3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『プロジェクト・グーデンベルク 贋札王』

 カリスマ性にあふれた犯罪集団のボス「画家」(チョウ・ユンファ)に、贋作づくりの腕を見込まれスカウトされたレイ(アーロン・クォック)は、偽札作りを持ち掛けられる。最新テクノロジーによる複製防止対策をクリアするために腕利きの仲間たちとミッションに挑むが。監督はフェリックス・チョン。
 偽札作りを巡る犯罪映画ではあるのだが、なんだか妙。精緻なミッションに挑むにしてはやることが派手すぎ、よけいなことをしすぎで色々と気になってしまう。何より、「画家」の行動が妙。自分にとっては全く関係ないはずなのに、レイと元恋人の関係に妙に拘る。偽札づくりが成功して富と力を手にすれば彼女を手に入れるはずだとレイを焚きつけるのだ。女性を得ることが成功のステイタス、金と力があれば目的の女性を手に入れられるという思い込み、マッチョ思想に辟易したが、それ以上にレイの人間関係にやたらと粘着するのが気持ち悪い。
 終盤でのあるどんでん返しが明らかになると、なるほどそういうことか!と腑に落ちる。が、それでも気持ち悪いことは気持ち悪いんだよな。具体的な根拠もなく1人の人間にそんなに執着し続けられるものか?一方的な思い入れがずっと維持されていくというところがそら恐ろしかった。一方的な思い入れが空回りして周囲を巻き込んでいるような話だ。それで犯罪映画としての爽快感が帳消しになっちゃうんだよな。

ヒトラーの贋札 [DVD]
カール・マルコヴィクス
東宝
2008-07-11


奪取(上) (講談社文庫)
真保 裕一
講談社
1999-05-14


『フィッシャーマンズ・ソング』

 イギリス、コーンウォール地方の港町ポート・アイザック。友人とバカンスに来た音楽プロデューサーのダニー(ダニエル・メイズ)は地元の漁師たちのバンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」のライブを見かける。上司から彼らと契約を取れと焚きつけられ、町に残って交渉を始めるが、漁師たちはよそ者への不信感でいっぱい。監督はクリス・フォギン。
 実在の漁師バンドの実話をドラマ化した作品。そんなに達者だったりひねりがあったりするストーリーテリングではないのだが、音楽と舞台に魅力がある。また、フィッシャーマンズ・フレンズのメンバーが皆チャーミングだった。漁師たちの歌はメロディは美しいが、男ばかりの職場で楽しみの為に歌うという側面が強いので、歌詞は結構下世話だったり色っぽかったりする。結婚式でそれを歌うの?!というエピソードには文化の差というか価値観の差というか…。実は嫌がらせ?とも思ったけど他意はなさそうなので笑ってしまう。正直、セクハラだよなと思わなくもないが、そういう文化圏の人たちでもある(ぜひ是正していただきたいけど…)。ロンドンのパブでのエピソードは、仲間と一緒に歌う為の音楽ということがよくわかるもので楽しい。あの歌、老若男女がそこそこ知っているものなんだな。
 信用されるには相手の文化圏に入っていくしかないという話でもあった。ダニーの場合、ある事情から相手の信頼を裏切ってしまう、かつ失望させてしまう。彼は漁師たちにとっての仲間の意味も、地域の価値も、約束の重さも自分の価値観で計ってしまう。それで大失敗するのだ。すれ違いにハラハラするが、相手の価値観、ルールを知ろうとするのってコミュニケーションの第一歩なんだろうなと。都会に住む者から見ると人間関係が密すぎて息苦しそうだったり、ジェンダー観が古いままだったりするが、コミュニティの親密さ、豊かさもある。何より彼らの音楽はそのコミュニティから生まれるものなのだ。

