3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画お

『オーシャンズ8』

 名の知れた詐欺師ダニー・オーシャンの妹デビー・オーシャン(サンドラ・ブロック)が仮釈放された。出所したデビーは元相棒のルー(ケイト・ブランシェット)を始め7人の女性を声をかけ、5年越しで計画したヤマを実行に移す。世界的ファッションイベント「メットガラ」の会場で、カルティエ秘蔵の1億5000万ドルのダイヤモンドのネックレスを盗み出そうというのだ。監督はゲイリー・ロス。
 計画犯罪ものとしてはわりと雑というかおおらかで、脚本が緻密というわけではない(むしろ犯罪計画に穴が多くてハラハラしてしまう)のだが、愉快で楽しい。特に女性にとってはセクハラ要素や性役割に関する先入観、テンプレ的な描写がほぼないので、ストレスが少ないのでは。いわゆる女性性が強調されるのはドレス姿くらいで(メンバーの中に、自分はドレスアップは性に合わなくて嫌だという人がいても面白かったと思うけど)、あとはかなりニュートラル。女性のみのグループ、しかも仕事目的で集まったグループの話だと、逆に性別にまつわる要素って出てこないし出す必要がないものな。「女同士って人間関係が怖いんでしょ?」みたいな言説とは無縁で、目的がはっきりしているから人間関係でゴタゴタしないというあたりがいい。全員、プロとして集まっておりお互い深入りしない、友達同士というわけではないクールさもストレス軽減に役立っていた。
 ストレスの少なさは、作中、男女問わず概ねどの人物に対してもいじわるな視線や、誰かをバカにしていじる類の笑いがないあたりにも起因する。いわゆるドジっ子とかおミソキャラ的なポジションがないので、話の腰を折られない。「彼」だけには辛辣だが、これは「彼」が人をコケにして裏切ったからその仕返しということで、まあ止む無しだろう。
 すごく面白い!密度が高い!というわけではないのだが、ほどほどの面白さ、気楽さに徹した作りが逆にプロの仕事という印象。あえてのユルさであるように思った。なお、ファッションは大変楽しい。キャラクターそれぞれが、自分らしい服装でサマになっている。特に、公開前から評判だったが、ケイト・ウィンスレットが素晴らしくかっこよかった。スカジャンの着こなし方とか、ジャケットにじゃらじゃらアクセサリーつけているのとか、もう最高。あの恰好でバイクを乗りこなしているあたりがまた素敵すぎる。

オーシャンズ11 [Blu-ray]
ジョージ・クルーニー
ワーナー・ホーム・ビデオ
2010-04-21


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メリッサ・マッカーシー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-07-05


『オーケストラ・クラス』

 バイオリニストとして行き詰っていたシモン・ダウド(カド・メラッド)は、パリ19区の小学校に講師として赴任する。音楽に触れる機会の少ない子供たちに対する音楽教育プログラムで、バイオリン演奏を教え、最終的にはオーケストラで演奏するというものだ。子供が苦手なダウドはうんざりするが、アーノルド(アルフレッド・ルネリー)という少年に音楽の才能を見出す。監督はラシド・ハミ。
 音楽が中心にある映画ではあるのだが、いわゆる音楽映画とはちょっと違うかなと思った。作中の演奏シーンがほぼ子供たちの練習姿で「音楽未満」という感じという面もある(クライマックスはさすがに違うが)のだが、どちらかというと教育、学校教育とはどういうものかが描かれた作品に感じられた。子供たちが音楽を学んでいく過程であると同時に、ダウドが教育者として成長していく過程の物語なのだ。
 シモンはオーケストラ・クラスの子供たちの収拾のつかなさにイラつき、すぐに騒ぐ子供ややる気のない子供は受講をやめればいい、その方が演奏は上手くなると言う。それに対して担任教師は、そういう(問題行動のある子)にこそこの授業を受けさせたい、誰も排除しないと言う。音楽の専門教育の場であればダウドのいうやり方でいいのかもしれないが(そもそもやる気と才能による選別ありきの世界だから)、学校教育はそうではない。子供を取りこぼさないことが大事なのだ。
 とりこぼさない、見捨てないという姿勢を大人=教育者側が一貫して取り続けるのはなかなかしんどいが、苦境で見捨てられる(と感じる)と子供にとっては後々まで心の傷になるもんな・・・。だから、保護者も巻き込んで大人たちがクラス続行の為に奮闘した姿は、この後彼らが音楽と縁遠くなったとしても、ずっと記憶に残っていくんじゃないかと思う。
 子供たちの姿がとても生き生きとしている、というか生々しかった。結構えぐい下ネタをイキって言い合う様には、ああこういうノリ苦手だったなーと自分の子供時代を思い出し苦々しい気分に。また、人種・宗教ネタの言い合いもそこそこ出てくるのだが、お互いに一定の信頼関係があるからこそ言い合いとして成立するネタ(つまり関係性が悪い、または殆どない状態だと洒落にならない)で彼らの間ではこのレベルだったら深刻な問題にはならないらしいというニュアンスも面白かった。

