パティシエのサラと親友のイザベラ(シェリー・コン)は長年の夢だったベーカリーの開店を控えていた。しかしサラが急死。サラの娘クラリッサ(シャノン・ターベット)は母の夢をかなえる為にイザベラを説得し、疎遠だったサラの母ミミ(セリア・イムリー)に資金援助を頼み込む。そしてパティシエ不在に悩む3人の前に、ミシュラン2つ星のレストランで活躍していたマシュー(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)が現れる。彼は専門学校時代にサラと付き合っており、ある目的があって戻ってきたのだ。監督はエリザ・シュローダー。
月並みと言えば月並みな「いい話」なのだが、中心になるはずだった人が早々に退場してしまう。不在がストーリーの中心にあり、不在が4人を結び付けていくという所に若干寂寥感が漂う。喪の仕事的な話でもあるのだ。サラとミミの和解はサラが生きている間にはなされなかったが、孫のクラリッサやサラの親友であったイザベラと新たな絆が生まれた。イザベラも本当に好きなことに向き合う。ただ、クラリッサがバレエダンサーとして再起しようとする流れは、少々蛇足に思えた。彼女の夢はサラともベーカリーともそんなに関係ないのでは…。他の人は新たな道を見つけたからクラリッサにも用意しなくちゃ、という製作上の都合でくっつけてみた、みたいな取ってつけた感だった。
ベーカリーのお菓子類はさすがに美味しそうで、目にも楽しい。ノッティングヒルの洋菓子店なのでいわゆる英国の焼き菓子が並ぶのかな?と思っていたら、途中から別の方向に舵を切る。ロンドンは多民族都市であり、ロンドン市民(監督はノッティングヒルに住んでいたそうだ)もそういう自負がある故の展開だろう。様々な人がいるということが街のアイデンティティなのだ。
ただ、日本人が食べたがる祖国のお菓子として、抹茶ミルクレープが登場するのにはなぜ?!と突っこみたくなった。まあ日本ならではのお菓子ではあるけど、あくまで派生的な存在であって王道とは言えないし、祖国の味として思い出すものでもない気がするんだけど…。ロンドンで餡子類は作りにくいのか、それともスタッフの中に抹茶ミルクレープに感銘を受けた人がいたのか、気になってしまった。