3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画い

『生きちゃった』

 厚久(仲野太賀)、武田(若葉竜也)、奈津美(大島優子)は幼馴染。やがて厚久と奈津美は結婚し、娘が5歳になった。しかしある日、厚久が帰宅すると奈津美が見知らぬ男とセックスしており、3人の関係は急激に変わり始める。監督・脚本・プロデューサーは石井裕也。
 3人の男女の数年間を描いたドラマだが、途中途中で「その半年後」というふうに時間が飛ぶ。彼らの人生は断片的な見え方で、3人のこれまでに何があったのかということは会話の端々から伺える程度だ。その断片が段々繋がってくる。一方で、3人の関係性については冒頭からわかりやすい。厚久と武田は一緒に外国語教室に通い、未だに一緒に何かを目指す(といっても具体的なビジョンがあるわけでもなさそうだが)仲で、10代の頃の関係がそのまま続いているような間柄。対して厚久と奈津美の間には、10代の頃のような気安さは逆に薄れており、微妙なずれがある。そしてそのずれに奈津美は自覚的だが、厚久はぴんときていない。
 序盤、厚久と奈津美の家で武田も交えて酒を飲むシーンで、その気配は既に漂っている。厚久の実家に墓参りに行くエピソードでも、奈津美が一方的に話しており、厚久は彼女の話をあまり聞いていない様子だった。厚久と娘の「犬」を巡るやりとりからも、彼が相手の話をちゃんと聞いていない、どこかちぐはぐな様子が垣間見えた。厚久が相手に向き合うのは、取返しがつかない状態になってからなのだ。それが彼らの関係の非常に辛いところだ。あの時勇気を出していれば、言葉にしていればということの積み重ねなのだ。「英語なら言えるのに」という言葉が後々まで響いてくる。
 一方、厚久と武田の付き合いは言葉が少なくても噛み合っているように見えるし、厚久は武田に対しては率直にふるまえる。相手への親身になった態度や言葉、いたわりはこの2人の間では可視化されている。終盤の武田の献身、とでもいえばいいのか、思いやりにはぐっときた。厚久と奈津美の関係の拗れ方とは対称的で面白い。

映画演出・個人的研究課題
石井 裕也
朝日新聞出版
2020-09-18


『異端の鳥』

 東欧のある村はずれで、1人の少年(ペトル・コラール)が叔母と暮らしていた。しかし叔母が亡くなり、少年は1人で旅に出る。行く先々で人びとは彼を不吉な存在として扱い、迫害し追い立てる。原作はポーランドの作家イェジー・コシンスキの小説。監督はパーツラフ・マルホウル。
 第二次大戦末期、ナチスドイツが台頭する世界らしい、少年はユダヤ人らしいということはわかるが、具体的な時代や場所は明示されず、寓話的な側面が強い。モノクロの美しい映像がまた、その寓話性を強める効果になっている(映像のせいでかなり漂白されているとは言える)。ただ、映像は非常に美しいのだが描かれる物語は、反比例するように陰惨だ。映像が美しいからまあ耐えられるという側面もある。人間の負の部分が煮詰まっていた。それは少年に対する周囲の態度もそうだし、彼の周囲で起きている事柄もそうだ。
 少年は様々な人たちの元を転々とするが、どの人も少年を1人の人間としては扱わない。道具や家畜と同じような扱いで、役に立たなくなれば用済みだ。大概の人が何らかの形で少年に暴力を振るう。肉体的なもの、精神的なもの、性的なものというオンパレードで、児童虐待が相当きつい(撮影時の状況が心配になるようなシチュエーションも)。ソ連兵のように少年を助けようとする人もいるが、彼が少年に見せるのが復讐殺人、手渡すものは拳銃だ。自分を守り生き抜く手段が暴力だと子供に伝えるような世界だというのが辛い。少年は暴力の道具を手にすることで、初めて暴力を振るわれる側から振るう側にまわる。ただ、それが自衛になったのかというと何とも言えない。ラスト、少年に初めて固有名詞が与えられる。が、その名前を持っていた時の自分に、少年は最早馴染めないのでは。ラストショット、一見美しいのだがどこへ向かっていくのか不安になる。

