3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

本題名か行

『警官の街』

カリン・スローター著、出水純訳
 1974年のアトランタ。3か月間で警官4人が殺害される事件が起きていた。どの死体もひざまづき額を撃たれるという処刑スタイルのもので、犯人は“アトランタ・シューター”と呼ばれていたが、証拠は何もなく容疑者も上がっていなかった。5人目の被害者が出たが、今までとは殺害スタイルが違う。女性警官マギーは捜査に加わりたいと熱望するが、男性社会の中ではまともにとりあってもらえず、独自に調べ始める。
 警察小説として、70年代を描いた小説として、この時代・場所で女性として生きることがどういうことか描いた小説として、とても面白かった。警察という組織の体質に加え土地柄もあるのか、人種差別、女性差別が厳しい。女性が警官になるということ自体が(ことに警察内部から)白眼視されていた時代だ。マギーが男性同僚から受けるセクハラは耐え難いし、母親や叔父から受ける警官を辞めろというプレッシャーもきつい。特に母親と叔父とが違った形でマギーを縛ろうとする様には怒りが沸いてくる。一方、育った環境からして警官らしからぬ新人警官ケイトの下剋上的奮闘は清々しい。冒頭とラストの対比にはぐっとくる。女性達の共闘に対して、白人男性警官らによる警察という組織の異形さが浮かび上がってくる。

警官の街 (マグノリアブックス)
カリン・スローター
オークラ出版
2015-12-25


あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ローリー・リン ドラモンド
早川書房
2008-03-01






『コールド・コールド・グラウンド』

エイドリアン・マッキンティ著、武藤陽生訳
 12980年代の北アイルランド。片腕を切断された男性の死体が発見された。無くなった片腕の代わりに現場には別人の片腕が残され、更に体内からはオペラの楽譜が見つかる。刑事ショーンはテロ組織の粛清に見せかけた殺人事件ではないかと疑う。彼の疑いを裏付けるように、「迷宮」と記された犯人からの挑戦状と思しき手紙が届く。
 80年代北アイルランドではIRAを筆頭に武装勢力が乱立、紛争が日常茶飯事になっており、殺人と言えばテロや組織間の抗争、粛清によるものと相場が決まっていた。ショーンが遭遇したような政治的背景が見えない「普通」の殺人事件の方が優先順位が低いという、特殊な時代背景が本作の肝。テロの脅威の前には殺人犯逮捕という正義の執行は霞んでしまう。捜査に慣れていないショーンたちの捜査はかなり危なっかしいし、警察としてもそこに労力を割きたくないという本音が見え見えなのだ。また、ショーンはカソリックなのだが、周囲がプロテスタントの中カソリックとして生きる、しかも警官であるということがどういうことか、緊張感が肌感覚で伝わってくる。当時を舞台にした映画で、車を出す前に底を確認する(爆弾が取り付けられていないか確認する)という動作を見たことがあったが本当に毎回やってるんだな・・・。
 ショーンは聡明とは言い難く(最近のミステリ小説ではなかなか見なくなった推理のへっぽこさ)、どこかふらふらと定まらなくて暴走しがち、様々な面でゆらぎの大きい人物なので、読んでいる間中心もとない。本作単体でというよりも、シリーズとしての展開が期待できそう。音楽や映画などサブカルチャーへの言及も多く、当時を体験した人ならより楽しめるのでは。


HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗 [Blu-ray]
マイケル・ファスベンダー
ギャガ
2014-10-02





『家族シアター』

辻村深月著
 “真面目な子”=イケてない姉に対する反発、娘との価値観の違いへの戸惑い、不本意な保護者会、帰国子女の孫に対する距離感のわからなさ。家族を巡るとまどいを描く7編を収録した短編集。
 家族とは一番身近な他人であるということが、どの短編にも描かれている。家族なのに分かり合えないのではなく、他人だから分かり合えないのだ。家族だからと油断するわけにはいかない。と同時に、家族「なのに」仲が悪い、わからないと悲観することもないということでは。だって他人だもん!わからなくて当然!本作に登場する家族たちは、特に仲が悪いわけでも理想的に仲が良いわけでもない。時にイラつくし腹は立つが、なんとなく一緒に暮らしている。そんな中で、この人本当はこういう人だったんだ!こういうことを考えていたんだ!とはっとするような瞬間がある。そういう瞬間を受け入れていく、積極的に探していくと、なんとなく家族を維持しやすくなるのではないだろうか。

