3つ数えて目をつぶれ

映画と本の感想のみを綴ります。特に映画。ご連絡はhoto5now★yahoo.co.jp(お手数ですが★を@に変えてください)まで。

映画あ

『アイリッシュマン』

 トラックドライバーだったフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)は一帯を仕切るマフィア、ラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)と知り合ったことがきっかけで、殺し屋として頭角を現していく。全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の付き人となり信頼を得るが、やがてホッファは暴走を始める。監督はマーティン・スコセッシ。
 Netflix配信作品が期間限定で劇場公開されていたので見に行ったのだが、さすがに209分は長い…。長さの面では自由に中断できる配信向きといえる。とは言え、劇場で見る醍醐味はありすぎるくらいある。映像は明らかにスクリーン向きなので配信だともったいなくなっちゃう。さすがスコセッシというところか。
 老年のフランクが過去を語り始め、過去と現在が入り乱れる、途中の時間経過も不規則かつ大幅に飛んだりする。また、実話が元なので実際の第二次世界大戦後のアメリカ史と強く結びついている。全米トラック運転組合とマフィア、政界との繋がりや、ホッファが何者なのか、またキューバ危機あたりは押さえておかないとちょっとついていくのが厳しいかも…。キューバ危機はともかくホッファのことを今のアメリカの若者たちは知っているのだろうか。背景説明はほとんどないので、結構見る側の理解力を要求してくる。
 フランクはわりと軽い気持ちでマフィアの世界に足を踏み入れていくように見える。ラッセルとジミーとも「友人」という関係が前面に出ている。が、マフィアはしょせんマフィアというか、いざ利害の不一致が生じると友情もくそもなくなっていく。ある一線を踏まえたうえでの仁義なのだ。この一線を超えてしまったのがジミーの破滅の始まりだったのでは。フランクとラッセルはずっと上下関係というかパートナーシップ的なものを維持していく(ワインとぶどうパンを、中年当時と同じようにおじいちゃんになっても一緒に食べる様にはきゅんとする)。が、フランクにとってはラッセルをとるかジミーを取るかどんどん迫られていく過程でもある。後半、フランクは頻繁に困ったような涙目顔になっているのだが、強烈な「ボス」2人からの板挟み状態は確かに泣きたくもなりそう。
 フランクらの妻や娘は登場するが、物事にかかわってくるのは男のみ。フランクの娘の1人は彼の真の仕事に勘付き、距離を取る。が、あくまで見ているだけで自らは何もすることはない(絶縁はするのだが)。女不在の世界の成れの果てを見せていくとも言える。

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『アナと雪の女王2』

 雪と氷を操る力を持つエルサ(イディナ・メンゼル)と明朗快活なアナ(クリステン・ベル)姉妹は、アレンデール王国の女王と王女として、仲間に囲まれ平和に暮らしていた。ある日エルサは不思議な歌声に呼ばれていると感じる。声に導かれ、エルサとアナはエルサの力の正体、そして王国の秘められた真実を知ることになる。監督はクリス・バック&ジェニファー・リー。
 幼いエルサとアナに父親が語るアレンデール王国と不思議な森の関係は、あっこれはいわゆるアレですか…と予感させるものなので、その後の展開にそう意外性はない。ストーリーの運び方は結構雑というか乱暴なところがあり(これは1作目でも感じたのだが)精緻に伏線を敷くというよりは、登場人物のキャラクター性、情動にぐっと寄せて話を転がしていくタイプの作品なのだと思う。冒険要素を盛り込む、かつ視覚的な派手さ・盛り上がりの為にアトラクション的、ジェットコースター的な演出に頼りすぎな気はした。
 とは言え、個人的には前作よりも好きだ。私は前作の結末、エルサの処遇にあまり納得いかなかったのだが、今回はその部分が(私にとっては)是正されて、中盤の展開がどんなに雑でもあのラストシーンがあるから許そうという気になった。前作でエルサは「ありのまま」の自分(「ありのままの」がエルサの中で黒歴史扱いらしいという演出がちょっと面白かった)を受け入れ、周囲からも受容されたわけだが、本当にそうなのか?別の氷の城に入っただけではないのか?というのが今回のスタート地点だろう。エルサの自分探しはむしろ本作が本番だ。一方、アナはエルサを愛しずっと一緒にいようと決意しているが、それはお互いに縛り付けることになっていないか?という面も出てくる。前作での体験をふまえてなのだろうが、アナがやたらと姉妹が一緒にいなければと強調するので、これはこれでエルサは辛いのでは…と思ってしまう。愛では救えない、自由になれないものもあるのでは?とも。
 今回のエルサはレオタード風衣装といい、人生の選択といい、歴代のディズニープリンセスの中ではかなり異色、新しいと言えるだろう。その一方でアナが旧来のプリンセス的価値観を引き継ぎ、異性のパートナーを得ることに幸せを見出しているというコントラストが面白い。どちらがいいというわけではなく、両方OKとするのが今のディズニーの感覚なのか。
 なお今回、エルサの衣装・髪型といい、クリストフとのソロステージといい、80年代MV風味が妙に強い。特にクリストフのパートはコンテといいライティングといい曲調・音質(ここだけ明らかに曲の作りが安い!)といいパロディとして笑わそうとしているんだと思うが、誰に向けて発信しているんだ…。子供にはわからないし大人も結構いい歳の大人でないとわからないと思うんだけど…(『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットしたからとりあえずあのネタだけはわかるだろ!みたいな読みがあったんだろうか)。

