大手多国籍企業に転職したアヤン(イムラン・ハシュミ)は、かつて培った病院とのコネを駆使し、トップセールスマンとして粉ミルクを売りさばいていた。しかし、水道設備が万全ではないパキスタンでは、粉ミルクを不衛生な水で溶かして与えざるをえない層もあり、乳幼児の死亡率が増加していることを知る。自分が強引にミルクを売ったことに罪悪感を覚えたアヤンは、企業を訴えようとする。監督はダニス・タノビッチ。
 パキスタンで実際に起きた事件を題材にしているそうだ。いわゆる社会派サスペンス風な題材なのだが、見せ方にかなりひねりがある。アヤンが体験した事件を映画にしようという、映画制作会社の目を通しているのだ。アヤンの体験は、あくまで彼が製作会社に対して語った内容であり、それ故この語り手は果たして信用できるのか?という疑問が付きまとうことになる。映画制作会社も、彼の話は信用できるのか、企業に告訴される可能性はどの程度なのか、推し量りつつアヤンの話を聞く。映画を見ている観客にとっては、見ている側の軸足をどこに置けばいいのか、なかなか定められない。終盤の意外な展開も、この話法ならではだろう。一筋縄ではいかないのだ。
 アヤンのやることは、転職にしろ企業を訴えるにしろ、思い切りが良すぎて無茶な行為に見える。ラストに表示される字幕で、彼の話の裏付けはされることになるが、何となく心もとない。話があまりにフィクショナリー(映画はフィクションだから当然と言えば当然なんだけど)だしスピード感がありすぎるのだ。アヤンの中ではこのくらい怒涛の勢いで物事が進んだという主観の速度なのかもしれないが。
 アヤンは自分の話を、妻との結婚式から話し始める。いくらなんでももうちょっとかいつまんで、という映画制作会社に対し、彼はここから始めないと自分の話にならないのだと言う。彼の行動は、妻や両親ら、家族の前でどういう自分でいるべきなのか、という面が多分にあったように思う。告発も、妻の(そうとは知らない)言葉に背中を押されて踏み切ったのではないだろうか。
 ただ正直なところ、アヤンの話と用意した証拠の内容で企業の責任を問うのは、かなり難しいのではないかという気もするが・・・。本作、そういう類の話ではないんだろうな。そこにリアリティの核は置いていないのだろうと思う。
 なお、医者や看護師の趣味や家族構成まで把握し、プレゼントや接待、「ちょっとした配慮」で心を開かせるアヤンの営業法は、やっぱり泥臭い営業法が一番強いのかと見ていてげんなり。こんな営業やりたくないしやられても困る気がする。まあ地域性もあるんだろうけど・・・。