3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画い

『一度も撃ってません』

 売れないハードボイルド作家・市川進(石橋蓮司)、74歳。近年は原稿を持ち込んでも編集者に断られてばかりだった。そんな彼には伝説のヒットマン噂があり、過去に警察にマークされたこともあった。しかしその噂にも実はからくりが。監督は阪本順治。
 何とも懐かしい気持ちになる1作。そういえば昔(80年代くらいか?)こういう愉快でちょっと洒落た(本作はそんなに洒落てないんだけど、「あの頃の洒落てる」空気を再現しようとしているように思う)B級邦画ってあったなという気がしていくる。出演者はベテランばかりで豪華だが、気負った所が全然なくて、よい意味で全編おまけ、余暇みたいな作品だと思う。ストーリー上、あのエピソードのオチはないの?とかあの設定は何か意味あったの?とか細部のつじつまを合わせずに緩くまとめているところもおまけっぽい。それでもゆるすぎたり内輪ウケ的になっていないのは、俳優、スタッフの力量によるものだろう。ゆるくても「映画」というのはこういうものだ、という基本的な所が踏まえられているのではないかと思う。
 あの頃のお洒落さ、ハードボイルド的なかっこよさを盛り込んだ作品だが、ノスタルジーの甘美さにひたりきらず、ユーモラスな方向へと舵を切っている。今となっては市川のやっている「かっこいいハードボイルドしぐさ」はなかなかお寒いものだ。酒とたばこと夜遊びが「洒落」ている世相ではなく、若手編集者にも容赦なく突っ込まれる。それでも自分のかっこよさをやり抜く市川は、やっぱりかっこいいのかもしれない。彼の振る舞いは滑稽に演出されているが、バカにしてはいない。
 市川、石田(岸部一徳)、ひかる(桃井かおり)は長年の付き合い。ただ、過去に色恋沙汰もあれこれあった男女という感じではなく、ボーイフレンド・ガールフレンド的なじゃれあいをずっと続けてきた人たちなんだろうなという雰囲気が出てきた。市川の妻・弥生(大楠道代)としては部外者扱いされたみたいで面白くはないだろうけど…。弥生の扱いは全般的にちょっと軽すぎというか、重く見ていない感じがして、そこはひっかかった。また岸部一徳がセクハラオヤジを演じているが、昔はモテたとかちょいワルおやじとかではなく、ちゃんと「これはセクハラでこいつはクソですよ」という見せ方。娘とのエピソードにも全くフォローがない(そりゃそうだなと納得させる)ところも潔い。

大鹿村騒動記
松たか子
2013-11-26


真夜中まで [DVD]
真田 広之.ミッシェル・リー.岸部 一徳
video maker(VC/DAS)(D)
2007-12-21






『1974 命を懸けた伝令』

 第一次大戦下の1917年4月。フランスの西部戦線ではドイツと連合国軍のにらみ合いが続いていた。イギリス兵のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は伝令としてエリンモア将軍(コリン・ファース)より指令を与えられる。ドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)にドイツ軍の撤退は罠だ、追撃を中止しろという命令を伝えるのだ。監督はサム・メンデス。
 全編ワンショット風(実際には編集されていて、たぶんここで繋いだんだろうなーというのはわかる)で撮影されたことで話題の作品だが、確かに映像は面白い。一部でゲームっぽいという評もあるようだが、スコフィールドらと一緒に移動しているような感覚だ。体験型映画というか、一種のイベント映画的な側面が強いように思った。ドラマ面は正直のっぺりとしており紋切り型は否めない(女性と赤ん坊とのエピソードとか特に)が、そもそもドラマを重視した作品ではないのではないか。サム・メンデス監督だから何か重厚なドラマ志向があるのではと予想しちゃうけど、そういうわけでもないんだろうな。
 ロジャー・ディーキンスによる撮影は素晴らしく、あー撮影監督のドヤ顔が見えるわ!というシーンが多々ある。特に夜のシーン、暗闇の中照明弾で周囲が照らし出されるシーンは、作り物めいて地獄のような美しさ。これは確かに、死の危険があってもふらふらと出て行ってしまうかもしれない。監督らはこれがやりたかったんだろうなという納得感はある。
 先日見た記録映画『彼らは生きていた』を思い出したし、『彼ら~』を先に見ておいてよかった。兵士の装備の重さとか、塹壕の様子や地面のぬかるみ(沼地のような場所が多々あり、ずぶずぶ沈んでいく兵士もいたとか)、状況をイメージしやすい。兵士同士の戦場だからこその助け合い(他の場所では会うこともしないという)について『彼ら~』の中で言及があったが、本作中の他隊の兵士や上官とのやりとりにはそれを感じた。


