3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本題名か行

『カナダ金貨の謎』

有栖川有栖著
 男性の絞殺死体が発見された。第一発見者は同棲相手の女性。物取りの犯行とも思われなかったが、男性がいつも身に着けている金貨のペンダントがなくなっていた。犯人の視点から語られる事件の顛末は。表題作を始め全5編を収録した中短編集。
 国名シリーズも10作目。次はどの国なのか楽しみにしているが、結構スタンダードなところがきたな(笑)。表題作は半分以上が犯人一人称の語りなのだが、彼が何をして、何をし損ねたのかはぎりぎりまで伏せられている、そこが謎解きのポイントの一部になっているというところが面白い。精緻な本格ミステリとしては、タイムテーブルを突き詰める「トロッコの行方」が読み応えあり。地味だが著者の持ち味は一番濃いのでは。被害者に浴びせられた「集り」という言葉は実は犯人にも跳ね返ってくるのでは。ファンにはおなじみの火村とアリスのファーストコンタクトのその後を描く「あるトリックの蹉跌」はまあ甘酸っぱい(笑)。アリスの原稿に向けられた火村のダメ出し、著者が実際に受けたものなのでは…小説教室の生徒さんとかはこういう指摘を受けるんだろうなーという具体的なもの。


『貴婦人として死す』

カーター・ディクスン著、高沢治訳
 海辺の町でスキャンダルが起きた。地元の名士の妻と若い俳優の卵が姿を消し、2日後に遺体となって発見されたのだ。警察は崖から身を投げた心中と見ていたが、名士の友人である医師ルークはそれを否定し、他殺だと信じて捜査に協力する。静養に訪れていたヘンリー・メルヴィール卿も行動を共にするが。
 カーター・ディクスン、=ジョン・ディクスン・カーにはオカルト趣味、仰々しい舞台装置の本格ミステリという印象があっていまひとつ魅力を感じていなかったのだが、オカルト色のない作品も結構あるし、予想外にユーモラスでコントみたいな所もある。本作は私が好きなタイプの本格ミステリだった。こういうのでいいんだよ…。むしろオカルト色のないものの方が、ディクスン・カーの本格ミステリ作家としての手腕が際立つ。本作はフーダニットに注力した作品だと思うが、だれが、の決め手となるパーツの積み重ねは、確かにそこしかない!というもので派手ではないが上手い。
 メルヴィール卿のキャラの強さが相変わらず炸裂している(車いすの扱いがひどい!これが本当の暴走老人!)が、女性登場人物の描写が結構いい。若い女性2人の仲良くなり方とか、なかなかフラットで(女性特有のなんたらみたいなものが薄目で)いい。

貴婦人として死す (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2016-02-27


黒死荘の殺人 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2012-07-28




『ゴリラに学ぶ男らしさ 男は進化したのか?』

山極寿一著
 人間の男、女という存在は生物としてのオス・メスの違いだけではない。社会的・文化的に区別されたジェンダーである。いわゆる「男らしさ」、男性像とはこれまでの文化・習慣の中で形成されたもので、社会が急速に変化していく中では、段々「男らしさ」が硬直し男性も女性も苦しめることになる。そもそも男、オスの特徴とはどういうものなのか?霊長類学者であり著者が霊長類の生態から、「男」が形成される軌跡を追う。
 同じサルの仲間でもオスのふるまいやオス・メスの関係性はだいぶ違う。子育てへの参加の仕方は群れの成立(そもそもオラウータンのように群れを作らないサルもいる)の仕方によってによって変わってくる側面が強い。ただ、サルにとっての子育ては子供をかわいがる、自分の子供を愛するというものとは似ていても基本的に異なる。あくまで自分のオスとしての存在価値や群れを維持し、自分の子孫を残すためのシステムの一部だ。似ていても、やはり人間とは違う。ということは、いわゆる生物上の「男らしさ」と人間の男性に要求される「男らしさ」は離れていかないとならないのでは。


