3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画あ

『アルキメデスの大戦』



 日本と欧米の対立が強まりつつある昭和8年。日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に乗り気だったが、海軍少尉・山本五十六(舘ひろし)はこれから必要なのは空母艦だと主張。しかし上層部は世界に誇示する巨大戦艦計画を支持する。山本は計画を阻止する為、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を起用し、大和建造の見積もりに不正があると証明しようとする。原作は三田紀房の同名漫画、監督は山崎貴。
 山崎監督が脚本も手がけているのだが、何でもセリフで説明しがち、感動盛りすぎになりがちというこれまでの作品の難点が比較的出ておらず、普通に面白い。その一言、一アクションを入れるからダサくなるんだよ・・・というシーンもそこそこあるのだが、げんなりするほどではなかった。
 櫂は「数字は嘘をつかない」という信念、というか確信を持ち、言動は非常に合理的で、どう見ても軍の体質とはそりが合わなそうだし、実際に軍人は嫌いだと明言している。そんな彼が軍という組織の中で妨害にあいつつミッションを遂行していくという、「大作戦」的な面白さがある。杓子定規で典型的な軍人タイプの部下・田中(柄本佑)との掛け合いと、2人が相棒として機能していく過程も見所の一つだろう。田中の造形がちょっと誇張されすぎ、「キャラ」感が強すぎな感はあるが(こういうのが山崎監督作品のダサさの一因ではないかと思うんだけど・・・)、2人のコントラストがきいていた。俳優には正直あまり期待をしていなかったのが、若手もベテランも案外よかった。海軍のおじさんたちの会議の、段々論理も議題の趣旨も関係なくなり人間性こきおろし合戦になっていくむなしさは、あー日本の会議!日本の組織!という感じだった。
 この「日本の組織」というものの厄介さ、不条理さが全面に出ている話でもある。櫂がいくら奮闘して見積もりの不正が判明したとしても、史実から明らかなように当初の海軍上層部の計画通りにことは進む。上の人がそれでいいといえば、黒も白になるし、あったこともなかったことになる。全く理にかなっていないので、敗戦の原因はここにもあるんだろうなと空しさが募る。
 櫂が奮闘するが、史実として大和は建造され、沈没することが最初からわかっている。実際、映画冒頭はこの沈没シーンで非常に力が入っており、スペクタクル要素としては最大の見せ場だと言ってもいい。櫂の奮闘からのこの「結末」までどうやってストーリーを展開させていくのかというのが本作シナリオの勝負所だったと思うのだが、なかなかうまくクリアしていたように思う。終盤にある人物が櫂に提案する道は苦渋の決断だろう。ただ、本当にそれだけか?とも思った。櫂は研究者であり技術者気質だ。そこにより完璧なものを作れる方法があるのなら、それがどんな結果を招こうと作りたくなる、やってみたくなるのが技術者の性ではないだろうか。そして同じように、軍人はやはり戦争をやりたい人種であるようにも思える。アメリカとの開戦を案じていた山本も、結局真珠湾攻撃に乗り気を見せる。ある人物の提案の真意は、当人の自覚有無に関わらず、ひとつの建前であるような気がしてならなかった。その建前としての意図すら機能しなかったということが、映画を見ている側には史実としてわかっているというのがまた空しい。

『アマンダと僕』

 パリでアパート管理の手伝いや公園の草木の剪定をしている24歳のダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、ピアノ教師レナと恋に落ちる。しかしある事件によりダヴィッドの姉は死に、レナも怪我を負いトラウマに苦しむ。更に姉の7歳になる娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)はシングルマザーだった母を亡くしひとりぼっちになってしまう。監督・脚本はミカエル・アース。
 試写会で鑑賞。アマンダ役のミュルトリエが本当に素晴らしい。自然体の子供として、作られ過ぎない可愛さがある。母親の死によるショックにずっと耐えている彼女が、ある場面で泣く。このタイミングをストーリー中のどこにもってくるかという演出が、わかってる!と思うと同時にちょっとあざといなとも思うのだが、アマンダの泣き顔の説得力に納得させられる。自分の中で色々な思いの収まりがついた時に、ようやく真に泣ける、感情を表に出せるのだろう。
 本作で泣くのは子供だけではない。唯一親密な親族だった姉を亡くし、自分の将来もおぼつかないまま子供の人生を背負うことになったダヴィッドは、友人の前で泣きだしてしまう。姉が死んだ出来事が事故や病気とはだいぶ様相が違い、それだけでもショックなのに、アマンダに対しての責任までのしかかってくる。更に事件で傷ついた恋人に十分に寄り添うこともできない。彼は彼で、この先が不安でしかたないのだ。このシーン、泣くことをとがめられない、男なら泣くな、大人なんだからしっかりしろ的なことを言われない所がいい。
 「~らしく」「~なんだからこうでないと」みたいな概念が全般的に薄かったように思う。ダヴィッドはアマンダと生活し面倒をみるが、彼女の父親として振る舞おうとしているわけではなく、「保護者である大人」になっていくのだ。アマンダの母親もあまり「母親らしい」振る舞いではなく、デートで浮かれたり仕事でひと悶着あったりする。母親として以外の顔もちゃんと見せるのだ。母親がいる、のではなく、こういう個人がいる、という視点で描かれていたと思う。ダヴィッドたちの実母も、いわゆる世間が言うところの母親らしい人ではなかった。それでも「そういう人」として描いており善し悪しのジャッジはされていなかった。子供の描写に気をひかれがちだが、大人たちの描写もとてもよかったと思う。


