3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

『ガリーボーイ』

 ムンバイの貧しい家庭で育った大学生のムラド(ランビール・シン)。ある日大学で、MC Sher(シッダーント・チャトゥルベーディー)のフリースタイルラップを見たことで、ラップの世界にのめりこんでいく。監督はゾーヤー・アクタル。
 インドで活躍するミュージシャン・Naezyの実話を元にしたストーリーだそうだが、シンプルな青春物語として楽しいし清々しい。スター誕生!まではまだたどり着いていない感じの駆け出し感がいい。ムラドの家には、彼が大学に通う程度の経済力はなんとかかんとか維持している。が、ムスリムである彼らはインド社会の中では階層は下の方らしく、決して余裕はない。医者の娘であるガールフレンドとの階級差はありありと存在し、付き合いは秘密にしている。自分が生まれた境遇を受け入れそこから抜け出せるとは考えていない父親とのジェネレーションギャップも息苦しい。何より、ムラドの父親が二番目の妻(ムスリムなので一夫多妻が可能)を迎えるところからストーリーが始まるので、この家に帰りたくない…という気分がひしひしと伝わってくる。そういう文化圏とはいえ、自分と同年代の「義母」って気まずすぎるだろう!
 そんな息が詰まりそう、かつ将来の展望も見えない閉塞感を、ムラドは最初、表現することができない。ラップと出会い、ため込んでいた思いをリリックにし、音楽に乗せパフォーマンスするという、自己表現の方法を獲得していく。彼が何かを発信できるようになるというところが大事なので、音楽の世界でのし上がっていくのはまだ先の話だ。ライブパフォーマンスがどんどん力強くなっていく様にはやはりぐっとくる。彼の中にあるものに表現力が追いついていくのだ。
 ムラドはラップに関してはど素人からスタートするので、「修行」段階に結構時間を割いているところが面白い。言葉先行でリズムやグルーヴはあとからついてくるタイプなのだという流れを見せてくる。また、ムラドにしろその周囲の人たちにしろ、基本的に真面目だし良心的。兄貴分のSherへのなつき方がほほえましいのだが、Sher本当に面倒見良くて人情に篤いいいやつなんだよ…。

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『帰れない二人』

 山西省大同の裏社会で生きるビン(リャオ・ファン)と恋人のチャオ(チャオ・タオ)。対抗組織に襲われたビンを助ける為、チャオは銃を発砲する。5年後、景気を終えて出所したチャオはビンと連絡を取ろうとするが、彼からの返信はない。チャオはビンが働いているという長江を訪れるが。監督はジャ・ジャンクー。
 2001年から2008年まで、一組の男女の行方を追う。とは言えメインはチャオだ。チャオを演じるチャオ・タオが本当に素晴らしく、ずっと目を離せない。冒頭、若い衆に声を掛けられ振り向いた瞬間のギラっとした表情、ヤクザの「姐さん」としての立ち振る舞いの軽やかさや凄み。そして経年してやつれ感は漂い、何もなくしてもなお立ち向かうしたたかさと危うさ。10年間のチャオの変化の演じ分けが見事だった。
 本作はジャ・ジャンクー流の仁侠映画、女仁侠ものだろう。チャオは自分たちは渡世人だと度々口にする。一方、チャオは2人の関係に何か大きな岐路が訪れる、何か決断を下さねばならない瞬間がくると、自分からは切り出さずチャオが切り出すように仕向ける。ちょっとずるいのだ。ヤクザの親分としての度量はあるが、後半にはぼろぼろと弱さを見せていく。チャオはビンの一番ぶいぶい言わせていたいい時代を共にしたパートナーだ。そんな彼女に落ちぶれた自分の姿を見せるのは辛いだろう。しかしチャオ側にしてみたら、そういう時こそ支えあいかっこ悪さもさらけ出すのがパートナーというものではないかと言いたくなるだろう。
 チャオは一貫してブレがない。一度気にかけた相手は、たとえ情がなくなっても最後まで面倒を見るのが彼女の仁義だ。渡世人とはそういうものだと彼女は考えているのだろう。損得重視の世の中では損な性格、「かしこい」やり方ではないという人もいるだろう。しかしそんな彼女のりりしさが素敵だった。