『休日はコーヒーショップで謎解きを』

ロバート・ロプレスティ著、高山真由美訳
 ピザショップの常連客である正体不明の男。彼を探しにあやしい奴らがやってきた、「ローズヴィルのピザショップ」。ある家族とアメリカという国の姿が垣間見える「消防士を撃つ」、コーヒーショップで起きた殺人事件を饒舌な名探偵が解決する「赤い封筒」。ノンシリーズの中短篇を収録した作品集。
 味わいも方向性もそれぞれ違う作品を収録しており、統一感はそれほどない。ただ、殆どの作品で本格ミステリならではのロジカルなトリックが仕込まれている。こういう翻訳ミステリの短篇集って近年あまり日本で出版されないので(特に文庫という手に取りやすい形態では)結構貴重なのでは。軽快なアクションサスペンス映画の1シーンのようでもある「ローズヴィルのピザショップ」は楽しい。出てくる人全員が老若男女ちゃんと活躍する。また、軽快で軽めの作品が多い中、アメリカの負の歴史が背景にある「消防士を撃つ」は、少年の語りの瑞々しさがある一方で深い陰影を見せる。個人的に気に入っているのは一風変わった一人称語りの「宇宙の中心」。幻想小説的な側面が強いのかと思ったら、ちゃんと本格ミステリとしての仕掛けがされている。なおボリュームのある「赤い封筒」は探偵役が非常にうざいところも含め伝統にのっとった名探偵小説だと思う。

休日はコーヒーショップで謎解きを (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ
東京創元社
2019-08-09






日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ
東京創元社
2018-05-11

『危険なヴィジョン(完全版)2』

 ハーラン・エリスン著、浅倉久志他訳
SF小説の奇才ハーラン・エリスンがSF界の変革を試みた書き下ろしアンソロジー。ある種の管理社会における「主席」の正体をめぐるフィリップ・K・ディック『父祖の信仰』、ホラーファンタジー風味のフリッツ・ダイバー『骨のダイスを転がそう』、SFというよりも「奇妙な味わい」ものカテゴリーに近いジェイムズ・クロス『ドールハウス』など、バラエティに富んだアンソロジー。
 1巻よりも時代性、古さを感じにくい作品が多い。前述の『骨のダイスを転がそう』や『ドールハウス』はSFというよりもむしろホラーやファンタジーの領域。特に『ドールハウス』は古典的な「怖い話」としての面白さがあった。また、信仰、神の存在をテーマに絡めた作品が多いようにも思う。ディックの『父祖の信仰』は中国の「主席」を意識した設定なのだろうが、集団内で共通とされている信仰対象とは果たして本当に共通なのか、対象にそもそも根拠はあるのかという信仰のあやふやさ、そのあやふやなものに支配されている世界の危うさを描く。ジョー・L・ヘンズリー『わが子、主ランディ』は収録作の中でも好きな作品なのだが、アンチ救世主の誕生譚ともとれる。『ドールハウス』は信仰の否定としっぺ返しのようでもあるし、デーモン・ナイト『最後の審判』は旧約聖書小噺的でシニカル。こういう形で信仰について問うという形式自体がすでに古いのかもしれないけど。しかし収録作中で最も強烈なのはキャロル・エムシュウィラー『性器および/またはミスター・モリスン』だろう。一触即発的な緊張感が漂う。妄想ラブストーリーっぽい。


危険なヴィジョン〔完全版〕2 (ハヤカワ文庫SF)
ハワード・ロドマン
早川書房
2019-07-04






ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン
早川書房
2017-04-20

 