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『アメリカン・アニマルズ』

2004年、アメリカ・ケンタッキー州。大学生のウォーレン(エバン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は代り映えのしない毎日に物足りなさを感じていた。2人は大学図書館に収蔵されている時価1200万ドルを超える鳥類図鑑を盗み出そうと計画する。秀才のエリック(ジャレッド・アブラハムソン)、実業家の父親を持ち自身も実業家として成功しているチャズ(ブレイク・ジェナー)を仲間に引き入れ、着々と計画を進める。ついに結構の日が来るが。監督はバート・レイトン。
実際に合った事件を実際の当事者に聞き取りしながら、それをプロの役者による再現劇に挿入していくというメタ構成。当事者の記憶は個々にずれがあり、そのずれもそのままドラマに織り込まれていく。ストーリーの前提にあやふやさが含まれており、見ているうちにおぼつかない気分になってくる。
更に、4人の強盗計画のゆるさずさんさ。これでよく実行しようと思ったな!という地に足のついていない様はこれまたおぼつかない。そもそも特に強い絆があるわけではないのになぜこの4人で?という疑問もぬぐえないままだ。
彼らはなぜ強盗をしたのか。切実にお金に困っているというわけではなく、むしろ平均よりも大分裕福な子もいる。親が「あの庫のことが分からなくなった」というのも納得。犯罪映画のように、盗みをすることで人生大逆転が出来るような気になっていたのだろうが、そもそも「大逆転」てどういう状況を期待していたのだろうか。見れば見るほど胡乱で、徒労感に襲われそうになる。何をやってもかっこよくはならないし自分からは逃げられないのだと、彼らは突き付けられているのだがそれに気づいているのかいないのか・・・。
ウォーレンの饒舌と衝動が周囲を巻き込んでいく、彼の物語にスペンサーらが乗せられていくという面はあるだろう。しかし、その物語に対して考えずに乗っかっていくスペンサーの姿勢の方が不穏に思えた。自分で何かをやる(手を汚す)覚悟もないまま他人の物語に乗っかっちゃって大丈夫なのかと。お話が降ってきた、という感じで、自分がそこに加担しているという意識は希薄だし、加担することが何を意味するのかということも考えていなさそう。想像力が欠落している気がするのだ。