歌え!フィッシャーマン (レンタル専用版) [DVD]
クヌート・エリーク・イエンセン
タキコーポレーション
2003-09-26


シェルシーカーズ〈上〉
ロザムンド ピルチャー
朔北社
2014-12




『フォードvsフェラーリ』

 ル・マンでの勝利を目指すフォード社から依頼を受けたカーデザイナーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、イギリス人レーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)をドライバーに抜擢する。クセの強い2人はフォード社と軋轢を起こしつつ困難を乗り越え、1966年のル・マン24時間耐久レースを迎える。監督はジェームズ・マンゴールド。
 150分以上とそこそこの長さなのだが、体感時間はそんなに長く感じない。構成に無駄な部分がなく、むしろスピード感がある。レースシーンも、それこそスピードを体感できるような臨場感溢れるもので気分が上がる。わざわざ本物の車を使って撮影したそうで豪華。エンジン音もいいので、音響設備の良い劇場で見ることをお勧めする。しかし何より心に響くのは、シェルビーとマイルズという、2人のはぐれものの絆だ。
 レーサーとして功績を残したが健康上の理由で引退せざるを得なかったシェルビーにとって、マイルズは仕事のパートナーであると同時にもう一人の自分でもある。自分の思いが強くなかなか企業のルールになじめないマイルズへの共感もあるし、自分に出来なかったことをマイルズに託している面もある。フォード側は企業故に確実な成果や広告効果を求める。しかしそれは自己の経験とインスピレーションで動き、自分のやり方を貫きたいシェルビーやマイルズにはそぐわない。世渡り下手なマイルズを守るためにあの手この手でフォードをいなし(結構悪辣なこともやっている…)、「俺のドライバーに近づくな」とまで言い放つシェルビーの奮闘には泣けてくる。これは愛だよなぁと。マイルズへの同胞愛でありレースそのものに対する愛だ。そして最後、シェルビーの思いにマイルズがある行為で応える様にはまた泣ける。その行為は、マイルズにとって命のように大切なものを明け渡すことに他ならないのだ。
 題名からはフォードとフェラーリという2大企業の対決のように見えるが、実際は2人の男が企業の理論と戦うという側面の方が大きく、それゆえほろ苦い。2人の理念はむしろフェラーリ側に近い、つまり企業ではなくレーサーのものだというのが皮肉だ。ル・マンのある局面でフォードの副社長がする提案は、だからお前はフェラーリに馬鹿にされるんだよ!と突っ込みたくなるもの。車のことをよく知ってはいるが、レースのことはわかっていないんだなと。

栄光のル・マン [Blu-ray]
スティーヴ・マックィーン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2011-05-27

 

『ブレッドウィナー』

 アフガニスタンのカブールに住む11歳の少女パヴァーナ。ある日父親がタリバンに捕まり、母と姉、幼い弟が残され、女性の外出が禁じられている為に買い物にも行けなくなってしまう。パヴァーナは髪を切り男の子の恰好をし、家族を養い父に会う決意をする。監督はノラ・トゥミー。
 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ブレンダンとケルズの秘密』など独自の映像美が強いインパクトを残したアニメーションスタジオ、カトゥーン・サルーンの新作。パヴァーナが語る「お話」は切り絵的な質感。紙人形芝居のような味わいで面白い。立体感や紙の凸凹感まで再現されておりディティールが実に細かい。
 パヴァーナは物語で自分を励まし、家族に起きたある出来事もその一部として受け入れていこうとする。しかし、彼女が生きる社会(2001年のアメリカ同時多発テロ事件後)の中では、女性に生まれた時点で男性に付属した生き方しか残されていない。前述のとおり女性が一人で外出することは禁じられているし、それまで許されていた大学に行くことも禁じられ、文章の読み書きも睨まれる。パヴァーナの父親は教師、母親は作家で、娘たちにも読み書きや歴史、物語ることを教えていた。彼女らにとってタリバンが仕切る世の中は自分たちの価値観、生き方を否定するものなのだ。やむなく外出した女性たちが暴行を受ける様が非常に痛々しく辛い。その中で生きていて、果たして自身の「物語」が介入する余地があるのだろうかと、つい悲観的になってしまう。母や姉の必死の反抗も、この先何かもたらすのだろうかと。個々の人たちはあまりにも無力だ。そういう時に心を支えるのが物語=自分の言葉と言えるのだろうが…。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [DVD]
デヴィッド・ロウル
TCエンタテインメント
2017-04-05


ブレンダンとケルズの秘密 【DVD】
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TCエンタテインメント
2018-02-02