『九人と死で十人だ』

カーター・ディクスン著、駒月雅子訳
 戦時下の英国へ軍需品を運ぶエドワーディック号。元新聞記者のマックス・マシューズは、兄が船長を務めるこの船に乗船した。乗客は彼を含め9人。しかし2日目の夜、マックスは乗客の1人の女性の死体を発見。外部からの侵入はありえず、犯人は乗客の誰かと思われる。しかし現場に残された指紋と合致する人物はその中にはいなかった。偶然乗り合わせていたヘンリ・メリヴェール卿は謎に挑む。
 戦時下なので夜の甲板での点灯は禁じられているとか、敵国の潜水艦への対応を迫られているとか、緊迫した背景なのにどこかとぼけてユーモラス。カーのユーモアセンスってあまり指摘されることがないように思うけど、これ明らかに笑わせようとしているのでは?という描写が結構ある。理容室の椅子から落ちそうなメルヴェール卿の姿を想像するとおかしくなってしまう。そして、本格ミステリとしては結構いい。日本では当時あまり話題にならなかったそうだけど、なんでかなー。物理的なトリックよりも、メルヴェール卿が看破するちょっとした部分の整合性の不一致の設定の仕方、トリックではなくロジックの部分が上手いしきれいな仕立て。あの時のあれはそういうことか!と唸った。むしろ中心となるトリックは、説明されてもちょっとよくわからないというか、それ無理っぽくない?というものなんだよね・・・。

九人と死で十人だ (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2018-07-30






ユダの窓 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2015-07-29

『危険なヴィジョン(決定版)1』

ハーラン・エリスン編、伊藤典夫他訳
 アメリカSF界のカリスマ的作家であるハーラン・エリスンが企画編集し、SF界に革命を起こしたというアンソロジーシリーズ。3分冊の第一巻。
 全8編を収録しているが、一番パンチがきいているのがアイザック・アシモフによるまえがき。しかもまえがきその1とその2がある(笑)。アシモフといえばSFの重鎮だが、このアンソロジーが発行された時期には小説の執筆からは離れていたらしいが、まえがきからは意外な面白おじさんぽさが垣間見えている。「まえがきその2」での、年少であるエリスンへのちょっと辟易しつつも愛情がにじむ文章がユーモラス。同時に、エリスンが相当面倒くさい人らしいことも垣間見える。そして、エリスンが「まえがきその2」に付記した言い訳めいた文章、そして各収録作の前に長々とつけられた解説の饒舌さに、唸りつつ辟易した。この語りたがりめ!面白いんだけれども!
 1960年代の作品なので、さすがに今読むと新鮮さを通り越してオーソドックスになってしまった(レスター・デル・レイ『夕べの祈り』などもはや小噺みたい)作品もある。収録作の中では、切り裂きジャックをモチーフにしたロバート・ブロック『ジュリエットのおもちゃ』と、その後日談として書かれたエリスン『世界の縁にたつ都市をさまよう者』が連作として面白く古さを感じなかった。ネタの強さみたいなものがある。

危険なヴィジョン〔完全版〕1 (ハヤカワ文庫SF)
レスター・デル・レイ
早川書房
2019-06-06






愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)
ハーラン・エリスン
国書刊行会
2019-05-25

『カムパネルラ』

山田正紀著
宮沢賢治の研究者だった母の遺骨を散骨するため、花巻を訪れた16歳の僕は、気がつくと昭和8年にいた。賢治が亡くなる2日前だということに気づき宮沢家を訪ねた僕は、早逝したはずの賢治の妹・トシとその娘だというさそりに出会う。そして自分がジョバンニと間違えられており、カムパネルラが殺されたという話まで聞く。
史実に基づく宮沢賢治が生きた世界、それが改ざんされた世界、そして宮沢賢治の作品の世界が入り混じる。ファンタジーでもあり、同時にメディア教育によるディストピア社会を背景としたSFにもなっていく、更に花巻の地理を取り入れた本格ミステリ要素もあるという、重層的な構造。最初読んでいるうちに感じた違和感が、そういうことかと腑に落ちて行った。実際の賢治作品の取り込み方が上手い。宮沢賢治の作品は熱烈なファンを生む一方で、強烈な自己犠牲性などどこか危うい部分もあるが、物語の一部としてその要素を取り込むことで、賢治作品に対する批評にもなっているのだ。こういう取り入れ方を許容する所が宮沢賢治作品の奥行き、豊穣さだと思う。特に『銀河鉄道の夜』は未完成なことで多様な解釈を許すのだろうことが、作中でも指摘されている。その特質を物語の設定上に取り入れているところ、しかし原典の本質は損なわれていない所に著者の敬意が窺える。『銀河鉄道~』は先人の研究も多々ある作品だが、すごく読みこんでいると思う。

