3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『私は確信する』

 フランス南西部トゥールーズで、38歳の女性スザンヌ・ヴィギエが失踪した。夫である法学部教授のジャックに殺人容疑がかかるが、決定打となる動機も証拠もない。一心で無罪とされたものの検察は控訴。彼の無実を確信するノラ(マリーナ・フォイス)はデュポン・モレッティ弁護士(オリヴィエ・グルメ)に弁護を頼み込む。自らも250時間に及ぶ通話記録を調べるうちに、新しい事実がわかりはじめる。監督はアンドワーヌ・ランボー。
 実際の事件を元にした作品だが、作中の裁判の前提が色々微妙で気になってしまった。ヴィギエを有罪にするには物的な証拠がなさすぎて、ほぼ曖昧な状況証拠と警察の推測が根拠。また大量の通話記録も誰が何の目的で録音していたのか謎。事件が起きる前や直後のものもあるので、容疑をかけたから録音したというわけではないだろう。フランスの司法制度では珍しいことではないのか?実際もこういう条件だったのだろうか。だとするとちょっと奇妙な気がするが、マスコミのヴィギエ有罪論の過熱具合を加味し、陪審員制度下(この裁判は陪審員制度)なら有罪に持ち込めると踏んだのか?だとすると、被疑者のイメージ操作にばかり注力することになるのでは…。世間が「有罪」のストーリーを望んでいるのだ。
 ノラもまさしくこの点を懸念してモレッティに弁護を依頼するのだが、彼女は彼女で裁判にのめりこみすぎている。自分の仕事や家族は後回しだ。社会正義の為とは言えるが、それ以上にノラはノラで「無罪」というストーリーを見たがり夢中になっているように思えた。手にした情報を自分が望むストーリーに都合がいいようにあてはめていく。それはマスコミや世間がセンセーショナルに煽るのと似通ってしまう。
 モレッティが言うように疑わしきは罰せず、が法の原則だが、人間はそれでは納得できないのかもしれない。何か明瞭なストーリーを求めてしまう。警察の捜査やマスコミの推測もベースにはストーリーの想像があり、それは別に悪いことではないのだが、法の判断とは別物だ。裁判で問われるのはまず法に則ってどう判断されるかというところだろう。本作、何が真実なのかを描く作品ではない。法を適切に運用することはカタルシスとは往々にして一致しないのだ。

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2020-12-02


失踪当時の服装は【新訳版】 (創元推理文庫)
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2014-11-28



『わたしの叔父さん』

 27歳のクリス(イェデ・スナゴー)は家族を失って以来、年老いた叔父(ペーダ・ハンセン・テューセン)の農場で暮らしている。足の不自由な叔父の介助をし、牛の世話と耕作に明け暮れ、週に1回スーパーマーケットへ買い出しに行くという、代わり映えのない日々が続いていた。しかしクリスは獣医になるという夢を思い出し、教会で出会った青年とデートするようになる。叔父さんも彼女の背中をそっと押すが。監督・脚本はフラレ・ビーダセン。
 デンマーク、ユトランド半島の農村を舞台にした静かなドラマ。クリスと叔父さんの生活はほぼ2人で完結している。たまに旧知の獣医が来てもお喋りがはずむわけでもない。クリスも叔父さんも言葉少ない性質だが、2人の間では通じ合っている。と同時に、2人ともお互いに言葉に出来ない気持ちがあり、それ故相手に伝わらないことも多々あるだろうと垣間見えてくる。クリスの農場と叔父さんに対する思いもその一つだ。彼女は獣医になりたくて大学進学まで計画していたものの、家族が死んだために断念し、叔父と同居するようになった。酪農という仕事にも叔父に対しても愛着があり、今の暮らしが不幸せというわけではない。とは言え全て納得ずくかというと、そういうわけでもないだろう。序盤、機械の修理をする叔父を見るクリスの表情の複雑さは、ちょっと鬼気迫るものがあって打ちのめされてしまった。静かなドラマだが、全く穏やかでも心温まるわけでもない。自分の人生、家族の人生に対する思いが矛盾をはらみ単純ではないこと、一筋縄ではいかないことが立ち現れていく。
 エレンは時に叔父や農場から離れたくなるが、いざ距離を置くイベントが起こるととたんにしり込みする。叔父への愛と心配だけではなく、彼女がこれまで体験してきたこと故に人一倍恐怖を感じるのだろうという事情も垣間見えるのだが、それにしても極端に思えた。デートに叔父を連れて行ってしまうエピソードはユーモラスな所ではあるのだろうが、エレンの傷の深さが垣間見えて正直笑えない。叔父さんも彼女の背中を押すようでいて、明言はしないという所が少々狡い気もする。ラストの皮肉さ、人生のままならなさが本作をより渋いものにしていた。