『冬時間のパリ』

 編集者のアラン(ギョーム・カネ)は電子書籍事業で時流に乗ろうと奮闘中。友人で作家のレオナール(バンサン・マケーニュ)から打診があった新刊の出版を断るが、アランの妻で女優のセレナ(ジュリエット・ビノシュ)は新作を好評する。レオナールの妻で政治家秘書のヴァレリー(ノラ・ハムザウィ)はアランの意見を支持。一方アランは部下のロール(クリスタ・テレ)と浮気をしていた。監督・脚本はオリビエ・アサイヤス。
 すったもんだしても不倫しあっていても夫婦は夫婦という、他人にはちょっとわかりにくい男女の絆を描く。お互いに思想・主義に全面的に同意していなくても愛している(そして意外と夫婦としてうまくいっている)というヴァレリーのスタンスが本作に登場する人たちを象徴しているように思った。著作をけなされたから慰めてほしいというレオナールへの返しも痛快。彼を愛してはいるが、出来の悪い作品はどう頑張っても出来が悪いし、自分は「慰め要員」ではないというわけ。
 皆、不倫・浮気に対して結構けろっとしている。とは言え夫婦生活と愛人との生活をすっぱり切り分けられるというわけでもない。アランとセレナはヴァレリーよりも湿度が高い感じで、2人の間のわだかまりも深い。ただ、浮気しているという罪悪感や嫉妬というより、パートナーとしての生き方がすれ違いがちという感じだった。
 2組の夫婦のあれやこれやの話であると同時に、実は出版業界の話でもあることは意外だった。実在の書籍のタイトルも色々出てくるのでちょっとうれしい。かなり単純化された描き方にはなっているが、ここ数年のフランスでの電子書籍の動きがちょと垣間見える。書籍の電子化の可能性の大きさを信じているロール、ビジネスとしては電子化に前向きだが紙の本の出版に愛着を持つアラン、電子化には懐疑的なレオナールと、それぞれ立場は違うが出版という斜陽業界(これはフランスでも避けようがないみたいで辛い…)に身を置く人たちの悲喜こもごもがじんわりときた。自作の評判に一喜一憂するレオナールはちょっとうざいのだが、まあ気になっちゃうよなー。

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『ファイティング・ファミリー』

 イギリス北部で家族経営のレスリングジムを営み、プロレス団体を運営しているナイト一家。ザック(ジャック・ロウデン)とサラヤ(フローレンス・ピュー)兄妹もレスラーとしてリングに立っており、いつかWWEの舞台に立つことを夢見ていた。ある日、WWEのトライアウトに2人は出るが、サラヤだけが候補生に選出され、フロリダへ行くことが決定する。サラヤはリングネーム「ペイジ」と名乗りトレーニングに励むが。監督・脚本はスティーブマン・マーチャント。
 実話を元にしたファミリードラマ+スポ根だが、どちらも結構あっさりしている。それが難点というのではなく、むしろ気持ちよく、ちょうどいい楽しさで見ることができた。ゲスト的なドウェイン・ジョンソンの出演も楽しい。誰かをヒールにしていない、ライバルはいても憎まれ役はいない構成もよかった。
 ペイジのWWE候補生の同期の女性たちは元モデルやチアリーダー出身の、スタイルの良い美女ばかり。プロレス一筋のペイジはむしろ異色だ。こういう場合、バービー人形のような候補生たちをついクイーンビー的な意地悪女子扱いしそうなところだが、本作はそうしない。むしろ、彼女らをレスリングの素人として下に見ていたペイジの方が偏見に囚われていた、彼女らを舐めていたことが提示される。WWEの候補生という場にいる以上、バックグラウンドがどうであれ彼女らにも相当な覚悟と努力があって当然、というわけだ。それを理解したペイジと同期生たちとがコミュニケーションをとれるようになると、全員のパフォーマンスがぐっとよくなる。プロレスの試合は信頼関係ありきだと、門外漢にもわかりやすく見せてくれるあたりがプロレス愛か。
 本作、ペイジの物語であると同時に、ザックの物語でもある。2人は表裏の関係だ。ペイジは選ばれて夢をつかんだ人だが、ザックは選ばれず夢の道から降りざるを得ない。とは言え、一つの道から降りたからといって人生が終わるわけでも、不幸が確定するわけでもない。降りたら別の道、別の立ち位置がまた現れてくる。それをつかむかどうかは本人次第だ。スターを支える人もまた、形は違えど輝いているんだよね。ジムの生徒たちへの接し方から、ザックの根の真面目さ、人としてのまっとうさがうかがえるのがとてもよかった。ああいう態度を取れるというのも一つの才能だよなと。

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アビゲイル・ブレスリン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-07-04


