不器用なツチヤタカユキ(岡山天音)はどんなアルバイトも長続きしないが、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにし、毎日気が狂うほどにネタを考え続けていた。お笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり周囲に理解されずはじき出されてしまう。落ち込んでいた彼を救ったのはラジオ番組だった。番組にネタを投稿する「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京するが。原作はツチヤタカユキの同名小説。監督は滝本憲吾。
ツチヤは笑いに対しては大真面目にやっていて桁外れの集中力と情熱を見せるし、おそらく才能があるのだが、それが痛々しくもある。彼は万事に不器用で、特に人間関係は非常に不得意。笑いを作る仕事をしたくて劇場や放送局で見習いをするが、どちらも気遣いや根回し、時には自分のやり方を曲げる協調力等、人間関係を調整する力が必須。いくら笑いの才能があっても、その笑いを乗せる場を回していく力がないと役に立たないのだ。自分が好きなものについての才能はあるが、好きなものが乗っかっている場との相性が最悪というギャップは、ピンク(菅田将暉)が指摘するように大変な皮肉だ。今のメジャーな「お笑い」の世界(だけでなく周囲と協力して何かを作っていくような世界)ではいくら才能があってもツチヤのような人間は必要とされにくいだろう。
ツチヤの才能を買っている芸人・西寺(仲野太賀)はそれがわかっているからツチヤに色々と教えよう、場に馴染ませようとするのだろうが、ツチヤにはそれが辛い。ただ彼の「もうムリです」という訴えは多分周囲に通じない。本作はツチヤに共感しやすいようには作っていないし、彼に本当に才能があるのかどうかも明言はしていない。そこが映画としてバランスの良い所だと思う。実際のところツチヤは身近にいたらかなり面倒くさいタイプだろう。しかし、この通じなさは胸に刺さった。ツチヤの「人間関係不得意」は相当極端だが、私もどちらかというとツチヤ寄りの人間なので、その部分だけは若干共感してしまう。
ツチヤタカユキの自伝的小説が原作なので、作中のベーコンズはオードリーということなのだろうが、水木(板橋駿谷)の声の出し方・しゃべり方はかなり春日に寄せていている感じでちょっと笑ってしまった。西寺はそこまで若林に寄せてはいないが、何かの拍子にあっここは寄せたなという印象のところがある。