戦火の馬 [DVD]
ジェレミー・アーヴァイン
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2013-07-03





『イーディ、83歳 はじめての山のぼり』

 83歳のイーディ(シーラ・ハンコック)は長年介護をした夫を失い、一人暮らし。娘からは老人介護施設への入居を勧められているが気が進まない。ある日、ふとしたきっかけでかつて夢だったスコットランドのスイルベン山への登山を思い立つ。現地で知り合ったアウトドア用品店の店員ジョニー(ケビン・ガスリー)をトレーナーとして雇い山頂目指してトレーニングを開始するが、衝突してばかりだった。監督はサイモン・ハンター。
 イーディがいわゆる「かわいいおばあちゃん」ではないところがとても素敵だった。冒頭、娘に止められている高カロリーな朝食をこっそり隠すところからしていい味出しているのだが、老人ホームでのおしゃべりやグループワークには反感を示し、ジョニーに対しても注文や文句が多い。あるシーンで「生きてきた中で一番幸せ」というが、そのシチュエーションからも1人の人間として独立していたい、自分のやりたいようにやりたいという人なんだなとわかって胸を突かれる。そんな人が、束縛の強い男性と結婚してしまい(その後の顛末は予想できなかっただろうけど)、家庭を持ってしまったのかと。時代の中での価値観、世間の在り方のどうしようもさなを感じる。イーディは老人ホームに入る入らないとは別問題として、娘との関係もぎくしゃくしている。娘としては母親の愛情を十分に感じられなかったということなのだろうが、イーディは「(子育ての)責任は果たした」と言ってしまうような人。そりゃあ娘も日記読んでショック受けるよな…。とは言え、すべての母親が愛情深く「母親らしく」ふるまえるわけではないだろう。こういうのは、もうしょうがないのだ。
 本作は、人が個であることを大前提としてストーリーが展開しているように思う。親子も夫婦も他人で、幸せのありかたはそれぞれ違う。日本の映画だと、イーディと娘が何かしらの和解をするエピソードや、イーディが登山の途中で家族を想うシーンが入りそうなものだが、本作はそういった、家族の不和を緩和するような要素がない。この人はこういう人だからこれはこれでしょうがないという、人との絆よりも個人の在り方を前に出しているストーリーなように思った。イーディだけでなくジョニーについても同様で、彼と恋人の関係は今後こじれるだろうが、それはしょうがないというような描き方。それが彼の価値観であり生き方なのだ。

幸せなひとりぼっち [DVD]
ロルフ・ラスゴード
ポニーキャニオン
2017-07-05


街と山のあいだ
若菜晃子
アノニマ・スタジオ
2017-09-22


『イエスタデイ』

 イギリスの小さな町で暮らすジャック(ヒメーシュ・パテル)は、アルバイトをしながらシンガーソングライターをしているが鳴かず飛ばず。幼馴染のエリー(リリー・ジェームズ)がマネージャーとしてサポートし続けてきたが、彼は音楽の道を諦めようとする。そんな折、世界中で12秒間の停電が起き、その最中にジャックは交通事故にあって意識不明に。目が覚めた時、世界からビートルズの存在はなくなっていた。ビートルズの曲を知っているのはジャックだけらしいのだ。監督はダニー・ボイル、脚本はリチャード・カーティス。
 ビートルズが消えた世界ってどんな感じ?その世界でビートルズを演奏したらどうなるの?という話かと思っていたら、変哲のないラブストーリーが展開されてだいぶ戸惑うそれ、ビートルズネタと絡める必要があったのだろうか。ビートルズ関係とラブストーリー、どちらも中途半端でぱっとしない。ラブストーリーが本筋であれば2人の心情や関係性の変化の経緯をもっと丁寧に見せてほしかった。エリーがあまりに都合のいい彼女すぎる。「正しい位置」が恋人というのもちょっと古い。設定自体に、ラブストーリーである必要性を感じられないのだ。一方ビートルズのいない世界設定については、ビートルズ以外にもなくなっているものがあるのだが、それがどういう関連性があるのか、ビートルズがいないことで個の世界はどうなっているのかなど、諸々中途半端。世界が「変わる」瞬間の演出が結構よかったので、どういう世界なのかもっと先を見せてほしかった。絡める必要のない要素同士を絡めてしまって、しかもどちらもぱっとしない出来なのが残念。ビートルズの楽曲使用許可(意外と原曲もちゃんと使っていて驚いた)取った時点で力尽きたか…。
 とは言え、確かにビートルズの曲は良いということはよくわかる。2010年代にライブで演奏して客が熱狂するかというとちょっとよくわからないが。なお、エド・シーランが本人役で出演しているのだが、たぶんすごくいい人なんだろうな…結構いじられているのに。音楽ビジネス業界の描写も結構悪意があるしなー。

