3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

 崩壊したテーマパーク「ジュラシック・ワールド」のあるイスラ・ヌブラル島では、火山活動が活発化していた。テーマパークの運営者だったクレア・ディアリング(ブライス・ダラス・ハワード)と動物行動学者のオーウェン・グレイディ(クリス・プラット)は生き残った恐竜たちを救出しに向かうが、火山の大噴火が起きる。監督はJ・A・バヨナ。
 ちょっとネタバレっぽくて恐縮だが、邦題サブタイトルの「炎の王国」はなんと前半のみ!しかしバヨナ監督がジュラシックシリーズという素材をいかに自分のフィールドに引きずり込んでいくかという試みにも思えて、なかなか面白かった。前半は今までのジュラシックシリーズを継承した、フィールド上での移動を中心とした恐竜たちとのアクション。そして後半はまさかのゴシックホラー的舞台へと移動する。予告編は後半要素をかなり控えめにしたものなので、いいミスリード。冒頭、海中シーンから始まるというのも意外性があると共にかなり怖くて(何しろ暗いので)わくわくした。
 バヨナ監督といえば『永遠のこどもたち』を撮ったホラー畑出身の人で、特に暗がりの使い方、室内の演出は上手いなという印象がある。何かがそこにいる、という匂わせ方、気配の作り方は本作でもばっちり。かなりわかりやすく怖がらせてくれる。ホラー演出としてはわりとベタというか王道中の王道で、いわゆる「後ろ後ろー!」シチュエーションが最近珍しいくらい多用されている。
後半の舞台装置や展開には、これジュラシックシリーズでやらなくてもよかったのでは?という声もありそうだが、美術のクオリティの高さもあり、恐竜と場所の組み合わせの意外さが個人的には楽しかった。後半は舞台の性質上、中~小型恐竜中心に活躍するのだが、これも楽しい。ブルーのファンは必見だろう。
 これまたホラーの定番らしく子供が登場するのだが、単に怖がり・叫び要員かと思っていたら、結構なキーパーソンだった。なるほどこの世界設定であれば・・・という、シリーズの設定を象徴するような存在なのだが、それ故に基本設定が含む気持ち悪さみたいなものが滲む。恐竜よりも火山噴火の方が恐ろしく、恐竜よりも人間の執着の方が気持ち悪い。

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『祝福 オラとニコデムの家』

 ワルシャワ郊外の街セロック。14歳の少女オラは、自閉症の弟ニコデムと、飲酒問題を抱える父親と暮らしている。母親は別居しており、他の男性との間に赤ん坊がいる。大人を当てに出来ず、1人で弟の世話をし家事をこなすオラの生活は苦しい。彼女は、弟の初聖体式を成功させようと苦心していた。監督はアンナ・ザメツカ。
 ある少女とその家族を追ったドキュメンタリー。カメラと被写体との距離(物理的な距離でもあり雰囲気的な距離でもある)がごく近く、よくここまで撮影させてくれたなと唸った。多分、普通だったら10代の子供が他人に見せたくないであろう部分も撮られている。被写体であるオラたちと監督との間に相当な信頼関係があるとわかるが、撮影の1年半前くらいからゆっくり時間をかけて準備していたそうだ。撮影後も交流は続いていると言う。ドキュメンタリー映画を作る際、被写体の人生のどこまで立ち入っていいのか、被写体との関係性に撮影後も責任を持てるのか、悩む所なのではないかと思う。特に本作のように、相手が生活に困難を抱えている子供である場合は。その困難を見世物のようにしてもいいのか(自分たちが助けられるわけでもないのに)ということを、映画を見ている側も意識せずにはいられない。とは言え、オラは自分の意思で自分と家族をカメラにさらしている。誰からも守られていると実感できない、自分たちのような者がここにいると主張し続けているように思えた。
 一家の日常生活の中でオラが負担するものが大きすぎ、見ていてなかなか辛い。毎日の家事に加え、ニコデムの学校での時間割を確認したり、着替えや勉強を促したりと、自分の勉強や遊びはいつやっているんだろうというくらい(公営住宅の転居希望までオラに書かせているのには驚いた)。彼女の生活には、両親のフォローが殆ど見受けられないのだ。父親は失業中でアルコール依存の問題を抱えているようだし、母親は電話をしてきても自分の話ばかりだ。ニコデムが自閉症であることも加え、本来なら施設で生活した方がよさそうな雰囲気なのだが(実際、福祉職員にそういうことを言われているシーンがある)。カウンセリングで「困ったことはない?」と聞かれたオラは「別にないです」と答えるが、そんなはずないだろう。困っている所を見られて家族がばらばらになるのが嫌なのだ。それでも家族であることへの望みを捨てられないんだなと切なくなる。

