名探偵エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)は一線を退き、ベネチアで隠遁生活を送っていた。ある日既知の作家アドリア二・オリヴァ(ティナ・レイ)が訪ねてくる。死者の声を話すことができるという霊媒師が有名歌手の屋敷に招かれたから、トリックがあるのか見極めようというのだ。子供の幽霊が出るという噂のある屋敷での降霊会に参加したポワロ。しかし参加者の一人が遺体で発見される。原作はアガサ・クリスティー『ハロウィーン・パーティー』。監督はケネス・ブラナー。
ブラナーの監督主演によるポワロシリーズ3作目。原作の『ハロウィーン・パーティー』はポワロものの中でも個人的に好きな作品なのだが、原作要素のアレンジの方向がかなり大胆でちょっと笑ってしまった。そもそも舞台がなぜベネチア?!美術面や撮影はゴージャスだがホラーサスペンスに寄せようとして撮り方が逆に野暮ったくなっている箇所があるのは気になったし、原作とは大分違うのだが、これはこれでムードがあって面白いと思う。冗長だった『ナイル殺人事件』よりはむしろ思い切りが良くて飽きなかった。
ブラナー版ポワロシリーズは、割と時代背景を意識した造りになっている。ポワロが第一次大戦によるトラウマを負っていることは1作目『オリエント急行殺人事件』でも提示されたが、本作では2つの対戦の後の時代という要素を打ち出している。本作では第二次大戦の戦地で深いトラウマ(第二次大戦だったら当然こういう方向のトラウマもあるのだとはっとした)を負った人、故郷から去らざるを得なかった人が登場する。彼らの傷はポワロがかつて負った傷とも重なっていく。彼らは大過から生き残ってしまった人たちであり、そういう人たちがどう生きていくのかという部分へのまなざしがある。原作にはそういった要素は全くないので邪道だという人もいるかもしれないが、ブラナーはこのあたりは結構真面目になっているのではないかと思う。ある時代を背景にするならこういう要素を含まずにはいられないだろうという判断があるのでは。