3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『マイ・ブックショップ』

 1959年、イギリスの小さな港町。戦争で夫を亡くしたフローレンス(エミリー・モーティマー)はオールドハウスと呼ばれる建物で本屋を開こうと決意する。しかしオールドハウスを文化センターにしようと目論んでいた町の有力者・ガマート夫人(パトリシア・クラークソン)がしつこく嫌がらせをしてくる。町の隠遁者で目利きの読書家・ブランディッシュ氏はフローレンスと心を通わせていく。監督はイザベル・コイシェ。
 フローレンスは夫を亡くして10数年たつ、いわゆる未亡人。彼女は本屋を開くために銀行に行ったり弁護士にあったり、ガマート夫人のパーティーに出向いたりするが、何れの場面でも相手からなめられる。女性だから、特に男性の後ろ盾がない女性だからというわけだ。フローレンスは一見おっとりとおとなしげだが結構しぶとく、彼らの予想を裏切っていく。彼女は何かすごく秀でた所があるというわけではない。しかしへこたれないし、ブランディッシュ氏が評するように「勇気がある」。このシーンは胸を打つ。人と会話することが決して好きではない、言葉のごくごく少ない人が言葉を選んで放つ言葉なのだ。この言葉によってフローレンスは勇気を持ち続けることができたのではないかと思う。そしてブランディッシュ自身も、フローレンスの勇気に打たれて自身も勇気を出すのだ。
 序盤で言及されるように、フローレンスは、そしてブランシッシュも強者ではない。搾取されていく側の人々であり、消えていく側の人々だ。しかし勇気ある人々だし、何より自分が愛するものの為に戦うことができる、それを愛し続けることができる人々だ。本作は何者かの語りによりストーリーが進行するが、その語り手の正体が明らかになると、フローレンスやブランディッシュ氏の勇気がまた誰かの勇気に繋がったこと、その勇気が何を生みだしたのかがわかり、そこにまたぐっとくる。
 本好きにとっては楽しくも切ない物語だ。個人の愛と勇気で出来ることは限られている。しかしその愛と勇気がまた誰かに火を付け、その火が誰かの人生を動かすこともある。
 風景がとても素敵な映画だった。フローレンスの散歩コースが羨ましい。ああいう場所を一人でずんずん歩いて行けたら気持ちいいだろうな。そして本屋の中の本のタイトルを必死で目で追ってしまう。

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『マチルド、翼を広げ』

 9歳の少女マチルド(リュス・ロドリゲス)は母親(ノエミ・ルボフスキー)と2人暮らし。母親は少々風変りで、マチルドは彼女の言動に振り回されっぱなしだ。ある日、母親が小さなフクロウをマチルドにプレゼントした。フクロウは何と人間の言葉を喋りだすが、その声はマチルドにしか聞こえない。フクロウはマチルドの心の支えになっていく。監督は母親役も演じたノエミ・ルボフスキー。
 マチルドの母親は、いわゆる母親らしからぬ、大人としてはちょっと突飛で困った人ではある。しかしマチルドにとっては愛する母親だ。マチルドが必死で母親のフォローをする姿はいじらしい。冒頭、校長室での校長先生とのアイコンタクトらしきものは、子供がそこまでやらなくてはならないのかとちょっとやりきれなくなる。マチルド自身もそんな状況に納得しているというわけではない。フクロウは母親が変なんだという怒りを口にするが、これは普段は言えないマチルドの心の代弁だろう。とは言えマチルド当人が怒りを爆発させる時もある。クリスマスの夜の顛末は思いきりが良すぎて危なっかしい以上に小気味良いくらいだ。マチルドが置かれている境遇はネゴレクトとも言えるのだろうが、あまりそういう印象を受けないのは、マチルドがはっきりと怒りを見せ、母親に反抗するからだろう。
 一方マチルドの母親は娘を愛してはいるが、自分が母親という役割に不向きだという自覚はある。一見、母親が娘に依存しているようではあるが、離れたがらないのはむしろマチルドの方だ。母親はずっと、娘と距離を置く決意をしていたとある言葉からわかってくる。愛の有無ではなく、どんなに愛情があっても夫婦、親子という形状に不向きな人はいるはずだ。母親が漏らす、「人との距離が近すぎる、あなた(元夫)の手も重い」という言葉が痛切だ。マチルドの両親は離婚しているが、父親(マチュー・アマルリック)は娘のことはもちろん、元妻のことも未だ愛している様子が見て取れる。愛の有無と、一緒に暮らせるかどうかは別問題というところが切なくもあり、一方でこういう形の家族もありだと思える。おそらくマチルドもその境地に達するのだ。ラストはちょっと蛇足な気もしたが、彼女が母親と同じ言語を獲得したと言うことかなと思う。
 色合いがとてもきれいな作品だった。青みがかった映像の中に、黄色やピンクが映えていた。マチルドの服が柄×柄だったり、カラータイツが鮮やかだったりと可愛らしい。