ぼくのおじさん [DVD]
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2017-05-10


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2019-06-04




『私をくいとめて』

 ひとりきりの生活を長らく続けている31歳の黒田みつ子(のん)。脳内の相談役「A」と会話することで心の平和を保ち、週末の一人レジャーも板についている。ある日、みつ子は取引先の若手社員・多田(林遣都)に恋心を抱き、晩御飯のおかずを分け合う仲になるが、次の一歩を踏み出せずにいた。原作は綿矢りさの小説。監督・脚本は大九明子。
 みつ子と「A」との会話は声に出していたらちょっとヤバい人だろうけど、やっていること自体はそんなに突飛というわけでもないだろう。誰しも、多かれ少なかれ自分内での討論みたいなものはやっているのでは。はたから見ていたら、みつ子は多分そんなに変わった人ではない、ごく普通なように見えるだろうし、実際わりとちゃんと生活している。ただ、そのごく普通さ、ちゃんとした生活を維持するために押さえ込んでいるもの、主にマイナス感情なものが多々ある。温泉でのエピソードは唐突にも見えるだろうが、普段押さえているものを象徴するような事態が目の前で起きて自分の中身を「くいとめ」られなくなりそうということだろう。対芸人だからとかではなく、会社の中であってもご近所づきあいレベルであっても、女性が世の中でただ生きているだけでもさらされる「嫌なこと」が象徴されていた。「A」が現れなくなった歯科医とのひと悶着もこれと同種の出来事だ。そして、衝動をくいとめてしまう自分自身に嫌悪感が抱くという堂々巡りがまた辛い。
 コミカルな描き方ではあるが、みつ子の苦しさは笑えない。辛さを一人で処理していると、どんどん自家中毒みたいになっていくのだ。ローマにいる間は「A」が出てこないのは、親友と一緒にいるからだろう。何が辛いということを具体的に言わなくても、そこに呼応してくれる人がいれば、Aがいなくても食い止められる。ラストのみつ子の言葉、やっとそれを投げられる相手がきたのだとちょっとほっとした。

私をくいとめて (朝日文庫)
綿矢 りさ
朝日新聞出版
2020-02-28


勝手にふるえてろ
片桐はいり
2018-05-06


『ワンダーウーマン1984』

 1984年のアメリカ。人間よりも遥かに長寿で超人的な力を持つスーパーヒーロー・ワンダーウーマンとして人助け励むダイアナ(ガル・ガドット)は、スミソニアン博物館で働く考古学者という身分を隠れ蓑にしていた。ある日、博物館に願いをかなえるという伝説のある石が持ち込まれる。鉱物学者バーバラ(クリステン・ウィグ)もダイアナも伝説を本気にはしなかったが、実業家マックス(ペドロ・パスカル)が密かに石を持ち出し本当に願いを叶えてしまう。監督はパティ・ジェンキンス。
 前半、いかにも80年代という街並みが映し出される。ショッピングモールでワンダーウーマンが強盗相手に大活躍するのだが、このパートは街並みや衣装、ヘアスタイルなど美術面だけではなく、モブ含め俳優たちの演技自体が80年代のハリウッド映画っぽい。オーバーアクション気味というか大味というか、あーこういう映画TVで(というか「午後のロードショー」で)見たことある…というよくわからない懐かしさを感じた。その懐かしみまで製作側の計算の内だったらすごいのだが、本作全体的にそういうノリで、よくも悪くも大味・大雑把。バーバラとダイアナの関係(コンプレックスと憧れから反転しての敵意なんて盛りのいいネタなのにあ!)や、マックスのキャラクター性、「真実」の声の使い方など、掘り下げようと思えばどんどん掘り下げられる要素が色々あるのに、全部ざっとさらいましたよくらいの扱い。ストーンの「願いをかなえる」ルールについても大雑把すぎて、今のはアリなのか?他の願いとの矛盾がどんどん増えるけど大丈夫?どの水準なら「叶えた」認定になるの?等々気になることが多すぎ。特に敵ボスであるマックスのキャラクターがいまいち立ち上がってこず、何が動機で何をどうしたいのかぼんやりしている。彼の生い立ちからくる欲望なのだと終盤に提示されるものの、取ってつけたみたいで、これまた勿体なかった。悪役に魅力がないというのはヒーロー映画としては片手落ちな気がする。
 何より、スティーブ(クリス・パイン)の使い方があまりよくない。ある経緯で復活する彼だが、ダイアナの背中を押す為だけの装置になってしまっているように思った。前作ではダイアナとの関係を一から築いていくというストーリーがあったので一人の人間としての彼の姿が立ち上がってきたし、彼にとってのストーリーの側面もあった。が、本作ではダイアナ側のストーリーのみで、彼の事情というのはほぼない。フィクションの中の生き死にはどんなものであれストーリーの為の装置にすぎないということはできるだろうが、あまりに安易に使われるとちょっと冷めるし寂しい。一作目と逆転した着せ替えシーンなど楽しい所もあるのだが…。
 なお、ダイアナの衣装が全て素敵だった。着られるものなら自分でも着たくなる。

