信仰を失い絶望の淵にいる牧師、廃墟となった町の上空を漂うカップル、シャンパンが好きでたまらない女性、昔の同級生に無視される男、機嫌の悪い歯科医。様々な人々の人生のあるシーンを繋ぎ合わせた群像劇。監督・脚本はロイ・アンダーソン。
スウェーデンの巨匠であり奇才であるロイ・アンダーソン監督の新作。監督の作品はCGをほぼ使わず、巨大スタジオ内のセットで模型や手書きのマットペイントを駆使して作られることで有名だ。そのアナログさ、徹底した人工が、絵画のような完成度の高く美しい情景を作り上げている。33のエピソードから構成された作品だが、それぞれのエピソード間に具体的なつながりがあるわけではない。ともすると本当に断片的に見えかねないところ、美術の統一感の強さによって一作品としてまとめ上げられているように思う。それぞれのエピソードはほぼ1ショットで撮影されているので、ある町のあちらこちらに出没して人々の営みを眺めているような不思議な気分になる。「~な人を見た」といった言葉で始まるナレーションが、その気分を高める。神の目に近い視点だ。神から見たのなら、この世界全体が作り物とも言えるのだろうか。
エピソードの一つ一つは人生の悲哀を感じさせるほろ苦いものであったり、また洒落にならない悲惨なものであったりする。また、ヒトラーらしき独裁者や、シベリアの収容所に向かう兵士たちなど、歴史の負の部分を垣間見せるものであったりする。写真撮影に興じる家族や、土砂降りの中誕生会に向かう親子など、ほっとするような情景もあるが、悲哀や悲惨を相殺するほどのものではない。にも関わらず、本作を見ていると人間に対して希望を持ち続けられる気がしてくる。というとちょっと言いすぎかもしれない。絶望しなくても済む気がしてくると言った方がいいか。単純に絵画のようなショットひとつひとつが美しいからというのもあるのだが、人間のしょうもなさや愚かさも飲み込めるような奥行を感じるのだ。諦念を突き抜けたおおらかさのように思う。