3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。

『レ・ミゼラブル』

パリ郊外、モンフェルメイユの警察署に赴任してきたステファン(ダミアン・ボナール)は犯罪防止班に加わる。激昂しやすく警官としての力に疑いを持たないクリス(アレクシス・マネンティ)とグワダ(ジェブリル・ゾンガ)のやり方には賛成できないが、一緒にパトロールに回ることに。そんな折、少年イッサが起こしたある事件が、元々緊張状態にあった複数のグループの関係に火をつけてしまう。監督はラジ・リ。
 子供たちによる冗談みたいな事件(監督の子供時代に実際にあった事件だというからびっくりだが)から、地域内に火がついて大炎上していくスピードがあっという間。実はほぼ1日の話なのだ。短時間で泥沼化していくのは、問題が起きたからというよりも、元々火種がくすぶり続けていたからだ。パリは多民族の町ではあるが、実際にはそれぞれの民族、文化圏が群れのように固まっており、決して友好的ではない様子が伝わってくる。人種・民族による横の分断のようなものと、警察と団地住民といったような階層的な縦の分断みたいなものがある。分断もまた重層的なのだ。団地の住民たちによって抑圧の主である警察官たちも、仕事から離れると他の住民と同じようにその地域ごとの「群れ」に戻っていく。
 暴動の起こり方・発展の仕方も、そこからそっちの方向に向けてなの?!という意外性があった。主義主張によるものではなく、日常の抑圧や不満が爆発したという感じだ。テロリズムみたいなものとは違って、あくまで「暴動」なんだなと。怒りの方向性がばらばらでこれもまた一方向ではない。エネルギーは大きいが散漫なのだ。それだけに、脈略なく拡散していくし収束の形が見えない。出口がないのだ。暴動を起こしている側もどこに対して何をぶつければいいのかわかっていない感じで、それがラストシーンの強烈さにつながっている。えっそこで終わるの?!とびっくりした。

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『レプリカズ』

 人間の意識をコンピューターで作られた疑似脳に移し替える技術を研究している、神経科学者のウィリアム・フォスター(キアヌ・リーブス)は、交通事故で妻と3人の子供を亡くしてしまう。家族を諦められないウィリアムは、禁忌を破って家族のクローンを作り、そこに保存した意識のデータを移植しようとする。移植は成功したが、研究所は彼らに目をつけていた。監督はジェフリー・ナックマノフ。
 キアヌ・リーブスのいいところは、一応大スターなのにすっとこどっこいな映画にもいまだに平気で主演するところだと思う。本作のすっとこどっこい加減もなかなかのものだ。人格・記憶のコピーやクローンの生成などSFネタとしては手あかが付きまくっているから、見せ方には大分工夫がいると思うのだが、本作のそれはむしろ一昔前のものに見える。新作なのにやたらと懐かしい。これはもしや90年代なのでは?というくらい。記憶移植用のアンドロイドや人工脳のデザインのダサさ、今なぜこれを選んだ・・・と突っ込みたくなった。今、「機械の身体」を考えるのなら、もうちょっと違う方向性になるんじゃないかと思うんだけど・・・。
 序盤の展開がやたらとバタバタしているし、ストーリーは大雑把で、細部に目配りがされているとは言い難い。脳コピーのマッピングもクローンの生成も、そんなに手順でそんな短時間の作業で大丈夫なのかというくらいのざっくり感。ただ、全然面白くないのかというと、そうでもない。家族を亡くしたウィリアムは、先のことはろくに考えずに遺体の脳をコピーしクローン作りに踏み切ってしまう。計画らしい計画たてずにそんなことやります?!と突っ込みたくなるし、妻子が「不在」の間のアリバイ作りにあたふたする、ついでにSNS上で娘のボーイフレンドを娘になりすましてブロックする姿など、妙なおかしみがある。いざクローン作りに踏み切ってから我に返って協力者に責任を押し付けようとするあたりは結構ひどいのだが、そのひどさや考えの浅さに逆に説得力を感じてしまった。切羽詰まった人間の行動ってこういうものかもしれないなと。それにしても露呈するのが早すぎるしこらえ性がなさすぎるけど。粘れ!