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2017-01-06


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『ガーンジー島の読書会の秘密』

 第二次大戦中、チャンネル諸島のガーンジー島はイギリスで唯一、ナチスドイツに占領されていた。厳しい生活の中、若い女性エリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)が開く読書会は友人たちの心の支えになっていた。戦後、読書会のことを知った作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は記事にしようと島を訪ねるが、エリザベスの姿はなく、読書会のメンバーも口をつぐむ。彼らはある秘密を隠していたのだ。原作はメアリー・アン・シェイファー&アニー・バロウズの小説、監督はマイク・ニューウェル。
 精神的にも物理的にも自由が制限される中、読書会が心のよりどころになっていく気持ちはとてもよくわかる。ジュリエットもまた、辛いことがあっても生き続ける為に読書を必要とした(そして作家になった)人物だ。ジュリエットがエリザベスたちの読書会に共感を覚え、それを記事にしたいと思うのは自然だし、彼女が読書会の仲間として受け入れられていくのも納得。とはいえ、読書会メンバーに対するエリザベスの最初のアプローチはかなり強引なようにも思った。この行動力が作家としての美点なんだろうけど、触れられたくないことに不用意に触れようとしているように見えてハラハラしてしまう。彼女が読書会メンバーの過去に踏み入っていく過程の描かれ方があまりきめ細やかではないので、強引な人に見えてしまうし、ドーシー(マーク・レイノルズ)とのロマンスもとってつけたように見えてしまう。
 読書会がひとつの鍵になっている作品だが、読書や読書会を愛する者から見ると、読書成分が全然足りない!多分原作にはもっと書名や書物からの引用が出てくるんだと思うのだが、映像作品で読書の楽しみを表現するのはなかなか難しいのかもなぁ・・・。映画としてはどちらかというとロマンスに比重を置いているので、そこで好みが分かれるかもしれない。 戦中の辛さの描写もそれほど出てこないし。なお読書成分についてはエンドロールで若干フォローがあるが、出来ればこういう要素が全編に欲しかった。
 ガーンジー島で全てのロケが行われたわけではないそうだが、風景が素晴らしい。港から見える斜面に張り付いたような街並みもかわいらしいのだが、海に臨んだ草原や崖、生い茂る木々などここを延々と歩きたい!という気持ちになってくる。

ガーンジー島の読書会 (上)
メアリー・アン・シェイファー
イースト・プレス
2013-11-29






ガーンジー島の読書会 (下)
メアリー・アン・シェイファー
イースト・プレス
2013-11-29

『Girl ガール』

 ララ(ビクトール・ポルスター)はバレリーナを目指し難関バレエ校に入学する。しかし体のコントロールは難しく、クラスメイトからの嫌がらせもうけ、焦りは募っていく。監督はルーカス・ドン。第71回カンヌ国際映画祭カメラドール、最優秀俳優賞受賞作。
 ララはトランスジェンダーで、手術を受ける意思は固く、ホルモン治療も始めている。父親は彼女を娘として尊重し愛しており、主治医やカウンセラーも親身になっている。しかし、それでも彼女の苦しみを周囲が理解しているとは言い難い。いや客観的には十分理解しているように見えるし、彼らの愛情や思いやりは本物だ。ただ、ララ当人にとっては十分ではない。彼女は家族の愛情や医師らの配慮があることは重々理解しているが、それらの愛や思いやりは、彼女の「今ここ」にある苦しみを解決するものではないし、彼女の苦悩は周囲と分かち合えるものではない。だから「大丈夫」と言うしかないのだ。彼女の「大丈夫」が嘘だと気づいている父親との距離感が痛ましい。どちらのせいというわけではなく、そういうふうにならざるを得ない問題だということなのだろう。自分の体のことは自分以外には実感としてわからないだろうという、ララの諦念すら感じる。それが終盤でのある決断に繋がっていくわけだが、子供の苦しみを見続けなくてはならない(そこに介入できない)親も辛いだろうと思う。
 身体に関わる問題はデリケートなものが多く、特にララが抱えているようなものは、周囲が無遠慮に触れていいものではないだろう。ララのクラスメイトたちは一見、フラットなように見えるし、ララを「女性」として仲間に入れているように見える。しかし、学校でのララは笑顔でいても常に緊張し、何かに脅かされているように見える。トイレにいかなくてすむように激しい運動の時も水を飲まず、レッスン後は体の処理の為にトイレに一人こもる。自分の体のコントロールがそもそもきついのだ。加えて、何かの拍子にクラスメイト達のからかい、悪意が噴出する。誕生会での「見せなさいよ」という言葉の心なさ。彼女らにとっての自分の体と、ララにとっての自分の体は意味合いが全然違うし、「見せる」意味合いが全然違う。そもそも他人の体を見せろというのが問題外なんだけど・・・。このシーンがほんとうにきつくて気分悪くなってしまった(それだけ映画に訴えてくるものがあったということだが)。
 セクシャリティのことも、バレエを続けることも、ララにとっては自らの体の違和感との戦い、肉体を意思で屈服させていくことだ。バレエ講師は体を開放して、という様なアドバイスをするが、ララにとってはそれは到底できないことだというのが皮肉だ。