『RBG 最強の85歳』

 アメリカ女性最高判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ。ジェンダーによる差別と闘い続けた彼女の生涯を追うドキュメンタリー。監督はジュリー・コーエン&ベッツィー・ウェスト。
 この人がいなかったら、男女間の不平等は今頃どうなっていたか、というくらい功績があるギンズバーグ。精神的にも肉体的にも非常にタフな人というイメージがあるし、実際に体力を維持するためのメンテナンスと努力を欠かさない様が作中でも見受けられる。私より全然ちゃんと腕立て伏せ出来てる・・・。
しかし本来は、若い頃から物静かで引っ込み思案、必ずしも外向的、尖鋭的というわけではないというから意外だった。彼女のガッツ、闘志は生真面目さ、勤勉さから生まれるもののように思える。弁護士事務所への就職を軒並み断られた(彼女の伝記映画『ビリーブ 未来への大逆転』でも描写があった)時に「なぜ女性が弁護士になれないのか理解できなかった」というのだが、真面目に考えるとそれが理にかなっていない、不条理だから理解できないというわけだろう。理屈が通らないというのは、世の中や現行の法律の方がずれていて、そこを変えていくことが時に必要なのだ。ギンズバーグが「200年前に作られた法律の「我々」に私たちは含まれていない。黒人もヒスパニックも。」と言う。その時代ごとの「理屈」はあっても、背景となる時代の価値観からは逃れられないのだ。
 法解釈や主義主張が違う人とでも、その他の部分で気が合えば親しく付き合うという所も面白い。超保守派の判事と意外と仲がいいのだ。仕事とプライベートとの切り分けがはっきりしている。このスイッチの切り替え方が仕事が長続きするコツなのかもしれないとも思った。
 夫との関係性が理想的だ。こういう人と支え合っていたからここまで来られたのかもしれない。それだけに、夫の晩年になってからの病から目をそむけていたという孫の言葉が切ない。あんなに強い人でも、そこは直視できなかったんだと。夫マーティンはギンズバーグの知性、法律家としての能力を非常に高くかっており、自分のパートナーとして自慢に思っていた様子。彼自身も法律家(税務専門の弁護士)だったが、「2番手であることを気にしない」人だったとか。妻の知性を手放しで評価できる、自分よりも高くかうというのは当時の男性としては稀な資質だろう。映像からも人柄の良さが垣間見られた。
 それにしても、アメリカの現状を思うとギンズバーグはおちおち引退できないだろうな・・・。必要とあれば保守とも妥協し、最高判事間のバランスを取るためより保守にもリベラルにも方向修正する人だそうだが、相当リベラルとして頑張らないと現状ではバランスとれなさそう・・・。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』

(若干ネタバレです)
 サノス(ジョシュ・ブローリン)により人類の半分を失った地球。キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンズ)、アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)らアベンジャーズは、失った仲間を、人類を取り戻す為に再集結し、史上最大の闘いに挑む。監督はアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。
 マーベル・シネマティック・ユニバースがようやく一旦完結!良く頑張った!おつかれ!打ち上げに行こう!以上!で終わらせたくなってしまう。これまでのシリーズ前作をふまえ、諸々のキャラクターへのフォローもし、もちろん前作からのどう見ても無理目!なピンチから脱出するという大仕事が終わったと言うことへの感慨が先に立ち、面白さとか感動とかが自分の中で後手後手になってしまう。もちろんとても面白かったし感動したけど、ストーリーへの感動というよりも監督をはじめ本作、本シリーズをなんとかかんとか完成させた人たちへの感心の方が先に来ちゃうんだよね・・・。
 正直なところ、タイムパラドックス問題や、どこまでを「指パッチン」被害の範疇とみなすのか等、細かいところでの矛盾や突っ込み所は結構多いし、シリーズ見てきた人には気になるところだと思う。とは言え、10年もやっていたらそりゃ色々矛盾するところは出てくるだろうな、大目に見るかという気持ちもある。個人的にはようやくホークアイ(ジェレミー・レバー)のまともな活躍を見られたので十分かなぁ。
 本作中、個人的に一番印象深くぐっときたのは、ナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)とスティーブのやりとりだ。世界各地に散った仲間とのミーティングの後、雑に作られたサンドイッチをほおばろうとするナターシャにスティーブが声をかける。『ウィンター・ソルジャー』でナターシャはスティーブに、ガールフレンドを作ったら、つまり一個人としての私生活をもっと大事にすれば、と促す。今回はスティーブがナターシャにそれを促す。この任務から降りて一個人になる人生もあるのだと。その後のやりとりは思いやりがありつつちょっと切ない。ナターシャにとっての「家」はアベンジャーズであり、この他の人生の選択肢はもうない、つまり人類の危機が去ったら彼女が居場所と思える場所はなくなる(アベンジャーズは人類の危機に際して結成されるものだから、本来存在しない方がいいんだよね・・・)のだと。ナターシャは髪色を頻繁に変えるが地毛は赤毛で、今は染め直す気力もないこと、ピーナツバターサンドがサンドイッチ界で最下層らしい(本当にやる気がない時に手っ取り早く作って食べるもの)ということも垣間見えるいいシークエンスだと思う。男女の友情がちゃんと存在している所も本シリーズの良さの一つだった。
 また、スタークとスティーブがここでもまた対称的な道を選ぶ、そしてその道が彼ら其々が歩んできた道とは別の方向にシフトするものであるという所も面白かった。特にスタークは、とうとうちゃんと大人になることが出来た、父親という存在と向き合い、自身も大人としての責任を果たすことに成功したんだなと、これまた感慨深かった。彼だけでなく、あの時できなかったことをもう一度やりなおすというモチーフが随所にちりばめられた作品。


