3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本題名か行

『黄色い部屋の謎』

ガストン・ルルー著、平岡敦訳
 科学者スタンガルソン教授とその娘マティルドが住む城で、マティルドが何者かに襲撃され重傷を負うという事件が起きた。事件が起きたのは研究室のある離れの一室で、完全な密室だった。一体犯人はどうやって侵入し、どうやって逃げたのか?18歳の新聞記者ルルタビーユとパリ警視庁警部ラルサン、2人の名探偵が謎に挑む。
 密室ミステリの古典にして名作といわれる作品だが、なるほど納得。ジャン・コクトーが熱烈な序文を寄せたのもわかる。論理的遊戯としてのミステリ以外のことをやろうという色気がない、ロジックに徹したミステリ小説なのだ。当時これは新鮮だったろうなと思う。密室のトリックも真犯人の設定(いきなり出してくるな?!と思った。何か前振りあった?)も、正直苦しいと言えば苦しい。ただその部分局地的な精度というよりも、それ以外の可能性を排除していく道筋の絞り込みの論理だてに技があるのだと思う。門番夫婦が何をしていたのかという解の導き出し方とか、地味だけどいいんだよな。これが本格ミステリの基礎!という感じ。
 探偵役であるルルタビーユは才気あふれるが、往々にして小生意気で気まぐれに見える。彼の手紙という設定のパートだとより際立つ。自意識過剰気味な気負い方がいかにも若い。

黄色い部屋の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
ガストン・ルルー
東京創元社
2020-06-30


黒衣婦人の香り (創元推理文庫 108-2)
石川湧
東京創元社
1976-03-19






『雲を紡ぐ』

伊吹有喜著
 高校生の美緒は学校に行けなくなっていた。両親に自分の思いを言い出せず、思いつめた美緒は衝動的に、父方の祖父の工房がある盛岡へ向かった。祖父・紘治郎は羊の毛の織物・ホームスパンの職人だが、息子である美緒の父とは疎遠だった。美緒は祖父の元でホームスパンのことを学び始める。
 舞台が盛岡市ということで手に取った、逆に言うと他のどこかが舞台だったら多分手に取らなかった、自分が普段好むものとは違ったタイプの作品だが、なかなか良かった。相手の顔色を気にしすぎて自分の言葉も表情も凍り付いてしまう美緒の姿はもどかしいが、言葉が出てくるまでに時間がかかる人もいる。美緒の父・広志もそうなのだが、母・真紀は逆に言葉が達者ではっきり表明することを良しとする。母親からは、夫や娘は肝心な所で黙り込んでしまってずるいと見えるのだろう。美緒は両親を嫌いなわけではないし、両親は娘を大事に思っている。しかしお互いに接し方がわからない。前景に出ているのは美緒と家族が変化していく姿だが、家族であっても他者であり、何を考えているのかは表現しなければわからないということが背景に横たわっているのだ。彼らは歩み寄りはするが、最後まで理解しあったとは多分言えない。しかし、それぞれが自分の生き方を少し柔らかくする。その媒介になるのが紘治郎で正により糸のような存在なのだが、紘治郎もまた自分の生き方の中で家族を傷つけたこともある。だからこそ取返しがつかなくなる前に、と孫たちを促すのだ。とは言えこういう拘りの強い人が家族だったら結構面倒くさいなー。あまりに色々出来すぎて対等に向き合うのが難しいタイプだし、それが家族内の拗れを生んだようにも思えた。
 盛岡市内の描写が具体的で、実在の場所や商品名が色々出てきて楽しい。具体名が出てこない店も、多分あのあたりでは?と見当がつく。ご当地小説としてはとても良い。ただ、地元の人は「じぇじぇ」ってあまり言わない気がするんだけど…今は違うのか?また自分にとって馴染み深い絵本や児童文学のタイトルが次々出てくるのは予想外でこれも楽しかった。私も『のばらの村のものがたり』大好きで滅茶滅茶憧れた。

雲を紡ぐ (文春e-book)
伊吹 有喜
文藝春秋
2020-01-23


BAR追分 (ハルキ文庫)
有喜, 伊吹
角川春樹事務所
2015-07-11


 