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『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』

 学校で居残りをさせられていた高校生スペンサー(アレックス・ウルフ)、フリッジ(サーダリウス・ブレイン)、ベサニー(マディソン・アイスマン)、マーサ(モーガン・ターナー)は、ジュマンジというソフトが付いた古いTVゲーム機を見つける。さっそく遊び始めるが、TVゲームの中に吸い込まれ、各自選択したキャラクターの姿になっていた。スペンサーたちはブレインストーン博士(ドゥエイン・ジョンソン)、動物学者のフィンバー(ケビン・ハート)、地理学者のオベロン教授(ジャック・ブラック)、格闘技の達人ルビー(カレン・ギラン)となって、現実世界に戻る為ゲームクリアに挑む。監督はジェイク・カスダン。
 1995年に製作された『ジュマンジ』の続編だが、まさか今になって続編を見ることになるとは・・・。前作はそんなに面白いと思わなかったのだが、本作は「アバター」役の俳優たちの演技の達者さもあり、なかなか楽しかった。とにかく気軽にさくっと見られて、気分よく見終われる所がいい。中身はナードで言動がビビリなジョンソンや、見た目はぽっちゃりおじさんなのに言動はイケてる女子なブラックはとてもよかった。特にブラックは、彼が演じることでベサニー本来の人の良さがよりにじみ出ており、キャラクター造形が成功しているように思う。
 ゲーム世界内の設定は「ゲーム」としての厳密さがゆるく、どちらかというとディティールが「ゲームっぽい」という程度なのだが、高校生たちの不調和音チームものとして楽しかった。(言うまでもなく『ブレックファスト・クラブ』という名作があるが)アメリカ人は補習・居残りものという映画ジャンルが好きなのだろうか。最近だと『パワーレンジャー』も補習から始まっていたし。自分とは全く別ジャンルの人と出会う機会として手っ取り早い設定ではある。
 本作では自分とは別ジャンルの人と一緒に行動するだけでなく、自分自身のアバター(ゲーム上でのキャラクター)が本来の自分とは全く違う姿・能力を持つので、自分もまた他者になっているとも言える。他者を体験することで、他人の立場を想像できるようになっていくのだ。同時に、見た目や能力が変わっても本来の自分の資質は変わらないということと、見た目に引っ張られて内面も変わることがあるという部分の兼ね合いも丁度よく提示されているように思う。ブレインストーンが発揮する勇気は、元々スペンサーの中にあったものなのだろう。
 ゲームの中の体験が現実にもちゃんとフィードバックされるラストがいい。特にベサニーがある人物と会った時の双方の対応にはちょっとほろりとさせられる。そしてある人物のTシャツの趣味が一貫しているところにほっとしましたね!