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『アガサ・クリスティ ねじれた家』

 私立探偵のチャールズ(マックス・アイアンズ)の元をかつての恋人ソフィア(ステファニー・マティーニ)が訪ねてくる。大富豪である祖父のアリスティド・レオニデスが死んだ、毒殺の可能性があるので調べて欲しいというのだ。レオニデスの屋敷には彼の前妻の姉であるイーディス(グレン・クローズ)、ソフィアの両親である長男夫婦とソフィアの弟妹、会社を継いだ二男夫婦、そして若い後妻が暮らしていた。全員に殺害の動機と機会があるのだ。原作はアガサ・クリスティの同名小説。監督はジル・パケ=レネール。
 くせ者一族が住むお屋敷での殺人、という本格ミステリの大定番な設定だが、個々の登場人物のキャラクターにクセがありすぎて、かなり作りものっぽい。それを逆手に取って、お屋敷の室内の作りや撮り方、登場人物の衣装等、ちょっと舞台演劇的な作りもの感の強い方向へ、すこしだけずらしているように思った。演劇の舞台のような場で作りものっぽい登場人物たちが、お互いに作りものっぽい外面を見せているような構造だ。外部から来た探偵であるチャールズもまた、隠された姿を持っているという所も面白い。全員が信用できないのだ。
 とは言え、ミステリとしては意外と平坦な印象を受けた。脚本のせいなのか原作がこういう感じなのかわからない(原作を昔読んだはずなのだが全く記憶にない・・・本作の犯人も最後までわからなかった)が、犯人の絞り込み要素がなかなか出てこない。いわゆるフェアな本格という感じではないのだ。むしろ、一族の「ねじれた」人間模様と感情のもつれにスポットがあてられており、かなりメロドラマ感がある。家長の支配欲が招いた悲劇だという面が浮き彫りになっていく。長男と二男が父親からの承認をめぐって憎み合う様はこっけいでもあり悲哀にも満ちている。
 なお、衣装がどれも良かった。おしゃれというよりも、その人がどういう人なのかわかりやすい衣装、かつディティールが凝っていると思う。イーディスが襟元につけていた大ぶりのシルバーのブローチが素敵。あと、車がいい!イギリスの時代もの映画・ドラマは当時の車がちゃんと出てくるのがいいなぁ。


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『ある少年の告白』

 牧師の父(ラッセル・クロウ)と献身的な母(ニコール・キッドマン)の元で育ったジャレッド(ルーカス・ヘッジス)は高校を卒業し、大学進学と共に寮生活を始める。しかし「自分は男性に惹かれる」と気付き、両親に告白。動揺した両親は同性愛を「治す」という矯正セラピーへの参加を勧める。原作はNYタイムズ紙によりベストセラーに選ばれたガラルド・コンリーのルポ。監督はジョエル・エドガートン。
 映画の作りは大分固く、時系列が行き来する構成もあまりスムーズではない。冗長になっている部分と説明が不十分と思われる部分があって、ちょっとちぐはぐさを感じた。とは言え、真面目に誠実に作ろうとしていることはわかる。特に矯正セラピーの内容や、それがなぜ参加者を苦しめるようになるのかという部分をちゃんと伝えなければという強い意識を感じる。性的志向は矯正できるものではないし、矯正すべきものでもないのだ。むしろ矯正することは精神に深い傷を残すことになる。さほど昔の話でもないのに、ジャレッドの両親(だけではなく周囲の大人たち)のセクシャリティに対する意識があまりにズレていて愕然とする。唯一まともなことを言うのはかかりつけの医者だが、彼女は両親の間違いを指摘することはできない。これは、他人の宗教上の主義主張に口出しはできないということなのかな。
本作に出てくる矯正セラピーは、ブラック企業の新人研修にちょっと似ている。参加者に自分の恥・罪を告白させ、自尊心を奪ってコントロールしやすくする。その状態に、「変わらないと両親からも神からも愛されない」と教え込んでいくのだ。子供の世界はあまり広くないから、自分の世界の根底にある親の愛と信仰、神の愛を失うと居場所がなくなってしまう。セラピストは参加者に家族の罪を指摘させ、親を憎めと煽る。とは言え、全ての参加者が親を憎みたいわけではないし、親に否があるわけでもないだろう。バックグラウンドを奪うことでコントロールしやすくするというやり方は作中でジャレッドが指摘するように「フェアではない」。
ジャレッドは自分のセクシャリティに悩むが、それが親のせいだと思っているわけではない(むしろ自分のセクシャリティと親との関係は別物だと理解している)。彼は自分自身に非常に正直だ。これは、神父の息子として育ち、基本的に神の前では正直であれという姿勢が身についているからでもあるだろう。セラピストが要求するような罪の告白も、親への糾弾も、でっちあげることはできるがそれは嘘だ。ジャレッドは嘘を全身で否定する。それが出来るジャレッドは強いし、その強さは自己肯定感をちゃんと持っているということなのかなと思った。
 最後、ジャレッドが父親にある言葉を投げる。その内容はシャリティの問題にかぎったことではないだろう。子供と親とは別の人間で思い通りにはならない、でも自分はあなたの子供なのだ、自分と向き合って対話をしてくれと。これを踏まえていれば親子関係は多少拗れにくくなるのではないか。

