憂鬱な時、鬱を患う時に読んだ本、思い出す本、それ自体鬱のような本等、鬱と本を巡る総勢84人によるエッセイアンソロジー。
本著の著者たちによる「鬱」は、憂鬱な気分であったり病の状態としての鬱であったり、その境目であったりと人それぞれだ。84人いれば84人の鬱・憂鬱がある。そして84通りの「鬱の本」があるのだ。鬱といえばやはり太宰治だシオランだと納得のチョイスがあったり、滝本竜彦の寄稿を読んで生きていたかとほっとしたら、不登校『NHKにようこそ!』に希望と安心を与えられたというエッセイ(ふぉにまる著)があって何という呼応…!と震えたりする。ルーキーからビッグネームの超ベテランまで、あの人もこの人も鬱々としている。が、その鬱々が読者にはまるものかどうかはわからない。読者の鬱々もまた人それぞれだから。鬱々としがちな人に向けて作られた本ではあるが、キャッチする側に寄り添うかどうかというとまた別問題。
実際のところ、複数の著者が言及している通り病気としての鬱が重篤な時は読書などできないだろう。しかし一方で、鬱の時に本が生きるよすがになったと書く人もいる。これはどちらも正しい。その間をいったりきたりするのが鬱々と生きがちな人の生き方なのではないか。なるべく読み続けられるように。