3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『ファイティン!』

 子供の頃に韓国からアメリカへ養子に出されたマーク(マ・ドンソク)はアームレスリングチャンピオンを目指したものの八百長疑惑を掛けられ、今はクラブの用心棒に。自称スポーツエージェントのジンギ(クォン・ユル)の口車に乗せられ、祖国に戻ってアーレスリングに再び挑むことになった。実母の家を訪ねると、初めて存在を知った妹スジン(ハン・イェリ)と子供たちが住んでいた。一方、ジンギはスポーツ賭博を仕切るチャンス社長にマークのスポンサーになってほしいと頼むが、八百長への加担を迫られる。監督・脚本はキム・ヨンワン。
 どストレートでひねりのない話なのだが、王道だからこその面白さがあった。感動は大いにあるが湿っぽくならず、基本的にカラリとしているのもいい。マ・ドンソクの魅力が存分に発揮されており、彼が演じるマークの、見た目はいかついが生真面目で心優しい所、口下手で不器用な所がとてもチャーミング。老若男女、家族連れでも楽しめる作品だと思う。
 ストーリーはさくさくと進みコンパクトな構成。序盤、あっという間に韓国へ舞台が移るし、マークとジンギがどういう経緯で兄弟分になったのか、マークはどういう人生を送ってきたのか(養父母について殆ど言及されない)等は具体的には殆ど説明されない。割愛してかまわないところはざっくり割愛しており、テンポの良さが重視されているように思った。割愛されたことで物足りなさを感じることもない。ちょっとしたやりとりや表情で、彼らの関係や過去は何となく想像できる。過不足のない見せ方になっていると思う。
 マークは自分は母親に見放された、不要な存在だったのではないかという気持ちを拭えずにいる。彼がなかなか実家を訪ねられないのには、そういった躊躇があるのだ。またジンギは実父に対して複雑な思いがあるし、シングルマザーであるスジンは子供たちを愛しているものの時々逃げ出したくなると漏らす。皆、家族という形について何かしら不安を持っていたり、わだかまりを抱えていたりする。そんな人達が助け合うようになり、徐々に家族のような絆を築いていく。マークがアームレスリング選手として再起を賭けるスポ根物語であると同時に、家族を失った彼(ら)が再び家族を得る、ファミリードラマとしての側面もある。2本の軸が相互に機能して物語を進行していく、手堅いストーリーテリングだった。血縁を超えた家族的共同体というモチーフは、近年色々な国の映画で見かけられるようになったが、世界的な流れなのだろうか。
 アームレスリングというぱっと見てわかりやすい、見た目がシンプルな競技を選んだのは正解だったと思う。前述した余計な説明はしないという本作の見せ方の方針に合っている。盛り上がりも強さの度合いも、見ていればとりあえずわかるところがいい。競技説明にかける時間を省略できるのだ。

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2018-10-02


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『プーと大人になった僕』

 かつてくまのぬいぐるみプー(ジム・カミングス)と共に100エーカーの森で遊んでいたクリストファー・ロビンは、やがて大人になり、親友プーや仲間たちのことを忘れてしまう。大人になったクリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)は妻イヴリン(ヘイリー・アトウェル)、娘マデイン(ブロンテ・カーマイケル)とロンドンで暮らし、鞄メーカーに勤めていたが、大幅なコスト削減、リストラを命じられ四苦八苦していた。そんな彼の前に、プーが姿を現す。原作はA・A・ミルンの児童文学を元にしたディズニーのキャラクター「くまのプーさん」。監督はマーク・フォスター。
 プーは子供時代のクリストファー・ロビンの親友であると同時に分身でもある。いわゆるイマジナリー・フレンドと言えるだろう。それ故に、プーが大人になったクリストファー・ロビンの前に現れた時、彼だけではなく他の人たち、妻子はともかく全然関係ない町の人たちの目にも見え、声も聞こえるという設定がどうにも気になった。プーはクリストファー・ロビンの子供時代そのものでもある。だからそれ以外の人に見える必要はないし、見えたらプーの持つ意味合いが変わってしまう。プーが登場してクリストファー・ロビンの前に現れるのは、彼の内面での問題があるからだろう。本作、ファンタジーがどこまで具現化しあふれ出るのかというラインの設定が曖昧だ。クリストファー・ロビンの内面にあるファンタジーが、現実を侵食していくように見えてくるのだ。そう見ると、ラストも相当不穏な気がしてしまう。プーはあくまで、クリストファー・ロビンと1対1の関係においてのみ存在するものだろう。彼が大人の自分=クリストファー・ロビンを助ける為に出現するのはとても良い(しファンタジーにはそういう力があると思う)と思うけど。
 私が愛しているのはA・A・ミルンとE・H・シェパードによる「くまのプーさん」であって、ディズニーのプーさんではないので(なので、冒頭の原作絵を活かしたアニメーションは良かった)、本作に対してもつい批判的になってしまう。本作のクリストファー・ロビンは、ミルンが「プーさん」を与えた息子クリストファー・ロビン=クリストファー・ミルン・ロビンではない。実在のクリストファー・ミルンと『くまのプーさん』の関係、ミルン親子のその後を知ってしまうと、本作見ても複雑な気持ちにしかならないのだ。


