の管理社会における「主席」の正体をめぐるフィリップ・K・ディック『父祖の信仰』、ホラーファンタジー風味のフリッツ・ダイバー『骨のダイスを転がそう』、SFというよりも「奇妙な味わい」ものカテゴリーに近いジェイムズ・クロス『ドールハウス』など、バラエティに富んだアンソロジー。
 1巻よりも時代性、古さを感じにくい作品が多い。前述の『骨のダイスを転がそう』や『ドールハウス』はSFというよりもむしろホラーやファンタジーの領域。特に『ドールハウス』は古典的な「怖い話」としての面白さがあった。また、信仰、神の存在をテーマに絡めた作品が多いようにも思う。ディックの『父祖の信仰』は中国の「主席」を意識した設定なのだろうが、集団内で共通とされている信仰対象とは果たして本当に共通なのか、対象にそもそも根拠はあるのかという信仰のあやふやさ、そのあやふやなものに支配されている世界の危うさを描く。ジョー・L・ヘンズリー『わが子、主ランディ』は収録作の中でも好きな作品なのだが、アンチ救世主の誕生譚ともとれる。『ドールハウス』は信仰の否定としっぺ返しのようでもあるし、デーモン・ナイト『最後の審判』は旧約聖書小噺的でシニカル。こういう形で信仰について問うという形式自体がすでに古いのかもしれないけど。しかし収録作中で最も強烈なのはキャロル・エムシュウィラー『性器および/またはミスター・モリスン』だろう。一触即発的な緊張感が漂う。妄想ラブストーリーっぽい。


危険なヴィジョン〔完全版〕2 (ハヤカワ文庫SF)
ハワード・ロドマン
早川書房
2019-07-04






ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン
早川書房
2017-04-20

 

『九人と死で十人だ』

カーター・ディクスン著、駒月雅子訳
 戦時下の英国へ軍需品を運ぶエドワーディック号。元新聞記者のマックス・マシューズは、兄が船長を務めるこの船に乗船した。乗客は彼を含め9人。しかし2日目の夜、マックスは乗客の1人の女性の死体を発見。外部からの侵入はありえず、犯人は乗客の誰かと思われる。しかし現場に残された指紋と合致する人物はその中にはいなかった。偶然乗り合わせていたヘンリ・メリヴェール卿は謎に挑む。
 戦時下なので夜の甲板での点灯は禁じられているとか、敵国の潜水艦への対応を迫られているとか、緊迫した背景なのにどこかとぼけてユーモラス。カーのユーモアセンスってあまり指摘されることがないように思うけど、これ明らかに笑わせようとしているのでは?という描写が結構ある。理容室の椅子から落ちそうなメルヴェール卿の姿を想像するとおかしくなってしまう。そして、本格ミステリとしては結構いい。日本では当時あまり話題にならなかったそうだけど、なんでかなー。物理的なトリックよりも、メルヴェール卿が看破するちょっとした部分の整合性の不一致の設定の仕方、トリックではなくロジックの部分が上手いしきれいな仕立て。あの時のあれはそういうことか!と唸った。むしろ中心となるトリックは、説明されてもちょっとよくわからないというか、それ無理っぽくない?というものなんだよね・・・。

九人と死で十人だ (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2018-07-30






ユダの窓 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2015-07-29

『危険なヴィジョン(決定版)1』

ハーラン・エリスン編、伊藤典夫他訳
 アメリカSF界のカリスマ的作家であるハーラン・エリスンが企画編集し、SF界に革命を起こしたというアンソロジーシリーズ。3分冊の第一巻。
 全8編を収録しているが、一番パンチがきいているのがアイザック・アシモフによるまえがき。しかもまえがきその1とその2がある(笑)。アシモフといえばSFの重鎮だが、このアンソロジーが発行された時期には小説の執筆からは離れていたらしいが、まえがきからは意外な面白おじさんぽさが垣間見えている。「まえがきその2」での、年少であるエリスンへのちょっと辟易しつつも愛情がにじむ文章がユーモラス。同時に、エリスンが相当面倒くさい人らしいことも垣間見える。そして、エリスンが「まえがきその2」に付記した言い訳めいた文章、そして各収録作の前に長々とつけられた解説の饒舌さに、唸りつつ辟易した。この語りたがりめ!面白いんだけれども!
 1960年代の作品なので、さすがに今読むと新鮮さを通り越してオーソドックスになってしまった(レスター・デル・レイ『夕べの祈り』などもはや小噺みたい)作品もある。収録作の中では、切り裂きジャックをモチーフにしたロバート・ブロック『ジュリエットのおもちゃ』と、その後日談として書かれたエリスン『世界の縁にたつ都市をさまよう者』が連作として面白く古さを感じなかった。ネタの強さみたいなものがある。