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『マイル22』

 インドネシアのアメリカ大使館に保護を求めてきた現地警察官のリー・ノア(イコ・ウワイス)。彼は何者かに奪われた危険物質の行方を知っている、亡命させてくれればその情報を教えると取引を持ちかけてきた。国外に脱出させるため、ジェームズ・シルバ(マーク・ウォールバーグ)率いるCIAの機密特殊部隊が護衛につき、空港までの22マイルを移動し始めるが、次々と武装勢力が迫ってくる。監督はピーター・バーグ。
 バーグ監督の前作『パトリオット・デイ』では、銃撃戦をどのようなバリエーションで演出できるかというチャレンジが印象に残ったが、本作も同じ系統にあると思う。バーグ監督は銃撃戦とマーク・ウォールバーグが大好きなんだなーとしみじみ実感できる作品だった。ウォールバーグは多分監督にとってのミューズなんだろうが、この人のどのへんがそんなにいいのか、見ている分にはちょっとよくわからないんだよな・・・俳優として何か突出しているタイプの人という印象がない。銃撃戦アクション演技への対応が的確なんだろうとは思うが。あとは単に人として相性がいいとかなのかな・・・。本作の主人公シルバは神経質かつクレイジーなキャラクターで、ウォールバーグの持ち味とはちょっと違う気もしたのだが、そのへんはねじ伏せてしまうウォールバーグ愛だった。多分またウォールバーグ主演で何か撮るんだろうな・・・。
 銃撃戦の面白さはもちろんだが、本作は肉弾戦も魅力的。リー・ノア役のウワイスの動きが良すぎる!速い!(ジャンプが)高い!強い!と思っていたら、『ザ・レイド』の人だというので納得。彼のアクションシーンだけ別ジャンルの映画に見えるくらい、突出している。他の人たちと重力のかかり方が違う感じがするのだ。しかしウォールバーグのやや重めの肉体感とのバランスが良く、この2人主演での続編を見たくなった。
 アクションシーンがほぼ移動しながらのもののみというユニークさだが、ちょっと禁じ手的な部分もあり、それを出せるならもっと早くに出せば?と思った所も。また、監視カメラの類から(という設定の)映像を駆使した構成だが、そのカメラはいつ設置したんだ?(特に冒頭の突入先)と突っ込みたくなった。あと、ハリウッド映画では本作と同様の「危険物質」が盗まれ過ぎなので、そろそろ別のパターンが必要なのでは。そんなに精緻な作品ではなく、見た後には内容を忘れてしまうのだが、スカッと楽しめた。

