3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『パブリック 図書館の奇跡』

 記録的大寒波に襲われた真冬のシンシナティ。70人のホームレスが公共図書館に立てこもった。緊急シェルターがどこも満員で、このままでは路上で凍死するというのだ。図書館員のスチュアート(エミリオ・エステベス)は彼らの苦境を見かね、共に図書館に立てこもることになる。監督・脚本は主演もしているエミリオ・エステベス。
 監督としてのエステベスの仕事は『星の旅人たち』しか知らなかったのだが、パブリック=公共とはどういうものかと真っ向から向き合った熱意溢れる作品だった。何より、「図書館は民主主義の最後の砦」であると明言されている、社会における図書館の存在意義がわかる作品。フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を思い出した。アメリカにおける公共図書館の位置づけがよくわかるのだ。図書館は誰もが知識にアクセスできる場であり、知識を得る=生活を助けること、生きる権利を保護することなのだ。冒頭、「臭い」にまつわるトラブル(日本でも頻発していそうで、図書館ユーザーとしては各方面の言い分がわかるだけになかなか辛い…)で図書館側が苦境に立たされるが、図書館の利用が誰にでも保障されているという前提、つまり生きる権利が保障されているという前提が世の中に浸透しているからこその訴えなわけだ。このあたりは日本との民度の違いを感じて、正直羨ましくもあった。
 スチュアートがホームレスらと共闘するのも、仲間や友人だからではなく、それが彼らの権利であり、自分はその権利を守ることが仕事だという信念があるからだろう。ホームレスたちの要求は寒さから身を守りたいというのが第一なのだが、内部の映像を見た人が言うように「デモみたい」なものでもある。こういう苦しみを抱えている者がここにいる、自分たちはここにいるという存在の主張なのだ。警察官たちはそこが見えていないのだが、スチュアートには見えた。
 良い作品なのだが、ちょっと古いなと思った所もある。アパート管理人がスチュアートに積極的に関わるようになる経緯としてセックスが織り込まれている所とか、女性キャスターの能力も知識も共感力もいまいちだが野心は満々な所とか、映画の中の女性の造形がひと昔前っぽい。同僚女性の造形も類型的な図書館ガールとでもいうような感じで、センスいまいちだと思う。

星の旅人たち (字幕版)
エミリオ・エステヴェス
2013-11-26







『はちどり』

 1994年、ソウルの団地で暮らす14歳のウニ(パク・ジフ)は学校には馴染めず、同じ塾に通う親友と悪さをしたり、ボーイフレンドや後輩の女子とデートをしたり、代わり映えのない日々を過ごしていた。両親はしばしば大ゲンカをし、受験生の兄はウニに暴力をふるい、姉は塾をさぼって留守がちだった。ある日、ウニが通う塾に新任教師ヨンジ(キム・セビョク)がやってくる。これまで会った大人とは雰囲気が違うヨンジにウニは心を開いていく。監督はキム・ボラ。
 ウニの家庭は父親が専制君主的に妻や子供たちを縛っており、家族は父の顔色を窺っている。とは言え真に強い父親というわけでもなく、家父長制というシステムに乗っかっているから威張れるという感じの頼りなさが漂う。母親は一応父親に従うがどこか上の空で子供たちの機微にも無頓着。兄は実際の能力以上の成績を親に求められて強いプレッシャーを感じており、そのストレスを妹たちにぶつける。ウニは家族に何も相談できず、明らかに家庭内に問題があると言える。
 しかしウニが抱えているような家庭の問題は、外部からは見えにくいし、相談しても「よくあること」「普通の家の子」として扱われがちだ。当人もこれが普通で、仕方のないことだと思ってしまいがちだろう。そこが非常に辛い。家族で囲む食卓がやたらと緊張感をはらんで不穏なので、これが毎日続くのかと思うと、そりゃあ生きているのが辛くもなるよなと納得してしまう。子供はいられる場所が限られているから、自宅の居心地が悪いというのは死活問題だろう。
 子供にとって、周囲にどんな大人がいるのか、どういう大人と知り合うかというのは本当に大きな要素だ。しかしこれは運任せだというのがまた辛い。兄の暴力に耐えるウニに、殴られたら反抗しなさいとヨンジ先生は話す。自分がないがしろにされているのを我慢する必要はない、嫌なことを訴えるのは正しいと教えてくる人がそれまでいなかったというのは、かなり深刻なことだと思う。ウニがヨンジを慕うのは、彼女がウニを独立した個人として尊重したからだろう。でも本来、誰でもそうするべきなんだけど。

