アンドレス・バルバ著、宇野和美訳
1994年、亜熱帯の町サンクリストバルに奇妙な子供たちが現れる。彼らは物乞いや盗みで生活しているようだが、その言葉は町の人達には理解不能で、人々を不安に陥れた。子供たちはついにスーパーを襲撃して死人まで出る事態に。そして数カ月後、不可解な状況で32人の子供たちが一斉に死んだ。一体何があったのか。
事件から22年後に、当時社会福祉課の課長だった人物による語り、という形式の小説。後になってから記録を辿る、どういう事態だったのか見えてくるという、謎解きのような要素もある。とは言え、わかったような気になるだけで芯の部分はわからないままなのでは、という不安感が全編を覆っている。子供たちはどこから来た何者なのか、彼らはなぜやってきたのかという部分は断片的に見え隠れするのみだ。むしろ町の人々、特に大人にとっては圧倒的な異物、他者として現れる。異物、未知の他者は(その恐れが不条理なものであっても)恐ろしく、その恐れがさらなる暴動を招く。ただ、不可解な存在であっても彼らには彼ら独自のコミュニティーがあったのかもしれない、そこには新しい社会の可能性があったのかもしれないと示唆される。その可能性こそを大人たちは恐れたとも言えるのだが。これまであったかもしれないもの、この先生じたかもしれない可能性をぶった切る形の終わり方に、投げ出されたような気分になる。