『ブライトバーン 恐怖の拡散者』

 子供ができずに悩んでいるトーリ(エリザベス・バンクス)とカイル(デビッド・デンマン)夫婦の元に、赤ん坊がやってきた。その男の子ブランドン(ジャクソン・A・ダン)は聡明で成績優秀に育った。しかし12歳になったブランドンは異常な力を発揮し始め、人が変わったようになる・監督はデビッド・ヤロベスキー。
 自分たちの子供が何を考えているのか、どういう人物なのかわからないという子供の他者性を極端に拡大したような話であり、スーパーマンが悪い子だったらという話である。良い子か悪い子かは親の人柄や努力によって決まるとは限らないからな…。とは言え、子供の他者性についても、異能のダークサイドについても掘り下げ方はさほど深くなく、意外とあっさりしている。自分の子供が邪悪な存在だとは信じたくない、しかし邪悪である証拠が次々と出てくるというシチュエーションは、親としては相当辛く葛藤するところだと思うのだが、父親も母親も結構決断が早いな(笑)。重苦しくなりそうなところ、あまり重苦しくないのはあえてなのかそういう作風(全般的にあまり心理の彫り込みがうまいとは思えない)なのか。良くも悪くも軽め。さらっと見られて(時間的にもコンパクトで)いいといえばいいのだが、心理的な緊張感、サスペンス要素がもっと強いのかと思っていたので拍子抜けした。
 登場人物の心情や行動の演出、ブランドンの邪悪さの演出はわりとあっさり目なのだが、所々でスプラッタ、グロテスク要素をチラ見させていくところに監督の性癖を感じた。ストーリー展開上そんなに必要ないし、一連の流れの中で見せるというよりもわざわざそのシーンをねじこんできている印象だった。

ゴールデンボーイ [DVD]
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1999-12-22







『ブラインド・スポッティング』

 黒人青年コリン(ダビード・ディグス)は刑務所から出所し保護観察期間もあと3日に迫った。幼馴染の白人青年マイルズ(ラファエル・カザル)と運送会社で働いていたが、ある日白人警官が黒人男性を背後から撃った現場を目撃してしまう。また、衝動的でけんかっ早いマイルズの行動が、コリンをトラブルに巻き込んでいく。監督はカルロス・ロペス・エストラーダ。
 アメリカ、オークランドが舞台だが、ご当地事情が垣間見える。住宅地の高級化が進み、若い小金持ち層が転入してきて、町の雰囲気は変わっていく。昔から住んでいるコリンやマイルズのような決して豊かではない層と、新しく入ってきた層とは文化が違い、お金がない彼らはだんだん追いやられていく。マイルズがパーティーで見せる爆発は、そういった思いが積み重なった上でのことだろう。白人であるマイルズはこのエリアではむしろ少数派として生きてきており、彼のチンピラとしての振る舞いは周囲に溶け込みなめられない為の自衛でもある。が、最近転入してきた人たちには、「黒人不良の真似をしてイキってる白人のにわかチンピラ」に見えてしまう。住民層に対するステレオタイプ+経済格差によって見えなくなっているものがあるのだ。
 コリンの恐怖にしろマイルズの怒りにしろ、自分のバックグラウンドを知らない奴らに好き勝手言われたくない、お前らは俺の何を知っているんだという話だ。本作ではこの「お前らは俺の何を知っているんだ」というシチュエーションが繰り返される。黒人を撃つ警官も、パーティーで声をかけてくる男も、カテゴリーごとの「こういうジャンルの人ならこういうことになっているはず」という見方しかしていない。
 そしてこれは、親友であるはずのコリンとマイルズの間でも同じなのだ。同じ場所で長年一緒に過ごしていてもまだ見えない部分がある。黒人であるコリンが日々感じる緊張感は、マイルズにはわからない。同じことをやってもコリンの方がリスクが高くなる(疑われ制裁される可能性が高くなる)のは、前科者だからではなく前科者の「黒人」だからなのだ。ニガーという言葉をコリンが自分で言ってもかまわないが、マイルズが口にするのはNG(と当然マイルズもわかっている)というニュアンスにははっとする。

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コーリー・ホーキンス
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2016-12-07