ヤンヤン 夏の想い出 [DVD]
ケリー・リー
ポニーキャニオン
2004-03-03


冬の小鳥 [DVD]
コ・アソン
紀伊國屋書店
2011-06-25


『ハリエット』

 1849年、メリーランド州の農園・ブローダス家が所有する奴隷のミンティ(シンシア・エリボ)は、自由の身となって家族と暮らすことを願い続けていた。しかし奴隷主エドワードが急死、借金返済に迫られたブローダス家は、ミンティを売ることにする。売られれば家族とはもう会えないと悟ったミンティは、脱走を決意し奴隷制が廃止されているペンシルバニア州を目指す。監督はケイシー・レモンズ。
 奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの人生を映画化した作品。ミンティという名前は奴隷主がつけた呼び名で、彼女が自由を手に入れた時に自分で決めた名前がハリエット・タブマンなのだ。作中で出る字幕によると、彼女が逃亡を成功させた奴隷は70人。南北戦争では黒人兵を率いて戦い、晩年は参政権運動にも関わったという人だそうだ。恥ずかしながらこういう人が実在したことを初めて知ったのだが、本作で描かれる人生は大変ドラマティック。ストーリー展開は直線的で少々ダイジェスト版ぽい、正直野暮ったい作りなのだが、こういう人がいた、という面で面白く見られた。
 彼女は頭部を負傷したことの後遺症で睡眠障害(いきなり寝てしまう)があったのだが、たった一人で逃げ出し、その後は奴隷解放組織の一員として何度も南部と北部を行き来した。非常にタフで、自分を見くびるなという意志の強さがある。奴隷が置かれた過酷な状況は、自身が自由になってからもずっと、彼女にとっては自分の問題、自分の苦しみだ。他の組織のメンバーは自由黒人であったり白人であったりと、奴隷の立場そのものとはやはり切実さが異なる。下宿の主マリー(ジャネール・モネイ)に「臭う」と言われてくってかかる(そもそも失礼だしね)のも、想像力のなさに対するいら立ちからだろう。
 不公正さへの感覚は人によって差があって、ハリエットはそこに鋭敏、かつそれは間違っているという意志を持ち続け、行動に移すことができた。黒人で元奴隷である彼女にとってその行動のリスクは非常に高いし、解放組織の仲間も、彼女には無理だ、組織を危険にさらすなと止めようとする。彼女はそこを押し切って(そこもまた、自分を見くびるなということだろう)行動に移すわけだが、信仰が後ろ盾になっているという面も非情に大きい。ハリエットは睡眠障害の一環として、幻視体験をするのだが、それを神のお告げとして解釈し従うのだ。この幻視がストーリー上都合よく使われすぎな気もしたが、自分を導く存在がいると確信できるというのは行動するうえで大きな支えなのだと思う。解放組織のメンバーとしての彼女の通称は「モーゼ」なのだが、神のお告げに従い民を導く女性という面ではジャンヌ・ダルクのようでもある。白人奴隷主たちは彼女を捕らえてジャンヌ・ダルクのように火あぶりにしろ!といきまくのだが、クリスチャンとしてそのたとえは大丈夫なんだろうか…。