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『修道士は沈黙する』

 空港に降り立ったイタリア人修道士ロベルト・サルス(トニ・セルヴィロ)は、迎えの車に乗る。到着したのは海辺の高級ホテル。このホテルで開かれるG8の財務相会議に、ロックスター、絵本作家と共にゲストとして招かれたのだ。しかしロベルトを招待した張本人であるIMF・国際通貨基金のダニエル・ロジェ専務理事(ダニエル・オートゥイユ)がビニール袋を被った死体となって発見される。ロジェに告解を依頼され、死の直前まで彼と対話していたロベルトは取り調べを受けるが、戒律に従い沈黙し続ける。監督はロベルト・アンドー。
 ロジェの死はまず自殺だろうと警察は判断するが、彼は翌日の会議で重大な発表をする予定で、その発表により発展途上国は大きな打撃を受けると予想されていた。そんな彼がロベルトに何を告解するというのか、ロジェの秘密が世界の経済状況に大きな影響を及ぼすのではとG8の面々は騒然とする。世界経済の揶揄する社会批判的な意図も込められた作品だと思うのだが、これがあまり上手く機能していないように思った。財務相会議で何が話し合われるのか、何が発表されるのかという部分が漠然としていて、彼らが何を懸念しなぜ騒いでいるのかがぴんとこないのだ。なので、なぜロジェから聞いた内容を話せとロベルトに対して執拗に強制するのか、不自然に感じてしまう。
 会議の前日の集まりなども妙に牧歌的だし、ロックスターと絵本作家が招かれた理由もわからない(絵本作家とカナダ代表は女性だが、セクシャルな存在としてだけ登場するようで、これだったらいなくてもいいんじゃないかなと)。具体的なディティールがふわっとしていて、抽象的になりすぎている気がした。ロベルトの存在自体が抽象的で、彼に伴う鳥や犬の使い方もファンタジー寄り。作品のリアリティラインがどう設定されているのか曖昧だ。
 ロベルトは当然宗教家として振舞うのだが、G8のアナリストたちの振る舞いも、別の宗教に属するもののように見えてくる。自分たちにとってはこちらが正しく、お互いすり合わせる余地がない。ロベルトが発言しないのはそういう戒律だからそこに交渉の余地はないのだが、アナリストたちにはそれが通じない。事態を収めるには黙って立ち去る他ないのだろう。ラストシーンが妙に可愛いのだが、やはりロベルトはアナリストたちとは別の世界の人のように見える。

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『15時17分、パリ行き』

 2015年8月21日、アムステルダムからパリへ向かう高速列車タリスで、銃で武装したイスラム過激派の男が無差別殺人を試みた。たまたま列車に乗り合わせていた米空軍兵のスペンサー・ストーン(本人)とオレゴン州兵のアレク・スカラトス(本人)、アンソニー・サドラー(本人)は男を取り押さえ、大参事を防ぐ。彼らは幼馴染同士で、休暇を利用してヨーロッパ旅行をしていたのだ。監督はクリント・イーストウッド。
 実際の事件を題材に、事件の当事者が本人役を演じているということで話題の本作だが、イーストウッド監督作品の中でも相当奇妙な味わいの作品だと思う。本人が本人役を演じる、というか当時を再現する「再現ドラマ」とも言えるのだが、いわゆる再現ドラマとは映像が明らかに違い、映画としか言いようがない。更に終盤、当時の実際の報道映像も使用されているのだが、割と最近の出来事だしそこに至るまで本人が本人役なわけだから、当時の本人と映画として演じている本人の見分けがつかない。「実際」の映像と「映画」の映像が限りなくシームレスになっているのだ。近年のイーストウッドは実話題材を好んで扱っているが、俳優は当事者本人でもいけるとなると、イーストウッド映画ではプロ俳優は必ずしも必要ないということになってしまう。どこまでが映画か?どこまで映画として撮れるのか?という壮大な実験が開始されてしまったような・・・イーストウッド存命中に実験終わるのかな・・・。
 事件は冒頭から断片的にちらちらと提示されるが、本格的に始まるのは終盤。それまではスペンサー、アレク、アンソニーの少年時代を経て、彼らがヨーロッパを旅する様子が延々と続く。スペンサーとアレクは幼馴染で、アンソニーが転校生としてやってくる。教師からADDと断定され(最初の学校の担任教師といい転校先の校長といい、えっ教員がそういうこと言うの?!ってちょっとびっくりした)学校から浮いているスペンサーとアレク、口が達者でいたずら好きのアンソニーは意気投合する。とは言えその後ずっと一緒にいたわけではなく、アンソニーはまた転校する。スペンサーとアレクも違う道を進んでいく。
 ドラマはスペンサーに主に焦点をあてているのだが、彼は空軍のパラシュート部隊に憧れ、空軍に入ったものの身体能力で落第、他の部門でも遅刻をし、最終的にサバイバル技能や応急処置を学ぶことになる。彼の人生にはちょこちょこと躓きがあり、自分でもどこに向かえばいいのかわからないまま紆余曲折しているようにも見える。ただ、兵士として人の役に立ちたいという意欲はずっと持ち続けており、失望しても腐ったりしない。この意欲を持ち続けていたことが、彼がテロリストに対してとっさに動けた原動力であるように見える。もちろん、彼がパラシュート兵になれずにサバイバル技能を学び、その中で出血時の応急処置を学んだのも、柔術を学んだのも、他の観光客が勧めなかったパリ(パリってそんなに嫌われているんだろうか・・・)に向かったのも、Wifi利用の為に一等車に移動したのも偶然だ。しかし映画として再現されると、全てテロを防ぐという一点の為に経てきた体験のように見えてくる。それが映画と単なる再現映像との最大の違いなのかもしれない。