クリストファー・ロビンの本屋
クリストファー・ミルン
晶文社
1983-12





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『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』

 キューバの老ミュージシャン達のセッションを記録したヴィム・ベンダース監督のドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』から19年。現メンバーによる最後のツアーを追った新作ドキュメンタリー。ヴェンダースは製作総指揮に回り、監督はルーシー・ウェーカーが務めた。
 映画の制作・公開は1999年、日本での公開は2000年だから、前作見たのは18年前か・・・。時間が経つのが速すぎて茫然とする。映画は見たし、サウンドトラックも買ったし、この映画がきっかけでライ・クーダーの音楽を知った。彼らの音楽を聴くと懐かしい気分になるが、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ自体はずっと現役で活動を続けているわけで、懐かしいとかそういうものじゃないよな。
 前作に比べると幾分センチメンタルな雰囲気だ。監督が変わったからというのも一因なのかもしれないが、19年間のうちに主要メンバーの多くが亡くなっているというのが大きい。前作の時点で皆さんそこそこ高齢だったので、しょうがないといえばしょうがないのだが、やはり切ない。しかしその一方で、現メンバーの孫が新規加入していたりと、新しい動きもある。世代交代しつつ音楽は受け継がれていくのだ。
 前作ではあまり触れられなかった、個々のメンバーの人生やその時代背景にもスポットが当たる。これまでの彼らの歴史を振り返ると共に、キューバという国の変遷を垣間見た感もある。なにしろ、前作から本作までの間にアメリカとの国交回復してるんだもんなー(オバマ前大統領も登場する)!前作のツアーではアメリカでの公演もあったけど、あれは本当に大変だったんだな・・・。
 ボーカリストであるイブライム・ウェレールの人生が実に心に残った。バックコーラスとしてキャリアを積んだが運に恵まれず無名のままで、ブエナ~から声がかかった当時は靴磨きをして生活費を稼いでいたそうだ。それが70代でまさかの大ブレイク。彼がステージ上にいると場のまとまりがよくなるような、人柄の良さがにじみ出ていた。また同じくボーカリストであるオマーラ・ポルトゥオンドが前作のワールドツアーの際、盛り上がる観客に対し、この曲で踊れるなんて、私の母の苦労等知らないのに・・・と漏らす言葉が印象に残った。聞く側にとって外国語の曲って、歌詞の内容とちぐはぐな盛り上がり方をしてしまいがちかもなぁと。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
オマーラ・ポルトゥオンド
ライス・レコード
2008-06-01


