2019年に創設90年を迎えた音楽レーベル・モータウン。スプリームス、スティービー・ワンダー、マービン・ゲイ、ジャクソン5らを輩出した名門レーベルの歴史を、創設者ベリー・ゴーディや彼と二人三脚で数々の楽曲を送り出したスモーキー・ロビンソンへのインタビューから構成し追ったドキュメンタリー。
モータウンが生み出した数々の名曲を追う楽しさはもちろんあるのだが、思っていたほど音楽そのものが占めるウェイトは大きくない。むしろ、モータウンという組織の成り立ちと構造、商品の製造過程を追う、企業ドキュメンタリー的な面白さが強かった。楽曲を作る仕組みは、ゴーディがフォードの製造ラインで働いていた時の体験から生み出したというから驚きだ。自動車と音楽は全然違うものだけど、企業としてどのように活動を維持していくのか、という点では通じるものがある。工程を細分化してセクションごとの役割を明確にする、売れるポップスにはどういう要素が必要なのか突き詰めて構成したと言えるだろう。モータウンが目指した楽曲って良質の工業製品に近いものがあるのかなと思った。
とは言え、レーベルが成熟しブランドのカラーが固まっていくと、逆にアーティストたちがレーベルの枠からはみ出た独自の表現に目覚めていくというのも面白い。社会が大きく動く時、アーティストの表現にも当然影響が出てくる。ゴーディーはレーベルの色に合わないと難色を示したが、アーティストに押し切られたそうだ(とは言え、スティービー・ワンダーの天才的な仕事を目の当たりにしたから首を縦に振ったという面も大きそうなので、そのくらいのクオリティでないと譲れなかったということかも)。音楽表現も社会の中で行われる以上、無縁というのは無理だよな。今だったらゴーディも違った判断をするのかも。時代が変われば考えも対応も変わってくる。モータウンはミュージシャンへの教育に注力し、音楽だけでなくパフォーマンスや日常の立ち居振る舞いまで専門の講師が教えたそうだ。スプリームスには特に優美さを叩きこんだそうだ。結果、こんなにクールで優雅な黒人は初めて見た!と人気沸騰するが、これって「白人と同じように」相手の土俵に立つってことだよなと(実際に反発するアーティストもいたそうだ)。現代だったらまた違った教育の仕方になるのかもしれないが、当時はまずここから始めなければならなかったのだろう。
一方、モータウンでは早い段階からミュージシャン以外でも女性が活躍しており、女性幹部もいたということは初めて知った。当時「取引先にはそんな会社なかった」という話も出てくるので、かなり先進的だったのだろう。いいポップスの前には黒人も白人もない、だったら男性も女性もないはず、という姿勢だったのだろう。音楽が全ての垣根を越えることはないだろうが、ちょっと越えることはあるのだ。
ゴーディー側へのインタビューが中心なので、語られる内容に偏りはあるのだろうし、他のスタッフやアーティストは別のモータウンの姿を語るかもしれない。とは言え、ゴーディとスモーキーがいまだに仲良さそうなのには和む。エンドロールも必見。