家族シアター (講談社文庫)
辻村 深月
講談社
2018-04-13




『君の名前で僕を呼んで』

アンドレ・アシマン著、高岡香訳
 17歳の夏、両親と過ごす北イタリアの家で、エリオは24歳のオリヴァーと知り合う。オリヴァーは大学教授である父が招いたアメリカ人研究者だった。エリオはオリヴァーから目を離せなくなり、話をすれば幸せに、目をそらされるとひどく傷つくようになっていく。
 本作を原作にした同名映画を見た後、原作も気になって読んでみた。映画を見た段階では、てっきり中短篇くらいのボリュームかと思っていたら、結構な長編小説。あの人と話したい、触れたい、セックスしたいというのみの内容でこの文字数を費やす、しかも美しくきらきらとしている所が、正に青春のまぶしさと高揚感という感じ。エリオの思いと言葉が迸り、前のめりになっているような勢いがある文章。映画ではいまひとつニュアンスがつかみにくかったオリヴァーの「あとで!」という言い回しや、半熟卵の食べ方が下手な件など、小説では文字数を費やしており、こういうことかと腑に落ちた。そして研究者であるオリヴァーはもちろん、エリオも目茶目茶教養あるよな・・・。
 映画との最大の違いは、2人のその後だろう。小説の方が「それでも人生は続く」的な方向で、映画の方が「今、ここ」の思いが凝縮されている。ただどちらにおいてもエリオにとってのオリヴァー、オリバーにとってのエリオは消えない痣のように自身の中に焼き付けられた存在なのだとわかる。

君の名前で僕を呼んで (マグノリアブックス)
アンドレ・アシマン
オークラ出版
2018-04-20



『勝手にふるえてろ』

綿矢りさ著
 26歳の江藤良香は経理担当の会社員。中学校の同級生(だが卒業以来会ったことがない)イチに延々と片思いを続け、恋愛経験はない。会社の同僚に熱烈なアプローチをされて付き合い始めるが、イチのことが忘れられない。良香は理想の恋と現実の恋との間で右往左往する。
 映画化されたものがとても面白かったのだが、原作はこういう感じだったのか!「映像化するとこうなるのか!」じゃなくて「文字化するとこうなるのか!」という本来とは逆の面白さを味わってしまった。とは言え良香の一人称で、彼女の妄想と現実に読んでいる側も振り回されていく所は同じ。小説の方が映画よりも客観的な感じがするのは、映画を見るより小説を読むほうが没入感が薄い(私にとっては)からかな。題名でもある「勝手にふるえてろ」という言葉の使い方が映画とは全然違うところも面白かった。そしてニがニでなく呼ばれる瞬間にはっとする。2人の関係がはっきり変わったことがわかるのだ。

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢 りさ
文藝春秋
2012-08-03


勝手にふるえてろ [DVD]
松岡茉優
Sony Music Marketing inc. (JDS) = DVD =
2018-06-06


『暗い越流』

若竹七海著
 凶悪な殺人犯に、ファンレターが届いた。「私」は弁護士の依頼を受け、差出人は何者か調べ始めたが、その女性は5年前に失踪していた。表題作の他、探偵・葉村晶シリーズ2編を含む中短編集。
 表題作の題名が象徴的だが、人の心の暗い部分が浮き上がってくる話ばかり。暗さの度合いや経緯を書き込める長編とは異なり、作為が目立ちすぎ、ちょっと露悪的なように思った。短編ミステリだとどうしてもまとまりのいいインパクトやトリッキーさが強調されがちだからだろう。面白いことは面白いけど、後味の悪い短編ミステリという枠から出てこない。

暗い越流 (光文社文庫)
若竹 七海
光文社
2016-10-12


御子柴くんの甘味と捜査 (中公文庫)
若竹 七海
中央公論新社
2014-06-21

『回避性愛着障害 絆が希薄な人たち』

岡田尊司著
 人間関係、親密さや信頼の度合いは人によって異なる。その根底にあるのが愛着スタイルの違いと考えられている。近年、人間関係の希薄さを指向する人が増加しているが、その典型は回避性パーソナリティと呼ばれるもので、これも愛着スタイルの一つのケース。愛着スタイルにはどのような分類があり、個人の性格・行動にどのような影響を及ぼすのか、愛着障害による問題にどのように対応するのか解説する。
 愛着スタイルは幼少時の母親との関係で形成されるというのが定説で、母子関係に適切な密着が保たれないと、成長過程で他人との深い関係を避ける傾向、新しいものへの挑戦等を避ける傾向が出てくるとのこと。愛着スタイルの差異、パートナーとの愛着スタイルとの相性により補完できるケースがあるというのは、対人上の問題が対人の中で解消されていくケースとして面白いなと思った。
 ただ、母子密着の必要を強調しすぎな気がした。その重要さは事実としてあるのだが、現代社会でそれを要求するのは酷だと思う。逆に母親のメンタルに問題出てきそうだし・・・。また、近代以前は母子の密着期間がもっと長かったという指摘については、本当にそうかな?と。確かに同じ場にいる時間は長かっただろうけど、母親は母親で家事や農作業に奔走していたんじゃないの?と。著者は近代以前に回帰しろとか母親は就業せず育児に専念すべきと言っているわけではないが、愛着障害の原因を母子関係に帰結させすぎると、母親に対する不要なプレッシャーになりそう。そもそも、人間てそんなに情愛豊かな生物なんだろうかという疑問もある。元々絆指向が希薄な人は一定数いて、これまで集団生活の中で生存出来ず淘汰されていったのが生存出来るようになったという面もあるんじゃないかなー。