『五十八歳、山の家で猫と暮らす』

平野恵理子著
 母を亡くした後、実家の片付けに手がつかず、一時避難のつもりで猫を連れ、八ヶ岳の山荘に移り住んだ著者。2年余りがたつが離れがたく、山での暮らしが定着していく。四季の美しさと山の家での生活を綴ったエッセイ。イラストレーターである著者による挿絵も美しい。
 私は八ヶ岳方面が好きで毎年ドライブに行く(紅葉の時期は必ず行きたい)のだが、その風景や空気の感触が懐かしくなるエッセイだった。著者の住まいは両親が若いころに買った山荘で、近年まで給湯器がなかったという古さ。越冬することになってからようやく工事したとか。冬は当然水道管の凍結に四苦八苦するが、コンタクトレンズの保存液まで凍るとは、室内の寒さは相当なのではないか。山での暮らしは寒さや虫、はびこる野草といった不便さも多々あるが、やはり楽しいのだろう。いわゆる「優雅な高原の別荘」では全くない、家や庭の手入れをしたり鳥や植物の観察をしたりという、一人の生活の喜びが綴られている。作中、メイ・サートンの著作に思いをはせ「「孤独」ではなく「独立孤」のニュアンスを感じさせる言葉があると、よりサートンの気持ちを正確に表せるのではないか。」という一文があるのだが、確かにそうだなと思った。また山での生活を「日常を暮らしながらも、機が熟すのを待っているのです。モラトリアムですね」という一文には、大人でもしんどい時はモラトリアムに入ってもいいのかもなとちょっとほっとする(ただ、元々都会住まいの人にとってはモラトリアムになるということなわけだけど…)。
 山に暮らすきっかけになった母の死についての文章が刺さった。いつかはこういう痛切な寂しさに直面する日が来るのか。その訪れを具体的に想像できる年齢に自分がなった、年を取ったんだなとも思う。

五十八歳、山の家で猫と暮らす
平野 恵理子
亜紀書房
2020-03-27


散歩の気分で山歩き
平野 恵理子
山と溪谷社
1996-11T


『黒魚都市』

サム・J・ミラー著、中井融訳
 温暖化により海面上昇が進んだ近未来。巨大建造物クアナークは、高度なAIに管理された海上都市だが、ブレイクスと呼ばれる感染病が蔓延しつつあった。ある日、動物と精神を通わせる女性がホッキョクグマとオルカを連れてやってくるという噂が広がる。
 温暖化による環境破壊、資源の奪い合いと紛争、難民問題、拡大する経済格差、そして感染病という今の社会をそのまま投影したような要素が組み込まれている。本作が書かれたのは新型コロナ流行の前なので、感染病についてはたまたまなわけだけど…。クアナークは北極圏に近く、広く使われている言語がスウェーデン語や中国語だったりするあたり、温順だったエリアは水没し北部と強大な資本力・ネットワークを持った国だけが生き残り、あとは難民化している様子が垣間見え面白い。AIに管理されたテクノロジー都市である側面と、難民たちがひしめくスラムとの両極から成る、重層的(文字通り上へ上へ延びる構造なわけだし)な都市の姿が一つの魅力だ。街中で多くの人が「地図のない街」という作者不明の語りを耳にするが、都市そのもののであるようにも読めてくる(とはいえそこにはある人物の意図があるわけだが)。チャイナ・ミエヴィルやパオロ・バチガルピの作品を連想した。
 神秘的にも思える動物との精神の共有「ナナイト」は、実はナノマシンによるもので、非人道的な実験により生まれたので根絶されたもの。動物との意識の共有、自分の意識が拡張されるような解放感は非常に魅力的だが、功利主義的な科学技術の産物だ。こういう科学が魔法に見える様がSF小説の醍醐味の一つだと思う。一方、ブレイクスは感染者に幻影を見せ、他人の記憶やイメージに浸食されるような症状を起こす。ブレイクスが人間の社会のあり方を変えるのではという兆しが見られるが、その方向は集団無意識のような、少々スピリチュアルなものに思えた。「地図のない街」は物語の共有として、その媒介になっているのでは。