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2019-07-03


『わたしは金正男を殺していない』

 2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の最高指導者・金正恩の異母兄・金正男が殺害された。マレーシア警察が逮捕した容疑者は若い女性2人。世界中に衝撃が走ったが、彼女らはとても「暗殺者」とは思えず北朝鮮との接点もありそうにない人物だった。監督はライアン・ホワイト。
 最近の事件だし、報道された内容が映画や小説のような劇的かつ謎の多いものだったが、容疑者逮捕の後の展開を追った本ドキュメンタリーは、更に「まるでフィクション」のような話。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。容疑者として逮捕されたインドネシア人のシティ・アイシャとベトナム人のドアン・ティ・フォンは一貫して無実を訴えた。彼女らは「いたずら動画」撮影のキャストとして仕事を頼まれ、相手が金正男だとは全く知らなかったし自分たちが持たされたのが劇薬だとも知らなかったと言う。当時、メディアでもこの辺りは報道されており、暗殺にしてはあまりに脇ががばがばだし容疑者たちは無防備だし、本当に何も知らないんじゃないかな?と思ったものだった。本作は彼女らの弁護士、北朝鮮に詳しイジャーナリスト、地元メディアの記者(マレーシアはマスコミに対する政府の統制が厳しく、ローカルメディアの方が動きやすい面もあるんだとか)らのコメント、様々な図解やシュミレーションから、事件を再構成し迫っていく。この過程がサスペンス映画ばりにスリリングでとても面白かった。
 マレーシア警察の動きが妙に鈍く、北朝鮮の関係者に対する捜査は何らされないまま出国させてしまったという経緯追求されていく。マレーシア政府は北朝鮮との取引の為に工作員を見逃したのではないかという。シティとドアンは工作員のコマで、本当に何も知らなかったのではという線が傍目にも濃くなっていくのだ。しかしマレーシア政府は面子の為に彼女らを犯人にしておきたかった。国の目的の為には個人の尊厳・命(マレーシアは死刑制度があるので殺人罪で有罪になったら確実に死刑になる)はどうとでもなる、ということを実演してしまっているのだ。ドアン、シティが「自分たちは軽く扱っていい人間だと思われていたということがショックだった」というのだが、これが痛切だった。彼女らは2人ともマレーシア人ではなく、言葉も流暢ではないし、人脈もお金もない。反論し身を守ることが難しい立場にあり、工作員も国家も、そこに付け込んだと言える。彼女らの弁護士も、マレーシアの司法制度とは何なのかと漏らす。北朝鮮の工作の強引さも恐ろしいのだが、一見法治国家であるマレーシアの闇を垣間見てしまった感がある。しかもこういう傾向は、マレーシアに限ったことではないのだろう。