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『イップ・マン外伝 マスターZ』

 詠春拳の正当争いでイップ・マンに敗れ、武術の世界から去り、小さな雑貨屋で働くチョン・ティンチ(マックス・チャン)。ある日、町を仕切る長楽グループのはみ出し者・キットらに追われていたジュリアナとナナを助けたことで、キットの恨みをかい、店に放火されてしまう。更にナナらはキットの反乱に巻き込まれていく。監督はユエン・ウーピン。
 マックス・チャンが意外と小顔だし小柄・・・。そして強い!個々の俳優のアクション、そしてアクションシークエンス全体の組み立てがとても楽しかった。2人の人物が闘うシーン、向き合う2人を横から固定カメラで撮影したショットが目立つのだが、これだと2人の動きやお互いの手足がどのように組み合っているのかがよくわかる。一見地味だけど贅沢な撮り方だと思う。アクションのスキルに絶対的な自信がある、撮影方法でごまかさないぞ!ってことだもんなー。乱闘シーンでもカメラは引き気味なので全体の動き、メイン人物の動きや一連の流れがよくわかってとても満足度が高い。こういうアクションの撮り方が私は好きなんですよ!マックス・チャンはもちろんだが、ミシェル・ヨーが無双状態を見せてくれて、ちょっと感動してしまった。刀を使ったアクションが流麗。彼女のような壮年女優がこれからもっと出てくるといいのにな。
 ストーリーは王道で捻りのないもの。雑と言えば雑な展開で、脇が甘いというかあまり締める気もなさそう。特に放火のシーンでいきなり部屋の奥でも引火しているのには、どこが火元?!と突っ込みたくなったし、長屋状態なのに周囲に燃え広がらないの?!大丈夫?!と気になってしまった。大雑把なストーリーではあるのだが、親子関係の描写が結構泣かせる。父親にはかっこいいカンフーマスターであってほしい息子、息子と共に穏やかな生活を送りたい父とのすれ違い。父親も、息子の前では本当はかっこよくありたいから辛いよな・・・。ティンチがちゃんと父親業をやっており、保護者としての責任の所在がはっきりしている所も好感度高い。