『ファニーとアレクサンデル』

 11歳の少年アレクサンデル(バッティル・ギューヴェ)と妹ファニー(ペルニラ・アルヴィーン)は、父である劇場主で俳優のオスカル・エクダール(アラン・エドクール)、母で女優のエミリー(エヴァ・フレーリング)、元有名女優の祖母ヘレナ(グン・ヴォールグレーン)と暮らしていた。1907年のクリスマスイブ、エクダール家には叔父叔母に従兄弟ら一族が集まり、毎年恒例の賑やかさだった。しかし年明けにオスカルが急死。エミリーは色々と相談に乗ってくれたヴェルゲルス主教(ヤン・マルムシェー)と再婚することになる。監督・脚本はイングマール・ベルイマン。1982年の作品をベルイマン生誕100年映画祭にて鑑賞。
 何と5時間11分という長さで、体力的にはさすがにきつい。しかし映画的喜びに満ち溢れている。序盤、一人遊びから幻想の世界へと足を踏み入れるアレサンデルの世界といい、クリスマスパーティーで皆が並んで屋敷中を踊りまわるシーンのめくるめくような映像といい、映画の醍醐味ってこういうことだな!という豊かさに満ちている。撮影も美術も大変豪華。全5章の構成だが、各章タイトルの背景は水の流れの映像。これはアレクサンデルが主教館から見下ろす川なのだろうとわかってくるが、流れの止まらない時の流れの象徴のようにも見える。喜びも悲しみもその時その時のもので、全て過ぎ去っていく。華やかだがどこか寂しい。
 ドラマ部分は予想外にベタ。子供の視点を中心に、父の死、母の再婚、義父との不仲と虐待、そして大団円を大河ドラマのようなスケール感で見せていく。夫の死により気弱になったエミリーにつけこむヴェルゲルスと、彼のいいなりになってしまうエミリーのドラマはある意味非常に下衆いのだが、そこに信仰の問題が絡んでくる。ヴェルゲルスは非常に厳格なキリスト教者として振舞い、エミリーや子どもたちにもそれを強いる。しかし彼の信仰は信仰の形式のみを厳格化した、形骸化したもので、精神は伴っていないように見えるのだ。頼るものがなくなり不安なエミリーにとってはその形こそが頼もしく見えたのかもしれないが、アレクサンデルやエクダール家の叔父たちはヴェルゲルスの欺瞞を察知する。アレクサンデルがヴェルゲルスに嘘をつき続けるのは、ヴェルゲルスの内実のなさ(と本人は思っていないだろうが)、嘘に対抗しているようにも見えてくる。アレクサンデルの「嘘」は彼を守る物語のようなもので、彼の前に現れる死者たちもその一部。力を持たない子供である彼は、自分の物語でヴェルゲスに反発するのだ。
 エグダール家とその周囲の人々の描き方がとても面白い。クリスマスパーティでは和気藹々としているが、帰路につくと、実はお互いに諸々思う所もある。必ずしも愛情深いわけではない。一族の要であるヘレナは、いつも強気で女王然として見えるが、息子たちには少々失望している。好色な叔父はメイドを愛人にして子供まで作る。そのメイドと子供も一族として迎え入れるという、おおらかさというか底なし感というか。もう1人の叔父はドイツ人の妻をなじってばかりでてんでいくじがない。しかしエミリーと子どもたちが危機に陥ると一致団結して教会と闘う。彼らが劇場主と役者という、世俗の祭りと娯楽の世界の人たちだから、厳格なヴェルゲルスには余計に反感を持つのかもしれない。

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2015-05-22


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2014-12-24





『BLEACH』

 幽霊を見ることが出来る高校生・黒崎一護(福士蒼汰)は、ある日巨大な悪霊「虚(ホロウ)」に襲われる。死神と名乗る少女・朽木ルキア(杉咲花)に助けられるが、彼女は重傷を負ってしまう。虚を倒す為、ルキアは死神の力を一護に渡す。一護は死神代行として虚との戦いに巻き込まれていく。原作は久保帯人の同名漫画、監督は佐藤信介。
 大人気漫画の実写化であり、原作の性質上キャラクターを立てる、魅力的に見せることが非常に重要なはずなのだが、本作はそこが今一つぱっとしない。主人公である一護を始め、登場人物それぞれがそれぞれの意思をもって動いているという感じがしなくて、ストーリー展開上のタスクをこなすために動かされている感じがした。原作のビジュアルイメージを再現しようとしているのはわかるし、この部分で失敗しているわけではないと思うので、かなり勿体ない。
 一護の行動原理は母親の亡くし方によるもので、それは冒頭に提示されているにも関わらず、今一つ自然な流れに感じられない。俳優の演技が一本調子で(福士は身体は動くが、決して台詞回しが上手いわけではないのでなかなか厳しい)一護が単純すぎるように見えてしまう。また、序盤、死神代行になるまでの展開がやたらと早いのも一因かもしれない。他にも、この展開になるんだったらその前の展開いります?(ラストのルキアの選択とか)という部分が多くてストーリーの組み立てに色々ひっかかった。原作に全く忠実というわけではないので、もっとアレンジしてしまってもよかったと思う。説明と省略の配分がどうもうまくいっていない気がした。多分続編を造りたいんだろうけど、この路線ではちょっと厳しいのでは・・・。
 ただ、アクションはそこそこ見応えがあり、楽しかった。CGとの組み合わせも違和感がない。特に恋次役の早乙女太一の動きはとてもよかった。身体能力の高さが明白で、動きと止めのメリハリがしっかりしている感じ。