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『アダムズ・アップル』

 仮釈放されたネオナチのアダム(ウルリッヒ・トムセン)は更生プログラムの為に田舎の教会で暮らすことになる。彼を迎えに来た牧師のイヴァン(マッツ・ミケルセン)はアダムに今後の目標を尋ねるが、アダムはまともに取り合う気はなく「教会の庭のリンゴの木になったリンゴでアップルケーキを作る」と適当に答える。しかしイヴァンは大真面目で、教会に住み着いている前科者のカリドとグナーを巻き込み、リンゴの木を天災から守る為のミッションを開始する。監督・脚本はアナス・トマス・イェンセン。
 ストーリーの構成要素だけ見ると感動的なヒューマンドラマにもなりうる、というかそういう要素も確かにあるのにこの奇妙さ、不穏さは何なんだ!聖書のヨブ記がモチーフの一つになっているそうだが、確かに一つの寓話、神話のような雰囲気はある。が、それにしても展開がおかしい。
 アダムはネオナチ思想に染まっているクソ野郎として登場するのだが、イヴァンを筆頭に教会に集う人たちの灰汁が強すぎて、アダムが一番常識人で共感性もある人物に見えてくるというまさかの逆転現象。特にイヴァンは「いい人」ではあるのだが、かなりクレイジーだ。本人の中で自分に起こった出来事や言動の矛盾がリセットされてしまうので周囲から見ると奇妙だし、話が通じない。この話が通じずコミュニケーション不全になっていく過程がじわじわと怖い。基本コメディなのだが、あの人にとっての世界と自分にとっての世界と、見え方とらえ方が全然違う、どこですり合わせればいいのかわからないという現象を目の当たりにする気持ちの悪さ、そら恐ろしさみたいなものがある。
 人間は基本的に主観で生きているものだと思うが、本作に登場する人たちはそれが強すぎる。自分の頭の中の世界で生きており、その世界の度合いが強固な人の地場に周囲が引きずられていくような感じだった。その当事者が宗教者というのが皮肉というかなんというか…。