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『移動都市 モータル・エンジン』

 試写で鑑賞。60分戦争と呼ばれる最終戦争から数百年たち、荒廃した世界。わずかに残された人類は移動型の都市で生活するようになっていた。巨大移動都市ロンドンは、都市同士が捕食しあう弱肉強食の世界で支配を拡大させていた。ロンドンの指導者的立場にある史学ギルド長ヴァレンタイン(ヒューゴ・ウィービング)への復讐心を募らせる少女ヘスター(ヘラ・ヒルマー)は密かにロンドンに潜入するが、なりゆきでギルド見習いのトム(ロバート・シーハン)と行動を共にすることに。原作はフィリップ・リーヴの小説『移動都市』。監督はクリスチャン・リバース。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のピーター・ジャクソンが製作・脚本に参加。
 ストーリー展開はかなり駆け足でダイジェスト版ぽいのは否めないが、原作を読んだ時のイメージにはかなり近いと思う。リバース監督はピーター・ジャクソン監督作に前々から視覚効果やストーリーアーティスト等で参加し、『キング・コング』ではアカデミー視覚効果賞を受賞した人だそうだ。この作品において何をまず見せるのか、どこに注力すべきなのかという判断が的確なのだと思う。本作では大型都市のロンドンにしろ、ごく小規模な都市(というか集落みたいなもの)にしろ、移動都市内のディティールが細かく具現化されていて、そうそうこういう所が(ストーリー上では必要なくとも)見たかった!というフェティッシュをくすぐる。スチームパンク好きにはツボな部分が多いのでは。
 また、冒頭のロンドンの「狩り」の様が手に汗握らせるものでここが最大の見せ場と言ってもいい(その後、それ以上の盛り上がりに乏しいということでもあるのでちょっとどうなのかなとは思うけど・・・)。かつ、本作で描かれている世界がどのようなものなのか、どういうルールや価値観で動いているのか、イメージを掴みやすい。移動都市以外でも飛行艇の描写が結構細かく爽快感があったり、空中都市がなるほど!という造形かつ美しさだったりと、まずはビジュアルの魅力がある作品だと思う。ただ「古代の神」や某菓子(日本では馴染が薄いけど)については、サービスなんだろうけど見当違いでは。映画を見ている側がいる現代とのつながりを感じさせる要素は、本作の場合ミスマッチのように思う。未来というより異世界っぽい。テクノロジーの発展の仕方が、今現在の現実とはあまり地続きっぽくないんだよな・・・。トースターやCD、モーター部品等現実に存在するもの(の成れの果て)が登場するのに異世界ぽいというのがちょっと不思議でもある。
 ストーリーやキャラクター設定は原作を少々アレンジしてあるものの、意外と改変は少ないと思う。終盤の展開が違うが、現代の気分には映画版の方が沿っているのかな。ちょっと難民問題ぽくもある。現在の英国の迷走を思いつつこのラストを見ると、なんというか味わい深いが。

移動都市 (創元SF文庫)
フィリップ・リーヴ
東京創元社
2006-09-30


ホビット 竜に奪われた王国 [Blu-ray]
イアン・マッケラン
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
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『生きてるだけで、愛』

 躁鬱病の影響で過眠症になり引きこもり状態、当然無職の寧子(趣里)は、ゴシップ雑誌の編集者をしている恋人・津奈木(菅田将暉)と同棲している。ある日、寧子の前に津奈木の元恋人の安堂(仲里依紗)が現れる。津奈木とよりを戻したいから自立して部屋を出ろというのだ。安堂は無理矢理寧子のバイト先を決め、寧子はそのカフェバーで働くことになってしまう。原作は本谷有希子の同名小説。監督は背木光才。
 寧子は津奈木に、私と別れられるあなたが羨ましい、私は私と別れられないと吐露する。自分と付き合い続けることがあまりにもしんどいという痛切なシーンで心に刺さった。本作、この自分であることの苦しさがずっと描かれている。寧子の他人に対する振る舞いは感じが良いとは言えないし、津奈木に対して言葉をぶつける様は八つ当たりのようにも見える。彼女は自分自身と付き合うのに手いっぱいで、周囲に対して気力体力を振り分けることができないのだと思う。感じよく振舞う、相手に配慮することに多大な気力体力を使わざるを得ない人もいるのだ。自分もわりとそうなので、寧子が疲労していく様は他人事とは思えないし、そんな状態で接客業なんてやったらダメ~!とハラハラしてしまった。感じよく振舞いたいという意欲はあるんだけど、頭と体がついていかないんだよね・・・。
 寧子は津奈木に、自分が言葉と感情をぶつけたら受け流さずに返してほしいと訴える。自分と同熱量、同じ本気度で対峙してほしいのだ。気持ちはわかるが、常にそれを求めるのは酷だよなぁ・・・。寧子は自分と相手との感じ方のギャップに敏感で、自分の気持ちが伝わっていないとわかるとすごく傷つく。バイト先の店長たちとのちぐはぐさも、こういうことってよくあると思うのだが、見ていて辛かった。コミュニケーションの理想が高いというか、ある意味相手を過大評価しているんだろう。そんなに全力で生きられないよ・・・。作中、彼女に対して一番本気でぶつかっていたのは安堂かもしれない。すごく迷惑な本気度ではあるけど、安堂はやりとりを流さないんだよね。