ハリエット
テレンス・プランチャード
Rambling RECORDS
2020-03-25


それでも夜は明ける [Blu-ray]
ブラッド・ピット
ギャガ
2016-02-02


『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』

 悪のカリスマである恋人・ジョーカーと破局したハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)は、町中の悪党から狙われるようになる。いわくつきのダイヤを盗んだ少女カサンドラ(エラ・ジェイ・バスコ)を巡り、街のクラブを仕切る悪党ブラックマスクことローマン・シオニス(ユアン・マクレガー)と対立することに。クラブの歌姫ブラックキャナリーことダイナ(ジャーニー・スモレット=ベル)や殺し屋のハントレスことヘレナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)、そしてシオニスを追い続けてきた刑事モントーヤ(ロージー・ペレス)と結託し起死回生を図るが。監督はキャシー・ヤン。
 DCの女性主人公映画というとワンダーウーマンが評判だったが、本作はワンダーウーマンに感じたひっかかり、つまり女性主人公はセクシーで美しく男性と恋愛しないとダメなのか?という点を克服している。女性が主人公のアメコミ映画を今作るならどうやるのか、ということがすごく考えられていると感じた。ハーレイ・クインといえばジョーカーの恋人で、当人も言及するように彼の為に悪の道に入り彼に尽くすというキャラクターだった。彼女の仕事は彼の為、彼女の功績は彼の功績になる。この点は男性上司に手柄を横取りされてきたモントーヤと通じるものがある。
 しかし本作では早々にハーレイ・クインとジョーカーは破局している。最初はショック状態だった彼女だが、段々彼を思い出すこともなくなり、自分の為に行動し始める。そして新たなロマンスは生まれない。異性からの愛とか、異性に対する支えとか献身とかは投げ捨てている。更に、カサンドラに対しても母性とか「女性ならでは」の動機付けではなく行きがかり上、ひいては仲間意識や友情というスタンスで接する。また、協力関係になるダイナらとも、いわゆるファミリー的な仲間意識ではなく、たまたま目的が同じ・敵が同じだから協力するというスタンスで、ミッションが終われば意外とあっさり解散で尾を引かない。関係性の中にヒエラルキーが希薄なのだ。この困ったことがあれば助け合うが基本あっさりとしている関係性が好ましいし、実際女性同士の連帯ってこういう感じだよなという手応えがある。本当に女性たちの物語なのだ。
 対して敵のシオニスは、男性同士でつるむホモソーシャルな(多分にミソジニーを含む)関係の中におり、更にマフィアの御曹司だが一族のみそっかすという父権的ヒエラルキーから抜け出せない人物。対称的なのだ。ハーレイらの魅力は、シオニスが所属しているような格付けの世界から自由であるところ、何かに所属することを拒む所にあると思う。

ハーレイ・クイン&バーズ・オブ・プレイ (ShoPro Books)
ポール・ディニ他
小学館集英社プロダクション
2020-03-12


スーサイド・スクワッド(字幕版)
アダム・ビーチ
2016-11-23


 

『初恋』

 将来有望志されているボクサーの葛城レオ(窪田正孝)は、試合で予想外のKO負けをした。病院へかつぎこまれた彼は、余命わずかと告げられ呆然とする。歌舞伎町をふらついていた彼は、男に追われる少女モニカ(小西桜子)を助けるが、彼女はヤクザに追われていた。レオはなりゆきでモニカと共にヤクザに追われることになる。監督は三池崇史。
 三池監督、久々の快作ではないだろうか。アバンの流れの良さと題名が出るタイミング、全般的なテンポの軽快さ、ブラックユーモアとアクションとバイオレンスのバランスがいい。血肉とおかしみの過剰さで見落としがちだが、手堅くオーソドックスな映画の作法を守っている監督なんだよなと再確認した。ショットのつなぎ方とか、ちょっと懐かしい「映画」(本作は東映映画なのだが、本当に東映ぽい)だ!と実感させるものがある。ちょっと古臭いのではと思われそうな演出をきちんとやっていくという、律儀な作品とも言える。
 ブラックユーモアや盛りの良いアクションが前面に出ているものの、本作はちゃんと「初恋」の話で、ど直球なボーイミーツガール。茶化さず大真面目にラブストーリーをやっており、その一方でゲラゲラ笑えるところがいいのだ。ラブストーリーといってもいわゆる恋というよりも、もうちょっと幅の広い意味合いの愛情がレオとモニカの間にあるように思えた。そもそも2人の関係は、たまたまそこに居合わせただけというものだ。しかしレオが彼女の為に何かをしようと決意し、モニカがレオに助けを求めようと決めた時、関係が動き出す。
 この人でないと絶対駄目だ、という情熱的な関係は、むしろやくざの頭・権藤(内野聖陽)とチャイニーズマフィアのタン・ロン(三元雅芸)の間にあったように見える。こいつは必ず俺が殺すというお互いへの執着はもはや恋。また、ジュリ(ベッキー)の暴走特急のような愛による復讐劇はもはや清々しい。ベッキーは本作中ベストアクト、彼女のフィルモグラフィーにおいてもベストアクトではというくらいの切れの良さだった。こんなに体の動く人だったのかという発見があってすごくうれしくなった。
 俳優が皆好演している。いまだに初々しさを失わない主演の窪田、小西(新人だそうだが役柄にすごくはまっており良い)はもちろんだが、その他も豪華。若手ヤクザ役の染谷将太の軽さ・コミカルさはもちろん、昔気質の渋いヤクザを演じる内野がちょっとしたところで見せるユーモラスさ(スマホの使い方教えてもらうところとか)もいい味が出ている。またヤクザの親分代行役の塩見三省はちょっと間が抜けているのにやたらと色気がある。あの手袋の外し方、漫画でしか見たことがないやつだよ!