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『ある船頭の話』

 山間の村と町の間を流れる川で船頭をしているトイチ(柄本明)。川上に橋が建設されることになり、村人たちは両岸の行き来が楽になると完成を心待ちにしていた。ある日、トイチは川を流れてきた意識不明の少女(川島鈴遥)を助ける。身寄りがない少女と共にトイチは暮らし始めるが。監督・脚本はオダギリジョー。
 風景がとても美しい。新潟のロケだそうだが、こんなに水が澄んだ川が流れているのかとちょっと驚いた。撮影監督はクリストファー・ドイルというのも大きい。青の色味に透明感があって鮮やかだ。また、ワダエミによる衣装も風景に映える。日本の伝統的な着物からちょっとずらしたデザインで、日本であって日本でないような、どこの国とも言えないようなファンタジーっぽい雰囲気を醸し出している。この「日本ファンタジー」的な美しさは良し悪しでもある。あまりにエキゾチック趣味、海外で好まれる日本のイメージ(日本人が見るとちょっと嘘くさい)に寄せすぎなように思った。とはいえ、海外展開を狙うのならこれで正解なのだろうが。
 ちょっと余計な要素が入りすぎな所もあったが、初脚本・監督作としては堂々とした出来で、オダギリジョーの新たな一面を見た感がある。出演俳優はとても豪華。ただ、全員顔に強さがある人なのでずっと見ていると少々うるさくて疲れる。抜け感みたいなものがないのだ。その中で永瀬正敏のニュートラルさは貴重。やはりいい俳優なんだな。
 時代に取り残されていくもの、世界の端っこで生きるものの悲しみが描かれている。時代に乗れる人は当人にとっては成功なんだろうけど、取り残されるものにとっては時に残酷にふるまう。トイチになついていた青年の変容は、本人に全く悪気がなさそうなだけに無情さが際立つ。ただ、トイチはこの世で生きることをあきらめたわけではないだろう。どこかへ向かう彼らの姿は物悲しいが、全く未来がないというわけではないように思えた。

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『アルキメデスの大戦』



 日本と欧米の対立が強まりつつある昭和8年。日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に乗り気だったが、海軍少尉・山本五十六(舘ひろし)はこれから必要なのは空母艦だと主張。しかし上層部は世界に誇示する巨大戦艦計画を支持する。山本は計画を阻止する為、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を起用し、大和建造の見積もりに不正があると証明しようとする。原作は三田紀房の同名漫画、監督は山崎貴。
 山崎監督が脚本も手がけているのだが、何でもセリフで説明しがち、感動盛りすぎになりがちというこれまでの作品の難点が比較的出ておらず、普通に面白い。その一言、一アクションを入れるからダサくなるんだよ・・・というシーンもそこそこあるのだが、げんなりするほどではなかった。
 櫂は「数字は嘘をつかない」という信念、というか確信を持ち、言動は非常に合理的で、どう見ても軍の体質とはそりが合わなそうだし、実際に軍人は嫌いだと明言している。そんな彼が軍という組織の中で妨害にあいつつミッションを遂行していくという、「大作戦」的な面白さがある。杓子定規で典型的な軍人タイプの部下・田中(柄本佑)との掛け合いと、2人が相棒として機能していく過程も見所の一つだろう。田中の造形がちょっと誇張されすぎ、「キャラ」感が強すぎな感はあるが(こういうのが山崎監督作品のダサさの一因ではないかと思うんだけど・・・)、2人のコントラストがきいていた。俳優には正直あまり期待をしていなかったのが、若手もベテランも案外よかった。海軍のおじさんたちの会議の、段々論理も議題の趣旨も関係なくなり人間性こきおろし合戦になっていくむなしさは、あー日本の会議!日本の組織!という感じだった。
 この「日本の組織」というものの厄介さ、不条理さが全面に出ている話でもある。櫂がいくら奮闘して見積もりの不正が判明したとしても、史実から明らかなように当初の海軍上層部の計画通りにことは進む。上の人がそれでいいといえば、黒も白になるし、あったこともなかったことになる。全く理にかなっていないので、敗戦の原因はここにもあるんだろうなと空しさが募る。
 櫂が奮闘するが、史実として大和は建造され、沈没することが最初からわかっている。実際、映画冒頭はこの沈没シーンで非常に力が入っており、スペクタクル要素としては最大の見せ場だと言ってもいい。櫂の奮闘からのこの「結末」までどうやってストーリーを展開させていくのかというのが本作シナリオの勝負所だったと思うのだが、なかなかうまくクリアしていたように思う。終盤にある人物が櫂に提案する道は苦渋の決断だろう。ただ、本当にそれだけか?とも思った。櫂は研究者であり技術者気質だ。そこにより完璧なものを作れる方法があるのなら、それがどんな結果を招こうと作りたくなる、やってみたくなるのが技術者の性ではないだろうか。そして同じように、軍人はやはり戦争をやりたい人種であるようにも思える。アメリカとの開戦を案じていた山本も、結局真珠湾攻撃に乗り気を見せる。ある人物の提案の真意は、当人の自覚有無に関わらず、ひとつの建前であるような気がしてならなかった。その建前としての意図すら機能しなかったということが、映画を見ている側には史実としてわかっているというのがまた空しい。