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『しあわせの絵具 愛を描く人 モード・ルイス』

 カナダ東部の小さな町に暮らすモード(サリー・ホーキンス)は兄が実家を売却した為、叔母の元に身を寄せていたが、叔母とは反りがあわない。ある日モードは雑貨店に貼られた家政婦募集の広告を見て、広告主で魚の行商をしているエベレット・ルイス(イーサン・ホーク)の小さな家に押しかけ、半ば強引に住込みで働き始める。監督はアシュリング・ウォルシュ。
 題名はほんわか風、予告編はかなりガーリーな雰囲気だったが、本編はもっと落ち着いたトーン。モードとエベレットの難物ぶり(決してお友達になりたいタイプというわけではない)、お互いにすごく腹が立つであろう面も見せている。それを踏まえた上で、色々難ある2人がお互いに補いあう関係になっていく過程が、ラブストーリーとして染みてくるのだ。
 モードはいわゆるピュアでか弱い女性というわけではない。人づきあいが苦手でともすると粗暴になってしまうエベレットとさしでやりあうのだから、それなりにタフだし性根も座っているのだ。自分と言うものがしっかりとあるのに、自立した人間ではない(一人暮らしなどできない)と家族に見なされて、そりゃあ腹立たしかったろうなと思える。
 対するエベレットは人から好かれやすいとはお世辞にも言えないような人だが、周囲から侮られてはならない(彼は読み書きや言葉を選ぶことが不得手)と気を張って生きてきたように見える。人づきあいに乏しいので、「住込み」で女性を雇うとどういうことが生じるか考えが至らない。モードのことを最初は持ち物や家畜のように扱うが、徐々に変化していく。
 2人の関係は雇用主と従業員として始まるが、段々ビジネスパートナー的な関係になっていく。モードがエベレットの顧客メモを作り、エベレットはモードの絵を売る。実生活の上で補い合うにつれ、精神的にもお互いに相手が大事にしているものへの尊重が生まれていくのだ。モードがエベレットの小屋で絵の制作を続けるのも、エベレットがモードをある場所に連れて行くのも、そういうことだろう。どちらかというと、エベレットがモードにより変化していった側面の方が大きかったんじゃないだろうか(精神的な面はもちろんだが、モードが絵に専念するようになると、エベレットの家事スキルがどんどん上がっていくのがわかるあたりが面白かった)。モードのエベレットに対する態度は最初からオープンで、そんなに変わらない。その変わらなさが何だかすごいなと思った。