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『アリータ バトルエンジェル』

 数百年後、一部の特権階級が空中都市で暮らし、地上に残された人々は空中都市に送る資源を生産するために厳しい暮らしを強いられている未来。スクラップの山の中からサイボーグの少女が発見された。彼女の体の大半は失われていたが、脳だけは無傷の状態だった。医師イド博士(クリストフ・ワルツ)は彼女に新しい体を与え、アリータ(ローサ・サラザール)と名付ける。彼女は記憶を無くしており、自分にとって初めて目にする世界に興味津々だった。やがてアリータは、自分がロストテクノロジーによってつくられた兵器だったと知る。そして彼女を破壊するため、強力なサイボーグたちが送り込まれてきた。原作は木城ゆきとの漫画『銃夢(ガンム)』、製作・脚本はジェームズ・キャメロン、監督はロバート・ロドリゲス。
 宣伝等で前面に出されているのは日本でも知名度が高いキャメロンだが、実際に見てみるとむしろロドリゲス風味が濃厚。要するに人体破損、人体切断が妙に多い。いわゆる「輪切り」シーンとか、必然性はないのにわざわざ入れてるもんな・・・。結構な切株映画である。サイボーグだから出血はしないしPG指定も受けていないが、結構なバイオレンス風味だ。起こっていることはバイオレンスなのに、その描き方、映画のタッチ自体は軽く明朗でポップという奇妙な味わいだった。アクションの見せ方はスピード感とメリハリが強く、ほぼアニメ。生身では出来ないアクションを駆使しており、動きの間合いもアニメを見ている感覚に近い。
 序盤が非常にスピーディーで、余計な説明が殆どない。展開がやたらと早いのだが、この世界のことを知らないアリータの視線と観客の視線が重なり、世界のフレッシュさがより引き立つ。この序盤の作り方、見ている側の引き込み方が上手い。後半に進むにつれ、話の展開が雑になってくるのが難点なのだが、まずこの世界ありき、ビジュアルありきという作品ではあるので、そんなに大きな疵にはなっていないと思う。とは言え、ノヴァが最終的に何をどうしたいのかとか、あんまりぴんとこないままなのだが。
 アリータの、世界の全てが物珍しくて色々気になってたまらない!何もかも新鮮!という感じが全編通して保たれていた所がいい。世界を知る事、自分自身を知る事が(その真実はどうあれ)どちらもポジティブな捉え方をされており、どこか青春映画ぽかった。アリータとヒューゴ(キーアン・ジョンソン)の恋愛エピソードが意外と少女漫画っぽく妙に甘酸っぱい所も、若々しくて悪くない。
 アリータの造形が、ビジュアル的にも性格的にもなかなか良かったと思う。目の大きさには違和感があるのだが、この違和感こそ人であり人でない彼女の存在を象徴している。女性として造形されているが、セクシャルな表現があまりない所もよかった。


