チョン・セラン著、すんみ訳
職場でのハラスメントに疲れ切り屋上から飛び降りてしまおうかという衝動にかられた「私」は、先輩たちからある呪文書を渡される(「屋上で会いましょう」)。あるウェディングドレスの変遷(「ウェディングドレス44」)、韓国版吸血鬼はたまたゾンビ(「永遠にLサイズ」)、中東からの留学生の奇妙な体験(「ハッピー・クッキー・イヤー」)など9編を収録した短編集。
『フィフティ・ピープル』が抜群に面白かった韓国作家の短編集。SFっぽいもの、ホラーテイスト、ちょっとファンタジックなものと、自分の隣に住んでいる人の話のような小説が入り混じっておりバラエティ豊か。ただ、素っ頓狂な設定であっても、そこに登場する人たち(往々にして女性)が感じる苦しさや居場所のなさは身近なものだ。表題作の「私」が現状から脱出しようという珍妙な試みの行き先には笑ってしまうのだが、笑えない。追い詰められ方は生々しく、もうぎりぎりの状態なのがわかるのだ。女性先輩たちは皆結婚して脱出ちゃうなんてひどい!という取り残され感とか、脱出したにせよそれが結婚という制度によるものだという納得のいかなさ。その納得のいかなさを逆手にとったとんでも設定ではあるのだが、現実と照らし合わせると更に悲しくなってしまうね…。とは言え、どの収録作も哀しみとおかしみが一体になっており、ペシミズムでは終わらせない。「離婚セール」のちょっと悲しくしんどいが身軽になるような後味がよかった。