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『シェイプ・オブ・ウォーター』

 政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、研究所に運び込まれた不思議な生き物(ダグ・ジョーンズ)を目撃する。それはアマゾンで神のように崇拝されていたという、水中で生きる生物だった。彼に興味を覚えたイライザは、密かに会いに通い手話や音楽でコミュニケーションを図る。声を出すことが出来ないイライザにとって、彼は素のままの自分でいられる唯一の存在となる。しかし彼を解剖する計画があることを知り、イライザは何とか彼を逃がそうとする。監督・脚本はギレルモ・デル・トロ。
 イライザも、彼女の隣人のジャイルズ(リチャード・ジェンキンズ)も、同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)も、研究者のホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)も、決して社会の中での立場が強いわけではない、「隅っこ」に生きる人たちだ。そんな彼らが、イライザの情熱に突き動かされるかのように、“彼”を救出するため団結していく。自分にとって得にはならない無謀な行為だが、友人の為に、あるいは“彼”という神秘的な、おとぎ話のような存在を守る為に。イライザと“彼”のラブストーリーではあるが、異種間のラブストーリーというファンタジーに殉じる人たちの姿にも見える。ファンタジーなしでは生きられない、ファンタジーと共に生きるという姿は、デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』を思わせる(というかデル・トロ監督作品は往々にしてそういう側面があるのだろう)。ロマンチックではあるが、結局この世界には居場所がないのだろうかという、はみ出し者たちの哀歌も聞こえてきそうだ。
 一方、施設の警備担当ストリックランド(マイケル・シャノン)は非常に現世的・即物的でマッチョな嫌な奴だ。彼は"彼”を虐待し、イライザやゼルダに平気でセクハラ・パワハラをはたらき、サディスティックな面を隠そうともしない(イライザに興味を示すのは彼女が「物を言えない」からだ)。しかし彼の過剰なマッチョさと立身出世欲は、「まともな男であれ」というプレッシャーによるものではないかと垣間見えてくる。ストリックランドの妻子は絵に描いたような「アメリカ中流の白人の家庭」で、こういう家庭を持っておけば「合格」であろうというストリックランドの思考が透けて見えるみたいで気味が悪い。マチズモの弊害を体現したような人物だ。
 アンチ『美女と野獣』とでも言うべき作品で、美しさは結局一様なのか?!そっちの基準に合わせるしかないのか?!という鬱憤が晴らされた感がある。ただ、ちょっと無神経な部分も気になった。イライザに関するセクシャルな描写は必要性が感じられず正直頂けない(ホーキンスにわざわざあの演技をさせる必要があるのか?という意味で)。また流血肉体破損描写についても同様で、必要性があるというよりも趣味としてやりたいからに見える(それはそれでいいんだけど、だったらそういう趣旨の作品でやってほしい)。猫絡みのシーンは、ダメな人は本当にダメだろうな・・・。なお各方面で言われているだろうけど、ゼルダの造形はイライザに対して理想的な友人すぎて、いわゆる白人に都合のいい黒人的に見える部分も。基本色々気遣いされた作品なのだが、気遣いにムラがあるように思う。