ミュージック・オブ・ハート [Blu-ray]
メリル・ストリープ
ワーナー・ホーム・ビデオ
2012-04-04


パリ20区、僕たちのクラス [DVD]
フランソワ・ベゴドー
紀伊國屋書店
2011-04-28


『女と男の観覧車』

 1950年代のコニーアイランド。遊園地内のレストランで働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は回転木馬操縦係の夫ハンプティ(ジュム・ベルーシ)に隠れ、海水浴場の監視員ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と浮気をしていた。そんな折、マフィアと駆け落ちし音信不通だった、ハンプティと前妻の間の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現れる。キャロライナは組織の情報を警察に漏らした為、マフィアに命を狙われていた。監督はウディ・アレン。
 観覧車に乗るシーンはないが、ジニーとハンプティの住家からは観覧車が良く見える。この住家、元々は遊園地内の施設だった部屋をハンプティが改装したもので、遊園地が良く見渡せるし、夕方はネオンサインが差し込み、室内の雰囲気がその都度変わっていく。この部屋の美術と室内での撮影が非常に良く、おり、室内に差し込む光の変化が登場人物の変化とリンクしていく。外の光が変わることで、一気に場がしらける、魔法が解けてしまう瞬間が残酷だった。
 こてこてのメロドラマかつ男と女のすったもんだで滑稽ではあるのだが、同時に残酷。夢を諦められずに人生の軌道修正が出来ない人ばかり出てくる。ジニーは元女優で芽が出なかったものの、未だに芝居の道を諦められない。ミッキーと一緒にどこか別の場所に行くことを熱望しているが、ミッキーにはそんな気はない。彼もまた劇作家を目指しているがどうやら言葉ばかりでフラフラと行き先定まらない。ハンプティはジニーとの夫婦関係も、キャロライナとの親子関係も上手くいくと夢見ている。キャロライナを夜学に通わせ彼女が教師になれば万事丸く収まると思い込んでいる。彼らの夢は遊園地の安い華やかさと同じで、どうにもはかなくうすっぺらい。一番ふわふわしているように見えたキャロライナが、何だかんだで地に足がついているように見えてくる。そんな大人たちの横でまともにケアされない、ジニーの連れ子の処遇がいたたまれなかった。

カフェ・ソサエティ [Blu-ray]
ジェシー・アイゼンバーグ
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2017-11-10


