17歳のリュカ(ポール・キルシェ)は寄宿舎暮らしの高校生。ある夜、教員に起こされアルプスの麓の村にある実家に連れ戻される。父親が交通事故で不慮の死を遂げたのだ。リュカと家族は突然のことに呆然とし深く悲しむ。葬儀の後、パリで独り暮らしをしている美大生の兄の家に滞在することにしたリュカは、兄のルームメイトであるリリオと出会い惹かれていく。監督はクリストフ・オノレ。
リュカが正面からのショットでモノローグを語るシーンが随所に挿入され、基本的に彼の語り、彼の主観でストーリーが進む。リュカの語りは聡明だが自意識強めでナルシズムが漂い、いかにもティーンエイジャーという感じだ。語りの地点では彼は冷静なのだが、大人びている割にちょと視野が狭いなと思わせる所もある。大人に近づいているがまだ大人ではない、という位置づけがとてもよく表れている。
リュカは父親の心情について想像するが、それはあくまで彼が考えられる範疇であり、実際の父親の心情には思いが至っていないように見える。リュカはゲイであり、自身では自分のセクシャリティに葛藤しているわけではなくボーイフレンドもいるし、家族も彼のセクシャリティを受け入れている。ただリュカは、父親は自分がゲイであることにがっかりしたのではないかという気持ちをぬぐい切れない。その思い込みは兄から強く否定されるし、実際そんなことはなかったのだろう。父親がリュカを大切に思っていることは冒頭のドライブのシーンからも見て取れる。本作はリュカのセクシャリティや恋がストーリーに織り込まれているものの、底辺に流れているのはリュカの父親に対する思いだ。なぜか、父親は自分の生活に満足していなかったので、家族が疎ましくなっていたのではという恐れを彼は抱いているのだが、それはやはり彼の一方的な思いという側面が強いだろう。家族をよく見ているようで見ていないという所が子供(大人もかもしれないが)の目線なのだ。
リュカの恐れは父親の死によって、永遠に解決されない問題になってしまった。パリでのリュカの混乱は一見リリオとの関係によるもののように見えるが、実際はその前から、父親との関係が宙づりになってしまった不安から来るものだったのではないか。リリオへのリュカのアプローチは結構一方的というか、自分が「こうであろう」「よかれ」と思ってやってしまう所があるので、父親への思い入れの方向性とちょっと似たところがあるように思った。
リュカの変調に対し、母親と兄がすごくしっかりしているというか、まともなのでほっとする。特のそっけないが大事なところは目配りしている常識人的なところがなかったら、この話成立しない気がする。