『ブリグズビー・ベア』

 外の世界は大気が毒されていると教えられ、シェルターの中のみで育った25歳のジェームズ(カイル・ムーニー)。彼の最大の楽しみは毎週届く教育番組『ブリグズビー・ベア』を見ること。ある日、シェルターに警察がやってきて両親は逮捕される。彼らは赤ん坊のジェームズを誘拐し今まで育ててきた犯人だったのだ。実の両親の元に返され「外の世界」で暮らすことになったジェームズだが。監督はデイブ・マッカリー。
 ジェームズが愛する『ブリグズビー・ベア』は、実は誘拐犯であり偽の父親であるテッド(マーク・ハミル)が彼の為だけに作った番組。その番組がジェームズの行動指針であり心の支えであるというのは、かなり危うい所がある。ジェームズとの心情的な関係がどのようなものであれ、テッドがやったことは犯罪でジェームズの本来の人生、彼の実の家族の人生を破壊することだった。ジェームズがブリグズビー・ベアに拘る様は、彼の実の両親には非常に残酷だし傷つくことだろう。
 とは言え、本作はこの倫理的なラインをぎりぎりでクリアしているように思う。実の両親はジェームズに対して一見無理解に見えるが、これは仕方ないこと(何しろ20数年会ってない)だし、彼らがジェームズとの間の溝を埋めようと一生懸命だと描写されている。またテッドはユニークな人物ではあるが、彼を過剰に擁護するような視点はない。何より、ブリグズビー・ベアに対するジェームズの情熱は彼のクリエイティビティの爆発を促し、彼と周囲の人たちとをつなげるものになっていくのだ。テッドが生み出したブリグズビー・ベアが、ジェームズを外の世界に導き実の家族との絆を育てるものになるというのは皮肉でもあるのだが、創作物の不思議ってこういう所にあるんだろうなとも思わせるのだ。
 ジェームズの初めての友達になる少年(妹の同級生)はスター・トレックのファンで映像制作をかじっているのだが、彼のブリグズビー・ベアへの食いつきが良すぎて笑ってしまった。スター・トレックファンはやっぱり宇宙探索ものが好きなのかなとかシリーズ数、話数に拘るのかー等、ジェームズとのやりとりはオタク同士の幸せな会話という感じ。この2人がエンジンとなったチープな映画作りが本当に楽しそうで、『僕らのミライへ逆回転』(ミシェル・ゴンドリー監督)を思い出した。映画を一緒に作ることで何かを取り戻す、新しい何かが生まれていくという所が共通しており、そこにぐっとくる。ジェームズは最終的に、映画を作る、それを人前で披露する(これがすごく大事なのではないかと思う)ことで自分と自分のこれまでの歴史にふんぎりをつけるのだ。ラスト、ブリグズビーベアがどうなったかという所はとても象徴的。