『オンリー・ザ・ブレイブ』

 アリゾナ州プレスコット市の森林消防団で隊長エリック・マーシュ(ジョシュ・ブローリン)は、長年の経験を活かし火災対策に奔走しているが、アメリカ農務省の“ホットショット(精鋭部隊)”には「市レベルの消防隊員」と小馬鹿にされてしまう。自分たちのチームを“ホットショット”として市に認めさせることがマーシュの悲願だ。一方、麻薬に溺れる青年ブレンダン・マクドナウ(マイルズ・テラー)は別れた恋人が自分の子を妊娠していることを知る。動揺して彼女に会いに行くものの、子供は自分と家族で育てると拒絶される。マクドナウは子供の為生活を立て直そうと、森林消防団への入隊を希望する。監督はジョセフ・コジンスキー。
 実在の森林消防隊、グラニット・マウンテン・ホットショットの活躍を映画化した作品。森林消防団がどういう仕事をしているのかという面で新鮮だった。マーシュたちのチームは元々、地方自治体の一団という位置づけだったので、農林省森林局の特殊チームであるホットショットには格下に見られてしまうというわけだ。このあたりの事情を事前に知っておくと、マーシュと消防署長や市長とのやりとりがどういう意味合いのものか、よりわかると思う(予習してから見るべきだった)。グラニット・マウンテン・ホットショットは2008年、アメリカで初めての地方自治体によるホットショットとして認可された。本作は彼らがホットショットとして認められるまでと、その後の活躍を描いている。
 本作のもう一つの主役は山火事、炎そのものだろう。もちろんCGを使っているが、実写部分も相当あるそうだ。撮影が大変美しく、禍々しいと同時に引き込まれる。マーシュは消防団として奔走しているが、炎に魅入られているという面も相当あるのではと思えてくる。また、壮大な森林風景も美しいのだが、美しいと同時にこれ全てが炎の燃料となるということでもある。美しさと禍々しさが表裏一体な世界だ。予告編のノリからは脳筋体育会系ノリのスペクタクル作品かと思っていたし、確かにそういう面も強いのだが、意外と詩情と陰影がある。いい意味で期待を裏切られた。
 一見大味なようで陰影が深いという要素は、登場人物の造形にも見られる。マーシュと妻アマンダ(ジェニファー・コネリー)は見るからに円満でお互いの仕事やライフスタイルに対する理解もあるように見える。しかし、ちょっとした言動から、実はそうでもなく段々ずれが生じているらしいこと、そしてそれぞれ過去にはかなり大変な時期もあったらしいことがわかってくる。このあたりのニュアンスのこれみよがしではない所は節度を感じた。大味な作品かと思っていたら、様々な部分で抑制が効いており好感を持った。実話が元なので、変に感情・感動を煽るような演出は避けたのかもしれない。やっぱり映画は実際に見てみないとわからないものね。

鎮火報 (双葉文庫)
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双葉社
2010-11-10


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『終わった人』

 東大卒で大手銀行に就職したものの、いつしか出世コースから外れ、関係会社に出向したまま定年退職を迎えた田代壮介(舘ひろし)。美容師として働いている妻・千草(黒木瞳)が多忙にしているのを横目で見つつ、自分は「終わった人」になったと落ち込み、毎日暇を持て余していた。しかし青年実業家・鈴木(今井翼)やカルチャーセンターの職員・浜田(広末涼子)らとの出会いで、壮介の人生は再び動き出すように思えたが。原作は内館牧子の小説。監督は中田秀夫。
 すごく額面通りの演出とでも言えばいいのか、多分原作小説の文字に書かれたことをそのまま、かつ記号的に映像に置き換えているんじゃないかなという気がした。特に壮介の浜田に対する恋心とやる気(笑)の演出は、今時それはないよな!コメディ演出としてもスベっており、真面目すぎるのか、野暮ったいのか・・・。分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、見ていて気恥ずかしいのは何とかしてほしい。ちゃんと真面目に映画を作っているということではあるし、手堅い作品ではあるのだが。
 前半は、「定年後やったらダメなこと事例」のようで、ある意味大変教育的。数年後に定年退職を控えてている方は、教材として見てみるのもいいかもしれない。定年退職したら夫婦で旅行に行きたいなーなんて話は実際によくあるが、既に妻には妻の生活と人付き合いがあって、夫と一緒に旅行する暇もないし気分も乗らない。壮介に旅行に誘われたり車で迎えに来られたりしてうっすら迷惑そうな千草、対して「仲の良い熟年夫婦」のつもりでご満悦な壮介のすれ違いはイタい。壮介、早く気付いて!と言いたくなる。定年後に夫婦で円満に生活するには、それまでの積み重ねが必要なのだ。積み重ねが必要ということがわからないのではなく、自分が積み重ねていないことに気付かないままの人が多いんだろうけど。
 千草との関係が既にすれ違っていることだけでなく、壮介は色々なことに気付かない。浜田との関係にしろ、自分の仕事能力の度合いにしろ。彼がちょっとずつ「今」の自分とその周囲のことについて気付いていく話でもある。とは言え、定年退職イコール「終わった人」って、世界が狭すぎる気がする。そんなに仕事が好きですか。他に社会との接点はないのか。そもそも社会との接点がそんなにないとダメなのか。このへんの感覚はやっぱりわからないなー。