『アマンダと僕』

 パリでアパート管理の手伝いや公園の草木の剪定をしている24歳のダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、ピアノ教師レナと恋に落ちる。しかしある事件によりダヴィッドの姉は死に、レナも怪我を負いトラウマに苦しむ。更に姉の7歳になる娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)はシングルマザーだった母を亡くしひとりぼっちになってしまう。監督・脚本はミカエル・アース。
 試写会で鑑賞。アマンダ役のミュルトリエが本当に素晴らしい。自然体の子供として、作られ過ぎない可愛さがある。母親の死によるショックにずっと耐えている彼女が、ある場面で泣く。このタイミングをストーリー中のどこにもってくるかという演出が、わかってる!と思うと同時にちょっとあざといなとも思うのだが、アマンダの泣き顔の説得力に納得させられる。自分の中で色々な思いの収まりがついた時に、ようやく真に泣ける、感情を表に出せるのだろう。
 本作で泣くのは子供だけではない。唯一親密な親族だった姉を亡くし、自分の将来もおぼつかないまま子供の人生を背負うことになったダヴィッドは、友人の前で泣きだしてしまう。姉が死んだ出来事が事故や病気とはだいぶ様相が違い、それだけでもショックなのに、アマンダに対しての責任までのしかかってくる。更に事件で傷ついた恋人に十分に寄り添うこともできない。彼は彼で、この先が不安でしかたないのだ。このシーン、泣くことをとがめられない、男なら泣くな、大人なんだからしっかりしろ的なことを言われない所がいい。
 「~らしく」「~なんだからこうでないと」みたいな概念が全般的に薄かったように思う。ダヴィッドはアマンダと生活し面倒をみるが、彼女の父親として振る舞おうとしているわけではなく、「保護者である大人」になっていくのだ。アマンダの母親もあまり「母親らしい」振る舞いではなく、デートで浮かれたり仕事でひと悶着あったりする。母親として以外の顔もちゃんと見せるのだ。母親がいる、のではなく、こういう個人がいる、という視点で描かれていたと思う。ダヴィッドたちの実母も、いわゆる世間が言うところの母親らしい人ではなかった。それでも「そういう人」として描いており善し悪しのジャッジはされていなかった。子供の描写に気をひかれがちだが、大人たちの描写もとてもよかったと思う。


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『アメリカン・アニマルズ』

2004年、アメリカ・ケンタッキー州。大学生のウォーレン(エバン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)は代り映えのしない毎日に物足りなさを感じていた。2人は大学図書館に収蔵されている時価1200万ドルを超える鳥類図鑑を盗み出そうと計画する。秀才のエリック(ジャレッド・アブラハムソン)、実業家の父親を持ち自身も実業家として成功しているチャズ(ブレイク・ジェナー)を仲間に引き入れ、着々と計画を進める。ついに結構の日が来るが。監督はバート・レイトン。
実際に合った事件を実際の当事者に聞き取りしながら、それをプロの役者による再現劇に挿入していくというメタ構成。当事者の記憶は個々にずれがあり、そのずれもそのままドラマに織り込まれていく。ストーリーの前提にあやふやさが含まれており、見ているうちにおぼつかない気分になってくる。
更に、4人の強盗計画のゆるさずさんさ。これでよく実行しようと思ったな!という地に足のついていない様はこれまたおぼつかない。そもそも特に強い絆があるわけではないのになぜこの4人で?という疑問もぬぐえないままだ。
彼らはなぜ強盗をしたのか。切実にお金に困っているというわけではなく、むしろ平均よりも大分裕福な子もいる。親が「あの庫のことが分からなくなった」というのも納得。犯罪映画のように、盗みをすることで人生大逆転が出来るような気になっていたのだろうが、そもそも「大逆転」てどういう状況を期待していたのだろうか。見れば見るほど胡乱で、徒労感に襲われそうになる。何をやってもかっこよくはならないし自分からは逃げられないのだと、彼らは突き付けられているのだがそれに気づいているのかいないのか・・・。
ウォーレンの饒舌と衝動が周囲を巻き込んでいく、彼の物語にスペンサーらが乗せられていくという面はあるだろう。しかし、その物語に対して考えずに乗っかっていくスペンサーの姿勢の方が不穏に思えた。自分で何かをやる(手を汚す)覚悟もないまま他人の物語に乗っかっちゃって大丈夫なのかと。お話が降ってきた、という感じで、自分がそこに加担しているという意識は希薄だし、加担することが何を意味するのかということも考えていなさそう。想像力が欠落している気がするのだ。