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『レゴ(R)ムービー2』

 ブロックシティに謎の宇宙人が現れ攻撃を始めた。町は破壊され人々の心はすっかり荒んでしまう。ただしエメット(クリス・プラット/森川智之)だけは相変わらず明るく楽観的で変わらないまま。だがルーシー(エリザベス・バンクス/沢城みゆき)やバットマン(ウィル・アーネット/山寺宏一)が宇宙人にさらわれてしまう。エメットは仲間を取り戻すために宇宙を目指す。監督はマイク・ミッチェル。
 前作のラストの展開をそのまま引き継いでおり、宇宙人の襲来からの街の破壊!理不尽!というところは正に「あるある」ではないだろうか。本当にこういう感じなんだよなーと弟が幼かった頃を思い出してしまったよ・・・。絶対的な未知との遭遇かつコミュニケーション不全だ。そこがダイレクトに作品のテーマのひとつになっている。
前作のラストで明かされる構造は、ラストに明かしたからなるほどね!という鮮やかさがあったが、今回は最初からその構造が維持されているので、これ2時間持たせられるのかな?大丈夫なのかな?と少々ハラハラした。実際、2つの世界が並行して展開されることでちょっとストーリーは散漫な印象になっている。しかし意外と持ちこたえており、前述のコミュニケーションの問題もよりくっきりと浮かび上がったように思う。
 前作では全てが最高!それぞれが最高!とブチ上げられた。しかし今回は、全てが最高といつまでも言えるわけではないというモードにいきなり突入する。更に、エメットは大人になれ、現実を見ろと強いられていく。いきなり前作から方向転換してくるのだ。しかし、今最高でなくても最高を目指し続けることはできる、そしてクールでタフなリアリストになることと、大人になることとは必ずしもイコールではないのだ。どんな最高を目指すかも、どんな大人になるかも自分で決めていい。本作、そこそこ年齢いった大人でないとわからないであろう小ネタ映画ネタ満載なのだが、このテーマに関しては子供が見るべき映画なんだろうな。
 なお、前作に引き続き吹替え版で見たが、ミュージカルシーン含め結構よかった。声優陣の安定感は抜群だった。字幕では拾いきれなさそうなギャグがある(モブの会話がギャグになっていたりするので)。私は基本字幕派だが、コメディに関しては字幕だと温度差が出ちゃって笑いきれなかったりするので、吹替えを上手にやってくれるのがベスト。

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『レディ・バード』

 カリフォルニア州サクラメントに暮らすクリスティン・マクファーソン、自称レディ・バード(シアーシャ・ローナン)は、カソリック系高校に通う17歳。母マリオン(ローリー・メトカーフ)は地元の公立大学に進学しろと言うが、都会に出たくてたまらず、内緒でニューヨークの大学の奨学生に応募している。高校生活最後の1年、友人やボーイフレンドとひと悶着あったり、家族とぶつかったり、将来について悩んでいく。監督はグレタ・ガーウィグ。
 女優として活躍しているガーウィグの初の単独長編監督作だそうだが、監督としてもいい!自意識過剰で「イタい」高校生の姿には自身の体験も投影されているというが、そのイタさを卑下するような所、自虐感がないところがよかった。レディ・バートに対しても、彼女の友人や家族、ボーイフレンドらに対しても、ほどよく距離感があり誰かを悪者にしようとはしない。
 レディ・バードと親友のやりとりがどれも心に残る。プロムが出てくるアメリカの映画はいくつも見たけど、本作のプロムが一番じーんときた。こういう友人て得難いよなとしみじみ思う。もしかしたら、彼女らはこの後疎遠になるのかもしれないけれど、そうだとしてもいいのだ。この時、この人がいてくれたということがすごく大事なのだ。一方、レディ・バードがイケてる自分を演出したいが為に接近するクラスのイケている女子についても、彼女がいじわるだとか浅はかだという描き方はしていない。ただ、今の現実生活が経済的にも精神的にも充実していていて自己評価の高い人は、地元を出たいとはあんまり思わないんだろうなぁという妙な説得力があった。彼女にとってレディ・バードは「その他」であり個人としては認識されてなかったという所もリアル。
 レディ・バードの高校最後の1年をハイスピードで描く青春物語であると同時に、彼女と家族の物語としても際立っている。特に母娘の関係が、こういう描き方はありそうでいてあまりなかった(あり方がユニークというより、こういう部分をわざわざクローズアップしようという人がいなかったと言う意味で)気がする。仲が悪いとかお互いに全く理解不能というわけではない。マリオンはすごく強い人で、レディ・バードに対しては少々過干渉なようにも見える。レディ・バードの方も大分我が強いのでいちいちカチンとくるのだ。マリオンは正しい人だが、正論でこられると(特に家の台所事情が絡むと)子供としては辛いものがある。レディ・バードくらい我の強い子じゃないと、マリオンのような母親と個人として張り合えないだろうから、悪い組み合わせではないのだろうが。レディ・バードが落ち込んでいる時にマリオンが慰めるやり方等、器用ではないが娘のことを本当に愛しているというのはわかるのだ。
 レディ・バードはミッションスクールの校風や決まり事(プロムのダンスホールをシスターたちが見張っているのにはちょっと驚いた)は決して好きではない様子だし、敬虔なクリスチャンというわけではもちろんないだろう。しかしこの学校の先生たちは実はすごくちゃんとしている。演劇の先生にしろ、校長であるシスターにしろ、生徒のことを良く見ていて、いい部分を引き出そうとしていることがわかる。シスターがレディ・バードの文章に対して「それは(地元を)愛しているってことじゃないかしら」と指摘するが、確かに自覚はなくても、愛憎混じったものであっても、そうなんだろうなと思える。都会に出て早々に大失敗した彼女は、ある場所に立ち寄る。うざったく感じていても、もう自分の一部なのだ。