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『ジュピターズ・ムーン』

 祖国シリアから逃れ、父と共にハンガリーへ密入国しようとしていた少年アリアン(ゾンボル・ヤェーゲル)は、国境警備隊に摘発された混乱の中で父とはぐれ、警備隊員のラズロ(ギェルギ・ツセルハルミ)に狙撃されてしまう。しかしそのショックからか、重力を操作し浮遊する能力を得る。一方、難民キャンプで働く医師シュテルン(メラーブ・ニニッゼ)は、金と引き換えに難民を逃がしていた。銃撃されたアリアンを診察しようとしたシュテルンは、アリアンの浮遊能力を目撃し、その力を金儲けに使おうとする。監督はコーネル・ムンドルッツォ。
 ハンガリー発の作品で、撮影はほぼブタペストで行われたそうだ。一都市のみで撮影したというのが意外に感じるスケール感があり、ハンガリー映画のユニークさをかいま見た思い。冒頭から多用される長回し(風)をはじめ、撮影が凝っていて新鮮。特に浮遊シーンは、カメラの動き、俳優の演技共に詩情があって美しい。異能力SF的な内容なのかと思っていたら、大分雰囲気が違う。もっと幻想的、抽象的な方向で、浮遊能力もある種の象徴のような扱いだ。また、アリアンの内面や背景は(シリア難民問題前提の物語ではあるものの)それほど掘り下げられない。いわゆる疑似父子的な要素も薄く、シュテルンの再生の物語としての側面が強いのだ。
 シュテルンは飲酒による医療事故で遺族から訴訟されており、取り下げてもらう為に大金を必要としている。そのため、恋人ベラ(モーニカ・バルシャイ)も巻き込んで難民を逃がすことで金を稼いでいるのだ。訴訟を取り下げてもらう為という目的はあるものの、そもそも遺族が求めているのが何なのかというあたりには無頓着。冒頭からとにかく金!金!という振舞いで、アイランの能力の使い方もゲスいことこの上ない。そんな彼が、アリアンの能力を目の当たりにするうち、徐々に変化していく。
 彼はアリアンの浮遊能力を天使になぞらえるが、自分の中のまだ腐っていない部分を彼に託しているようにも見える。靴ひもを結ぼうとするシュテルンの頭をアリアンが撫でるシーンは、もろにキリストによる許しのイメージだろう。自分がゲスいのはわかっている、でも救われたいし正しいことをしたいという気持ちをアリアンの存在が救い上げるのだ。その後のシュテルンの行動は殉教者のようでもある。シュテルンがアリアンを連れまわす先の裕福な老人たちもまた、超越的な何かを信じたがっている。何かしらの奇跡を見たいのだ。超越的な存在に思いをはせる、その切実さはいまひとつ(非キリスト教圏から見ているからからか)ぴんとこないものの、信じるものを得て疾走するシュテルンの姿勢はハードボイルド的でもある。

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ) [DVD]
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2016-07-06



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1999-04-21



『ジャコメッティ 最後の肖像』

 1964年、美術評論家のアメリカ人ジェームズ・ロード(アーミー・ハマー)は著名な彫刻家ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)にモデルを依頼された。ロードは喜んで引き受けるものの、2,3日と思われた制作期間は延々と伸び続ける。監督はスタンリー・トゥッチ。
 トゥッチは俳優としてはもちろん味が合って良いけど、監督としてもいける!コンパクトにまとめられたなかなかの佳作だった。芸術家の苦悩を描くというと重苦しいイメージを持たれがちだが、本作は予想外に軽やか。もちろんジャコメッティは真剣に悩んでいるしロードはなかなか帰国できずに疲労困憊していくが、どこかユーモアがある。評論家故か、ロードの視線が一歩引いたもので俯瞰性があるのだ。ジャコメッティはモデルをするロードに、冷酷そうな顔だ人殺しっぽい云々と結構ひどいことを言うのだが、ロードは「それはどうも」と流す。ジャコメッティとしてはけなしているつもりはない、おそらく(失礼には違いないが)彼流のユーモアであるということを汲んでいるのだろう。また延々と伸びる拘束期間に困りつつも、状況の奇妙さを面白がっているように見える。演じるハマーの戸惑い顔、困り顔に妙なおかしみがあり、適役なのも大きい。
 ジャコメッティには妻がいるが愛人がおおっぴらにアトリエに出入りしていたり、妻もジャコメッティの友人でモデルを務めた矢内原伊作と関係があったりと、周囲の人間関係は結構混沌としている。当人たちはそれほど気にしていないけどこれって面白いよな、という客観的なツッコミ目線をロードが担っているのだ。このツッコミ感のおかげで、泥沼状態もさほど陰湿に見えない。よく考えると、愛人にはぽんと車を買ってやるのに妻には何も買ってやらない(コート1着しか持っていないと言ってたし)し自宅も荒れたまま放置しているジャコメッティは夫としては大分ひどいんだけど。
 ジャコメッティの制作がいつまでも終わらないのは、対象と自分、自分と自分との対面に集中してしまい回答が見えないからだろう。愛人の存在、またそれによる家庭内の混乱は、自分にコントロールできない要素を招き入れようとする行動にも思える。自分の外からやってくるものが必要なのだ。終盤、ロードが試みる奇策があっさりと成功するのは、それがジャコメッティの「外」からの視線だからだ。そんなことでよかったの?!と呆気にとられるが、そんなもんだよなー!とも。褒めるのって大事・・・。
 なお、ジャコメッティのアトリエの再現度は相当高いと思う。以前、写真家アンリ・カルティエ・ブレッソンが撮影したアトリエのジャコメッティの肖像と、撮影当時を記した随筆を読んだことがあるのだが、やっぱり寒くて湿っぽかったようなので、本作の印象に近いのでは。