第六ポンプ
パオロ バチガルピ
早川書房
2014-02-21


『火山のふもとで』

松家仁之著
 1982年、建築家の村井に憧れ村井設計事務所に入所した「ぼく」は、浅間山のふもとの山荘に滞在する。村井設計事務所では毎年夏になると、事務所機能を軽井沢の別荘に移転する慣わしなのだ。村井はフランク・ロイド・ライトに師事し、大規模ではないが質実で美しい建物を生み出してきた。そんな村井が、国立現代図書館設計コンペへの参加を決める。意外な選択ではあったが、所員たちは秋のコンペに向け仕事に打ち込む。一方、「ぼく」は先生の姪に惹かれていく。
 本作の舞台である浅間山のふもと、軽井沢から更に標高の高い土地にある「夏の家」は、実在の町を舞台にしている。旧軽井沢からの車でのルートや、今は廃線になった鉄道の駅、その駅を臨む交差点など、手に取るようにわかるご当地小説としての側面がある。私もモデルとなった町に毎夏通っているので、自分の中の夏休みの記憶と結びつき、何とも懐かしい。鳥の声や変わりやすい山の天気等ちょっとした描写に、ああそうそう!と頷いた。「落ち葉がクルマにまきあげられているのを見た時の、胸をしめつけられるような感じ」という表現には、まさにそういう感じだと深く頷いた。
 とはいえ「夏の家」はある時期が来たらそこを去ることがあらかじめ決まっている場所であり、それ故滞在していてもどこか寂しさが漂う。その寂しさは、「ぼく」にとって(他の所員にとっても)村井設計事務所は長く留まるものではないだろう予感ともつながっている。「ぼく」はまだ若く過渡期で、「夏の家」はいずれ立ち去る場所になっていく。また村井や彼と親しい人たちが既に高齢であり図書館設計が最後の大きな仕事になるであろうことが、終わりの気配を強める。
 「ぼく」と周囲の年長者たちとのやりとり、自然風景と建築の描写、建築の基盤となる村井の思想等、奥行のある作品だが、女性たちとの関係性の描き方のみ妙に薄っぺらい。昔のあまり出来の良くない文芸小説みたいだ。殆どの登場人物が「苗字+さん」で表される中、2人の女性のみが敬称なしの名前のみで表されるのがひっかかった。「ぼく」との関係性を示唆するためではあろうが(うち一人は他の登場人物の親戚で苗字が同じだし)少々あからさますぎるし、他の人に対しては普段呼びかけているような表記(一人称小説だから)なのに、この2人のみ心の中では呼び捨てか…という不自然さ、というより無自覚の失礼さを感じた。少なくとも一人称「ぼく」パートでは敬称付の方が自然なのでは。

火山のふもとで
松家仁之
新潮社
2013-03-29


光の犬
仁之, 松家
新潮社
2017-10-31



『きらめく共和国』

アンドレス・バルバ著、宇野和美訳
 1994年、亜熱帯の町サンクリストバルに奇妙な子供たちが現れる。彼らは物乞いや盗みで生活しているようだが、その言葉は町の人達には理解不能で、人々を不安に陥れた。子供たちはついにスーパーを襲撃して死人まで出る事態に。そして数カ月後、不可解な状況で32人の子供たちが一斉に死んだ。一体何があったのか。
 事件から22年後に、当時社会福祉課の課長だった人物による語り、という形式の小説。後になってから記録を辿る、どういう事態だったのか見えてくるという、謎解きのような要素もある。とは言え、わかったような気になるだけで芯の部分はわからないままなのでは、という不安感が全編を覆っている。子供たちはどこから来た何者なのか、彼らはなぜやってきたのかという部分は断片的に見え隠れするのみだ。むしろ町の人々、特に大人にとっては圧倒的な異物、他者として現れる。異物、未知の他者は(その恐れが不条理なものであっても)恐ろしく、その恐れがさらなる暴動を招く。ただ、不可解な存在であっても彼らには彼ら独自のコミュニティーがあったのかもしれない、そこには新しい社会の可能性があったのかもしれないと示唆される。その可能性こそを大人たちは恐れたとも言えるのだが。これまであったかもしれないもの、この先生じたかもしれない可能性をぶった切る形の終わり方に、投げ出されたような気分になる。