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『レディ・プレイヤー1』

 貧富の格差が拡大した2045年。人々はVR世界「OASIS(オアシス)」の中で理想の人生を楽しもうとしていた。オアシスの開発者ジェームズ・ハリデー(マーク・リアランス)は死去の際、オアシス内に3つの謎を隠した、解明した者に莫大な資産とオアシス運営権を譲渡するとメッセージを残した。17歳の少年ウェイド(タイ・シェリダン)も謎解きに参加し一つ目の謎を解くことに成功、一躍オアシス内の有名人になる。しかしハリデーの遺産を狙う巨大企業IOIが彼に近づいていた。原作はアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』、監督はスティーブン・スピルバーグ。
 2045年という未来設定なのに、なぜか80年代サブカルチャーのてんこ盛りで色々突っ込みたくなる。予告編からしてヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」大フィーチャー(本編でも使用されている)だし世界設定といい、デザインといい、2010年代に想像した未来ではなく、1980年代に想像した未来という感じで、これを90年代以降に生まれた世代はどう見るんだろうと不思議だった。とは言え、あの作品のあのキャラクター、あの小道具等が次々と登場するのは楽しい。日本からの出演も相当数あり、これはぐっと来てしまうであろうというショット多々。ラスボス的存在登場前、客席に「もしやこれは・・・!」的緊張感が走り、登場すると「やっぱりねー!」と場内温度が高くなった気がした。メインテーマまで使っているなんて・・・。
 ストーリーやVR世界の設定には特に目新しさはなく、ビジュアルの賑やかさ、情報量のみで楽しめてしまう。ただ、VRの世界に耽溺せず現実に帰れというのではなく、VR、つまりフィクションが豊かである為には現実世界の豊かさが必要であり、現実が豊かである為にはVR・フィクションも豊かでなくてはならない、双方が呼応し合っているのだというテーマは、フィクションとエンターテイメントの世界で一時代を築いた(まだ築き続けているとも言える)スピルバーグらしい。VRに対しても現実に対してもポジティブだ。