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『ファントム・スレッド』

 1950年代ロンドン。著名なオートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、若いウェイトレス・アルマ(ビッキー・クリープス)を見初めて自身のハウスにモデルとして招き入れる。ハウスはレイノルズの美学、生活様式に合わせて、姉シリル(レスリー・マンビル)が厳密に取り仕切っていた。しかしアルマがハウスで暮らすようになり、レイノルズの整然とした生活は変化していく。監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。
 映像もジョニー・グリーンウッドの音楽もとてもエレガントで、往年の名画のようなルックス(タイトルクレジットなどもろにそうだ)。車中のショットも昔の映画の、車窓の外の風景だけが流れていくスタイルを彷彿とさせる。しかし、男女の関係が少々ありきたりで、特に「衝撃」というほどの展開とは思えない。あえてオールドスタイルを狙ったというのならわかるが、そういうわけでもなさそうだしな・・・。ポール・トーマス・アンダーソン監督作としてはいまひとつパンチが弱い。
 アルマのような女性が、これまで何人もいたことは冒頭で示唆される。そしてレイノルズがどの女性のことも愛さなかった、少なくとも彼女たちが望むような形では愛さなかったことも。彼女らとアルマの違いは何だったのか。アルマが結構我が強い、自分がやりたいことをやろうとする人だということは、序盤から何となくわかる。私はこう思う、という意思表示がそれとなくされている(レイノルズはそれにイラつくわけだが)のだ。レイノルズのゲームをアルマが乗っ取っていく、自分のゲームにレイノルズを乗せていくようにも見えた。レイノルズの幼児退行的な傾向は、時代に取り残されていると彼が無意識に感じていく様と平行している。もう外の世界を捨ててしまえばいいという、支配される楽さに気付いてしまったようにも。
 中盤、レイノルズとアルマが初めて共犯関係を結ぶと言ってもいいエピソードがあるのだが、私にはとても醜悪なものに見えた。レイノルズは自分のドレスの処遇に怒るわけだが、そこをなんとかするのがドレスメイカーの矜持なのでは・・・。冒頭に登場する顧客に対しては、それができていた(彼のドレスを着ると自分に自信が出ると言う)のに。彼はむしろ自分の作品が敗北したと考えるべきなのでは。

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『フェイ・グリム』

 ハル・ハートリー復活祭にて鑑賞。夫ヘンリー(トーマス・ジェイ・ライアン)が行方不明となって7年。フェイ(パーカー・ポージー)はシングルマザーとして息子ネッドと暮らしていた。フェイの弟サイモン(ジェームズ・アーバニアク)は、ヘンリーの逃亡を手伝った罪で未だ服役中だ。しかし突然、フェイにCIAが接触してくる。ヘンリーのノートには国家機密が隠されているというのだ。フランス政府が保持しているというそのノートを受け取る為、フェイはサイモンの釈放を条件に、CIAの指示を受けてパリに向かう。監督はハル・ハートリー。2006年作品。
 『ヘンリー・フール』3部作の2作目。『ヘンリー・フール』(1997年)を日本公開当時に見て以来、ようやく見ることができた。ハートリーが1作目を制作した当時は3部作になるなどと考えていなかったそうで、本作は『ヘンリー~』とは大分色合いが異なる。まさかの銃撃戦や格闘シーンまで登場するスパイスリラー風で、しかもアメリカからヨーロッパに飛び中近東にまで舞台が広がる。そんな話だったの?!とびっくりした。『ヘンリー~』のノートに隠された秘密の設定も結構強引、明らかに後付っぽくて、それが真相ならば『ヘンリー~』でのヘンリーの振る舞いは大分おかしい(まあおかしな人の話ではあったけど・・・)し出版したがっていた動機が謎なことになってしまう。
 とは言え、独立した映画として面白い。ちょっとすっとこどっこいなスパイ映画でコメディぽい要素も多い。話が二転三転していき、結構スピーディーで緊張感はあるのだが、各国の工作員の手腕が微妙、かつフェイが国際情勢に大分無頓着なので、コメディ感が否めないのだ。フェイのコート姿がとてもセクシーでかっこいいのだが、なぜ下着の上に直接コートなんだろう・・・。何も説明がないままなので気になってしまった。本作、画角が全て斜めなのだがその意図が不明。2006年の時点でこの演出はちょっとダサいんじゃないかという気もするが。ラストは『ヘンリー~』と被る。逃げ続ける男に尽くすのがグリム姉弟の運命なのだろうか。周囲から見たら間違っているように見えても、当人たちの間ではこれが正しいことなんだという姿勢も引き継がれている。
 なお、本作見た後に『ヘンリー・フール』を再見したのだが、『ヘンリー~』に登場した俳優たちがほぼ続投しており、しかもあの人こんな所に出ていた!という発見も。事前に意図した伏線のように見えてしまうあたり、やっぱりちゃんと続編になっている。

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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