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『マイ・サンシャイン』

 1992年、ロサンゼルス・サウスセントラル。ミリー(ハル・ベリー)は色々な事情で家族と暮らせない子供たちを預かり育てる、里親をしていた。怒りっぽい隣人のオビー(ダニエル・クレイグ)は子供たちの騒々しさに文句をつけつつも、子供たちが困っていると捨て置けずにいる。ある日、黒人少女が万引き犯と間違われ射殺された事件、拘束された黒人男性が警官から集団暴行を受けた事件で、不当判決が下される。裁判の行方を見守ってきた市民たちが暴動を起こし、その怒りはあっという間に広がっていく。ミリーと子供たちもそのうねりに巻き込まれていく。監督はデニズ・ガムゼ・エルギュベン。
 ロサンゼルス暴動を背景としているが、暴動そのものというよりも、たまたまその時期、その場所に居合わせてしまったロスの住民たちの姿を描く。ミリーにしろ“長男”的なジェシー(ラマー・ジョンソン)にしろ、裁判の行方をTVニュースや中継で追い続けるくらいには関心を持っているし、裁判の結果に「ありえない!」と憤慨する。ただ積極的に暴動に参加しようとはしない。当時、ミリーと似たようなスタンスだった人も大勢いただろう。ジェシーも本来暴動に関わったり面白がったりするような性格ではないが、友人や思いを寄せる少女の手前、何となく行動を共にしてしまい、ある悲劇に直面する。暴動がいい・悪いという問題ではなく、その中ではこういうことが起きやすくなるしそれはどうにも出来ないのだろうという所がやるせない。ジェシーは法律が不当なことを正すはずと考えており、それは至ってまともなことなのだが、そのまともさが通用しない世界であることを目の当たりにせざるを得ないということが、また辛いのだ。彼がこの先世界を信頼できるのかどうか、とても心配になる。
 ミリーとオビーは一見共通項がなさそうだが、ある出来事で2人の心がすごく近づいて見える所がいい。シリアスな状況なのにどこかコミカルな味わいがある。2人を近付けるきっかけも、その後の進展も子供たちの存在によるものだ。オビーは大抵何かしら怒ったり怒鳴ったりしているのだが、子供への対応が意外とちゃんとしている。外に子供がいたら保護して何か食べさせようとするし、一緒に踊るし、暴力描写のある映像は見せないように配慮する。子供はケアしなければならない、という意識がミリーと共通しているのだ。弱いものを無視できない所が垣間見え、ミリーが惹かれていくのも何となくわかる。ダニエル・クレイグと子供たちとのコントラストがまた意外と良い。
 また、子供がきっかけになるものの、子供との関係とはまた別の部分でミリーにとってのオビーの存在が大きくなるというのも良かった。母親としての面と恋に浮き立つ面との両方があり、どちらかがどちらかを圧迫するものではないのだ。

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『マジック・ランタン』

 第19回東京フィルメックスで鑑賞。古びた映画館で働く映写技師の若者は、ある映画を上映する度に幻想に引き込まれていく。映画館でフィルム上映をする最後の日、またその映画を上映する。映画に登場するのはヴィンテージファッションショップ店員の青年と、店の客である少女。青年は少女の落し物であるスマートフォンを届けようとするが、彼女はどこかに消えてしまった。監督はアミール・ナデリ。
青年が撮影スタジオの倉庫らしき空間でさまよう冒頭のシークエンスからして引き込まれるし、最後のフィルム上映を行う映画館という舞台にしても、映画愛に満ちている。映画の映画、という点では監督が日本で撮った『CUT』にも通ずるが、方向性は全然違う。本作はナデリ監督こういうのも撮るんだ!というくらいロマンティックだ。上映後のティーチインによると、溝口健二監督の霊に背中を押されて撮ったとか(ナデリ監督は溝口監督の『雨月物語』を絶賛している)。
 作中作である映画の中の出来事と、その映画を見ている映写技師の世界とが、並列して描かれる。しかし映写技師がしばしば自分のインナーワールドに引きずり込まれ、今どの世界線にいるのか、彼は夢を見ているのか覚めているのか段々わからなくなってくる。今、この世界線とあの世界線が交差した!と実感できる瞬間、それこそ映画的な瞬間と言えるのではないだろうか。
 とは言え、本作を見ている観客側にとってはどちらも映画であるのだが。映画の映画は、映画を愛するものにとっては一際愛着がわくものだが、切なくもある。どんなに映画を愛してもその愛は一方通行だからだ。映画を見ている私たちは、映写技師とは異なり映画の一部になることは出来ない。

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『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』

