髙村志保著
長野県茅野市で「今井書店」を営む著者が、日々思ったこと、体験したことを様々な本の記憶を交えながらつづった読書エッセイ。
題名には「絵本」とあるが、絵本だけではなく一般書の小説や随筆、図鑑や詩歌の本等、様々だ。生活の中で何かしら、特に不愉快なことや悲しいことがある度に、そういった思いに寄り添って緩和してくれる(読んでいて悲しい気持ちになる本であっても自分の悲しみ自体は緩和されるというのは不思議なことだ)本があるというのは幸せなことだと思う。そういった、読書を愛する人なら一度は感じるであろう思いが全編に綴られている。本を読まなくても済む人も当然いるわけで、それはそれで幸福なことだと思う。ただ、にっちもさっちもいかない時、疲れ果てた時に読書体験が拠り所になることは往々にしてあるんじゃないだろうか。自分のみではどうにもならない時には、本の中という自分の外からやってきたもの・自分のことではないが自分のことのように思えることに触れると、客観視してクールダウンできるからか自分だけではないと思えるからか、気持ちが楽になることがある。本著の中でもそういった出来事がいくつか語られるが、特に「落花生」は痛切だ。著者と父親との深い絆、そして抜き差しならなさは以前の著作『絵本の中へ帰る 完全版』でも垣間見られたが、こんなにもだったかと。それを言われたら立ち直れない…。そういう気持ちに寄り添うのも本だ。そういう寄り添う本を思い起こせる著者の引き出しの豊かさが魅力。