終わった人 (講談社文庫)
内館 牧子
講談社
2018-03-15


定年ゴジラ (講談社文庫)
重松 清
講談社
2001-02-15



『女は二度決断する』

 ハンブルグでトルコ移民の夫ヌーリ(ヌーマン・アチャル)と幼い息子と暮らすカティヤ(ダイアン・クルーガー)。しかし爆発事件によりヌーリと息子が死亡してしまう。事件の捜査が進み、ネオナチのドイツ人男女が容疑者として逮捕された。カティヤは正義が行われることを信じ、弁護士のダニーロ
(デニス・モシット)と共に裁判に臨むが。監督はファティ・アキン。
 題名に「二度決断する」とあるが、あれかこれか選んで決断するというよりも、この人にはもうこの道しか残されておらず、その道に準じる決断をするという、選択肢のないものに思えた。周囲から見ればそうではなくても、当事者にとっては他の方法が考えられない。これがとても辛い。
 録画した映像の中で、あるいはカティヤの記憶の中で、家族の楽しげな姿が何度も再現される。また、事件に遭う前のヌーリと息子とカティヤとの関係が、短い時間の中でも生き生きと感じられる。更に、事件後の裁判では、ただでさえ辛い中、ヌーリの犯歴を持ちだされたり、カティヤ自身の薬物使用歴を持ちだされ証言能力を疑問視されたりと、被害者のはずなのに人格を貶められるようなことをされる。カティヤが「決断」に至るまでのパートが結構長いのだが、その長さと密度から、彼女が心の平穏を得るには「決断」するしかなかったのだという結論に至るのだ。
 裁判中のカティヤと舅姑、自分の母とその恋人、また友人とのやりとりには緊張感があり、悲しみを癒しあうという感じではない。カティヤの煙草を吸うペースが速くなり、友人の赤ん坊に対して微妙な表情を見せる所など、細かい所から彼女の憔悴と苦しみが窺える。彼女の苦しみは、この苦しみを共有できる人がいないという所にもある。親族や夫と懇意であった弁護士ももちろん悲しんでいるのだが、カティヤが抱えるものとはやはり違うのだ。周囲に支えられても一人きりであるという、孤独の深さが印象に残る。

そして、私たちは愛に帰る [DVD]
バーキ・ダヴラク
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2009-09-16


消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]
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2016-07-02

『オレの獲物はビンラディン』

 コロラド州の田舎町に暮らす中年男性ゲイリー・フォークナー(ニコラス・ケイジ)は愛国心に燃え、同時多発テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所をアメリカ政府がいまだ特定できないことに苛立っていた。ある日ゲイリーは、人工透析中に神からの啓示を受け、自らビンラディンを捕まえようと決意する。四苦八苦の末、ようやくパキスタンに入国するが。監督はラリー・チャールズ。2010年にビンラディン誘拐を企てた容疑でパキスタン当局に拘束されたアメリカ人の実話を元にしている。エンドロールではモデルとなったご本人の映像も流れる。
 ザ・ニコラス・ケイジ劇場とでも言いたくなる、ニコラス・ケイジの顔芸、リアクション芸のオンパレード。ドラマの作り自体は割とオーソドックスなので、ケイジの演技の奇矯さがより際立つ。とは言え、ゲイリーのモデルとなったご本人様の映像を見ると、あっ本当にこういう感じの人なんだ・・・と腑に落ちる。本作のケイジの奇矯さは、モデルに寄せて役作りした結果なのだ。実話を元にした映画の最後に「ご本人登場」する形式は、時に野暮だなと思うこともあるのだが、本作に関しては本人を見られて良かった。なるほどこういう人だからこういうキャラクターになるのね、と納得できる。
 ゲイリーは熱烈な愛国者で外国人や外国製品などもってのほか!というスタンスなのだが、いざパキスタンに行くと、あんがい周囲に馴染むしホテルの従業員とも仲良くなってしまう。後々のインタビューでもパキスタンという国、そこに暮らす人たちのことは特に悪くは言わない。やっていることは無茶苦茶なのだが、依怙地一点張りというわけではなく、意外と他人に対して寛容な所もあるのだ。ガールフレンドになる高校の同窓生マーシ(ウェンディ・マクレンドン=コービー)との関係からも、彼の人としての優しさや思いやりが窺える。ぱっと見やたらとテンション高いし大声で喋るしビンラディン捕まえに行くしなので、なぜこいつと付き合おうと思った?!マーシの趣味大丈夫?!と最初は思うのだが、マーシや彼女の養女に対しては(彼なりにではあるが)実直に力になろうとするし、支配的な態度を取らない。見ているうちに、なるほどこれなら好かれるかもなと思えてくる。
 ゲイリーはビンラディンを捕まえなくてはならない、それがアメリカを、マーシたちを守ることになると強迫観念めいた信念を持っている。しかし、その一方でこの信念は妄想だとどこかでは気付いていて、解放されたいとも思っているのではないかという一幕も見られる。ただ、彼は信念から逃れられない。使命感に目覚めてしまうと、一種の麻薬みたいなものでやめられないんじゃないかな。彼の中で内燃するものが大きすぎて、「普通」の生活では処理しきれないようにも思えた。

ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 <完全ノーカット版> [DVD]
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『女の一生』

 男爵家の一人娘ジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は、神父と両親の勧めで子爵ジュリアンと結婚。新生活は順調に見えたが、夫の不貞を知る。原作はギ・ド・モーパッサン。監督はステファヌ・ブリゼ。
 おおよそ時系列に沿ってはいるが、ジャンヌの人生の断片が随所にちりばめられており、さっきちらっと見えた場面はどういう状況なんだろうか?と思っていると後々わかってくる。冒頭から不穏そうなシーンもあり、不幸の予兆を常に感じさせる。実際、夫の不貞を発端に、ジャンヌの人生には次々と困難が降りかかる。その困難は、当時(原作が発行されたのは1883年)の女性にとってはそんなに珍しい話でもなかったんだろうな・・・。
 ジャンヌは夫や息子により辛酸舐めさせられるが、夫とも息子とも幸せな時間は確かにあった。彼らを恨んだり悲しんだりするのと並行して、幸せだった頃の記憶がよみがえる。本作の構成は、その記憶がよみがえる感じ、一つの記憶が他の記憶と次々に連動していく感じを意図しているのだろう。夫にしろ息子にしろ、相手を恨むだけならまだ楽かもしれないが、なまじ幸せだった記憶が生き生きとそこにあるので、余計に心が引き裂かれ辛い。特に伯爵夫人や幼馴染のメイドとの女性同士のじゃれあいや他愛のない会話のあれこれは親密さを感じさせるものなので、後々の展開を思うと実に苦い。
 ジャンヌは夫や息子に振り回され、流されているように見えるが、当時の女性としては他に生き方の選択肢があまりなかったということだろう。両親にとっての娘、夫にとっての妻、息子にとっての母という、誰かに紐づけられた存在としてしか立ち位置がないというのが、何とも息苦しい。誰かを待ち続ける彼女の姿が痛々しくてならなかった。

女の一生 (光文社古典新訳文庫)
ギィ・ド モーパッサン
光文社
2011-03-10


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杉村春子/賀原夏子/宮口精二/北村和夫/南美江/丹阿弥谷津子/三津田健/近藤準/村松英子
(株)カズモ
2004-10-01