『ワイルド・ローズ』

 スコットランド、グラスゴーに暮らすシングルマザーのローズ(ジェシー・バックリー)は、カントリー歌手として本場アメリカ、ナッシュビルに行くことを諦められずにいる。彼女の強い思いは、時に母親や幼い2人の子供を傷つけてしまう。大きなチャンスを目の前にしたローズは思い悩む。監督はトム・ハーパー。
 ローズが刑務所から出所するところから始まるので、えっそういう話なの?!と少々びっくりするけど、その後披露される彼女の喧嘩っ早さや歌うことに対する衝動の強さ、動物的とも言える行動原理は、確かにトラブルを招きやすいだろうなとわかってくる。一方で、久々にクラブのステージに立ったローズのパフォーマンスからは、歌声にもキャラクターにも人を引き付ける個性があることがわかる(バックリーの歌唱がすごくいい!ちょっと野太い感じにぐっときた)。
 ローズにとって歌うことは生きることにも等しいが、それゆえに歌うことと生活の両立しなさが苦しい。経済的にはもちろんだが、子供たちを最優先に出来ない苦しさがきつい。自分の母親に任せっきりだったとは言え、ローズは子供たちを愛しており、やろうと思えば「ちゃんとした母親」をやれる力もある(一念発起してからの部屋の整い方は、家事全般基本的にできる人のものだよな…)。しかし、それをやり続けると彼女が本来生きたい道は閉ざされていく。ただ、母親が「責任を持ってほしかったけど希望を奪うつもりはなかった」と言うように、両方あっていいのだ。
 本作、困難な状況にあるヒロインがハードルを越えて夢を掴もうとするという古典的なストーリーだが、ちょっと新しい、「今」の作品だなと思う点がいくつかあった。この責任と希望と両方正しいという点もその一つ。あれかこれか、ではなく、何とかして両方それなりに成立させていくことが是とされる。また、夢を追うというと故郷・家族を捨てるというイメージがあるが、そこも別に捨てなくていいのでは?と提示される。ローズはちょっとレトロなところがあって、カントリーをやるならナッシュビルに行かないとならない(まあグラスゴーでカントリーというのはかなり変わっているんだろうけど…)、有名になるにはラジオ局に手紙を出し続けなければならない、と思い込んでいる節があるが、それこそ「メールを出す」ことだって出来る。夢のかなえ方、生き方が一様ではなくなっているし、あれかこれかの二択の世界ではなくなっているんだ、色々やれるんだという話にも思えた。
 なお、シンデレラガール的なお話だと、ヒロインを引っ張り上げる男性が往々にして登場するが、本作でローズを助ける、あるいは反発するのはほとんど女性。ボーイフレンドらしき男性は出てくるが、ほぼセックスのみだし、あこがれのDJもアドバイスをくれた程度。具体的な助けになるのは母親であったり、ご近所の女性であったり、仕事先の女性であったりする。これもまた現代的かなと思った。