危険なヴィジョン〔完全版〕1 (ハヤカワ文庫SF)
レスター・デル・レイ
早川書房
2019-06-06






愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)
ハーラン・エリスン
国書刊行会
2019-05-25

『極夜の警官』

ラグナル・ヨナソン著、古田薫訳
 アイスランド最北の町シグルフィヨルズルに赴任した警官アリ=ソウル。警察署長ヘルヨウルフルの妻から連絡を受け、連絡が取れなくなったヘルヨウルフルを探していたところ、町はずれの空き家で重傷を負った彼を発見する。ヘルヨウルフルの息子によると、ドラッグ売買の捜査が関係していたらしい。更に市長やその右腕が絡んでいるのではという疑いも出てきた。
 アイスランド、しかもヘルシンキではなくちょっとしたニュースがすぐに街中に知られるような小さな社会を舞台としている所が面白い。アリ=ソウルは地道に捜査をするが、決して頭脳明晰な切れ者という感じではない。上司や同僚から見ると人づき合いが今一つ悪く面白みに欠け、妻から見ると嫉妬深くキレやすい一面を持つ。完璧ではなく、欠点も多い造形が人間くさくてなかなか良かった。しかも夫婦共にちょこっと浮気しているという生々しさ。それだけ夫婦の関係が危うくなっている、そしてアリ=ソウルはその自覚が薄いという所がポイントであり、今後のシリーズ展開の中でもどうなるのか気になる。彼はまだ成長途中で、今後警官として、パートナーとして変化していくのではないかと期待できるのだ。
 作中である人物の手記が挿入されるが、これが誰のものかわかると、事件の真相がよりやりきれなくなる。この連鎖をもっと早く止められなかったのかと。

極夜の警官 (小学館文庫)
ラグナル ヨナソン
小学館
2018-07-06





雪盲: SNOW BLIND (小学館文庫)
ラグナル ヨナソン
小学館
2017-05-09

『緊急工作員』

ダニエル・ジャドスン著、真崎義博訳
 元海軍工兵偵察隊員のトム・セクストンは、今は田舎町の工場に勤めながら、恋人ステラと平穏に暮らしていた。しかしかつての上官キャリントンから緊急メッセージが入る。かつてトムの命を救って大けがをした戦友カヒルが、激しい銃撃戦の後姿を消した、襲撃犯もいまだ不明だというのだ。トムはカヒルを捜索しろという指令を受けるが、その裏には陰謀が隠されており、トムはステラと共に事件に巻き込まれていく。
 トムは上司であるキャリントンにも、命の恩人であるカヒルにも恩義があり、同じ戦いに身を置いた者同士の絆から、彼らを信じ助けたいという気持ちがある。しかしキャリントンの行動には不審な点が多く、カヒルの行動の理由も不明なまま。またキャリントンを通じてトムに接触してきたNSAも腹に一物ありそう。トムは誰を信じていいのかわからないまま、結構なスピードで二転三転する状況に対応していかなければならない。かつての絆を信じたい気持と疑う気持ちにトムが苛まれる様に、終盤までハラハラさせられる。トムは冷静なプロとしての振る舞いを身につけているが、やはり平気ではいられないのだ。
 そんな彼を支えるのがクレアなのだが、彼女が予想外に活躍する。トムより年上で、不動産業で培った知識と生来の賢さ、人脈と度胸で難局を切り抜けトムを助ける。トムの弱点には違いないが、唯一、ストーリーの最初から信頼できる存在と言えるだろう。そんなクールでスマートな彼女でも、サブプライムローン破綻の余波からは逃げられず資産をほぼ失い、今はウィトレスをして生計を立てているというのが一番怖かったですね・・・。