 6才の少女ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)と母親ヘイリー(ブリア・ビネイト)は、安モーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしをしている。ムーニーは同じようにモーテルで暮らす子どもたちと1日中遊びまわっている。モーテルの管理人ボビー(ウィレム・デフォー)はムーニーとヘイリーに時に眉をひそめつつ気に掛けていた。監督はショーン・ベイカー。
 ムーニーとヘイリーが住むモーテルは、フロリダ・ディズニーランドのすぐ側にある。ディズニーランド効果ときらきら眩しい日差しの効果で色合いは明るくパステルカラーが広がる。ぱっと見ファンタジックで正に「夢の国」のお隣という感じ。しかし冷静に考えると親子の生活は相当苦しそうだし、ヘイリーの生計の立て方は危なっかしい。ムーニーのことをすごくかわいがっているが、適切に保護し育てているのかというと、大分微妙で、かなりネグレクトに近づいているように思う。子どもたちはひっきりなしに動き回るのだが、アメリカって子供を一人で外歩きさせない国というイメージだったので、えっ子供だけでそんなに歩き回っていいの?と心配になってきた。
 子どもたち自身は自由奔放でとても楽しそうだし、子供にとってヘイリーはきれいで楽しくて素敵なお母さんなんだろうなと伝わってくるのだが、それが逆に辛い。キラキラしたものを別角度から見たらどんよりくすんでいたというような感じだ。とは言え、ヘイリーも好んでこの状況を続けているわけではなく、努力しても次の一手に届かないのだ。モーテルは本来一時的な居場所のはずなのに、出られる目途がたたない。その届かなさ、出口の見えなさが辛い。
 そんな親子を見守るのが管理人のボビー。彼がいなければ、本作はもっと陰惨な色合いになったのではないかと思う。子供に声を掛ける不審者に猛然と近づく姿は頼もしい。とは言え、ボビーもヘイリーやムーニーを具体的に助けられるわけではない。家賃の支払いが滞れば強制的に部屋を開け空けさせなければならないし、児童福祉局からヘイリーを庇えるわけでもない。あくまで管理人と入居者の関係だ。もちろんいないよりはいてくれる方が全然ましなわけだが・・・。なおボビーの仕事量がやたらと多く、機械の修理やペンキ塗りまでやっている。モーテルの管理人てそんなに忙しいの?

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『blank13』

 コージ(高橋一生)は兄ヨシユキ(斎藤工)から、13年前に失踪した父親・雅人(リリー・フランキー)が末期がんで入院しており、余命3か月だと知らされる。コージは面会に行くが父とのやりとりはぎこちなく、その後父はあっという間にこの世を去ってしまった。葬儀の参列者たちの話から、家族が知らなかった父親の姿が立ち現れる。監督は齊藤工。
 70分という長さがちょうどいい。前半と後半でがらっと雰囲気が変わる(題名が出るのは作品中盤)所や、冒頭の導入の仕方、回想シーンへの入り方など、ちょっと映画学科の学生の自主制作作品のような演出だなと思った。が、全編見ると意外とオーソドックスな撮り方をしている。特に美術がとてもしっかりとしており、衣装のヨレ方や室内の作りこみ等説得力があった。コージ一家は雅人の借金のせいで困窮しているのだが、本当にお金ない感じがにじみ出ている(家の構造はちょっと謎だったけど・・・)。ここに説得力を持たせないと、コージとヨシユキの父親に対する憎しみ、母のわだかまりがぼやけてしまうだろう。
 スタッフと出演者に恵まれた作品だと思う。高橋一生はやっぱり上手いんだなと改めて思った。父親を見舞いに行った時に顔のこわばり方や動きのぎこちなさから、父親に対して強い葛藤があること、父親を許容できないことが伝わってくる。また母・洋子役の神野三鈴がとてもいい。生活が逼迫しすぎてちょっとおかしくなっている感じにぞわっとした。
 コージもヨシユキも父親を許せないし、雅人がろくでもない父・夫だったのは確かだろう。彼らはそんな父親を切り捨てて生きてきたわけだが、わずかな良い思い出が、コージを子供時代に引き戻す。こういうのって、すっぱり切り捨てられた方が楽なんだろうけど、なかなかそう出来ないよなぁ・・・。母親の苦労をより鮮明に覚えているであろうヨシユキとは、父親への距離感が少し違う所は、目配りがきめ細かい。葬儀での洋子、コージ、ヨシユキそれぞれの振る舞いが、彼らと雅人との関係を示しているように見えた。

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