閑静な住宅地にある一軒家の内覧に来たアラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)夫婦。不動産屋が彼らに伝えたこの家一番の目玉は、地下室にある穴。その穴に入ると、「12時間進んで3日若返る」というのだ。この家に引っ越してきたものの半信半疑のアランとマリーだが、穴の存在が彼らの人生を変えていく。監督・脚本はカンタン・デュビュー。
12時間進んで3日若返る、という微妙すぎな設定に味がある。時間の経過も若返りも、一見ではわかりにくいのだ。しかしこの穴にマリーが人生を賭けてしまう。彼女が穴(がもたらす効果)に取りつかれていく様はおかしくもかなしい。彼女が目指すものはそもそも、穴を使ったとしても得られそうもない。それはまた別の問題では?!と突っ込みたくなるが、使える道具があることで、諦められなくなってしまう。
一方、アランの勤務先の社長で親しいご近所づきあいもあるジェラール(ブノワ・マジメル)は、自分の体の一部を「電子化」している。これ厳密には「電子化」ではない気がするのだが(電子タバコ的なニュアンスなのか)、原語の直訳なのだろうか。彼は自分の「電子化」された部分をやたらとアピールする。未承認の技術らしいしフランス国内では修理できないらしい(なんと日本産)し、リスクもコストも高そうなのにそれに執着するのだ。
マリーもアランも、自分の肉体をコントロールできる、よりセクシーに世間受けよさそうな方向にカスタマイズできるという欲望に取りつかれているように見えた。しかし彼らの身近な人たちは、そのカスタマイズを特に必要としてはなさそうだし、欲望の行き先は立ち消えてしまう。見ている側を置き去りにするような終わり方なのだが、そもそも本作、おさまりのいいオチが想像できない。