『彼女が家に帰るまで』

ローリー・ロイ著、田口俊樹・不二俊子訳
 1958年、デトロイトの小さなコミュニティで若い白人女性エリザベスが失踪した。コミュニティあげての捜索が行われるが、彼女は見つからない。同じころ若い黒人女性が撲殺される事件が起きていたが、殆どの白人はこれには無関心だった。ただ一人、マリーナを除いては。
 時代背景や土地の雰囲気が感じられとても面白い。舞台はデトロイトでそんなに田舎というわけではないが、舞台となるコミュニティはお互いが顔なじみのごく小さく緊密なもの。しかし、それぞれの家庭には外には出せない事情があり、表面上の和やかさとはうらはらに主婦たちには秘密がある。家の中のことが意外と外に漏れない、だからこそ密室状態で不穏さが膨らんでいく。マリーナにしろグレースにしろ、夫の影が濃くそれが彼女らの問題をどんどん悪化しているように思う。夫の機嫌を損ねてはいけない、夫を満足させなくてはいけないというプレッシャーが常にある。本作は妻たちの視点でほぼ描かれ夫らの内面はさほど見えてこないので、妻側が感じているギャップがより強く感じられる。しかしそのギャップは、人に言ってはいけないものとされているのだ。この「言えない」ことがある人にとってもあまりに重荷だったのではないか。唐突に明かされる真実はやりきれない。

彼女が家に帰るまで (集英社文庫)
ローリー ロイ
集英社
2016-04-20



ベント・ロード (集英社文庫)
ローリー ロイ
集英社
2014-09-19


『壊れた海辺』

ピーター・テンプル著、土屋晃訳
 刑事キャシンは心身共に傷を負い、海辺の故郷に戻って地元の警察署で働き始めた。ある日、慈善事業等でも知られた資産家が自宅で殺される。物取りの仕業と思われ、容疑者として浮上したのは、高価な時計を売りに来たアボリジニの青年たちだった。彼らを追い詰めた警察は、2名を射殺、1名を逮捕。事件は終わったかに見えたが、警察の対応に疑問を感じたキャシンは捜査を続ける。
 オーストラリアを舞台にした作品で、都市部ではないオーストラリアの風土、文化が色濃く見られる。特にオーストラリア先住民であるアボリジニ(作中ではこの表記だが、近年は差別的な響きがある為に殆ど使われない。アボリジナル、アボリジナル・ピープル等と称するそうだ)に対していまだに差別が色濃く時にぎょっとさせられる(本作の舞台は現代)背景、また観光地化に伴う自然破壊問題等も、作中の事件とも関わってくる。やたらと広大で乾燥しており、雄大な大地というよりも荒涼とした土地という感じ。
 本作、文章に独特の読みづらさがある。基本キャシン視線の文章だが、急に過去の事件に言及したり(しかもそれが伏線になっているとは限らない)、キャシンの思考に空白が出来たかのようにシチュエーションが飛躍したりする。物語の主線上でのジャンプが多い感じだ。ただ、このスタイルが本作の持ち味になっている。キャシンは同僚を、そして自分のことも傷つけた過去の事件にことあることに引き戻されるが、この過去に引き戻されるという行為が、本作の中心にある事件の背景にもあるのだ。

壊れた海辺 (ランダムハウス講談社文庫 テ 3-1)
ピーター テンプル
武田ランダムハウスジャパン
2008-10-10




『声』

アーナルデュル・インドリダソン著、柳沢由実子訳
 クリスマス目前でにぎわうヘルシンキのホテルの地下で、ホテルの元ドアマンの死体が発見される。クリスマスパーティーにサンタクロース役で登場するはずだった男は、サンタの衣装のままめった刺しにされていた。捜査官エーレンデュルは捜査を進めるうち、男の意外な過去を知る。
 クリスマスシーズンで世の中が浮き立っているが、妻とはかなり前に離婚して独り身、娘とはぎこちなく(シリーズ1,2作目で経緯が描かれる)息子とは疎遠なエーレンデュルは所在なさげ。部下に気を使われ、各方面から「クリスマスはどう過ごすんですか?」と何度も聞かれるというもはや反復ギャグのようなやりとりがおかしい。エーレンデュル、自宅に帰るのも気が進まず事件現場のホテルにそのまま泊まってしまうのだからよっぽどである。でも自分では絶対所在なさを認めないのだろう。彼の頑固さと独特の陰気さが魅力となっている奇妙なシリーズだ。
 彼の感じる自分とクリスマスとの無縁さは、被害者が感じていたものでもあるのかもしれない。また、エーレンデュルの過去の傷と、被害者の過去、そしてもうひとつの事件とが呼応していく。共通するのは家族の繋がりの危うさと断ち切れなさだ。すっぱりと諦められれば楽なのに、何で手放せないのかという。登場人物それぞれを、過去から続く傷がすこしずつ浸食し続けているようで痛ましい。

声 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン
東京創元社
2018-01-12


緑衣の女 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン
東京創元社
2016-07-10

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