ペインティッド・バード (東欧の想像力)
イェジー コシンスキ
松籟社
2011-08-05


サタンタンゴ [Blu-ray]
ペーター・ベルリング
TCエンタテインメント
2020-09-09


『行き止まりの世界に生まれて』

 「アメリカで最も惨めな町」に選ばれたイリノイ州ロックフォードに暮らすキアー、ザク、ビンはスケートボードに夢中な少年たちだった。ビンは自分たちのスケーティングを撮影し続け、やがて自分たちの生活、思いにカメラを向けるようになる。3人の12年間を追ったドキュメンタリー。監督はビン・リュー。
 スケートボードで走り回り宙に舞う青年たちの姿は軽やかで、何にも縛られていないように見える。ジャンプの瞬間は重力からも解き放たれ、日々の生活のしがらみからも解放され自由だ。とは言えそれはあくまで一瞬で、着地すればまた生活が待ち構えている。3人の少年時代からこの「生活」は見え隠れしているのだが、成長しそれぞれ家族を持ったり仕事を始めたりする中で、更に「生活」は色濃くなっていく。ラストベルトにあるロックフォードはアメリカの吹き溜まり的な扱いで、雇用もないし発展の兆しも見えない。町の風景にも空き家や空きテナントが目立ち、明らかに閑散としている。3人もこの町に未来はないと口にするが、ここから誰もが抜け出せるわけでもない。町を出ていくにも基礎体力(基本的な経済力や計画性・知識など)が必要なのだが、それが削られ続ける、あるいは得ることができない環境にいるのが「貧しい」ということだ。
 特に若者にとっては、家庭が安心できる場、体力を温存でき安定して学習できる場であるかどうかが将来的な貧困を回避する大きな要素になるだろう。キアーもザクもビンも父親(義父)の暴力にさらされ、守られていなかったという背景があることがわかってくる。特にビンの義弟が父親について言及するシーンの言葉の間、ビンへの暴力についての言及や、扉をそっと閉める(大きな音を立てると父親は怒った)姿は、暴力が人にいかに深い傷をつけ、それが回復しないかということを如実に表している。ビンはドキュメンタリーを撮影することをカウンセリングみたいなものと言うが、その境地にたどり着くまでが(彼と母親の関係を見てもわかるが)本当に大変だったと思う。一方で、ザクの恋人に対してビンが「(ザクが)なんで殴るのか僕が聞こうか?」と言うシーンがある。友人と恋人との関係にどこまで踏み込んでいいのかわからないが、暴力を知ってしまった以上何か言わずにいられないというもどかしさも感じた。
 キアーは黒人、ザクは白人、ビンはアジア系だが、少年時代からずっとつるんでおり仲は良い。ビンが向けるカメラの前でここまでさらけ出してくれるのかという驚きと、2人のビンに対する信頼の深さが感じられた。ただ、ザクと他の白人の友人が人種差別ギャグでけらけら笑っている様にはちょっとぎょっとするし、それを見ているキアーが何とも言えない表情をしている。また「白人だって辛いんだ」論を持ち出す人や、それに対して黒人差別の歴史背景を出して諭す人などもいるが、どちらも(前者はもちろんだが)白人。当事者性が薄い所で自分たちのことをとやかく論じられているような気にならないかとハラハラしてしまった。自覚薄い差別というのはこういうことかと目の当たりにした気分だった。

ロード・オブ・ドッグタウン コレクターズ・エディション [DVD]
ジョン・ロビンソン
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009-11-04


ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)
ポール・ジアマッティ
2016-04-20


『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』

 1933年、イギリス人のガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は世界恐慌の中、スターリンが統治するソビエト連邦のみが反映していることに疑問を持つ。記者としてモスクワからウクライナに向かったジョーンズが見たものは、想像を絶する実情だった。監督はアグニシュカ・ホランド。
 実在したジャーナリストのエピソードをドラマ化したもので、ジョーンズの記事に影響を受けたというジョージ・オーウェルが『動物農場』を執筆するシーンから始まる。ジョーンズが発信した内容が後にどのようにフィードバックされたのか見えることで、少々勢い任せ(何しろあの程度の装備で真冬のウクライナをさまようのは無謀だと思う)なジョーンズの行動の価値、事実を発信し続けることの価値が示されるのだ。
 ジョーンズは元々ジャーナリストだったわけではなく、ソビエトの現状に疑問を持ち、現地調査をするために便宜上、当初はジャーナリストを名乗っていたにすぎない。モスクワに入ってからの彼の取材活動は危なっかしい。当時のソビエトの状況が海外には伏せられていたこともあり、言動は無防備で真っすぐなので、こんな小細工すぐに当局にバレるのでは?!とハラハラした。
 彼の調査手法に老獪さは全くない。相手の懐に潜り込んで親密になって情報を引き出すという老獪な方法もあるだろうが、親密さを保ちつつ一線を越えずにいられる人はごくわずかだろう。本作に登場するピュリッツァー賞受賞者のデュランティ(ピーター・サースガード)はモスクワに駐在しているうちに、好待遇に溺れスターリンのスポークスマンと化した。彼らの乱痴気騒ぎには、やはりジャーナリズムは権力と距離を置くべきだと痛感させられる。ジョーンズの正義感は青臭いかもしれないが、それがなかったらジャーナリズムはたちゆかないだろう。本作はジョーンズがジャーナリストになっていく過程の物語でもある。原題はシンプルに「Mr. Jones」なのだが、端的に的を得た題名だ。
 中盤、ウクライナに入ってからは妙に幻想的で、ジョーンズの頭の中の地獄めぐりにも見えてくる。が、これはジョーンズ=一般人にとって本当のこととは思えないほどひどい、想像の域を現実が越えてしまったということだと思う。更に恐ろしいのは、その地獄は特定の人間の意志によって生み出されたものだということだ。そこで何が起きているのか世界に向けて発信する(たとえバカにされ、本気にされなくても)というのは、地獄の拡大を押しとどめようとする行為なのだ。



動物農場〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
2017-01-07





ソハの地下水道 [DVD]
アグニェシュカ・グロホフスカ
東宝
2013-04-19


『一度も撃ってません』

 売れないハードボイルド作家・市川進(石橋蓮司)、74歳。近年は原稿を持ち込んでも編集者に断られてばかりだった。そんな彼には伝説のヒットマン噂があり、過去に警察にマークされたこともあった。しかしその噂にも実はからくりが。監督は阪本順治。
 何とも懐かしい気持ちになる1作。そういえば昔(80年代くらいか?)こういう愉快でちょっと洒落た(本作はそんなに洒落てないんだけど、「あの頃の洒落てる」空気を再現しようとしているように思う)B級邦画ってあったなという気がしていくる。出演者はベテランばかりで豪華だが、気負った所が全然なくて、よい意味で全編おまけ、余暇みたいな作品だと思う。ストーリー上、あのエピソードのオチはないの?とかあの設定は何か意味あったの?とか細部のつじつまを合わせずに緩くまとめているところもおまけっぽい。それでもゆるすぎたり内輪ウケ的になっていないのは、俳優、スタッフの力量によるものだろう。ゆるくても「映画」というのはこういうものだ、という基本的な所が踏まえられているのではないかと思う。
 あの頃のお洒落さ、ハードボイルド的なかっこよさを盛り込んだ作品だが、ノスタルジーの甘美さにひたりきらず、ユーモラスな方向へと舵を切っている。今となっては市川のやっている「かっこいいハードボイルドしぐさ」はなかなかお寒いものだ。酒とたばこと夜遊びが「洒落」ている世相ではなく、若手編集者にも容赦なく突っ込まれる。それでも自分のかっこよさをやり抜く市川は、やっぱりかっこいいのかもしれない。彼の振る舞いは滑稽に演出されているが、バカにしてはいない。
 市川、石田(岸部一徳)、ひかる(桃井かおり)は長年の付き合い。ただ、過去に色恋沙汰もあれこれあった男女という感じではなく、ボーイフレンド・ガールフレンド的なじゃれあいをずっと続けてきた人たちなんだろうなという雰囲気が出てきた。市川の妻・弥生(大楠道代)としては部外者扱いされたみたいで面白くはないだろうけど…。弥生の扱いは全般的にちょっと軽すぎというか、重く見ていない感じがして、そこはひっかかった。また岸部一徳がセクハラオヤジを演じているが、昔はモテたとかちょいワルおやじとかではなく、ちゃんと「これはセクハラでこいつはクソですよ」という見せ方。娘とのエピソードにも全くフォローがない(そりゃそうだなと納得させる)ところも潔い。