緊急工作員 (ハヤカワ文庫NV)
ダニエル・ジャドスン
早川書房
2019-01-10





図説 銃器用語事典
小林 宏明
早川書房
2008-04-10

『消えた子供 トールオークスの秘密』

クリス・ウィタカー著、峯村利哉訳
 トールオークスは、深刻な犯罪とは無縁の小さな町だった。しかし3歳のハリー・モンローが自宅から突然疾走したことで、全米の注目を集める事件の現場となってしまう。住民総出の捜索と警察署長のジム・ヤングを筆頭とする警察の捜査が行われたものの、手がかりすら出てこないままだった。ハリーの母親ジェシカは諦めずに手がかりを探し続けるが、精神は擦り切れ徐々に崩れていく。ジムは高校の同級生だったジェシカの憔悴を気に掛けていたが。
 一見何のへんてつもなく穏やかに見える町だが、そこに暮らす人たちにはそれぞれ人には言えない秘密や苦しみがある。ハリーの失踪が触媒になり、隠れていた部分が段々表面化していく。トールオークスはおそらく地方の町なのだが、田舎というよりもこぎれいな郊外の町といった雰囲気に描かれている。いわゆるサバービア小説の一種とも言える。個人的には、エンターテイメント度を高くした『ワインズバーグ・オハイオ』というイメージ。人はそれぞれ奇妙で独特で他人とは分かち合えないものがある、でもそれが普通なのだ。住民の一人一人の姿がどんどん立ち上がり変容していく。特に高校生の少年マニーが印象深い。イタリアマフィアぶった振る舞いはとんちんかんで「何か」になりたくてたまらずあがく姿はどこかピントがずれている。しかしジェシカに対するある態度に率直な思いやりと共感が垣間見えた。他の人たちがやらなかった(できなかった)ことをすっとやる姿が印象深い。
 ミステリとしてもしっかりオチがあり、英国推理作家協会賞新人賞に当たるCWAジョン・クリーシー・ニュー・ブラッド・ダガーを受賞したというのも納得。


子供たちは森に消えた (ハヤカワ文庫NF)
ロバート・カレン
早川書房
2009-01-06


『兄弟の血 熊と踊れⅡ(上、下)』

アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ著、ヘレンハルメ美穂&鵜田良江訳
 連続銀行強盗で逮捕、収監されたレオは殺人の罪を負うサムと出会う。彼はレオを逮捕したヨン・ブロンクス警部の兄だった。ヨンへの憎しみ、そして「兄」であるという共通項で繋がった2人は、「存在しないものを奪う」強奪事件を計画し、出所と同時に実行へと踏み出す。レオの動きはヨン・ブロンクス警部の知るところとなるが、そこにはレオの仕掛けた罠があった。
 ノンフィクションだった前作『熊と踊れ』の続編だが、本作は完全なるフィクション。「存在しないものを奪う」というプラン、そしてその中のある仕掛けの派手さはなるほどフィクションぽい。しかし「絆」に対するレオの執着と情念は前作から引き継がれているものだ。レオの家族への拘りは、最早妄執に見えてくる。弟たちの心は父からもレオからも、彼らの稼業からも離れつつあることが彼にはわからない。その傾向は子供の頃からあったが、レオは自分が見たいものしか見ないのだ。犯罪者としては非常に冷静で明晰なのに自分と兄弟のことについては目が開かれていないというのが、ちょっと怖い所でもあるし痛ましい所でもある。弟たちの心は彼から離れつつあるのに・・・。
 兄弟に対して目が開かれていないという点では、実はヨンも同様だと言える。冷静な刑事だったヨンが情念に駆られてどんどん逸脱していく様はこれまたちょっと怖い。レオもヨンもあったはずの何かを取り戻そうとしているのだが、それは本当にあったものなのか?あったつもりになっているだけではないのか?と思わずにいられない。それこそ「存在しないもの」だったのではと。そして情念に飲み込まれていく彼らと相対する、新登場人物の刑事エリサの怜悧さが光っていた。

兄弟の血―熊と踊れII 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2018-09-19


兄弟の血―熊と踊れII 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2018-09-19


『きみの鳥はうたえる』

佐藤泰志著
 郊外の書店で働く「僕」は友人・澄夫と同居している。同僚の佐知子と「僕」が付き合うようになり、澄夫を交えて3人で夜通し遊び、飲み歩く日々はいつまでも続くように思えた。
 書き出しがすごくいい。ある時期の夏の感覚にぴったりとはまる。映画化作品(三宅唱監督)を見てから読んだが、映画はラストを大きく改変していたことがわかった。私は映画のラストの方が好きなのだが、原作小説(本作)の方が若者たちの切羽詰った感じや真摯さ故にぎりぎりのところまで行ってしまう余裕のなさは強く、より不器用な人たちの姿として描かれているように思う。時代背景の不自由さみたいなものを感じた。現代の方が自由というよりも、現代の方が
 「僕」と佐和子、澄夫の関係はいわゆる三角関係ということになるのだろうが、あまりそういう感じはしない。一つの「仲間」(というほど熱気はないしベタベタしていないが)としての配慮でお互いバランスを取っており、そこはかとない愛はあるが恋情はあまり感じないのだ。彼らはふらふらしているように見えるが、すごく真面目。真面目故にこのラストに辿りついてしまったようにも思う。

きみの鳥はうたえる (河出文庫)
佐藤 泰志
河出書房新社
2011-05-07


移動動物園 (小学館文庫)
佐藤 泰志
小学館
2011-04-06




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