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バンダイナムコアーツ
2020-01-28


『ハスラーズ』

 祖母と一緒に暮らし、生活の為にストリップクラブで働き始めたデスティニー(コンスタンス・ウー)は、店の稼ぎ頭ラモーナ(ジェニファー・ロペス)と親しくなる。ラモーナからストリッパーとしての稼ぎ方を学び、安定した稼ぎを得ることができるようになった折、2008年にリーマンショックが起きた。経済は冷え込み、クラブにも閑古鳥が鳴くようになる。ラモーナは経済危機を起こした張本人であるウォール街のエリートたちから、大金をだまし取る計画を立てる。監督はローリーン・スカファリア。
 タフでゴージャスなラモーナに導かれてデスティニーが自信をもって輝いていく様も、彼女らが疑似家族のようになっていく様もキラキラしている。ジェニファー・ロペスのかっこよさ、頼もしさと相まって見ていてエンパワメントされるという評判も納得。ただ、そのキラキラも高揚感もつかの間のものだ。
 ラモーナらは金融街の「悪どい」エリートたちから金をだまし取ろうとする。リーマショックの経緯を知らなくても彼女らが景気良くミッションをこなしていく様は爽快だ。彼らのゲームではなく自分たちのゲームに彼らを引きずり込み、勝つのだから。しかし彼女たちがやっていることは、「奪い取る」という点では彼らと同種のゲームだと言えるだろう。そして景気がまだ良い時ならともかく、獲物を選べなくなってきたら、情も倫理も切り捨ててより弱い者から奪い取っていかないと生き残れなくなってくる。彼女らが始めたゲームは結局そういうゲームなのだ。生き残る、勝ち組になる為にはそういうゲームに乗らざるを得ないという所がとても辛かった。それ以外の生き残り方ってないのだろうかと。
 ラモーナとデスティニーの友情と思いやりにはぐっとくる。それだけに、ラストはほろ苦い。「私たちは最強だった」という言葉がなんだかやりきれなかった。

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『パラサイト 半地下の家族』

 全員失業中のキム一家。ある日、長男ギウ(チェ・ウシク)がIT企業CEOのパク氏(イ・ソンギョン)宅で長女の家庭教師として働くことになる。更にギウの妹ギジョン(パク・ソダム)は幼い長男の美術教師としてパク家に出入りすることに。監督はポン・ジュノ。2019年第72回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
 先行上映で見たのだが大変面白かった!早く見てよかった!しかし先行上映場所がきらびやかな日比谷のTOHOシネマだったというのは、本作の内容を見た後では悪い冗談みたいだし、カンヌというセレブのリゾート地で開催される映画祭で最高賞を受賞するというのも皮肉。つまり、カンヌに来る人とか日比谷ミッドタウンに来て本作を見て高く評価するような層(イメージ)が踏みつけにしている層があるんだけどそんなこと気付かないんですよね、ということを描いているという皮肉があるのだ。
 パク一家はギウやギジョンに対してあからさまに下に見るような態度は慎んでいるし、対応は丁寧。しかしふとしたところで差別意識が垣間見える。ラインを相手が踏み越えそうになると、思い違いをするなよと牽制してくる。自分たちとお前たちは別の世界の人間なんだぞと。特にきつかったのが「臭い」への言及。リアルさというよりも、自分たちではあまり意識しない、変えようがない要素が染みついていて「この階層」であることの印のようにされるというのが非常に辛い。決定的な言葉を言われた瞬間の、ギテク(ソン・ガンホ)の表情の微妙な変化に凄みがあった(ソン・ガンホはやはり上手い!)。すーっと何かが抜けていく感じがするのだ。差別的な言葉を向けられるというのはそういうことで、決定的に人を損なうこともあるのだと。キム一家は無能というわけではなく、それぞれそれなりの技術があり知恵がある。しかし個々の力では這い登れない格差があり、一度貧困側に落ちてしまうと挽回するのはかなり難しい様子が垣間見える。空前の就職難という現代韓国の世相だけではなく、世界的な傾向が反映されている。作中、坂道の行き来シーンが度々挿入されるが、坂の上=富裕層から坂の下=貧困層への移動が映像イメージとして焼き付く。
 ただ、キム一家が被差別側でのみあるのかというとそうではなく、差別する対象があれば、自分たちより更に弱い存在を差別してしまう。無間地獄のようなのだ。これを絶ちきるものは何も見えない(断ち切ろうと思ったら社会の枠組みの外に出るしかない)というのが本作の最もきついところだろう。パルムドール受賞を決めた人たちが、この救いのなさをどの程度実感しているのか、ちょっと気になった。

