2013年、広州の再開発地区では不動産会社の立ち退き要求に対し、賠償金を不服とした住民による暴動が起きた。警察も介入する中、開発の責任者であるタン(チャン・ソンウェン)が建物屋上から転落死した。若手刑事のヤン(ジン・ボーラン)は不動産開発会社の社長ジャン(チン・ハオ)と、彼のビジネスパートナーだった台湾人ユアン(ミシェル・チェン)に着目する。会社幹部だったユアンは謎の失踪を遂げていた。監督はロウ・イエ。
政府による審査期間の為に映画完成から公開までに2年がかかり、更に日本公開用として再編集され完全版として公開されたという、紆余曲折があった作品だそうだ。検閲をクリアする為に編集には相当難儀したようなので、当初の監督の意図に近いのは恐らく完全版の方だろう。社会的な背景を打ち出した作品なのかと思っていたら、むしろミステリとして、エンターテイメントとしてとても面白かった。暴動が起きヤンが事件を捜査する2013年以降と、ジャン、タン、タンの妻リンが出会った1989年から2013年に至るまでの過去を行ったり来たりするというかなり複雑な構成なのだが、見る側をさほど混乱させない巧みな組み立てになっている。時系列が切り替わる時の繋げ方がシームレスで非常に上手い。時系列が行ったり来たりすることが、「誰が何をして何がどうなったのか」という経緯を行動の連鎖として見せる仕掛けとして機能しているのだ。
金や地位への欲望と男女間の欲望が両輪となって、どんどん取り返しのつかない方向へと事態が転がっていくのだが、最終的にはやはり金だ!という所が身も蓋もない。登場人物たちは、ことに男性たちはそれに乗っかっていくのだが、一方で乗っかりつつも消費されていく女性たちの姿が痛ましかった。ジャンとユアンの一目ぼれのような出会いや、当初の野心のきらめきはいっそ清々しいくらいなのだが、そのきらめきはあえなく消えていく。
実業家としてのし上がっていくジャンやタンに対し、ヤン刑事の振る舞いはしばしば軽率で笑ってしまうくらいだ。しかし、危なっかしくはあるがまともに正しいことをやろうとしているのは実は彼だけだ。しかしそんな彼は警察組織内では浮いてしまうというのがまた辛い。最終的にヤンがある道を選ぶのも、もうそこにはまともさが期待できないということだろう。癒着と忖度が当たり前のように横行する世界がここにもある。