ポリーナ (ShoPro Books)
バスティアン・ヴィヴェス
小学館集英社プロダクション
2014-02-05






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ヒラリー・スワンク
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2018-08-17

『神と共に:第二章 因と縁』

 1000年で48人の使者を転生させた冥界の使者カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)。あと1人転生させれば自分達もまた転生できある。転生の可能性がある最後の貴人はジャホンの弟スホン(キム・ドンウク)だが、彼は一度怨霊と化しており本来なら裁判を受けるまでもなく地獄行き。閻魔大王は現世からソンジュ神(マ・ドンソク)を連れ戻せば裁判を行うと条件を出す。監督はキム・ヨンファ。
 第一章では、地獄めぐりアトラクションであると同時に、ジャホンとスホンとその母に一体何があったのかという家族のドラマが盛り込まれていた。第二章ではアトラクションぽさはぐっと後退(とはいえスホンが怪魚の餌にされる、それ必要ですか?と言いたくなる珍妙な件はあるんだけど・・・)し、使者たちの前世の因縁が前面に出てくる。サブタイトルの通り、正に因と縁が盛りに盛られている。あの人とこの人については予想していたけど、最後の最後まであんな人まで絡んでくるの?!盛り過ぎじゃない!?ともうおなかいっぱい。一方で現在のソンジュ神と彼が守護する老人、その孫とのホームドラマ的な、コミカル人情話が展開していく。第一章もそうだったけど、とにかく振れ幅が大きくて楽しいけどちょっと疲れた。
 使者たちの前世をしるソンジュ神は、「記憶を奪うなんて残酷だ」と漏らす(使者たちに前世の記憶はない)。この「残酷」というのが、誰にとってのものなのか、一体誰の為の裁判なのかちょっとミスリードさせている部分もあり、ミステリ的な面白さ、そして痛切さがあった。確かにこの状況は、ある人にとってすごく辛い。前世の様子がわかってから第一章、第二章を振り返ると切なさ倍増だ。一章二章通して、誰が誰に対して思う所があるのかということを、重層的に見せていく構成になっている。
 悪人はいない、いた場所が悪かったという(ような意味の)ある登場人物の言葉が印象に残った。使者たちも、ジャホンもスホンも、全く清廉潔白というわけではなく、登場人物のだれもが何かしら重荷を背負っているし、かなり非道なことをやってしまった者もいる。それでも根っからの悪人はいない、シチュエーションが違えば善性を発揮できるとするところに強いヒューマニズムを感じた。