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ジェネオン・ユニバーサル
2010-12-02

『増補 普通の人びと ホロコーストと第101警察予備大隊』

クリストファー・R・ブラウニング著、谷喬夫訳
 一般市民を中心に編成された第101警察予備大隊。狂信的な反ユダヤ主義者というわけでもなく、ナチスによる教育を受けてきたわけでもない彼らは、ポーランドで約38,000人のユダヤ人を殺害、45,000人以上を強制移送した。ごく普通の人たちになぜそんなことが可能だったのか。限られた資料や証言から当時の実態を描き出し、大量殺戮のメカニズムを考察する。初版出版から25年後に加筆された増補分(研究対象を同じくするゴールドハーゲンの著作への反論)を加えた決定版。
 ホロコーストの加害者側の証言を収集し当時のドイツ軍内部の様子、いわゆるエリート軍人以外の軍従事者はどのような精神状態だったのか垣間見え興味深い。残された資料や証言、増補分ではポーランドで撮影された写真をひも解き、地道に情報をすくい上げていく。
 101予備大隊は元々軍人ではない、職人や商人などごく一般的な市井の人々から構成された隊で、世代的に(ナチス台頭の前に生まれた世代なので)ナチスによる教育を受けておらず、必ずしも熱烈な愛国心は反ユダヤ主義に駆られていたわけでもないという指摘がされている。ユダヤ人、特に女性や子供、老人を殺すことに強い抵抗を感じた人も少なくなかった。そういった抵抗を感じつつも大量のユダヤ人を収容所に送り、殺すことが出来てしまったという点が、非常に恐ろしい。ユダヤ人狩り、殺害方法がだんだんシステマティックになり、人間対人間という意識が薄れていく(自分がトリガーを引かずに済む、殺害現場を目撃しなくて済むとこの傾向はどんどん強まる)と殺害に抵抗を感じなくなっていき、習慣化していく。人間の慣れも、見たくないものは見ないようになる傾向も、実に恐ろしい。何でも日常に回収していく性質は人間の強さでもあるが、本件の場合は最悪の形で発揮されてしまったわけだ。
 また、大隊は男性のみで構成されていたようだが、「殺しに怯える弱い男」とみなされることを恐れ、周囲との同化の為に殺す、同化が強まると更に殺害に対して抵抗がなくなっていくという「空気を読む」ことによる罪悪感や抵抗感の希薄化も指摘される。101大隊の派遣先が海外で、隊からはずれると言葉も通じず行く場所もないというロケーションも、この傾向を強めたようだ。男らしさの呪縛はほんとろくなことにならないな・・・。
 ともあれ、101大隊の置かれた条件をひとつずつ見ていくと、どこの国、どの社会、どの層においてもこういうことは起こりうるだろうと思える。人間、自分の倫理観、善良さを過信してはいけないのだな・・・。こういうことが私たちは出来てしまう、その性質を利用しようとする者もいるということを、肝に銘じておかなくては・・・。内容が内容なのでなかなか読むのが辛かった。人間の負の可能性を目の当たりにし、暗欝とした気分になる。

『プロメア』

 突然変異により生まれた炎を操る種族、バーニッシュの出現により、各地で大火事が起き世界の半分が消失した。それから30年後、対バーニッシュ災害用の高機動救命消防隊バーニングレスキューは、攻撃的なバーニッシュの組織マッドバーニッシュから町を守っていた。新人(松山ケンイチ)とマッドバーニッシュのリーダー・リオ(早乙女太一)はぶつかり合う。。監督は今石洋之、脚本は中島かずき。制作スタジオはトリガー。
 始まっていきなりクライマックス!そしてTVシリーズならここで最終回だろー的なクライマックスがその後も波状攻撃してくる。やたらとテンションが高く緩急の急しかないような構成だ。ストーリーは極めて大味なのだが、本作の場合はそれが魅力になっているし、監督はじめスタッフもそこはよくわかっているんだろうな。バンクに決めポーズを惜しみなく多用し、かつそこにメタ的な突っ込みも入れる(とはいえテロップ芸のかっこよさはトリガーのお家芸的)。ビジュアルデザインが全般的に素晴らしかった。
 いわゆる日本的なアニメ、セル画風アニメの面白さ、持ち味はこういう所にあるという確信に満ちた作り。例えばハリウッド産アニメーションの最前線のような『スパイダーマン スパイダーバース』とはまた別の方向でのアニメーションの最前線を見た感がある。動画にしろ背景美術にしろ、非常にかっこよくて唸った。特に背景の省略の仕方がいい。登場するメカやロボットの全てが洗練されたかっこよさをもっているわけではない、あえてダサくしたり相当なバカ設定だったりするわけだが、全体的にはクールな印象になる所が面白かった。ちょっと匙加減を間違うとごちゃごちゃになりそうな所、絶妙なバランスが保たれている。正直、冒頭のバーニングレスキューが出動する20分くらいで動きの鮮やかさに満足してしまった。そのくらい密度が高い。
 最終的には気合で何とかする非常に中島かずきらしいストーリーで、大分ご都合主義ではある。が、大真面目でこれをやれるというのは、すごいヒューマニズムなのではないかと思う。人間の意志の力、善性を信じているということだから。ポジティブ、かつカラっとしている。
 なお本作、海外マーケットをかなり意識しているのかなという印象だった。舞台は多民族都市的な雰囲気で、モブキャラのデザインを見ても様々な人種がいる雰囲気が出ている。また研究所の職員がほぼ男女半々だったりと、男女比にも気をつけているように思った。メイン女性キャラに対してセクシャルな描写が少ない(露出度が高い衣装でも胸や尻を強調しない、いわゆるサービスショットを入れない)あたりも配慮されていると思う。トリガー制作の『キルラキル』では衣装デザインでちょっとひいてしまったので、このあたりの配慮は好ましかった。

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