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『わたしは光をにぎっている』

 長野県の湖畔の町に住む20歳の宮川澪(松本穂香)は、両親を亡くして祖母と2人、民宿を切り盛りしていた。しかし祖母が入院することになり、民宿を畳むことに。父の親友だった涼介(光石研)を頼って上京するがアルバイト先をすぐにクビになってしまう。涼介が営む銭湯を手伝ううちに、澪は東京での生活に慣れていく。監督は中川龍太郎。
 澪のもったりとした動き、言わなくてはならないことを言い出せずぐずぐずしてしまう様には、ちょっとイラッとさせられる。しかし、銭湯が自分の居場所になりやらなくてはならない仕事がはっきりしてくると、おどおど感は消えてくる。ここならばいていい、という場所がある、役にたっているという手応えで人は安定していくものなんだろうな。一度そういう体験をすると、次につまづいても転ばなくてすむ、また転んでも起き上がるのに時間がかからなくなるのだと思う。銭湯を畳まなくてはならないと知らされた彼女が出す結論は清々しい。澪は実家の商売を無くして上京し、そこで新しい仕事と居場所を得るが、それもまた失っていく。それでも暗い気持ちにならないのは、彼女がまた歩き出せるしこういうことを繰り返してもたぶん大丈夫になったろうと思えるからだ。
 東京の下町(立石だったか?)のごちゃごちゃした街並みが、そういう場所に住んだことはないのに何でか懐かしい。しかしそれは再開発により失われていく風景だ。とは言え、そこに住んでいる人たちの暮らしは風景が変わっても続いていく。「続いてしまった」涼介のマンションでの暮らしがわずかに垣間見えるのだが、これが何とも切なかった。迷子のようなのだ。冒頭、文字通り迷子になっていた澪のその後とは対照的だった。
 ほのかに寂しくほろ苦いながらも、さわやかな佳作。ただ脚本はちょっと安易な所が気になった。すっぽん鍋の位置づけや、その場で処女云々持ち出すところは大分古い感覚だと思う(同性同士でもあれはセクハラだよな)。また、帰省の際に湖に入っていくシーンも月並みというか、今時このテンプレをやる人がいるのかという感じ(その後の夢の中で遊覧船に乗るシーンはすごくいいだけに残念)。また、覗き犯のおじいちゃんの処遇について澪が疑問をなげかけた時に、涼介が「お客さんのことを想像して」と言うが、じゃあ覗かれた女性客はその「お客さん」に含まれていないの?と。あれ、年齢性別関係なくやられたら怖いと思うんだよね。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 1969年のハリウッド。テレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)はキャリアのピークを過ぎ、映画スターへの転身を図っていた。リック専属のスタントマンで付き人も兼ねるクリス・ブース(ブラッド・ピット)とは強い絆で結ばれていた。ある日リック宅の隣に、時代の寵児となった若き映画監督ロマン・ポランスキーと、その妻で女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が引っ越してくる。やがて1969年8月9日が訪れる。監督・脚本はクウェンティン・タランティーノ。
 題名の通り、昔々ハリウッドでは・・・というタランティーノ流おとぎ話で、スタイルとしては『イングロリアス・バスターズ』に連なる。実在の人物が登場し、実際にあった事件を扱っている(本作を見ようと言う人は大体シャロン・テートとマンソンファミリーのことは知っているんだろうけど、事前におさらいしておくことをお勧めする)。その上での力技だ。映画はハッピーエンドでなければ!というタランティーノの祈りと言えるのだろうが、実在の人物の関係者はどのように感じるのかは微妙な所ではないか。また、実際に起こったことに対するアプローチとして誠実なのかどうかがちょっと何とも言えないんだよな・・・。映画としてはすごくいいんだけど、当事者じゃないからそう思えるという側面がかなりあるんじゃないだろうか。クライマックスで無理やりファンタジーの勝利に持ち込む力技は清々しい。せめてここでだけは、というタランティーノの映画というフィクションに対する愛と祈りが込められているように思う(が、前述の通り関係者がどういう風に思うかはわからないよな・・・冒涜になりかねないとも思うし)。
 とはいえそれ以上に、俳優という職業の悲哀と歓びが濃い陰影を残す。リックは西部劇TVドラマのスター俳優だが既にピークは過ぎており、落ち目。思い切ってイタリアに渡り映画俳優への道を選ぶか、ハリウッドでの仕事で粘るか、俳優を引退するかという選択を迫られている。自分の人生だけではなく専属スタントマンであるクリスの人生もかかっているわけで責任重大だ。演じる役柄はタフガイが多いが当人はどこか気が弱く思い悩みがちというギャップがおかしくも哀しい。泣きごとをいいつつ、やはり演じること、俳優という仕事が好きなんだと痛烈に感じられるシーンがあり、ぐっときた。やめられないんだろうな。
 一方でクリスはいつもクールで動じず、リックが泣きついても平然としている。とはいえ、「(リックの友人であろうと)努力している」という言葉からは、リックとの関係の中でその態度が培われたとのかなとも思え、その献身に泣ける。本作のブラッド・ピットがまたえらくセクシーでちょっとびっくりした。若い頃は自分の中で全然ぴんとこなかったのに、ここにきてヒットしまくるな・・・。