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『パリの恋人たち』

 ジャーナリストのアベル(ルイ・ガレル)は、3年間同棲したマリアンヌ(レティシア・カスタ)から妊娠を告げられた。父親はアベルの親友ポールだという。アベルとマリアンヌは別れ、彼女はポールと結婚。3年後、ポールの告別式で2人は再会する。更にポールの妹イヴ(リリー=ローズ・デップ)がポールへの恋心を告白してくる。監督は主演も兼ねているルイ・ガレル。
 フィリップ・ガレルの息子のルイ・ガレル監督作だが、父親よりも作風は身軽でユーモラス。男女のすったもんだを描いても悲壮感がない。もはやそれは自虐ギャグなのか?という感じで男性が右往左往する様が描かれる。ナルシズムが薄いところがいい。
 アベルはマリアンヌの言うこともイヴの言うことも基本的に真に受け、よく言えば素直、悪く言えば騙されやすい。笑っちゃうくらいの人の好さなのだが、優しいと言えば優しい。結構翻弄されているのだが、マリアンヌに対してもイヴに対してもあまり怒らない。逆に彼女に対する自分の愛を再確認しちゃったりするから、基本的に善人なんだろうな…。本作、女性たちは癖が強いが悪意ある人間は基本的にいない。ちょっとやりすぎちゃったりひねくれていたりする、困った人たちだがどこか可愛げがあった。マリアンヌの行動が許せないという人はいそうだけど、個人的にはあまり責める気になれない。自分本位だか他人任せなのかわからない行動だけど、自分でもどうにもできないことってあるんじゃないかなと。
 恋のしょうもなさ、フェアではなさとユーモラスに描くが、本作の真の主人公はマリアンヌの息子ではないかと思う。こまっしゃくれた美少年で母親の恋人であるアベルに敵意を見せるが、同時に親の愛情を切実に欲している。マリアンヌはしっかりとした母親だが、万事において子供が最優先かというとそうでもない(それを普通のこととして描いている、マリアンヌを責めない描き方はとても良いと思う)所もある。少年が自分にとっての家族の形、大人との関係を掴みなおすという側面もあったのかなと、ラストシーンを見て思った。

愛の誕生[VHS]
ルー・カステル
2000-08-24


グッバイ・ゴダール! [DVD]
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ギャガ
2020-01-08