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『レッド・スパロー』

 ボリショイバレエのダンサーだったが事故でダンサーとしての道を絶たれたドミニカ・エゴロワ(ジェニファー・ローレンス)は、ロシア政府の諜報機関に加わり、セクシャルな誘惑や心理操作を駆使するスパイ「スパロー」になる訓練を受ける。彼女はやがて才覚を認められ、CIA捜査官ネイト・ナッシュ(ジョエル・エドガートン)に近づき彼がロシア内に持っている情報源を特定するという任務を命じられる。監督はフランシス・ローレンス。
 ドミニカもナッシュも、意外と手の内をお互いに見せていくのだが、どこが工作でどこが本気なのか、二転三転していく。スパイ映画というよりも、政治的な、また個人同士のパワーバランスの転がり様を見ていくような作品だった。本作、面白いことは面白いのだが今一つ気分が乗り切らなかったのは、パワーバランス、力を巡る話だったからかもしれない。ドミニカは母親を人質に取られるような形で、スパイになる以外の選択肢を奪われる。叔父は彼女に対して支配力があると言える。スパイ養成所で叩き込まれるのは、相手をコントロールする方法で、それも相手に対する力の行使のやり方だ。ドミニカが「実演」するように、相手の欲望を見抜くことが弱点を掴むことにもなる。そしてもちろん、ドミニカにしろナッシュにしろ、組織、国家という力に支配されており、そこから逃げのびることは難しい。ナッシュは(ロシアと違い)アメリカは人を使い捨てにしないというが、それは嘘だよなぁ・・・。相手を支配することによる力の奪い合いって、見ているうちにだんだん辛くなってきてしまい楽しめない。コンゲームにおける裏のかきあいとは、私の中ではちょっとニュアンスが違うんだろうな。
 しかしその一方で、ドミニカがいかに自分を保っていくかというドラマでもある。この部分は序盤から徹底しており、少々意外なくらいだった。彼女は様々な名前、姿、身分を使い分けるが、常に自分であり続け行動の意図がブレない。彼女のありかは国でも組織でも特定の個人でもなく、自分だけなのだ。ある意味スパイ映画の対極にある映画な気もしてきた。ジェニファー・ローレンスのキャラクター性が強すぎて、そっちに役柄が引っ張られているような気もしたが。

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『レゴバットマン ザ・ムービー』

 レゴの世界でもヒーローとして活躍しているバットマンことブルース・ウェイン(ウィル・アーネッ/山寺宏一ト)。孤独なヒーローとして人を寄せ付けない彼の元に、彼に憧れるロビンことディック・グレイソン(マイケル・セラ/小島よしお)が養子になろうと押しかけてくる。更に自称宿敵のジョーカー(ザック・ガリフィアナキス/子安武人)が異次元に閉じ込められていた悪者たちを脱走させ、ゴッサムシティを大混乱に陥れる。監督はクリス・マッケイ。
 前作『レゴ・ザ・ムービー』はレゴという玩具の性質をフルに活かしたレゴのメタ映画とでも言える作品だったが、本作はレゴ要素は薄れている(クライマックスでレゴならではの「修繕」方法が披露されたりするけど)。本作はバットマンが主人公どころかテーマになっており、バットマン、ひいてはヒーローVS悪役というフォーマットに対するメタ映画と言えるだろう。正直なところ、バットマン関連としては直近の作品になる『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』よりはよっぽどバットマンという存在に迫っており説得力がある。ビジュアルはレゴだししょうもないギャグも満載なのだが、バットマンが抱える孤独、それが何に由来しているのかということ、そしてそれをいかに乗り越えるかということをちゃんと描いているのだ。
 序盤、バットマンが孤独であるという演出がこれでもか!と積まれてくる。様々な映画の中で、電子レンジを使うシーンというのはしばしば出てくると思うのだが、今まで見てきた中で本作の電子レンジシーンが一番心に刺さる。つ、辛い!バットマン本人がその辛さに気付かないようにしているのがまた辛い!バットマンが自分のまわりに壁を作るのは、子供の頃に両親を理不尽な形で亡くしているから、というのは基本設定だと思うのだが、本作ではそれに加え、人との距離感が上手く測れない社交下手な要素が乗っかってくるので、彼のイタさが何だか身につまされるのだ。スーパーマンの自宅を訪ねるエピソードでは、「シンプルに人柄と人徳の差だよ」ということが露呈されていてまあ辛い。
 辛いと言う面では、ジョーカーの辛さも描かれている。ジョーカーは言うまでもなくバットマンシリーズ最大の悪役で宿命のライバル的な存在だが、そもそもバットマンが彼のことを「宿命のライバル」と思っていないと、ジョーカーの立ち位置は揺らいでしまう。相反する相手の存在によってしか存在することができない、悪役の悲哀(それはヒーローの悲哀でもあるのだが、バットマンはそれをよくわかっていない)があるのだ。ジョーカーがある意味一途な片思いをしており、なかなかに不憫。