悪いやつら [DVD]
ハ・ジョンウ
ファインフィルムズ
2014-01-07





『神と共に 第一章:罪と罰』

 死を迎えた消防士ジャホン(チャ・テヒョン)の前に3人の冥界からの使者が現れる。その3人、カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、ドクチュン(キム・ヒャンギ)は地獄の裁判の弁護と護送役。死んだ人間は7つの地獄で裁判を受け、全て無罪判決を受けた者は転生できる。そして大勢を転生させると使者たちもまた転生を許されるのだという。善行を認められた「貴人」扱いだったジャホンは転生確定だと思われたが。監督はキム・ヨンファ。
 ウェブコミックの実写映画化だそうで、地獄めぐりの旅の様子や3人の使者のキャラクター造形など確かに漫画っぽい。韓国版ブリーチか?という感じ(イケメンがロングコートはためかせてるし・・・)。全体の構成も連載漫画のダイジェストっぽかった。 少年漫画っぽいのだが、人情話の側面がかなり強い、かつてらいがない所が韓国映画ならではか。親子、兄弟の情の描写はベタかつ濃厚。各地獄の大王さまたちも人情に弱過ぎて、そんなんで無罪有罪決まっちゃうの?!とびっくりする。これだったら結構な人数が無罪になって転生しているに違いない。
 とはいえこの人情部分も悪くなかった。絵にかいたような「いい人」であるジャホンが抱える罪悪感や、その弟の屈折、母の愛など、ベタはベタなのだが意外とくどくはない。本作、あの時実際に何があったのか、この人は実のところ何をしたのかというミステリが、ジャホンと母弟、弟の先輩後輩、そして本作ではまだ明かされない使者たちの生前の出来事という形で重層的に配置されているのだ。人情話はこのミステリ要素を成立させるための道具立てという印象だったので、そんなにくどく感じられなかったのかもしれない。
 本作の最大の魅力は3人の使者のキャラクターだろう。私にとっては彼らのやりとりを楽しむ作品という側面の方が強かったので、そりゃあ人情話はサブ扱いになっちゃうな・・・。リーダーであるカンニムが基本冷静なのについ情に流されてしまう様や、それがちょっと気に食わない、しかしリーダー大好き!感がにじみ出るヘウォンメク。ヘウォンメク、死者の前だと空気を読まないサイコパス感があるのに、カンニムに対してはちゃんと空気読むあたりが可愛い。そして少女の姿だがそれが単純に「年少の女性」のことで、性的なニュアンス、日本映画にありがちな少女幻想的なものをはらまないドクチュンの造形がよかった。こういう「少女」なら安心して見ていられる。第二部では彼らがなぜ死んで使者になったのかという部分が明かされるようなので楽しみ。私は基本的にサービスの盛りのいい映画はうるさくて苦手なのだが、本作はある程度記号化されているせいか、あまり鼻につかなかった。

『海獣の子供』

 中学生の琉花(芦田愛菜)は部活でトラブルを起こし、学校にも家にも居場所がない。別居中の父親が働いている水族館を訪ねたところ、ジュゴンに育てられたという少年海(石橋陽彩)と空(浦上晟周)に出会う。海と空は世界中で起きている不思議な海洋現象に関係があるらしい。原作は五十嵐大介の同名漫画、監督は渡辺歩。
アニメーション制作はSTUDIO4℃。
 原作の画風は、決してアニメーション向きではない、かなりタッチが細かく線描が多いもの。そのタッチを再現している作画に唸った。ペンの線描がそのまま動いている感じ。舞台の大半は海なので当然水の描写が多いのだが、これまた素晴らしかった。質感とスケール感は映画ならではなので、なるべく映画館で見た方がいいと思う。特に、ビジュアル面だけでなく音の効果にはっとする所が多かった。こちらも水関係の音の良さが目立つ。波音だけでなく水中の音の聞こえ方や、雨の中に入った時の独特な音の籠り方など、目ならぬ耳をひかれる部分が多かった。
 琉花のモノローグを多用されており、これにはストーリー展開の補助線的な役割の意図があるのだろうが、正直言ってあまり効果的とは思えなかった。原作がそうなっているからそうしたというのはわからなくはないが、余分なものに聞こえてしまった。作品自体が考えるな感じろ的なスタンスなので、言葉がどうしても上滑りになる。絵の力の方が圧倒的に強い。どう言語化しても表現しきれない、違うなーという気分になってしまった。言葉以外の方法での他者との通じ方が本作のテーマのひとつだというのも一因か(個人的には、ここが自分とは反りがあわない部分なんだけど)。
 琉花の居場所のなさは、アニメーションで彼女が動いている姿を見る方がより切実感をもって感じられた。家の雰囲気とか、父親の反応がちょっと鈍い他人事感(これは声をあてた稲垣吾郎の演技もよかった)などが微妙にいたたまれない。両親の目がもっと琉花に向いていたら、そもそも彼女が「選ばれる」ことはなかったんじゃないかとも思った。
 アニメーションの技術、演出力は非常に高くビジュアルの力があるが、正直それを越えてくるエモーショナルなもの、物語の力みたいなものは弱い(これは原作を読んだ時も思った)。人体と宇宙が繋がっている感じ、世界の神秘といったスピリチュアルというかニューエイジ的な世界観はもうフィクションの中ではやりつくされた感があって、なぜ今これを?という気分がぬぐえない。もはや一周して新鮮なの?