きらめく共和国
アンドレス・バルバ
東京創元社
2020-11-11


ふたりは世界一!
アンドレス・バルバ
偕成社
2014-04-09


『暗い世界 ウェールズ短編集』

河野真太郎編
 見ず知らずの他人の葬式にもぐりこむ少年たち(「暗い世界」)、競歩の強豪選手とライバルたち(「あんたの入用」)、長閑な田園風景にも戦争が影を落とす(「失われた釣り人」)等、ウェールズ英語文学の短編小説5編を収録した作品集。
 ウェールズ小説(正確には英語で書かれたウェールズをルーツとする作家の小説)に触れるのは初めてなのだが、描かれている時代の幅(1910年代あたり~現代)から、ウェールズの社会が見えてくる。各編ごとに丁寧な解題があるので読み解きの補助線になり助かった。
 表題作「暗い世界」は、少年たちのおやつ稼ぎ兼悪ふざけの世界がある出来事から正に「暗い世界」になるという、急転のあざやかさと不吉さにインパクトがあった。先の見えなさ、不安さが漂う社会情勢だったのかもしれない。不安さという面では「失われた釣り人」の不安も重く厚い。第二次大戦下で、舞台となる田舎町にも空襲の被害が及んでくる。自然描写が生き生きとして美しくとても魅力があるのだが、その美しさは人間をそっちのけで存在しているように思えてくる。どこか陰鬱な影のある作品の中、「あんたの入用」はどぎつめのユーモラスさがあった。人間てしょーもないな!というユーモラスさではあるのだが。

暗い世界
堀之内出版
2020-08-03


『ガン・ストリート・ガール』

エイドリアン・マッキンティ著、武藤陽生訳
 富豪の夫妻が自宅で射殺される事件が起きた。家庭内の争いで一人息子が容疑者と思われたが、その息子は崖から転落した死体として発見される。オックスフォードを中退したという息子の過去に不審さを感じた警部補ショーン・ダフィは、二重殺人を疑い捜査を開始する。しかし更に関係者の死体が発見される。
 ショーン・ダフィシリーズついに4作目!いやーちゃんと日本での出版が続いてよかった…ありがとうハヤカワ…。シリーズを重ねるごとにダフィの人となりへの理解が深まり、時代背景も色濃くなっていくので続けて読むと面白さがより強いのだ。訳文のグルーヴ感も徐々に増し、今回は相当ノリノリだった。アイルランドなまりの「あい」だけでなく、女性の話し言葉の語尾の処理(これは今までも上手いなと思っていたけど)の仕方など、登場人物個々のキャラクターが端的に反映されていて相当良いと思う。巻末の訳者あとがきが熱いので必読だ。
 毎回徐々に事件のスケールとダフィの行動範囲が広がっていくのだが、今回もだいぶ広がり、終盤はついにそこまで広げる?!という事態に。しかしその自体への相対し方に、ダフィという人のパーソナリティ、倫理観が色濃く表れていたと思う。ダフィは決して品行方正な警官というわけではないし北アイルランドの現状にうんざりもしている。ただ、そういった現状を大きな図式の一部として捨て置く人たち、「広い視野」を持てという人たちに組することには強く抵抗する。彼が正そうとするのは今ここで行われる犯罪や不正だ。末端にいる人たちが大きなもの、組織や大義の犠牲になっていくことには率直に怒る。たとえ自分の力が到底及ばないことであっても。ダフィの時に無謀、愚かとも見える行動の底にはそういった抵抗、怒りがあるのではないか。
 なお意外と文芸の素養豊かなことが垣間見えるダフィだが、今回はジャズや現代音楽の素養も見せている。武満徹とか尖っていた時代のマイケル・ナイマンとか聴いているのだ。ニューウェイブはお嫌いなようで残念ですが…。