 人里離れた場所で、妻マンディ(アンドレア・ライズボロー)と暮らすレッド(ニコラス・ケイジ)。しかしマンディがカルト集団に連れ去られ、レッドの目の前で惨殺されてしまう。怒りに燃えるレッドは復讐の為に武器を手に取り、カルト集団の後を追う。監督はパノス・コスマトス。
 一昔前のカルト映画を自分たちの手で再現したい!あの時見たあれをやりたいんだよ!という並々ならぬ情熱を感じた。私はいわゆるカルト作品にはあまり興味がないので、本作を十分楽しめたとは言い難い。しかし、よくわからないながらも何かすごい熱量と愛が込められた作品だということはわかるし、その一点で嫌いになれない。具体的に80年代、90年代の特定作品の雰囲気を再現したいというよりも、監督の中で見た「はず」になっている映画のイデアみたいなものを再現しようとしているんじゃないかなと思った。
 映像のエフェクト、撮影方法だけでなく、レッドの自宅の内装も「あの頃」感が強烈。特に洗面所の壁紙は、よりによってこれを選ぶんだー!というもの。ありそうで実際にはないんじゃないかなという絶妙な選択。この壁紙だけで全部許せる気がしてきたもんな・・・。この洗面所のシーン、ニコラス・ケイジの熱演もあって名シーンだったと思う。
 レッドは復讐の為に突き進むが、ケイジの目力と顔芸が強烈すぎて、場内でちょいちょい笑いが起こっていた。しかし、レッドの怒りと悲しみが痛切なこともわかるので、笑うに笑えない気分にもなる。レッドのセリフは殆どないのだが、とてもエモーショナル。前半、レッドとマンディのどうということのないやりとりや2人で過ごす様子の、自然さや気負いのなさがとてもいいのだ。この人たちはお互い信頼しあっているし、いいパートナーなんだということがわかる。一見奇矯な本作だが、こういう部分をちゃんと作っているので単なる色物にならないのだろう。マンディが弱弱しくやられていく女性、アイコン的な女性ではなく、確固とした人格付けされた登場人物なのもよかった。

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『マイ・プレシャス・リスト』

 マンハッタンで一人暮らし中のキャリー(ベル・パウリー)はIQ185、ハーバード大学を飛び級で卒業した天才だが、仕事も友人もなくほぼ引きこもり生活をしていた。セラピストのペトロフ(ネイサン・レイン)はキャリーに6つの課題を記したリストを私、それをクリアしろと言う。キャリーは不承不承リストをこなそうとするが。監督はスーザン・ジョンソン。
 予告編や宣伝ではキャリーは「ダメ女」「拗らせ女子」(どちらも私は好きではない言葉だが)と称されているが、本編を見ると大分的外れに思えた。邦題も(そもそも邦題なら日本語題名にすればいいと思うのだが・・・)いまひとつ。リストはそれほど大きな要素ではない。原題は主人公のフルネームである『Carrie Pilby』。キャリーという人、彼女の人生の話なのだ。
 キャリーは「ダメ女」「拗らせ女子」とはちょっと違うように思う。彼女は飛び級で大学に進学し卒業しているので、現在19歳。周囲の大卒が23,4歳なのに対し、まだ子供と言ってもいい年齢だ。彼女は非常に頭がよく読書家で博識だが、精神的、社会的に十分大人かというとそういうわけではない。にもかかわらず「大卒」ということで人生経験20年越えの人たちと同じような扱いをされ、そういう振る舞いを要求される。彼女のぎこちなさや対人関係における壁は、実年齢と社会的に置かれたポジションとのギャップからくるものではないかと思う。単に経験がまだ十分ではないのだ。
 また同時に、彼女は大学で非常に傷つく体験をし、トラウマのようにその記憶が蘇るのだということが徐々にわかってくる。彼女の少々突飛にも見える言動のうちのいくつかは、この傷ついた体験からくるものだ。この体験の相手は、登場して開口一番、あっこいつはクソ野郎だぞ!という気配を漂わせるのだが期待を裏切らないクソぶり。知能が高く同年代と話が合わないキャリーは、一人前の大人扱いされることに満足を得る。しかしそれは、大人扱いされるべきではない、年齢相応として扱われるべき場面でも大人扱いされることにもなりうるということで、若さ、未熟さに付け込まれるということでもある。飛び級出来る位才能があるというのは素晴らしいことだが、落とし穴的側面もあるのだ。頭脳の成熟度と精神の成熟度はまた別物だろう。キャリーの父親も、そのあたりを見落として彼女との関係がぎこちなくなってしまう。
 作中、キャリーは何人架の人から「大人になれ」と言われる。その時に指す「大人」とは、物事を荒立てない、つべこべ理屈っぽく言わない、要するにその発言者にとって都合のいい「大人」だ。それは真の大人とは違うだろう。おかしいと思ったことはおかしいと言えばいいし、困っているなら困っていると言えばいい。そういう変な「大人」を押し付けられるくらいなら、大人になどならなくて結構だろう。そもそもキャリーはまだ19歳なんだから、自分のペースで大人になればいいのだ。