『RBG 最強の85歳』

 アメリカ女性最高判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグ。ジェンダーによる差別と闘い続けた彼女の生涯を追うドキュメンタリー。監督はジュリー・コーエン&ベッツィー・ウェスト。
 この人がいなかったら、男女間の不平等は今頃どうなっていたか、というくらい功績があるギンズバーグ。精神的にも肉体的にも非常にタフな人というイメージがあるし、実際に体力を維持するためのメンテナンスと努力を欠かさない様が作中でも見受けられる。私より全然ちゃんと腕立て伏せ出来てる・・・。
しかし本来は、若い頃から物静かで引っ込み思案、必ずしも外向的、尖鋭的というわけではないというから意外だった。彼女のガッツ、闘志は生真面目さ、勤勉さから生まれるもののように思える。弁護士事務所への就職を軒並み断られた(彼女の伝記映画『ビリーブ 未来への大逆転』でも描写があった)時に「なぜ女性が弁護士になれないのか理解できなかった」というのだが、真面目に考えるとそれが理にかなっていない、不条理だから理解できないというわけだろう。理屈が通らないというのは、世の中や現行の法律の方がずれていて、そこを変えていくことが時に必要なのだ。ギンズバーグが「200年前に作られた法律の「我々」に私たちは含まれていない。黒人もヒスパニックも。」と言う。その時代ごとの「理屈」はあっても、背景となる時代の価値観からは逃れられないのだ。
 法解釈や主義主張が違う人とでも、その他の部分で気が合えば親しく付き合うという所も面白い。超保守派の判事と意外と仲がいいのだ。仕事とプライベートとの切り分けがはっきりしている。このスイッチの切り替え方が仕事が長続きするコツなのかもしれないとも思った。
 夫との関係性が理想的だ。こういう人と支え合っていたからここまで来られたのかもしれない。それだけに、夫の晩年になってからの病から目をそむけていたという孫の言葉が切ない。あんなに強い人でも、そこは直視できなかったんだと。夫マーティンはギンズバーグの知性、法律家としての能力を非常に高くかっており、自分のパートナーとして自慢に思っていた様子。彼自身も法律家(税務専門の弁護士)だったが、「2番手であることを気にしない」人だったとか。妻の知性を手放しで評価できる、自分よりも高くかうというのは当時の男性としては稀な資質だろう。映像からも人柄の良さが垣間見られた。
 それにしても、アメリカの現状を思うとギンズバーグはおちおち引退できないだろうな・・・。必要とあれば保守とも妥協し、最高判事間のバランスを取るためより保守にもリベラルにも方向修正する人だそうだが、相当リベラルとして頑張らないと現状ではバランスとれなさそう・・・。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』