『レジェンド 狂気の美学』

 1960年代初頭のロンドン。双子のギャング、レジー・クレイとロン・クレイ(トム・ハーディ二役)はアメリカン・マフィアと手を組み、そのネットワークはセレブや政界にまで及んでいた。レジーは部下の妹・フランシスと恋に落ち、犯罪から足を洗って結婚すると約束する。カジノ経営に注力したレジーは成功するが、昔ながらのギャング稼業を愛するロンは反感を覚え、組織には不協和音が生まれていった。監督はブライアン・へルゲランド。
 スウィンギン・ロンドンの時代ということで音楽も多用されている。楽しいが、ちょっと音が多すぎるなと思った。全体的に余白の部分が少ない。音楽が入りすぎていることに加え、本作は概ねフランシスの視点から、彼女のモノローグによって物語が進行する。このモノローグがちょっと多すぎ、物語に対する視点が煩雑になっているように思った。その程度のことだったら見ればわかるから(つまり、映像としてちゃんと説明が出来ている)いちいちモノローグ入れなくてもなぁと、少々うっとおしかった。クレイ兄弟ともギャング組織とも距離感のある人物を入れて、俯瞰させたかったのかもしれないが、あまり上手く機能していなかった気がする。
 レジーとロンは、外見は体格がちょっと違うくらいで良く似ている(何しろどちらもハーディが演じている)のだが、言動は大分違う。レジーは泥臭いギャング稼業から、徐々にスマートに大金を回収できる「ビジネス」へと志向を移していく。しかしロンは、その泥臭さ、撃ちあいや殴り合いこそを愛している。組織を盤石にし規模を広げていこうとするなら、当然レジーのやり方の方が合理的だし、実施、レジーが舵を取っている間はビジネスは好調なのだ。ビジネスが軌道に乗り、いちいち腕に物を言わせずにすむようになると、精神的に不安定で爆発しがちなロンは、組織にとってもレジーにとってもアキレス腱になりかねない。レジーは実際、ロンの暴挙のせいで刑務所に入る羽目になるのだが、それでもロンを切ろうとはしない。愛憎すら飛び越え、お互いに切るに切れない存在なのだ。この有無を言わせない関係性が、彼らを追い詰めていくものの一つだったのかもしれない。お互い別の人間なのに自分達では離れることも関係性を変えることも出来ないというのは、相手を好きであれ嫌いであれ、厄介なものだろう。
 本作、ハーディが2役を演じたことで話題だが、確かに名演だったと思う。とにかく双子が一緒にいるシーンが多いので、大変だったと思う。とっくみあいの喧嘩シーン等、ボディダブルを使うにしても、どうやって撮ったのか不思議。

『レネットとミラベル/四つの冒険』

 エリック・ロメール監督特集上映「ロメールと女たち」にて鑑賞。エリック・ロメール監督、1986年の作品。レネット(ジョエル・ミケル)とミラベル(ジェシカ・フォルド)はルームシェアする友人同士。考え方も風貌も対称的な2人が繰り広げる、ちょっと奇妙なエピソード4編から成るオムニバス作品。
 ミラベルはクールかつシンプルなファッションで、性格もクールかつ割と現実的。レネットはガーリーなファッションをまとう美術学校生で、妙な所で理屈っぽく生真面目でお喋り。普通だったら、あまり接点がなさそうな2人だ。実際、2人の会話は必ずしもかみ合っているわけではなく、レネットがミラベルにやきもきしたり、ミラベルがレネットに対して少々うんざり気味になることもある。万引き未遂犯を巡る対話で如実に現れているがのだ、価値観や主義主張は、結構違う2人なのだ。しかしそれでも、2人の間に流れる空気は、親しい友人同士のものだ。また、2人は論争していても、お互いの人間性を否定するような喧嘩にはならない。関係性があっさりとしているようで、双方の信頼感がある。
 最初のエピソードはレネットとミラベルの出会いを描く。田舎道で自転車がパンクし困っていたミラベルを、田舎暮らしのレネットが助けたのだ。レネットはミラベルに田舎を案内し、“青い時間”(レネットによると、夜明け前、無音になる一瞬)を一緒に体験する。レネットにとって大切な時間であり、ミラベルはそれを分かち合った。この体験がなかったら、2人は友達にならなかったかもしれない。
 2人の対称的なファッションや室内の調度など、色合いが美しく目に楽しい。レネットとミラベルは同居するようになるが、室内のこの部分はレネットが飾り付けたのでは、このあたりはミラベルの趣味かなと、見ていて楽しい。壁に麦わら帽子と造花を飾っているのはレネットの趣味っぽいが、こういうの80年代にあったわー!とやたらと懐かしい気分になった。ただ、ロメール作品は屋内よりも屋外の情景の方が、光線に魅力が合って個人的には好きだ。屋内だと、構図も色も決まりすぎな感じがするのだ。

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