2020年、コロナ禍中のアメリカ。マサチューセッツ州に暮らす会社員のキース・ギル(ポール・ダノ)は、赤いはちまきに猫柄Tシャツがトレードマークの「ローリング・キティ」という名前で株式投資アドバイスの動画配信をしている。彼が目を付けたのはゲームストップ社。ゲームストップはアメリカの各地に実店舗を置くゲームソフト販売会社だが、時代遅れで倒産間近と噂されていた。キースは同社に全財産の5万ドルをつぎ込み株式を購入しこれをネットで公開し、ゲームストップ社は過小評価されていると訴える。これに共感した視聴者たちが次々とゲームストップ株を買い始め、株価は高騰し始める。同時に、空売りをしていた資産家たちは大損をすることになっていく。監督はクレイグ・ギレスピー。
SNSを通して個人投資家たちが団結し金融マーケットを席巻した実話をドラマ化した作品。ギレスピー監督にはやはり実話のドラマ化である『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』という傑作があるが、本作も大変面白かった。素材のどこを使うといいのか、一連の出来事の中で何がポイントなのかという分析・見極めが上手い監督というイメージがある。また編集のキレがすごくよくてテンポがいい。本作はキースだけでなくゲームストップ株を買った個人投資家たち、また大手投資会社の富裕層たちのエピソードも組み込まれているので群像劇的な側面も強いのだが、個々のエピソードがケンカせずに組み込まれており、この時あの人はこんなことに!という見せ方が効果的。職人的な手際の良さを感じる。
株式投資の話なので、当然お金の話、お金を儲ける為に投資をやるわけなのだが、ゲームストップ株が高騰し空売りを阻止できるかもという目が出てくるにつれ、もうお金の問題ではなくなってくる、お金よりも大事なものがあるという方向になってくる所が面白い。これがキース一人ではなく、彼に賭けた大勢の個人投資家たちの間で共有される。キースが訴えるのは市場は公正であるべきなのにそうではなくなっている、より持っている・より強いものが食いつくすゲームになってしまっている(個人投資家の一人である女子大生は、そのゲームの中で家族が経済的に苦しむことになるし自身も負債を負う身)ということだ。そこに多くの人が共感し協力し合ったという所は、これも一つのアメリカンドリームかなと思える。人間の利己的、非情な面が際立つと思われる株式市場を舞台にそういった側面が現れる所が意外でもあり、そこが株の面白さなのかなという気もしてくる。
キースと妻キャロライン(シャイリーン・ウッドリー)の関係性の描写がいい。信頼関係があって(でないと全財産投資させないよな…)、お互いに尊重していることがよくわかるのだ。また個人投資家たちがどういう生活をしているどういう人たちなのかということも、露出時間は少ないのにちゃんと伝わってくる。人となりと示すちょっとした部分の演出が上手いのだ。シングルマザーの看護師の気風の良さや、パーティーの罰ゲームがきっかけで付き合うようになる女子大生2人等、皆生き生きとしていて魅力があった。悪役扱いの富裕層たちもどこか面白みが出ている所もいい。