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『万引き家族』

 治(リリー・フランキー)、信代(安藤サクラ)夫婦と信代の「妹」亜紀(松岡茉優)、治と信代の「息子」祥太、そして「おばあちゃん」初枝(樹木希林)。一家の生活を支えるのは初枝の年金と治の日雇仕事の賃金、信代のクリーニング店でのアルバイト料だ。治と祥太はある夜、団地の廊下に放置されている幼い女の子を見つけ、連れ帰ってしまう。一家はその女の子をりんと名付け、一緒に暮らし始める。原案・脚本・監督・編集は是枝裕和。第17回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
 是枝監督作品では度々家族の姿、ありふれていそうだが特に理想的ではない家族の姿が描かれる。本作もまた家族が物語の中心にあるが、その家族のありかたは非常に危うい。何となく寄り集まっているうちに家族的なものになってしまったような心もとなさがある。
 彼らが子供を育てるという責任を全うしているのかというと、そうとは言い切れないだろう。経済面はともかく、子供への教育や倫理的な問題を教えていくことは、彼らには出来ないしそういうことをしなければという意識もあまりなさそう(万引きは悪いことなのかと尋ねる祥太に対する信代の答えとか)。祥太が自分がやっている万引きと言う行為の是非について漠然とした疑問を持ち、自分たち「家族」のことを考え始めた時点で、この家族の終わりの気配が見え始める。
 とは言え、治も信代も子どもたちに愛情はあり、彼らの世話はそれなりにしている。虐待を続けていたりんの両親とはよっぽどましだ。愛情だけでは、あるいは血のつながりや経済的バックボーンだけでは家族として機能していると言えないだろう。生活に不足なく、教育も十分に受けられ、ごく模範的な家族に見えても、その中に居場所がない人もいる。家族という仕組み、また人間そのものの曖昧さや両義性を、善悪どちらかの側に偏らないように注意深く描いた作品だと思う。

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『MASTER マスター』

 金融投資会社の会長チン・ヒョンピル(イ・ビョンホン)は様々なテクニックを駆使し多額の投資金を集め、裏金を増やし、警察や政府等有力者たちに賄賂をばらまきビジネスを拡大してきた。彼を追う知能犯罪捜査班の刑事キム・ヘミョン(カン・ドンウォン)は、チンの片腕で裏金作りに手腕を発揮してきたハッカー、パク・ジャングン(キム・ウビン)を確保、スパイとしてチンの帳簿を持ち出せと言う司法取引を持ちかける。しかし会社内に裏切り者がいると気付いたチンは大金を持って行方をくらませる。監督・脚本はチョ・ウィソク。
 詐欺の詳細にしろスパイ大作戦にしろ、描き方は割と大雑把。チンの投資詐欺はすごく巧みで大規模!すごいやり手!という設定ではあるが、見るからに胡散臭いしこれ本当に成功します・・・?って気分になる。とは言え、その大雑把さが本作の良い所だと思う。シリアスではあるが精緻にしすぎず、重くしすぎず、近年の韓国エンターテイメント映画に顕著な生々しい暴力描写も控えめ。エンターテイメントとして収まりがちょうどいい感じに調整されている。私は韓国映画で往々にして描かれる組織内の上下関係や共同体のしがらみには時に胸焼けしてしまうのだが、やり過ぎ感がないのがとてもよかった。気負わず楽しめるいい作品だと思う。暴力の嵐みたいな作品やゴリゴリ神経を削る諜報戦も面白いけど、毎回それじゃあ疲れてしまう。
 当初、こういう感じなのかなと予測していた展開はなんと前半で完了してしまう。しかし、チンが逃亡してからの後半の方、尻上がりに面白くなっていく所がえらい。もたつかずテンポがよかった。帳簿とかハッキングとか投資計画とか、わりとざっくりとした設定でよくよく考えるとそんな上手くいきます?と思うんだけど、見ている間は飽きない。主演3人の魅力も大きかった。イ・ビョンホンが胡散臭い男を嬉々として演じているように見える。またカン・ドンウォン演じるヘミョンとキム・ウビン演じるジャングンのやりとりが、距離は近づきすぎないものの徐々に双方向の掛け合いになっていく所も楽しい。あんまりねっとりとした人間関係を感じさせない所が、本作のトーンに合っていたと思う。