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2012-04-13





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ジェネオン・ユニバーサル
2013-12-20

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

 アメリカの捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)は、因縁浅からぬイギリスの犯罪者デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)と無理やりコンビを組まされ、ある指令を受ける。政府の研究組織から盗まれた新種のウイルスを奪還しろというのだ。ウイルスを盗んだ容疑者はイギリスのエージェントでショウの実の妹であるハッティ(バネッサ・カービー)。しかしそれはウイルスを入手しようとするテロ組織が仕組んだ罠だった。ホブス&ショウは組織が擁する強化人間ブリクストン(イドリス・エルバ)と対決する。監督はデビッド・リーチ。
 私はワイルド・スピードシリーズは好きだし、このシリーズに精緻なシナリオや細やかなドラマを求める気は毛頭ない。が、本作はそれにしてもちょっと雑すぎないか。シリーズのスピンオフ的な立ち位置ではあるが、過去作でのホブス一派とショウの因縁が(仲間を殺されているわけなのに)あるはずのなのに反目は口だけという感じで、双方深く内省しているわけではない。また、ホブスとパートナーが都合よく別居しており、これまた都合よくハッティとロマンス的雰囲気になるのもいただけない。無理やりお約束展開を持ちこもうとしているように見える。
 何より、本作で描かれる「ファミリーの絆」は、これまでのシリーズで描かれたものよりも後退し、保守的なものになっているように思った。そもそも家族という概念が保守的なんだと言えばそれまでなのだが、これまでのシリーズでは血縁による家族だけでなく、共に生きる仲間を「ファミリー」としていた。しかし本作では血縁による家族こそが帰るべき場所、という方向になってしまった。ショウのご家庭の事情は前作で既に明らかになっており、これはこれで微笑ましく楽しい(お母様最高だしな)。しかしホブスの家族はそこか?!これまでファミリーファミリー言ってたのは何なの?!と裏切られた気持ちになってしまった。彼の実家の事情がいきなり明らかになるのも苦しい展開だった。今までそんな描写あったっけ・・・?
 ホブスとショウの喧嘩するほど仲がいい、理想のケンカップルみたいな関係は確かに楽しいし可愛いのだが、あまりにテンプレすぎてちょっと気持ちが乗って行かなかった。それぞれのキャラクターは好きだし、2人の対称的なライフスタイルを画面分割で見せていく序盤もいい(かっこいいかというと微妙だが)んだけど。ただ、ステイサムのアクション演出はかなりいいシーンがあった。敵アジトでの密室1対複数名はユーモラスな演出もされており楽しかった。ステイサム、本当に体が動く人なんだな・・・。


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2016-09-16

『ワイルドライフ』

 1960年代、モンタナ州の田舎町に住む14歳のジョー(エド・オクセンボールド)。父ジェリー(ジェイク・ギレンホール)は働いていたゴルフ場をクビになってしまった。母ジャネット(キャリー・マリガン)はスイミングプールで働き始め、ジョーも写真館でアルバイトするように。就職活動もしないまま、ジェリーはジャネットの反対を聞かず山火事を消化する出稼ぎに行ってしまう。ジャネットは不安と孤独にさいなまれていく。監督はポール・ダノ。
 試写で鑑賞。俳優ポール・ダノの初監督作で、脚本・制作はゾーイ・カザンと共同だそうだ。ダノは監督としてもセンスいい!奇をてらわない地味な作品だが、抑制のきいた情感があってとてもよかった。
 それにしてもしんどい話だ。ジェリーもジャネットも基本的に良い人、良い親ではあるのだが、自分達の心・環境が揺れている時もそれを維持していられるほどには強くない。14歳の子供にとって、親の弱い面を目の当たりにするのはかなり辛いし、どうしたらいいのかわからないだろう。彼にとっては愛する両親、自分を愛してくれる両親なのに、どんどんそれに当てはまらない面が見えてくる。ジョーは概ね途方に暮れたような顔をしているのだが(オクセンボールドの表情の作り方が素晴らしい)、それも無理ない。
 いわゆる「男性らしさ」に絡め取られている故の妙なプライドをこじらせ家族から離れてしまうジョー、生活の不安から裕福な男性にすがってしまうジャネット。2人とも、その気持ちわからなくはないけれどもうちょっと一人で踏ん張れないだろうか・・・という気持ちになってしまった。一人で踏ん張るのは確かに辛い。が、子供の前で見せてはならないものがあるだろう。ジョーがもうすこし年長だったら親も「親」としてではない顔を併せ持つ一個人だと受け入れられるかもしれないが、まだそれには早い。ジャネットが浮気相手の家にジョーを同行させる(そして息子の前でいちゃつく)のにはちょ、ちょっと待って・・・と。そりゃあジョーも接し方分からないだろう。ジェリーはそういう面は見せないが、その代わりに親・夫としての責任から逃避してしまう。どっちもどっちだ。
 自分を保てない人と生活する辛さをしみじみと感じさせる作品だった。家族仲の円満、不和は経済的な問題から生じることが多々あると実感させるのもかなりきつい。経済的不安は精神状態悪化させるんだよな・・・。

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ポール・ダノ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-07-04





マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ (ヴィレッジブックス)
レイダル イェンソン
ソニーマガジンズ
2003-06
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