大鹿村騒動記
松たか子
2013-11-26


真夜中まで [DVD]
真田 広之.ミッシェル・リー.岸部 一徳
video maker(VC/DAS)(D)
2007-12-21






『1974 命を懸けた伝令』

 第一次大戦下の1917年4月。フランスの西部戦線ではドイツと連合国軍のにらみ合いが続いていた。イギリス兵のスコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は伝令としてエリンモア将軍(コリン・ファース)より指令を与えられる。ドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)にドイツ軍の撤退は罠だ、追撃を中止しろという命令を伝えるのだ。監督はサム・メンデス。
 全編ワンショット風(実際には編集されていて、たぶんここで繋いだんだろうなーというのはわかる)で撮影されたことで話題の作品だが、確かに映像は面白い。一部でゲームっぽいという評もあるようだが、スコフィールドらと一緒に移動しているような感覚だ。体験型映画というか、一種のイベント映画的な側面が強いように思った。ドラマ面は正直のっぺりとしており紋切り型は否めない(女性と赤ん坊とのエピソードとか特に)が、そもそもドラマを重視した作品ではないのではないか。サム・メンデス監督だから何か重厚なドラマ志向があるのではと予想しちゃうけど、そういうわけでもないんだろうな。
 ロジャー・ディーキンスによる撮影は素晴らしく、あー撮影監督のドヤ顔が見えるわ!というシーンが多々ある。特に夜のシーン、暗闇の中照明弾で周囲が照らし出されるシーンは、作り物めいて地獄のような美しさ。これは確かに、死の危険があってもふらふらと出て行ってしまうかもしれない。監督らはこれがやりたかったんだろうなという納得感はある。
 先日見た記録映画『彼らは生きていた』を思い出したし、『彼ら~』を先に見ておいてよかった。兵士の装備の重さとか、塹壕の様子や地面のぬかるみ(沼地のような場所が多々あり、ずぶずぶ沈んでいく兵士もいたとか)、状況をイメージしやすい。兵士同士の戦場だからこその助け合い(他の場所では会うこともしないという)について『彼ら~』の中で言及があったが、本作中の他隊の兵士や上官とのやりとりにはそれを感じた。


戦火の馬 [DVD]
ジェレミー・アーヴァイン
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2013-07-03





『イーディ、83歳 はじめての山のぼり』

 83歳のイーディ(シーラ・ハンコック)は長年介護をした夫を失い、一人暮らし。娘からは老人介護施設への入居を勧められているが気が進まない。ある日、ふとしたきっかけでかつて夢だったスコットランドのスイルベン山への登山を思い立つ。現地で知り合ったアウトドア用品店の店員ジョニー(ケビン・ガスリー)をトレーナーとして雇い山頂目指してトレーニングを開始するが、衝突してばかりだった。監督はサイモン・ハンター。
 イーディがいわゆる「かわいいおばあちゃん」ではないところがとても素敵だった。冒頭、娘に止められている高カロリーな朝食をこっそり隠すところからしていい味出しているのだが、老人ホームでのおしゃべりやグループワークには反感を示し、ジョニーに対しても注文や文句が多い。あるシーンで「生きてきた中で一番幸せ」というが、そのシチュエーションからも1人の人間として独立していたい、自分のやりたいようにやりたいという人なんだなとわかって胸を突かれる。そんな人が、束縛の強い男性と結婚してしまい(その後の顛末は予想できなかっただろうけど)、家庭を持ってしまったのかと。時代の中での価値観、世間の在り方のどうしようもさなを感じる。イーディは老人ホームに入る入らないとは別問題として、娘との関係もぎくしゃくしている。娘としては母親の愛情を十分に感じられなかったということなのだろうが、イーディは「(子育ての)責任は果たした」と言ってしまうような人。そりゃあ娘も日記読んでショック受けるよな…。とは言え、すべての母親が愛情深く「母親らしく」ふるまえるわけではないだろう。こういうのは、もうしょうがないのだ。
 本作は、人が個であることを大前提としてストーリーが展開しているように思う。親子も夫婦も他人で、幸せのありかたはそれぞれ違う。日本の映画だと、イーディと娘が何かしらの和解をするエピソードや、イーディが登山の途中で家族を想うシーンが入りそうなものだが、本作はそういった、家族の不和を緩和するような要素がない。この人はこういう人だからこれはこれでしょうがないという、人との絆よりも個人の在り方を前に出しているストーリーなように思った。イーディだけでなくジョニーについても同様で、彼と恋人の関係は今後こじれるだろうが、それはしょうがないというような描き方。それが彼の価値観であり生き方なのだ。