ガン・ストリート・ガール
Universal Music LLC
1997-03-20


『コロナ禍日記』

橋本一子・円城塔・王谷晶・大和田俊之・香山哲・木下美絵・楠本まき・栗原裕一郎・田中誠一・谷崎由依・辻本力・中岡祐介・ニコ-ニコルソン・西村彩・速水健朗・福永信・マヒトゥ-ザ-ピーポー著
 2020年の春先から新型コロナウイルスが流行し、日常生活は激変した。各国で感染者死亡者数が増加し行動が制限される中、様々な職業の17人が綴った数カ月にわたる日記を収録したアンソロジー。
 他人の日記は文章が多少下手でもそれなりの面白さがあるものだが、17人いれば17通りの面白さがある。日本国内だけでなく海外(韓国、イギリス、ドイツ)に住む人のものもあるが、感染拡大の進捗時期や政府の対応等が日本とは結構異なり(拡大の仕方自体はそんなに変わらないが、政府の対応は結構違う)、そこも面白い。その場所にいたからわかる切迫感やよそ者として見た時の距離感、また外から日本がどういうふうに見えたかという部分が興味深い。コロナ対応のあれこれで日本の株はだいぶ下がったな…。
 生業も住んでいる場所も違う人たちの日記なので、感染拡大していく状況から生じる危惧や不安、怒りのベクトルの強さ・方向もまちまち。休業状態に陥りもろに経済状況に影響している人も、当面は経済活動を続けられる人もおり、ひっ迫感は当然異なる。また単身居住だったり乳児、幼児を抱えていたりと家族構成も様々。乳児いたら(そもそも不安なのに)不安倍増だし、子供は在宅生活でエネルギーを持て余している。子供がいる状態で保護者が在宅勤務をするのは相当難しいということがしみじみ伝わってくる。コロナ禍によって個々の生活様式、背景の違いによる生活の難易度格差が浮き彫りになってしまったな。ウイルスそのものへの恐怖感の度合いも人それぞれなので、そこでもギャップが生まれる。「私たち」というくくりがどんどん解体されている気がした。
 なお(平常時は)皆さん結構外食やテイクアウトしているんだな…。外食を切望する人が結構いてちょっと新鮮だった。どの人の日記も食事への言及がかなり多いのだが、自分が食にそれほど強い拘りがなくなっているんだなということに気付いた。

コロナ禍日記
マヒトゥ・ザ・ピーポー
タバブックス
2020-08-17


仕事本 わたしたちの緊急事態日記
立川 談四楼 他77人
左右社
2020-06-23


『カメレオンの影』

ミネット・ウォルターズ著、成川裕子訳
 英国軍中尉アクランドは、派遣先のイラクで頭部と顔面に重傷を負った。送還されたイギリスの病院で目覚めた彼は、それまで見せなかった暴力性をあらわにし、特に女性に対する極端な嫌悪感を示して周囲を困惑させていた。除隊した彼はロンドンに移り住むが、近所で男性を狙った連続殺人が起き、警察の尋問を受ける。
 アクランドは容疑者としてぴったりの人物に思えるし、彼は何か隠し事があるようで言動には不審な点が多い。人柄が豹変したのは脳の損傷によるものなのか?彼はいったい何を隠しているのか?警察の調書や精神科医らの所見を挟みつつ展開していくが、アクランド以外にも怪しげな人たちが続々と出てくるし、誰が嘘をついているのか、証言のどこが嘘でどこが真実なのか、どんどんわからなくなってくる。彼の元恋人も母親も、知り合いのホームレスや家出少年も、皆何かしら嘘をついているように思えるのだ。アクランドとはいったい何者なのかという方向に読者の関心は向くだろうが、そこでちょっとずらしてくるので意表を突かれる。意表のつき方が上手いかどうかはちょっと微妙なのだが…。様々な部分で「逆張り」を狙っているようなミステリ。誰がどんな嘘をついているのかという謎で読者をどんどんひっぱっていく。

カメレオンの影 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ
東京創元社
2020-04-10


悪魔の羽根 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ
東京創元社
2015-05-29


 
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