『オリエント急行殺人事件』

 イスタンブールからイギリスに戻る為、オリエント急行に乗った名探偵エルキュール・ポワロ(ケネス・ブラナー)。しかし途中で脱線事故が起きて足止め状態になり、更に車内でアメリカ人富豪ラチェット(ジョニー・デップ)が刺殺されているのが発見された。ポワロは鉄道会社の重役ブーク(トム・ベイトマン)の依頼を受け、殺人事件の犯人探しを始める。原作はアガサ・クリスティの同名小説。監督はケネス・ブラナー。
 過去、映画やTVドラマとして度々映像化されている作品だし、原作の人気も高いので、自分がイメージしていたのと違う!という観客も多そうだが、私は楽しく見た。ブラナーのポワロは神経質さや独特の几帳面さをより色濃くした、少々仰々しい造形。ポワロだけでなく作品自体がドヤ顔かましているような印象なのだが、ブラナーが主演・監督兼ねているからまあしょうがないかな。私はブラナー監督作の舞台劇っぽさというか、独特のオーバーアクションな演出・演技が少々苦手なのだが、本作は作風と非日常的な物語・舞台との相性がよかったのではないか。『オリエント急行~』って、クリスティ作品の中でも特にイベント性が高い、「お芝居」的な要素の強い作品だと思う。
 原作の尺との兼ね合いがあるのでしょうがないのだろうが、ポワロが超推理を展開しているように見えてしまう。手がかりから結論へ飛躍しすぎな印象になるのだ。とは言え、ミステリとしての筋書きそのものよりも(私が原作既読だからというのもあるが)、列車内での殺人という限られた空間内でのドラマを、どのようにビジュアルの変化を盛り込み、単調ではなく見せるかという創意工夫が面白く感じられた。見取り図のように真上から撮影したり、ポワロ自ら列車の外へ飛び出て原作からは想像できないようなアクションを見せたりと、見た目のバリエーションを付けようと言う意欲が色々感じられた。
また、セットや衣装等美術面が大変豪華で、それだけでも楽しい。
 冒頭、イスラエルでの謎解きの経緯や、ポワロの「世の中には善と悪しかない」という言葉をはじめ、ポワロはこういう考え方をする人であり、彼の言う正義とはこういうものだと紹介するような作品だったと思う。殺人事件の決着のつけ方自体、ポワロの正義感と善悪観を如実に反映したものになっている。ポワロ入門編と言ってもいいかもしれない作品。当然シリーズ化したいんだろうなぁ。



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パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2013-08-23

『幼な子われらに生まれ』

 40代のサラリーマン田中信(浅野忠信)と妻の奈苗(田中麗奈)はバツイチ同士の再婚で、奈苗の連れ後の薫(南沙良)と恵理子(新井美羽)と暮らしている。奈苗が妊娠し、3人目の子供の誕生を控えているが、信は左遷にあってしまう。また薫は信と距離をおくようになり、「本当のパパに会いたい」と言いだす。原作は重松清の小説。監督は三島有紀子。
 信は仕事で出世することよりも家族と一緒に過ごすことを優先するし、家族思いではある。しかし、大人になりつつある血の繋がらない娘との関係は難しいものになっていくし、奈苗の話を聞く心の余裕もなくなっていく。夫として、父親としての不完全さが露呈していくことになり、だんだん家に帰りたくなくなってしまうのだ。奈苗に対して、それを言ったら関係崩壊するぞというような言葉まで投げつけてしまう。
 それでも、信が幼い薫と恵理子の「父親になる」と決意するシーンはとても印象に残った。現在の彼は迷うことばかりだし家族の中には不協和音が充ちている。信も奈苗もいわゆる「出来た」人間ではなさそうだし、夫・妻としても親としても色々至らないところはある。それでも、この時の気持ちに立ち返ることが出来れば、何とか踏ん張れるのではないかと思わせるのだ。奈苗が信と前妻の娘に対して、とっさに保護者としての表情を見せるシーンにもはっとした。
 このように大人の不完全さを描く良いシーンもあるのだが、正直なところ、色々とひっかかる部分も多かった。奈苗が妊娠ハイとでも言えばいいのか、妙に能天気に見えてしまうので、この人をどのようにとらえればいいのかともやもやする。また、前妻(寺島しのぶ)の言葉は随分「台詞」感があって、他の部分から多分に浮いていたように思う。前妻が抱えるプレッシャーや息苦しさと信の無理解には、こういうシチュエーションてあるよなーという「あるある」感が強いのに、前妻の言葉は作りものっぽい。セックス中の振る舞いにも、彼女が心配していることからするともっと他に言いそうなことあるんじゃないの?!と興ざめした。本作はあくまで信の視線によるもので、奈苗の能天気さや妻の芝居がかった態度は、彼にとって「そう見える」ということなのかもしれない。しかし、奈苗や前妻も信と同様に惑っているはずだ。女性たちの描写がほぼ紋切、しかも古臭いタイプの紋切型に見えてもったいなかった。
 なお、俳優の中では奈苗の前夫役の工藤官九郎が素晴らしかった。絵に描いたようなダメさ!ぱっと見るだけでこいつクズだなと思わせるクズオーラの出し方が素晴らしい。



水曜日のエミリア [DVD]
ナタリー・ポートマン
Happinet(SB)(D)
2011-11-02

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