『パピヨン』

 金庫破りのパピヨン(チャーリー・ハナム)は殺人の濡れ衣を着せられ、終身刑を言い渡される。投獄先は南米ギアナの孤島にある刑務所で、過酷な強制労働が待ち受けていた。脱獄を決意したパピヨンは、紙幣の偽造で投獄され金を持っていると噂のルイ・ドガ(ラミ・マレック)を仲間に引き入れる。刑務所内でドガを守る代りに逃走資金を提供してもらおうというのだ。やがて2人の間には奇妙な友情が生まれていく。原作はアンリ・シャリエールの手記。監督はマイケル・ノアー。1973年に制作された脱獄映画の名作のリメイク。
 先日原作本を読んだのだが、映画は原作を大幅にアレンジしていたんだなと再認識した(リメイク元作品は見たことあるけど、記憶が大分薄れている)。ドガは原作で登場するパピヨンの囚人仲間を総合したような造形だ。映画の最後にパピヨン=リシャールと同じように投獄された男たちへの献辞が出てくるが、ドガはその男たちの代表とも言える。パピヨンとドガ、一対一の関係を長期的に描いている所が、映画の改変。これは成功しているように思う。2人の間には囚人であること以外共通項がない。最初は打算ありきの取引関係だったのが、段々本物の友情になっていく。独房への差し入れについてパピヨンが口を割らずに耐えきる、また一人で逃げることもできるのにドガを連れに戻ってしまう(同じく囚人仲間のマチュレットのことはスルーするのに)。ドガに対する振る舞いが損得抜きになっていく所に、パピヨンにとっての人間の尊厳がある。ドガとの絆を守ることは、パピヨンにとっては極めて個人的なことであり、非人間的な刑務所というシステムに対する反抗でもあるのだ。
 原作との大きな違いは、看守や署長らが一貫して非人間的で、「システム」の象徴だという所だろう。原作だと囚人に対して非人道的な振る舞いをする看守がいる一方、一定の敬意を払う所長や看守もいる。囚人同士の関係も同様だ。それが本映画だと、囚人から徹底して個人の尊厳をはく奪していく。所長たちもまた、個人としての顔の見えない存在として描かれる。パピヨンが何度も脱獄を試みるのは、殺人罪が濡れ衣であること以上に、非人間性、個人の尊厳を奪うものへの怒り故なのだとより浮き彫りになる。独房のパートが妙に長いのも、刑務所の非人道さを強調する為だろう。

パピヨン [Blu-ray]
スティーヴ・マックィーン
キングレコード
2018-07-04






パピヨン 上 (河出文庫)
アンリ・シャリエール
河出書房新社
2019-04-19

『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』

 ブルックリンでレコードショップを営むフランク(ニック・オファーマン)は店を閉めることにした。娘のサム(カーシー・クレモンズ)は医者を志しUCLAへの進学が決まっているので、いい頃あいだと考えたのだ。しかしフランクがサムを一緒にレコーディングした曲をネットにアップロードしたところ予想外に人気が出て、レコード会社からも声がかかる。かつてバンドマンだったフランクは浮かれるが。監督・脚本はブレット・ヘイリー。
 フランクはシングルファーザーとしてサムを育ててきたが、どこか子供っぽい。今ではサムの方が地に足がついて大人っぽく見える。自分たちの曲が注目されたことに対しても、ツアーはどこにいこうかなんてはしゃぐフランクに対して、サムは進学の準備に余念がない。進学を1年延ばせないかと言いだす父親に彼女がキレるのも無理はないのだ。入学は決まってるし奨学金だって受けている、何よりフランクの都合で振り回されてはたまらないだろう。彼女も心底音楽好きで、多分フランクよりも音楽の才能はあるので心が揺れないわけではない。それでも彼女が選らんだ道があるのだ。
 フランクのふるまいはなかなかイラっとさせられる所があるのだが、ぎりぎりで嫌な感じにはならない。子供っぽいが父親としての役割はちゃんと果たしてきた、親として役割を果たすため、断念しなければならないことがあると受け入れてきた様子が垣間見られるのだ。更に、彼がサムにはサムの人生があり、フランクとは別の意思をもっていること、彼女の選択を尊重しなければならないということを本当はわかっているからだろう。同じものを愛していても、2人は別の人間なのだ。
 2人が歌う歌の歌詞にもあるように「大切なものを置いて」旅に出ることは、決して悲しいことではない。これは親子の間だけではなく、サムとガールフレンドのローズとの関係において同じだろう。愛し合うことと、共にいることは必ずしも一致しない。それぞれ別の人格、別の生き方だというスタンスが一貫している。
 音楽に溢れた作品で既存楽曲の使い方も良いのだが、特にライブシーンの多幸感が素晴らしかった。クレモンズのパフォーマンスが本当にチャーミングで見ていて嬉しくなる。また、まさかトニ・コレットのカラオケを聞けるとは思わなかった(上手い!かわいい!)ので得した気分になる。

はじまりへの旅 [DVD]
ヴィゴ・モーテンセン
松竹
2017-10-04





シング・ストリート 未来へのうた [DVD]
フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
ギャガ
2017-12-22

 
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