『イコライザー2』

 日中はタクシー運転手として働いているロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)は元CIAのエージェント。悪人を19秒で抹殺していく「イコライザー」としての裏の顔を持つ。ある日、CIA時代の元上官で親友のスーザン・プラマー(メリッサ・レオ)が何者かに殺される。マッコールは独自に捜査を始め、スーザンが追っていた任務の真相に迫るが、自身も何者かに襲われる。監督はアントワン・フークア。
 前作との直接的なつながりはないので、いきなり本作を見ても問題ないと思う。コンパクトにまとまっていた前作よりもマッコールが関わる事件のエリアは広がり、彼の行動範囲も広がる。前作でのクライマックスはクローズドな空間だったが、今回はオープンな空間で「外気」の存在感も強烈。彼の過去に関わる人物が複数登場し、マッコールと他者の関わりが増えることで、マッコール個人の世界も外に向かって開かれているように思う。その為、前作のような匿名性の高いヒーローとしての側面は薄れる。
 マッコールは自分に悪人を罰すること、正しいことをすることを課しているのだが、その正しさは彼の主観によるものだ。そういう意味では自分たちの都合で他人を殺す敵と同じ、というと言い過ぎだが何が違うのかという気もしてくる。マッコールは常に弱い者、不運なものの味方であり、無敵の仕置き人で、他の登場人物よりも上位で世界を俯瞰できる神のような存在(何しろ万能すぎる)なので、匿名性が高いキャラクターである方が納得がいく(彼の行動の倫理的根拠にもやもやしない)と思う。本作では一人の人間としてのマッコールという方向にキャラクターの見せ方の舵を切っているので、そこに違和感を感じる人もいるかもしれないが、これはこれで悪くはない。マッコールの正義は自分の中で完結しすぎている為に少々クレイジーに見えるのだが、彼の頑なさや正しいことをしなければならないという強迫観念めいて見えるものの根っこにあるものが垣間見える。
 マッコールの妻に関する記憶が語られるが、彼女についてだけではなく、死者を思い返すシーンがどれも良い(洋服にまつわるエピソードが2回あるがどちらもぐっときた)。マッコールの人生において彼女らがどのような存在だったのかよくわかる。また、マッコールが運転するタクシーの乗客たちの描写がどれも印象に残った。彼/彼女らのその後の人生はどんなだろうと気になる。特に「乗車した場所に戻って」と告げる男性のその後が知りたくなった。

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『愛しのアイリーン』

 42歳実家在住、田舎のパチンコ店勤め、独身で恋愛経験なしの宍戸岩男(安田顕)は、ある日姿を消し、父親の葬式の日に帰宅した。彼はフィリピン人の妻アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れてきたのだ。岩男を溺愛してきた母ツル(木野花)は大反対し、喪服姿でアイリーンにライフルを向ける。原作は新井英樹の同名漫画。監督・脚本は吉田恵輔。
 とにもかくにもツル役の木野花が強烈で一気に引き込まれる。もはや飛び道具で、木野を見ているだけでも面白い。主演の安田もでろっとした眼差しや重たい存在感が見ている側の神経を逆なでする。ここ数年での安田の確変振りには目が離せないのだが、本作で一つの路線を極めたなという感がある。
 原作が描かれてからそこそこ経年しているので、いい加減古びて見えるのではないかなと思ったが、描かれる問題が全く古びていないことにげんなりした。女性かつフィリピン人であるアイリーンに対する侮りと差別。女性はセックスありきの存在で、拒むと逆恨みされる様。また男性にかけられる結婚・家庭作りのプレッシャーと「いい嫁」の強要。そして金とセックス。日本の村の地獄がだだ漏れだ。村と言っても、具体的な地域というよりも、日本(だけじゃないだろうけど)社会の根底に流れる村的なメンタリティと言った方が正しいのかもしれない。そこそこ都会が舞台になったとしても、何らかのコミュニティに所属している以上、似たようなことが起きそうだなと思った。様々なものを突き抜けたラストですら、古典的な日本の村!ツルが体現するような強力すぎ、いきすぎな母性は、時代も場所も関係ないだろうし。岩男をどこまでも追ってくる、本人はそれをよかれと思っている所が、愛ゆえとわかっているからこそ怖い。
 アイリーンにちょっかいをかけるヤクザ塩崎(伊勢谷友介)の行動が印象に残った。彼はフィリピン人であった母親を金で買って食い物にした日本の男、日本の社会を恨んでいる、にもかかわらず、自分も恨んでいる相手と同じようなことをやっている。自分が恨む日本の社会、男性主体のシステムに取り込まれてしまっているのだ。そのアンビバレンツに葛藤はないのだろうか。アイリーンが突っ込みかけるが強制終了されてしまうので、その先が見てみたかった。
 それにしても、岩男の結婚したい=いつでもセックスできる相手が欲しいという渇望が強すぎて大分辟易とする。本作で岩男と関わる女性たちは、実母であるツルを除き皆セックスの対象としてしかとらえられていない。アイリーンとの間に愛らしきものが漂う瞬間はあるのだが、かき消されてしまう。アイリーンが日本語を学ぼうとするのと対象的に、岩男はアイリーンの母語も英語も学ぼうとはせず、一個人としてのアイリーンのことを知ろうとはしない。岩男の態度がもう少し違ったものだったら、愛らしきものが愛になる様を見ることが出来たのかもしれない。

