配信で鑑賞。船の上で年老いた「父」と暮らす娼婦のムイ(クロエ・マーヤン)は、情人離れした性欲で次々と客を取っていた。彼女に恋した青年は彼女の「父」を口説き落として結婚し、陸上で新婚生活を始める。しかしムイの性欲は留まることがなく、また地上での生活にもなじめない様子だった。監督はフルーツ・チャン。
とにかく男女が頻繁にセックスしている作品なのだが、ムイにとってはやらないと体調が悪くなる、死ぬくらいの必死さなので、あまりハッピーな感じではない。ムイにとっての自然な生き方は一般的な社会の中では不自然と捉えられる。また、彼女をとりまく3人の「夫」は協力して売春ビジネス(当然ムイを売るわけだが)を始め、ファミリービジネスとして勝手に盛り上がっていく。その盛り上がりはコミカルではあるが、ムイの意思を確認しようという様子が全然ないので少々気持ち悪い。
とは言え、ムイの意思、彼女が自分をどう位置付けて何を感じているのかということは、一貫して示されない。もちろん彼女にも意思はあるのだが、それを他の人間がうかがい知ることが難しい。別の言語、別のルールで生きている存在のように見える。青年は彼女を伝説の人魚と重ねるが、まさに人魚のような異界の存在で、普通の人間社会からははみ出ている。海の上ではあんなに妖艶だったのに、陸で生活するうちどんどん色あせていく(撮影と演じるマーヤンの上手さが映える)のも人魚のようだ。海に帰りたくて彼女は暴れるのかもしれない。終盤、3人の夫たちは、彼女と共に異界に入っていくようにも思えた。最初はカラフルだった映像がどんどんモノクロに近づいていくのも、異界に近づいていく過程のようだった。
ただ、ムイが「夢の女」すぎて今時これかと鼻につくところはある。意思疎通のできない、勝手に動いていく女という点では古典的な夢の女ではないと言えるが、性的な存在として都合がよすぎるようには思う。