幸せなひとりぼっち [DVD]
ロルフ・ラスゴード
ポニーキャニオン
2017-07-05


街と山のあいだ
若菜晃子
アノニマ・スタジオ
2017-09-22


『イエスタデイ』

 イギリスの小さな町で暮らすジャック(ヒメーシュ・パテル)は、アルバイトをしながらシンガーソングライターをしているが鳴かず飛ばず。幼馴染のエリー(リリー・ジェームズ)がマネージャーとしてサポートし続けてきたが、彼は音楽の道を諦めようとする。そんな折、世界中で12秒間の停電が起き、その最中にジャックは交通事故にあって意識不明に。目が覚めた時、世界からビートルズの存在はなくなっていた。ビートルズの曲を知っているのはジャックだけらしいのだ。監督はダニー・ボイル、脚本はリチャード・カーティス。
 ビートルズが消えた世界ってどんな感じ?その世界でビートルズを演奏したらどうなるの?という話かと思っていたら、変哲のないラブストーリーが展開されてだいぶ戸惑うそれ、ビートルズネタと絡める必要があったのだろうか。ビートルズ関係とラブストーリー、どちらも中途半端でぱっとしない。ラブストーリーが本筋であれば2人の心情や関係性の変化の経緯をもっと丁寧に見せてほしかった。エリーがあまりに都合のいい彼女すぎる。「正しい位置」が恋人というのもちょっと古い。設定自体に、ラブストーリーである必要性を感じられないのだ。一方ビートルズのいない世界設定については、ビートルズ以外にもなくなっているものがあるのだが、それがどういう関連性があるのか、ビートルズがいないことで個の世界はどうなっているのかなど、諸々中途半端。世界が「変わる」瞬間の演出が結構よかったので、どういう世界なのかもっと先を見せてほしかった。絡める必要のない要素同士を絡めてしまって、しかもどちらもぱっとしない出来なのが残念。ビートルズの楽曲使用許可(意外と原曲もちゃんと使っていて驚いた)取った時点で力尽きたか…。
 とは言え、確かにビートルズの曲は良いということはよくわかる。2010年代にライブで演奏して客が熱狂するかというとちょっとよくわからないが。なお、エド・シーランが本人役で出演しているのだが、たぶんすごくいい人なんだろうな…結構いじられているのに。音楽ビジネス業界の描写も結構悪意があるしなー。

アクロス・ザ・ユニバース [DVD]
エヴァン・レイチェル・ウッド
パラマウント
2016-06-03


イエスタデイ [DVD]
ルイス・ウィリアムズ
マクザム
2019-10-25


『イップ・マン外伝 マスターZ』

 詠春拳の正当争いでイップ・マンに敗れ、武術の世界から去り、小さな雑貨屋で働くチョン・ティンチ(マックス・チャン)。ある日、町を仕切る長楽グループのはみ出し者・キットらに追われていたジュリアナとナナを助けたことで、キットの恨みをかい、店に放火されてしまう。更にナナらはキットの反乱に巻き込まれていく。監督はユエン・ウーピン。
 マックス・チャンが意外と小顔だし小柄・・・。そして強い!個々の俳優のアクション、そしてアクションシークエンス全体の組み立てがとても楽しかった。2人の人物が闘うシーン、向き合う2人を横から固定カメラで撮影したショットが目立つのだが、これだと2人の動きやお互いの手足がどのように組み合っているのかがよくわかる。一見地味だけど贅沢な撮り方だと思う。アクションのスキルに絶対的な自信がある、撮影方法でごまかさないぞ!ってことだもんなー。乱闘シーンでもカメラは引き気味なので全体の動き、メイン人物の動きや一連の流れがよくわかってとても満足度が高い。こういうアクションの撮り方が私は好きなんですよ!マックス・チャンはもちろんだが、ミシェル・ヨーが無双状態を見せてくれて、ちょっと感動してしまった。刀を使ったアクションが流麗。彼女のような壮年女優がこれからもっと出てくるといいのにな。
 ストーリーは王道で捻りのないもの。雑と言えば雑な展開で、脇が甘いというかあまり締める気もなさそう。特に放火のシーンでいきなり部屋の奥でも引火しているのには、どこが火元?!と突っ込みたくなったし、長屋状態なのに周囲に燃え広がらないの?!大丈夫?!と気になってしまった。大雑把なストーリーではあるのだが、親子関係の描写が結構泣かせる。父親にはかっこいいカンフーマスターであってほしい息子、息子と共に穏やかな生活を送りたい父とのすれ違い。父親も、息子の前では本当はかっこよくありたいから辛いよな・・・。ティンチがちゃんと父親業をやっており、保護者としての責任の所在がはっきりしている所も好感度高い。

イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック
ドニー・イェン
Happinet(SB)(D)
2011-06-02


ドラゴンxマッハ! [Blu-ray]
トニー・ジャー
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2017-06-07


『移動都市 モータル・エンジン』

 試写で鑑賞。60分戦争と呼ばれる最終戦争から数百年たち、荒廃した世界。わずかに残された人類は移動型の都市で生活するようになっていた。巨大移動都市ロンドンは、都市同士が捕食しあう弱肉強食の世界で支配を拡大させていた。ロンドンの指導者的立場にある史学ギルド長ヴァレンタイン(ヒューゴ・ウィービング)への復讐心を募らせる少女ヘスター(ヘラ・ヒルマー)は密かにロンドンに潜入するが、なりゆきでギルド見習いのトム(ロバート・シーハン)と行動を共にすることに。原作はフィリップ・リーヴの小説『移動都市』。監督はクリスチャン・リバース。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のピーター・ジャクソンが製作・脚本に参加。
 ストーリー展開はかなり駆け足でダイジェスト版ぽいのは否めないが、原作を読んだ時のイメージにはかなり近いと思う。リバース監督はピーター・ジャクソン監督作に前々から視覚効果やストーリーアーティスト等で参加し、『キング・コング』ではアカデミー視覚効果賞を受賞した人だそうだ。この作品において何をまず見せるのか、どこに注力すべきなのかという判断が的確なのだと思う。本作では大型都市のロンドンにしろ、ごく小規模な都市(というか集落みたいなもの)にしろ、移動都市内のディティールが細かく具現化されていて、そうそうこういう所が(ストーリー上では必要なくとも)見たかった!というフェティッシュをくすぐる。スチームパンク好きにはツボな部分が多いのでは。
 また、冒頭のロンドンの「狩り」の様が手に汗握らせるものでここが最大の見せ場と言ってもいい(その後、それ以上の盛り上がりに乏しいということでもあるのでちょっとどうなのかなとは思うけど・・・)。かつ、本作で描かれている世界がどのようなものなのか、どういうルールや価値観で動いているのか、イメージを掴みやすい。移動都市以外でも飛行艇の描写が結構細かく爽快感があったり、空中都市がなるほど!という造形かつ美しさだったりと、まずはビジュアルの魅力がある作品だと思う。ただ「古代の神」や某菓子(日本では馴染が薄いけど)については、サービスなんだろうけど見当違いでは。映画を見ている側がいる現代とのつながりを感じさせる要素は、本作の場合ミスマッチのように思う。未来というより異世界っぽい。テクノロジーの発展の仕方が、今現在の現実とはあまり地続きっぽくないんだよな・・・。トースターやCD、モーター部品等現実に存在するもの(の成れの果て)が登場するのに異世界ぽいというのがちょっと不思議でもある。
 ストーリーやキャラクター設定は原作を少々アレンジしてあるものの、意外と改変は少ないと思う。終盤の展開が違うが、現代の気分には映画版の方が沿っているのかな。ちょっと難民問題ぽくもある。現在の英国の迷走を思いつつこのラストを見ると、なんというか味わい深いが。

移動都市 (創元SF文庫)
フィリップ・リーヴ
東京創元社
2006-09-30


ホビット 竜に奪われた王国 [Blu-ray]
イアン・マッケラン
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2014-12-03


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