中世アイルランドの町キルケニーに、父ビル(ショーン・ビーン)と共にイングランドからやってきた少女ロビン(オナー・ニーフシー)。キルケニーでは護国卿が森を開拓しようとしていたが、森にすむ狼たちが人びとを脅かしており、ハンターであるビルが呼ばれたのだ。ロビンは森で不思議な少女メーヴ(エバ・ウィッテカー)と知り合う。彼女は人間と狼の魂を持つウルフウォーカーだった。監督はトム・ムーア&ロス・スチュアート。
『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』に続く監督コンビのケルト三部作3作目。前2作よりも冒険物語、アクション映画としての側面が強くなり、躍動感にあふれたアニメーションだ。もちろん美術面も素晴らしく、キャラクターデザインが割と幾何学的なのにとても柔らかく動くところも魅力。町=人間の世界と森=狼の世界、キリスト教ベースの人間中心な世界とケルト神話の世界の間を主人公が行き来しその間でゆらぐという構造は『もののけ姫』っぽくもある。森の世界の美しさ、狼として体感する世界の鮮やかさが魅力なので(本作、人間の世界にはほぼ魅力がない)、もう人間やめますわ!という気持ちになってしまうが。
本作を見てもう人間やめますわ!という気持ちになるのは、ロビンが女性であり、人間の社会の中では自由さが限られているという要素も大きいだろう。ただでさえ子供だからあれはダメこれはダメと言われるのに、女性となるとなおさらだ。ロビンは闊達で弓の腕にも自信があり、家事労働よりも狩りに出たいのだが、父親は許さない。娘を失うのではと心配でならないのだが、その心配はロビンの精神を「守る」ことにはならないのだ。ロビンはウルフウォーカーに加わることで、肉体的な自由も精神的な自由も得ていく。
ただ、本作の世界でロビンが自由を手に入れるということは、自分がそれまで生きてきた世界から離れていくということでもある。共栄共存とはならないところにほろ苦さも感じた。どちらが正しいということではなく、あり方が相容れない。狼と敵対する護国卿も、最後まで敬虔なキリスト教徒として振る舞い自分の正しさを疑うことはないし、人間の為に人間の世界で生きる人ではあるのだ。