海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)
五十嵐 大介
小学館
2007-07-30






鉄コン筋クリート [Blu-ray]
二宮 和也
アニプレックス
2014-04-23

『ガルヴェストン』

 重い病に冒されていると告げられた死期を悟ったギャングのロイ(ベン・フォスター)。ボスに命じられある仕事に向かうが、それは彼を切り捨てる為の罠だった。ロイは組織の人間を撃ち殺し、その場にいた娼婦ロッキー(エル・ファニング)を連れて逃げる。ロッキーはまだ少女だが頼れる人もなく、体を売って生活していた。なりゆきで見ず知らずの2人の逃避行が始まる。原作はニック・ピゾラット『逃亡のガルヴェストン』、監督はメラニー・ロラン。
 メラニー・ロランは役者としてだけではなく監督としても腕がある。ちょっとごつごつしたぎこちなさはあるのだが、抑制がきいてる好作だった。原作小説の消化の仕方にセンスのよさを感じた。原作はどちらかというと古風な男性のロマンティシズムが強かったように思うが、映画はロマンティシズムの方向がちょっと変えられている。性愛の要素が薄い、もっと広義の愛が描かれているように思った。男性に仮託されたナルシズムが薄い。女性はファム・ファタールではないのだ。自分よりずっと若い相手に手を出す大人はろくなもんじゃないぞ、まともな大人はそういうことをしないんだと示しているあたりも現代的。
 冒頭、病院での行動が、ロイがどういう人間なのか、すごくわかりやすく表わしている。自分の問題、恐れと直面できない弱い面があるのだ。さすがに診断は聞けよ!って思ってしまう。元恋人に会いに行くのもけじめというよりは逃避行動に見える。元恋人の塩対応は、彼の現実認識の甘さを突き付けるようでもあって苦い。
そんなロイがロッキーの為に逃げることをやめ立ち向かおうとする。ロッキーは自分の身を守る為にあるものから逃げ出したが、自分以外のものを守るために立ち戻り対決する。ロイがトラブルを呼び込むであろう彼女を見捨てられなかったのは、彼女の対決しようという意思を見てしまったからではないかとも思った。