カムパネルラ (創元SF文庫)
山田 正紀
東京創元社
2019-02-28






カムパネルラ版 銀河鉄道の夜
長野まゆみ
河出書房新社
2018-12-14



『刑罰』

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳
 参審員として裁判で被告人の供述を聞いた女性は、その内容に強く反応してしまう(『参審員』)。アルコール依存症の弁護士は夫を射殺した疑いをかけられた女性の弁護を引き受けるが、弁護の突破口となったのは意外な人物からのアドバイスだった(『逆さ』)。裁判と罪と刑罰にまつわる短編集。
 シーラッハはやはり短編の方がいい。短ければ短いほど切れがいいと言ってしまってもいいくらいだと思う。毎回、深淵を覗きこむものはまた深淵から覗きこまれているのだ・・・等とつぶやきたくなる、人間の不条理さ不可解さが突如顔を出してくるような作品ばかり。心に積み重なっていく淀みのようなものが域値を越えた時、本人でも予想しなかったような行動が現れる。周囲から見たらいきなりトチ狂ったように見えるんだろうけど、当人の中では経緯があっての発露なのだ。その経緯を他人が納得するように説明することができない、しても理解されないから辛いし救われないんだけど。
 最初に収録されている『参審員』が特に胸に刺さったのだが、何もこの場、このタイミングで直面しなくても!という間の悪さが、1人の人間の人生を決定付けてしまったやりきれなさが辛い。せめてカタリーナの共感が「彼女」に伝わっていれば願わざるを得ない。痛切な作品がある一方で、『逆さ』や『小男』のようなちょっとユーモラスな作品もある。今回は、司法のシステムや法律の隙間に落ち込んでしまったというか、本来ならやるべきだったことを司法が行えないというような、システムの穴みたいな話が多かったように思う。


刑罰
フェルディナント・フォン・シーラッハ
東京創元社
2019-06-12






ラースと、その彼女<特別編> [DVD]
ライアン・ゴズリング
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2014-02-05

『極夜の警官』

ラグナル・ヨナソン著、古田薫訳
 アイスランド最北の町シグルフィヨルズルに赴任した警官アリ=ソウル。警察署長ヘルヨウルフルの妻から連絡を受け、連絡が取れなくなったヘルヨウルフルを探していたところ、町はずれの空き家で重傷を負った彼を発見する。ヘルヨウルフルの息子によると、ドラッグ売買の捜査が関係していたらしい。更に市長やその右腕が絡んでいるのではという疑いも出てきた。
 アイスランド、しかもヘルシンキではなくちょっとしたニュースがすぐに街中に知られるような小さな社会を舞台としている所が面白い。アリ=ソウルは地道に捜査をするが、決して頭脳明晰な切れ者という感じではない。上司や同僚から見ると人づき合いが今一つ悪く面白みに欠け、妻から見ると嫉妬深くキレやすい一面を持つ。完璧ではなく、欠点も多い造形が人間くさくてなかなか良かった。しかも夫婦共にちょこっと浮気しているという生々しさ。それだけ夫婦の関係が危うくなっている、そしてアリ=ソウルはその自覚が薄いという所がポイントであり、今後のシリーズ展開の中でもどうなるのか気になる。彼はまだ成長途中で、今後警官として、パートナーとして変化していくのではないかと期待できるのだ。
 作中である人物の手記が挿入されるが、これが誰のものかわかると、事件の真相がよりやりきれなくなる。この連鎖をもっと早く止められなかったのかと。

極夜の警官 (小学館文庫)
ラグナル ヨナソン
小学館
2018-07-06





雪盲: SNOW BLIND (小学館文庫)
ラグナル ヨナソン
小学館
2017-05-09

ギャラリー
最新コメント
アーカイブ
記事検索
  • ライブドアブログ