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『マイティ・ソー バトルロイヤル』

 アスガルドの危機を知り、故郷に帰ったソー(クリス・ヘムズワース)の前に、死の女神であり存在を隠されていた実の姉であるヘラ(ケイト・ブランシェット)が現れる。ヘラはソーの武器であるムジョルニアをあっさりと破壊し、ロキ(トム・ヒドルストン)と共に宇宙の果てへ飛ばしてしまう。辿りついたのは様々な世界のジャンクが漂流する星。ソーは星の支配者グランドマスター(ジェフ・ゴールドプラム)に捕えられ、戦士としてバトルロイヤルショーに出場させられる。そこで対戦したのはソーと同じくアベンジャーズの一員であるハルク(マーク・ラファロ)だった。監督はタイカ・ワイティティ。
 原題はサブタイトルが「ラグナロク」で、実際神々の黄昏の物語でもありアスガルド崩壊の危機が訪れているのだが、本編にラグナロク感が皆無なので、バトルロイヤルで良かったと思う。ちょいダサ目で能天気感漂う所も内容に即した邦題だ。アスガルドの危機っぷりは洒落にならないレベルで、死人もばんばん出ているのに、同時並行で描かれるソーたちのすったもんだは正にコント。アベンジャーズ関係のマーベル映画の中では最もユルい、コメディ色の強い作品だと思う。本作のすごいところは、そのユルいコメディパートと世界崩壊のシリアスパートが違和感なく組み合わさっている所だろう。ワイティティ監督、なかなかの剛腕である。
 ソーの能天気さには拍車がかかり、語彙もちょっと増えて今回はいつになく行動的。ロキは完全にスネ夫キャラ。ソーのシリーズ新作というよりも、ソーの二次創作同人誌のようなノリだった。だって、皆の心の中のロキちゃんは割と本作みたいなロキちゃんじゃなかったですか・・・?当然2人の掛け合いは増量され大変楽しい。なんだかんだでお互い好きなんじゃん!ということが再確認できる。また、ソーとハルク=バナー博士という珍しい組み合わせも楽しかった。ハルク(こちらも語彙が増えている!)とは幼稚園児レベルのコミュニケーションが成立しているが、バナー博士とは人柄的に全く共通項が見えてこないし、バナーはバナーで筋肉バカ系イケメンであるソーに対する苦手意識は強そう。そのあたりもギャグにしつつ、珍道中感が出ていて楽しい。また、ハルクがバナーを、バナーがハルクをどう思っているのかについて垣間見えるあたりも貴重。
 本作、今まで王子としてふらふらしていたソーが、ついに本気で王になろうとする成長物語でもある。王とは、王国とは何なのかという大きな問題を突き付けられるのだ。ソーの物語としては大きな分岐点と言える。そういう大事な展開をほぼコントでやろうというあたり、大変度胸がある作品だとは思う。

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クリス・ヘムズワース
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2011-10-21



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