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)
ニック・ピゾラット
早川書房
2011-05-09





ミステリアス・ショーケース (ハヤカワ・ミステリ)
デイヴィッド・ゴードン
早川書房
2012-03-09

『家族のレシピ』

 父・和男(伊原剛志)、叔父・明男(別所哲也)とラーメン店を営む直人(斎藤工)。しかし父が急死した。直人は若い頃に亡くなった母メイリアン(ジネット・アウ)の日記を見つけ、彼女の故郷であるシンガポールを訪れる。地元のフードブロガー、美樹(松田聖子)の助けを借りて、現地で母の弟である叔父ウィー(マーク・リー)と再会した直人は、父と母のなれそめだったパクテー作りを学ぶ。同時に、祖母マダム・リー(ビートリス・チャン)が実の娘である母をずっと許さずにいると知る。監督はエリック・リー。
 監督が『TATSUMI マンガに革命を起こした男』の人だと気付いて見に行ったのだが、掘り出し物的な良さがあった。地味だが落ち着いた良さがある。高崎市とシンガポールのご当地映画としても楽しい。料理がモチーフの作品なだけあって、冒頭に出てくるラーメンから、シンガポールで次々と登場するシンガポール料理まであますところなく美味しそう!これはシンガポール料理店に行かなくては!という気分になってくる。料理を食べているシーンも自然で良かった。ウィーとその家族が直人に食事をふるまい、これも食べろ!とご飯の上に次々とおかずを分けていく様は、中国映画で良く見た風景。中国の文化圏でもあるという様子が垣間見られる(他にも色々な民族が流入しており、その多様さが食文化の多様さに反映されているそうだ)。食事の記憶が人の心をほぐし、繋げていくという話だから、食事のシーンに魅力がないと話にならないわけだが、その点は安心できる。
 シンガポールと日本の関係が常に円満だったわけではない、戦争が影を落とした時期もあることにも言及されている。マダム・リーにとっては戦争はまだ終わっていないとも言える。直人は歴史を学び、おそらく彼女の心情も察するのだろうが、それでも母を許さなかったことについて、酔ってマダム・リーに詰め寄ってしまう。彼のやっていることは八つ当たりで、大分身勝手に見えるのだが、それでも言わずにはいられないという所に逆に説得力があった。母を失ったこと、母が失意のうちに亡くなったというこが彼の中ではとても大きく、苦しいことで、それを今まで誰かと分かち合うことが出来なかったんだなと。
 なぜか松田聖子が出演しているのだが、彼女の違和感が何かすごかった。他の人たちはその土地に馴染んでいる感じがするが、一人だけ浮いており、「芸能の人」感が強烈。とてもブロガーには見えないよ・・・(なお作中に出てくるブログはデザインが一昔前っぽかった。というかあれはブログではないような・・・)。とはいえ発声がはっきりしており台詞は聞き取りやすいので、シンガポール料理の解説にはぴったりだった。


 
TATSUMI マンガに革命を起こした男 [DVD]

別所哲也
KADOKAWA / 角川書店
2015-06-10



スパイシー・ラブスープ [DVD]
ワン・シュエピン
ポニーキャニオン
2000-05-17

『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』

 (本作、構造上ネタバレせずに感想を書くのがすごく難しそうだが、なるべくネタバレなしで書いてみます。)
 仮面ライダージオウこと常盤ソウゴ(奥野壮)の世界で、仲間たちが次々と記憶を失うという異変が起きた。ソウゴは仮面ライダービルドこと桐生戦兎(犬飼貴丈)と協力して原因を探るが、2人の前にスーパータイムジャッカー・ティード(大東駿介)が現れる。ティードはシンゴという少年を追っていた。監督は山口恭平。
 歴史改変SFとしてはどうなんだとか、この人結局何をやりたかったんだろうとか、ストーリー上の強引さは相当ある、そもそも歴代平成ライダーが全員登場するという大前提が強引だ。しかし、なぜ全ライダーが来る必要があるのか、誰の為に来るのか、という部分がすごく力強く打ち出されて、コアなファンと言うわけではない私でも胸を打たれるものがあった。ファンなら思わず泣くのでは。登場するライダー全員は知らなくても、1人でも同じ時代を生きたと思えるライダーがいる人には刺さってくると思う。平成最後に贈られてきた、製作側から歴代視聴者への渾身のプレゼントだ。
 仮面ライダーというジャンルのみならず、特撮にしろ漫画にしろアニメにしろ小説にしろ映画にしろ、全てのフィクションを愛する人ならこの気持ちわかるんじゃないかな、というものが全編に満ちていた。この世界で仮面ライダーはもちろんフィクションなわけだが、同時にファンが覚えている限り生きていて、それぞれの人生に並走している。たとえ忘れてもどこかで生きている。作中のある台詞に涙したファンは多いのでは。
 スーツアクターによるアクションがかなり豪華(何しろ人数が多い!)で見応えがある。歴代ライダーそれぞれの特徴も分かりやすい演出だった。この頃は肉弾戦中心だったんだなとか、この時期はギミックが増えたんだなとか、キックの方向性の変化とか、色々楽しいのだ。また、バイクアクションが結構ガチなのも嬉しかった。すごくいいショットがある!


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