(若干ネタバレです)
 サノス(ジョシュ・ブローリン)により人類の半分を失った地球。キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンズ)、アイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)らアベンジャーズは、失った仲間を、人類を取り戻す為に再集結し、史上最大の闘いに挑む。監督はアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟。
 マーベル・シネマティック・ユニバースがようやく一旦完結!良く頑張った!おつかれ!打ち上げに行こう!以上!で終わらせたくなってしまう。これまでのシリーズ前作をふまえ、諸々のキャラクターへのフォローもし、もちろん前作からのどう見ても無理目!なピンチから脱出するという大仕事が終わったと言うことへの感慨が先に立ち、面白さとか感動とかが自分の中で後手後手になってしまう。もちろんとても面白かったし感動したけど、ストーリーへの感動というよりも監督をはじめ本作、本シリーズをなんとかかんとか完成させた人たちへの感心の方が先に来ちゃうんだよね・・・。
 正直なところ、タイムパラドックス問題や、どこまでを「指パッチン」被害の範疇とみなすのか等、細かいところでの矛盾や突っ込み所は結構多いし、シリーズ見てきた人には気になるところだと思う。とは言え、10年もやっていたらそりゃ色々矛盾するところは出てくるだろうな、大目に見るかという気持ちもある。個人的にはようやくホークアイ(ジェレミー・レバー)のまともな活躍を見られたので十分かなぁ。
 本作中、個人的に一番印象深くぐっときたのは、ナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)とスティーブのやりとりだ。世界各地に散った仲間とのミーティングの後、雑に作られたサンドイッチをほおばろうとするナターシャにスティーブが声をかける。『ウィンター・ソルジャー』でナターシャはスティーブに、ガールフレンドを作ったら、つまり一個人としての私生活をもっと大事にすれば、と促す。今回はスティーブがナターシャにそれを促す。この任務から降りて一個人になる人生もあるのだと。その後のやりとりは思いやりがありつつちょっと切ない。ナターシャにとっての「家」はアベンジャーズであり、この他の人生の選択肢はもうない、つまり人類の危機が去ったら彼女が居場所と思える場所はなくなる(アベンジャーズは人類の危機に際して結成されるものだから、本来存在しない方がいいんだよね・・・)のだと。ナターシャは髪色を頻繁に変えるが地毛は赤毛で、今は染め直す気力もないこと、ピーナツバターサンドがサンドイッチ界で最下層らしい(本当にやる気がない時に手っ取り早く作って食べるもの)ということも垣間見えるいいシークエンスだと思う。男女の友情がちゃんと存在している所も本シリーズの良さの一つだった。
 また、スタークとスティーブがここでもまた対称的な道を選ぶ、そしてその道が彼ら其々が歩んできた道とは別の方向にシフトするものであるという所も面白かった。特にスタークは、とうとうちゃんと大人になることが出来た、父親という存在と向き合い、自身も大人としての責任を果たすことに成功したんだなと、これまた感慨深かった。彼だけでなく、あの時できなかったことをもう一度やりなおすというモチーフが随所にちりばめられた作品。


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『アガサ・クリスティ ねじれた家』

 私立探偵のチャールズ(マックス・アイアンズ)の元をかつての恋人ソフィア(ステファニー・マティーニ)が訪ねてくる。大富豪である祖父のアリスティド・レオニデスが死んだ、毒殺の可能性があるので調べて欲しいというのだ。レオニデスの屋敷には彼の前妻の姉であるイーディス(グレン・クローズ)、ソフィアの両親である長男夫婦とソフィアの弟妹、会社を継いだ二男夫婦、そして若い後妻が暮らしていた。全員に殺害の動機と機会があるのだ。原作はアガサ・クリスティの同名小説。監督はジル・パケ=レネール。
 くせ者一族が住むお屋敷での殺人、という本格ミステリの大定番な設定だが、個々の登場人物のキャラクターにクセがありすぎて、かなり作りものっぽい。それを逆手に取って、お屋敷の室内の作りや撮り方、登場人物の衣装等、ちょっと舞台演劇的な作りもの感の強い方向へ、すこしだけずらしているように思った。演劇の舞台のような場で作りものっぽい登場人物たちが、お互いに作りものっぽい外面を見せているような構造だ。外部から来た探偵であるチャールズもまた、隠された姿を持っているという所も面白い。全員が信用できないのだ。
 とは言え、ミステリとしては意外と平坦な印象を受けた。脚本のせいなのか原作がこういう感じなのかわからない(原作を昔読んだはずなのだが全く記憶にない・・・本作の犯人も最後までわからなかった)が、犯人の絞り込み要素がなかなか出てこない。いわゆるフェアな本格という感じではないのだ。むしろ、一族の「ねじれた」人間模様と感情のもつれにスポットがあてられており、かなりメロドラマ感がある。家長の支配欲が招いた悲劇だという面が浮き彫りになっていく。長男と二男が父親からの承認をめぐって憎み合う様はこっけいでもあり悲哀にも満ちている。
 なお、衣装がどれも良かった。おしゃれというよりも、その人がどういう人なのかわかりやすい衣装、かつディティールが凝っていると思う。イーディスが襟元につけていた大ぶりのシルバーのブローチが素敵。あと、車がいい!イギリスの時代もの映画・ドラマは当時の車がちゃんと出てくるのがいいなぁ。


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アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵 [DVD]
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