愛しのアイリーン[新装版] 上
新井 英樹
太田出版
2010-12-15


ヒメアノ~ル 通常版 [DVD]
森田剛
Happinet
2016-11-02


『1987、ある闘いの真実』

 1987年1月。韓国は全斗煥大統領による軍事政権下にあった。パク署長(キム・ユンソク)率いる南営洞警察は、北分子を排除するべく拷問まがいの厳しい取り調べをしていた。そんな中、行き過ぎた取り調べの中でソウル大学の学生が死亡する。警察は死因隠蔽の為早急な火葬を申請するが、チェ検事(ハ・ジョンウ)は疑問を抱き、上層部の圧力を押し切り検死解剖を実行。拷問致死だったことが明らかになると、警察は担当刑事2人の処分でことを収めようとする。これに気付いた新聞記者や刑務所看守らは真実を公表するべく奔走し始める。監督はチャン・ジュナン。
 韓国民主化闘争の中の実話を映画化した群像劇。エンドロールでは当時の映像も使われている。時代の雰囲気の再現度はかなり高いのではないかと思う。女性たちのファッションや女子学生の部屋においてある小物類等の80年代感が懐かしかった。当時の韓国の政治状況を知らなくても面白く見られる。今この国がどういう状態なのか、この組織は何をやっていてこの人はどういうポジションなのかという情報の提示の仕方が整理されており、映像と登場人物のやりとりだけでちゃんと背景がわかる。非常に整理された脚本だと思う。登場人物の名前と属性を字幕で表示するのもありがたかった。
 学生の死の真相解明は、特定の誰かが戦闘に立って行われたわけではない。ストーリー上、警察V.S.検事という構図になりそうなところだしもちろんそれはストーリーの一部ではあるのだが、全てではない。チェ検事が孤軍奮闘する一方で、死んだ学生が収容されていた刑務所の看守も何とか情報を外部に伝えようとしているし、新聞記者たちはチェ検事や学生の死亡確認をした医師からのリーク元に取材を続ける。元々は関係なかった複数の人たちの行動が、偶然に助けられなんとか繋がっていくのだ。その繋がりは細く危なっかしいが、真実へと辿りつく。もしこの人が勇気を出さなかったら、あの人が脅しに屈していたら、途中で途切れてしまったものだ。その綱渡り状態がスリリングであると同時に、なんとか真実の公表を実現し現政権に切り込もうとする人たちの奮闘には胸が熱くなった。こういう経緯を経て民主化したなら、権力への不信は常にあるだろうし、それ故に監視しなければならないという意識が強くなるんだろうと理解できる。民主主義がタフなのだ。
 非常にベタな演出(終盤の逆光の使い方とか教会の鐘の音とか、これをあえてやるのか?!と突っ込みたくなるくらい)が多発する作品なのだが、この熱量にはベタを重ねるくらいでちょうどいいのかもしれない。終盤ではベタだなーとわかっていても目頭熱くなる。
 警察は「反共」をモットーに北分子を徹底的にマークするのだが、彼らがやっていることは、パク署長が話す北の状況と妙に似通っている。彼は自分がやられたことを、学生ら相手に再現しているように見えた。最早反共という趣旨からずれている。どんなイデオロギーであれ、権力者は自身の権力に拘泥し腐っていき、権力のおこぼれにあずかろうという人は後を絶たない。こういう中で、「買われない」「飼われない」でいるのは何と難しいことか。弱みに付け込んでくる強者には本当に腹が立つし悔しくてたまらなくなる。




タクシー運転手 約束は海を越えて [DVD]
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