ジャコメッティの肖像
ジェイムズ ロード
みすず書房
2003-08-23


ジャコメッティ
矢内 原伊作
みすず書房
1996-04-20




『ジャスティス・リーグ』

 スーパーマン(ヘンリー・カヴィル)が死んだ世界では、彼を悼む人々がいると同時に暴力が蔓延しつつあった。バットマンことブルース・ウェイン(ベン・アフレック)は、地球に近づきつつある脅威、ステッペンウルフと闘う為、ワンダーウーマン(ガル・ガドット)と共に仲間となる超人たちを探していた。集まったのは海をつかさどるアクアマン(ジェイソン・モモア)、機械の体と電脳を持つサイボーグ(レイ・フィッシャー)、超高速で移動できるフラッシュ(エズラ・ミラー)。しかしお互いに話がかみ合わずチームワークはばらばらだった。監督はザック・スナイダー。
 『バットマンv.s.スーパーマン ジャスティスの誕生』に引き続き、DCコミックのスーパーヒーローたちが集結する。相変わらずお話は大味・大雑把で、突っ込み所は山のようにある。とは言え、前作のような妙な間延びや仰々しい1枚画的シーンが割愛されているので、だいぶ見やすい(前作比)。ストーリー展開については、やはりマーヴェルに及ばないあたりが厳しいのだが・・・。きょうび「強大な悪」の設定ってなかなか難しいし敵も複雑化せざるをえないわけだが、本作の敵は非常にわかりやすく「悪」で、こんなにシンプルなの久しぶりに見た気がする。そして強いんだか弱いんだかわからないな・・・。あれだけ強大な力アピールしておいて、最後それってどうなの。
 今回、そういえばバットマン(ブルース)ってそこそこ中年だったんだなということを初めて実感した。歴代のバットマンの中で、最もお疲れな感じのバットマンなのでは。残り時間の少なさが切実なのだ。そもそも他の超人たちとは異なり肉体的には一般人なので、もう肉体はボロボロ、精神的にもスーパーマンロスから立ち直れていない感じで、見るからに危なっかしい。後々のスーパーマン絡みでのやりとりから見るに、相当ショックだったし本気でなんとかしたかったのね・・・。ただでさえ少なそうな語彙が更に少なくなっている・・・。
 ワンダーウーマンは単作『ワンダーウーマン』とちょっとキャラが変わっていないか?と思ったのだが、『ワンダーウーマン』の時代から100年近く経っているからそりゃあ変わるなとも。アクアマン、サイボーグについては、本作ではまだ十分描けていない。スピンオフ作品を作る予定なのかな?だとしても、もうちょっと本作内で彼らの背景を見て見たかった。対して本作で得をしているのはフラッシュだろう。重め・暗めトーンの本作でアクセントとなるコメディ担当要員として、上手く使われているように思う。良く喋るし、よく食べるし、空気読めないし、まだ子供っぽい。演じるエズラ・ミラーのチャーミングさ(とりあえずフラッシュちゃんの為だけににもう1回見てもいい・・・!と思えたくらい)と相まっていいキャラクターだった。



ジャスティス・リーグ:誕生(THE NEW 52!) (ShoPro Books THE NEW52!)
ジェフ・ジョーンズ
小学館集英社プロダクション
2012-12-15

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