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『アクアマン』

 海底に広がるアトランティス帝国の女王を母に、燈台守である人間を父に持ち、地上で育ったアクアマンことアーサー・カリー(ジェイソン・モモア)。彼の前に海底人の王女メラ(アンバー・ハード)が現れる。アトランティスが地上に攻め入ろうとしており、その阻止の為、王位継承者としてアーサーを呼び戻したいというのだ。一度は断ったアーサーだが、アトランティスの脅威を目撃し、戦いに身を投じていく。監督はジェームズ・ワン。
 『ジャスティス・リーグ』で登場したアクアマンだが、日本では全くなじみがないし個性や能力もいまひとつよくわからないし、これキャラは立つの?大丈夫?と思っていた。でも本作、見事にキャラは立っているしとりあえず派手で勢いよく楽しい。ヒーロー映画ってこのくらいあっけらかんと、大雑把でよかったんだよなーと逆に新鮮だった。やたらとイベントが連発し起きていることは盛りだくさんなのに途中で眠くなっちゃうところとか、意味なく風光明媚な土地を転々と移動するところとか、音楽セレクトの大雑把さとか、ノリがワイルドスピードシリーズとほぼ同じ。逆に言うと、ワン監督はこれ以外の演出方法を持っていないということなんだろうか。構成上のメリハリの付け方がいつもワンパターンな気がする。とは言え、世界的にヒットするにはやはりこのノリ、ヤンキー的センス(何せビジュアルはまんまラッセンだもんな。蛍光色必須。)が必要なのか・・・。確かにザック・スナイダーにはない要素だ・・・。気楽に見られる楽しい作品ではある。長さも気楽に見られるレベルにしてくれればなお良かった。やはり2時間越えは厳しい。理屈こねない系アメコミ映画として、マーベルとの差別化には成功していると思う。
 ストーリーはものすごく大雑把。大らかに見られるのだが、妙な所で色々と突っ込みたくなった。伝説の鉾の見つけ方には、あれだけ高い技術力を誇る帝国だったのにそこは普通に瓶なのかよ!(コルク栓抜いてたし・・・)と気になってしまった。聡明そうなメラの行動が、意外にもアーサーとどっこいどっこいの雑さなのが魅力。この2人がヒーロー、ヒロインという感じではなく、チームメンバー的な所も現代的でいい。ロマンスに関しては何と言ってもアーサーの両親に敵うものはないしね。

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『愛と銃弾』

 南イタリアの港町ナポリ。地元のマフィアのボス・ヴェンチェンツォ(カルロ・ブチロッソ)の葬儀が執り行われていた。しかしこの葬儀にはある秘密があった。数日前、看護師のファティマ(セレーナ・ロッシ)はある事件の目撃者になってしまう。マフィア配下の殺し屋チーロ(ジャンパオロ・モレッリ)は事件の目撃者暗殺を命じられるが、ファティマは彼の幼馴染で元恋人だった。チーロはファティマを守る為に殺し屋コンビの相棒ロザリオ(ライツ)を裏切り、彼女を連れて逃げる。しかし組織は2人を追い続ける。監督はアントニオ・マネッティ&マルコ・マネッティ。
 近年歌って踊る映画といえばインド映画だが、私はイタリア発の本作の方が断然好きだ。序盤、棺の中の死体が歌い始める時点で、えっそういう方向性なの?!とショックを受けたのだが、妙に楽しい。以降要所要所で歌と踊りが展開されるが、全てがプロのクオリティというわけではなく、どこか素人くさい。この素人くささはあえてのものなのだろうが、微妙な野暮ったさと選曲の歌謡曲感が見事にマッチし味わい深すぎる。キッチュと言えばキッチュなのだが、映画のクオリティが低いというのではなく、むしろ完成度は高い。よくこの形態でやろうと思ったな・・・。魅力を伝えるのが難しいのだが、ミュージカル、ノワール、ロマンス、ガンアクションという諸々のジャンル要素が盛り合わされており、かつそれぞれの要素はベタ中のベタな部分を使っているのだが、全体としてのトーンは統一されている。謎の化学変化だ。
 ヴィンチェンツォの妻マリア(クラウディア・ジェリーニ)が映画好きという設定で、映画ネタが結構多いところも楽しい。ストーリーの肝になるある作戦自体、映画からアイディアをとったものだし、最初に出てくる観光名所は「『ゴモラ』の撮影場所だよ!」と紹介される。『ゴモラ』をわざわざ引き合いに出してくるという映画愛。
 マリアは損得勘定がはっきりしており、そこそこえげつない性格ではあるのだが、若いメイドをいびるベテランメイドは許さない(自分がメイド出身だから)という主義で、金目当ての結婚と揶揄される夫のこともそれなりに愛している。部下に無茶ぶりはするが何だか憎めない。アストンマーチンとデロリアンとどっちがいい?と聞いてくる人のことをあまり嫌いにはなれないな・・・。他の登場人物についても同様だ。チーロとの絶対的信頼関係があると思いきや途中で切ない片思い状態になってしまうロザリオも、彼なりに筋は通っているし、自分はリーダーポジションじゃないんだよね・・・と切々と歌うヴィンチェンツォの右腕的部下も憎めない。本作の魅力は、この憎めなさと言うか、可愛げにあるように思った。

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